元気な影を作ろう
鏡が自分のありのままの姿を映すものに対して、影は時にいびつに、時にぼんやりと、形や明度を変えまるで人の心模様を映し出しているように感じる事がある。
元気が無い人や印象の弱い人を「あの人、影薄いよね」と表現する事もあるから実際そういう面もあるかもしれない。
近所の公園にやってきた
それならば、影を元気に見せたらどうなるだろうか?「あの人の影、やたら元気だよね」と言われる位になれば、その影の主人である私はもっと元気で印象の強い存在になれるんじゃないか。
曇り時々晴れ
そう思って外に飛び出ると、薄雲がかかる頼りない天気であった。
まず表情をつけよう
でかすぎた
時折差す薄い光によってできた影に合わせ、まずチョークで表情を描いた。自分の顔に似せようかと思ったけれど、チョークでは細かな描写ができない。単純な顔で良しとしよう。
影の濃い少女が登場
「私も描きたい!」
絵の大きさを確認している所へ、前触れもなく一人の少女が飛び込んできた。私も描きたいといってチョークをつかみ取り、狼少女を彷彿とさせるような素早い動きで私の影に顔を描きはじめる。
なんて押しの強い少女だろうか。彼女の影はいつも濃そうだ。
自分には描けない斬新な顔
彼女の影も描いてあげよう
お礼に少女の影にも表情をつけてあげる事にした。少女は「前髪結んでるからね!」とこだわりをアピール。了解です。
レイとリボンをつけて華やかにした
影は喜んでいるように見える
少女の影がニッコリと笑う。いつもは感情を表さない影だがこうして見るととても可愛らしい。
当の本人が逆に無表情なのが気になるが、有難うと言って周囲にいくつか落書きをした後、満足げにその場を去って行った。
改めて自分の影の顔を調整。(また曇って薄くなってきた)
雲が太陽を隠す
太陽の光が弱い。時折雲から顔を出すのを見計らいながらの調整だ。
その間に服をスタンバイ
存在をより際立たせるため、服を着せてみることにした。家にある数少ない明るめの服の中から選んだものだ。
あ、日が出てきたぞ!
ワンパクな感じで現れた!
やあこんにちは
私の影かわいい
ようやくくっきりと私の影が登場した。いつもの無表情で黒いだけの影とは違い、パッチリとした目をこちらに向け、少しはにかむ様に笑っている。
自分が描いた単なる絵だと分かってはいても、命が吹き込まれたようで非常に愛着がわく。凄く可愛らしいじゃないか。
しかし無情にも太陽は長く出ていてくれない。雲が邪魔をするのだ。ようやく出会えたと言うのに、たった数分で影は消えてしまった。
影の出待ち。待っている間に多少アレンジをしておいた
影が再び現れるのを待つ。ところでこの日は近所で神輿祭りをやっていたようで、いつもの50倍くらい公園に人がいた。
祭りを終えたふんどし姿の男たちがビールを片手にこちらを見ていて怖かった。
花を持たせてみる。いきなりの変わりように影の奴もビックリしただろう
「なにあれ死体?!」の声
今度は影を爽やかに見せようと花を持たせた。もちろん影に喜んでもらう為に用意したのだ。
しかしそこに通りかかったファミリーの中のお子様達が「何アレー!死体?!」と声を張り上げた。人の影に向かって大変失礼である。
死体呼ばわりされた影。ごめんな
カラオケを楽しんでる風に変更。こんなチャラい影見た事無い
しかし日が隠れてまた消えてしまった。いなくなると寂しい。
その隙にまたイメチェンする。お洒落なファッションモデルをイメージ
元気いっぱいだ
イヤッホー!と叫んで今にもどこかに行ってしまいそうなほど元気な姿を見る事ができた。悩みが無さそうでいいな。
それにこんなに着飾っている影は他には無いだろうから、影界ではきっと彼女はモテるに違いない。
これはもう1つのシンデレラストーリー
しかし、だ。
実際は彼女は一人ではどこにも行けない。私が動かねば身動きは取れない。オシャレを楽しめるのも今この瞬間だけ。彼女は束の間だけ変身できたシンデレラなのだ。ここは舞踏会でもなく、王子様もいないけれど。
ああ、魔法が解けていく…。日が落ち、タイムリミットが近づいているのだ
日没が近づいてきてしまった。
影は伸び切り、気づけばいつの間にか服も合わない姿になってしまっている。そして足元には建物の大きな影が写り込み彼女を影の世界へ引きづり戻そうとしている。
影「(涙をぬぐいながら)もう、現実に戻らなきゃ。あっと言う間だったけど、オシャレできたし、楽しかった!」
隣にいる女の子「お姉ちゃん…行かないで。もっと遊んで!」
影「じゃああんたも影の世界に連れていってやろうか!?」
女の子「キャーッ!」
影「なーんてねっ」
女の子「お姉ちゃん…また会えるよね」
影「すぐ会えるよ。みんな、またね!」
こうして、昼間のシンデレラは姿を消してしまった。
そばにいた少女はその後、残された毛とリボンを頼りに、あの陽気な影を探し周ったとか周ってないとか。
そしてまた新たなストーリーが始まる!(始まりません)
元気になった気がする
小学生時代に「影踏み鬼」で遊んで以来の影との戯れ。 天候に焦らされたけど、その分影が現れた時に嬉しく感じられたし非常に楽しかった。影にとっても、踏まれるよりも随分良かった事だろう。
激しく落ち込んで下ばかり見てしまうような時、その影を笑顔にしてみたら少しは元気になれるかもしれない。