巨大アジは沖縄にいる!
ここ最近、外食する機会があるとアジフライ定食をよく食べる。昔はそれほど魅力を感じていなかったのだが、二十代も後半に差し掛かって味覚が変化したのか、揚げものならトンカツより鶏のから揚げよりアジフライをチョイスするようにさえなった。
間違いないたたずまい。みそ汁の具がシジミやアサリだったりするとなお嬉しい。
そんな好物であるアジフライを腹いっぱい、飽き果てるまで食べたいなあー。巨大なアジフライがあればなー。と思ったのが今回の企画の発端である。
じゃあ普通のアジフライを何枚も食べたら?という意見は無粋である。男のロマンをわかってほしい。
アジなのに大きい!釣り具メーカーの広告写真に使用されていたロウニンアジ、またの名をGT。
ところで沖縄にはヒラアジという体が広く平べったいアジの仲間が何種類もいて、ひとくくりに「ガーラ」と呼ばれている。
ガーラには大きな種類も多く、特にロウニンアジという種類はとりわけ巨大になり、ジャイアント・トレバリー略してGTとも呼ばれ、大物とのファイトを好む釣り人に愛されている。
「
GIANT TREVALLY」で画像検索すると、「マジでこれアジ!?」という画像がたくさん見られる。このアジこそ巨大アジフライの材料にふさわしい!さっそく釣りに行くよ。沖縄へ。
ルアーまでデカい
なんでも最近、日本本土では普通のアジ、いわゆるマアジをルアー(疑似餌)で狙う釣りが流行っているらしい。
釣り具店を覗いてみたところ、なるほど小さくてかわいいルアーがたくさん売られているではないか。
ちなみにこれが普通のアジを釣るためのルアー。
一方、南国の巨大アジたちもルアーで釣ることができるのだが…
ルアーでかすぎ!
さすが巨大アジを釣るルアーとあってとてつもない大きさ。本土のアジ用ルアーとでは比較にならない。
それこそ本土のスーパーで買えるマアジそのものより大きいかもしれない。
釣れない。なら買おう。
さあ、待ってろ巨大アジ。釣り上げてやるぞ!
船を出してはみたものの…
しかし、この日は2月中旬。いかに沖縄と言えど海の上は肌寒い。
なお、ロウニンアジをはじめとする巨大アジのシーズンは夏である。完全に時季を外している。まあ承知の上で出船したのだけど…。
釣れる気配が無いのでコソコソと綺麗な南国系フィッシュに遊んでもらったり。
当然のように一尾も釣れず。一応ルアーへのアタックはあったものの、寒さのためかやる気が無く、口に咥えてはくれなかった。残念!
しかし確認してみると、この日乗り込んだ船はロウニンアジをあくまでゲームフィッシングのターゲットとして扱っており、たとえ釣れてもキャッチ&リリースが原則なのだという。
なーんだ。どのみち食べるために持っては帰れなかったのか。
潔く負けを認め、すみやかに魚市場へ
まあいい。これで道が断たれたわけではない。こんな時は金にモノを言わせて解決してしまえばいいのだ。フハハ、大人の遊びとはこういうものよ。
幸い、巨大アジ類「ガーラ」は沖縄ではポピュラーな食用魚である。各地で海人(うみんちゅ)が盛んに漁獲しており、この時期でもタイミングさえ合えば一般人も市場などで入手が可能である。
沖縄らしい色とりどりの、ちょっと見慣れぬ魚が並ぶ。
面白い魚、珍しい魚、綺麗な魚に目を奪われながら、「ガーラ」の文字を探すこと数分。
見つけた!
売ってた!ラッキー!
これはオニヒラアジ(生きている時はとても綺麗なアジ)という種類だろうか。沖縄の人は基本的にガーラを種類ごとに区別したりしない。ガーラはガーラなのだ。実際、このお店でも種類までは把握していないとのことであった。
鼻先から尻尾の先まででだいたい70センチくらいだったかな?長いこと氷を当てていたので体表が赤くなってしまった
上の写真は魚を両手で前に突き出しているので実際より大きく見えてしまっている。それでも十分すぎるほど立派だ。第一、これ以上大きいものになると一般家庭で個人がどうこうできるサイズではなくなってしまう。
ましてや今回は作るメニューが開きをそのまま揚げるアジフライだ。この辺りが上限であろう。
シジミ汁も作ろう(ただし巨大な)
さあ、メインとなる巨大アジフライの材料は手に入った。あとはご飯を炊いて、みそ汁を作って、漬物なり煮豆なり適当な小鉢でも用意すれば立派な立派な定食の完成である。
…だが待ってほしい。果たしてそれでいいのだろうか。
巨大料理とは味わいや満腹とともに、食卓と台所の非日常を求めるものでもある。と思う。
市場で材料を買ってきて、調理してハイおしまいではいささか興が乗らない。釣りに失敗した今、ここはやはりまた別の「狩猟採集」要素が欲しい。
そこでやってきたのは沖縄本島のマングローブ林
考えあぐねていると、数年前に石垣島の民宿で出された料理が頭をよぎった。非常識なサイズの貝殻がごろごろ入った「シジミ汁」だ。なんでもそのシジミは日本では南西諸島のマングローブ林でしか採れないものだという。
うん、ちょうど今いるのは分布域である沖縄だ。それにシジミ汁なら定食に添えられていても不自然じゃないぞ。
よし、もう一品「巨大魚介料理」追加だ!!
林床の水たまりにたくさんいた
干潮のマングローブ林にたどり着いてすぐに手ごろな水たまりに巨大シジミがたくさん砂利の上に殻の端をのぞかせているのが見えた。中には全身を放り出しているものも。
勝負ありである。林の中の潮干狩りは5分とかからずに終わった。
動かない生き物を捕まえるのって楽だなー。
左がシレナシジミ、右が普段食べているシジミ。
こんなに大きくてもれっきとしたシジミの一種でシレナシジミという名前。たしかに殻の色合いや形は普段我々が食べているシジミにそっくりである。サイズ以外。
上の写真を見てもらえばわかるが、普通のシジミと比較するととんでもない大きさである。
シジミはおろか、アサリやハマグリも真っ青なボリュームだ。
苦労しつつも楽しい調理!
さあ、これで今度こそ材料が揃った。いよいよ調理開始である。
まずはアジフライから作っていこう。
アジと言えばしっぽの付け根に並ぶやっかいな「ゼンゴ」
巨大アジはゼンゴも立派
そぎ落とすと大ムカデみたいに。
マアジの口。目立った歯は無い。
一方、巨大アジの歯は案外凶悪…。
「アジのウロコ落とすのにこんなに時間かかるっておかしくないか!?」
「アジってこんなとこにこんな骨あったっけ!?」
などと驚き戸惑いながらも楽しく調理は進む。
中骨が落とせない!!
なんとか開きの状態にまではこぎつけた。上のノーマルアジフライと比較すると、いかに常軌を逸したサイズかわかると思う。アジとして。
ガーラは頭が大きく立派なので、下ごしらえの段階で頭を落とすとかなり小さくなる。が、それでもアジとしては十分すぎるほど大きい。
衣をまぶす。ここまで大きいとパン粉は上から振りかけていくしかない。
結局、丸ごとは鍋に入りきらなかったので半身にして揚げ、後ほど盛りつけの際につなげることに。
アジを揚げるためだけに炊き出しで使うような大鍋をわざわざ買ってきたのに、それでもなお入りきらず、開きを二等分して投入することとなった。
シレナシジミは数個放り込むだけで鍋が溢れかえりそうに。事前の泥抜きも忘れてはならない。
シレナシジミも鍋の中で開き、いいダシが出ているようだ。お腹がすいてきたぞ。
いよいよ完成!
さて、なんとか調理を終えることができた。
どうにかこうにか盛りつけて、巨大アジフライ定食(シジミ汁付き)の完成である。
壮観…!
おお、ちゃんとアジフライになったじゃないか!…と、この時は思っていたのだが今になって改めて写真で見返すと、なんだか異国のパーティー料理のようだ。
少なくともこれを食卓に出されて、「おっ、今日はアジフライか!」という人はいないだろう。
だがその違和感も巨大すぎるがゆえ。コンセプト通り迫力は満点!見た目的には満足のいく仕上がりだ。
奥がノーマルアジフライ
付け合わせのミニトマトは普通のトマトを丸ごと皿の端に転がしておいても違和感無かったかもしれない。
シレナシジミ汁はなんだか不安になるビジュアルだ
みんなでつついて食べる定食という新機軸。
未だかつて、こんなに肉厚なアジフライがあっただろうか。
味の方はというと、とても美味しかった。ただし、普通のアジフライとは全く別物の料理として、である。
本土のマアジは脂が程よく乗っているが、沖縄のガーラ類は概して脂が少なく、あっさりした味わいである。よって、巨大アジフライはアジフライよりも(どちらかというと)マグロの赤身のカツに近い食感と味となる。
シレナシジミは煮込むと身が縮んでいく。それでもハマグリの身くらいはあるが。
シレナシジミの巨大シジミ汁はというと、意外にもしっかりとシジミ汁であった。
鍋には数個しか投入しなかったにもかかわらず、ダシがしっかり出ていた。おいしい。
マングローブに住んでいるとあって、泥臭いのではないかと心配したのだがそんなことはなかった。見た目そのまま、シジミの香りと味わいで食卓を和ませてくれた。
大きすぎるとおいしくない
結果的に巨大アジフライも巨大シジミ汁もとてもおいしく大成功に終わった。満足である。
アジについてはいつかもっと大きなやつを、今度こそは自分の手で捕まえて、それこそ公民館でも借りて大々的に超巨大アジフライパーティーを開きたいなあ。と思っていたところ、地元の人からガーラ類はあまり大きくなりすぎると身がパサパサして味が落ちると聞いた。買い手がつかないので漁師さんもあまり大物は獲らないそうだ。
うーん、おいしくないならわざわざ食べることもないかあ。沖縄には他にもいろいろ面白い魚介類があるし、また新しいターゲットを探そう!
15キロくらいあるウツボが市場に並んでいた。衝動買いしそうになった。