特集 2013年2月19日

ソデイカで作る巨大イカ料理

巨大イカ焼き!
巨大イカ焼き!
先頃、生きているダイオウイカの水中映像が撮影されて各所で大いに話題になった。ダイオウイカといえば誰もが知る深海の巨大なイカである。
しかしその映像史に残る成功の立役者として、もう1種類の巨大イカがいたことはあまり知られていない。ダイオウイカをおびき寄せる餌となった「ソデイカ」である。

今回はあえて、そのソデイカにスポットを当ててみたい。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。

前の記事:超新食感!浜辺で拾える深海魚「ミズウオ」を食べる

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富山湾へ!

ソデイカとは食用イカの中では最大級の種で、体重は大きいものでなんと数十キロにも達する。
以前から生きている姿を見てみたいと思ってはいたのだが、シーズンが限られていることもあり、なかなかチャンスに恵まれなかった。
そんな折、東京湾の深海魚を釣る記事の取材で知り合った富山在住の釣りライターである小塚拓矢さんから、「富山湾にソデイカが集まってるから捕まえに来ませんか?」との連絡をいただいた。
あ、行きます。
夜の富山湾
夜の富山湾
なんでも、ソデイカは基本的に深海に暮らすイカなのだが、毎年ある時期になると近海の浅場に浮いてくるらしい。
さらに盛期には水面を漂っているところを富山湾の堤防からタモ網で掬ったり、釣り鈎で引っ掛けたりして捕まることができるという。
水面を照らして巨大イカを探す
水面を照らして巨大イカを探す
特に夜間に見つかることが多いそうなので、土地勘のある小塚さんに案内されて夜の堤防を歩く。
しかし、この晩は夜釣りにいそしむ方が多く、軽々しく水面を照らすことができない。彼らの邪魔になってしまうからだ。タイミングが悪かった。ここは一旦あきらめよう。
一転、深海へGO!
一転、深海へGO!
岸から捕れないなら沖へ出てしまえ!というわけで堤防歩きの後日、釣り船に乗って深海を泳ぐソデイカを探すことに。
富山湾は急激に深くなるため、岸からほんの少し走るだけで深海に釣り糸を垂らすことができるのである。関東在住のものとしては大変うらやましい環境だ。

ここで同船者に「今日は天気がいいから立山連峰がはっきり見える。平坂さん運がいいですね。」と言われたが、一瞬何のことだかわからなかった。山?雲しか見えないんですけど・・・。
釣竿の向こうには雪化粧の立山連峰を望む。釣りをしている間、ずーっと雲だと思っていた。
釣竿の向こうには雪化粧の立山連峰を望む。釣りをしている間、ずーっと雲だと思っていた。
あ、違う。雲だと思っていたのは雪で頂が白くなった山々だったのだ。どうりで冬の雲にしては妙な形だと思った。
しかし水深1000メートル近い海上にいるのに陸が見えてしまうことに、どうしても違和感を覚えてしまう。
僕にとって初めての日本海は巨大イカに出会う前から驚きの連続だ。

疑似餌が巨大

ところで、イカ釣りには「スッテ」と呼ばれる疑似餌を用いる。ソデイカ釣りも例外ではないのだが…。
普通のイカを釣るためのスッテという疑似餌
普通のイカを釣るためのスッテという疑似餌
こちらがソデイカ用のスッテ。普通のスッテと比べるとあまりにも凶悪なサイズだ。
こちらがソデイカ用のスッテ。普通のスッテと比べるとあまりにも凶悪なサイズだ。
とんでもなくデカい。普通のイカ釣りに使うスッテがおもちゃのようだ。これは釣れるイカ自体の大きさもさぞ凄まじいのだろうと想像がつく。
巨大疑似餌を沈めて釣り開始!
巨大疑似餌を沈めて釣り開始!
ポイントに到着すると、巨大なオモリでスッテと集魚灯を水深200メートルに沈めて巨大イカ釣りの始まりである。
この日は僕を含めて5名の釣り人が船に同乗していた。よーし、僕が真っ先に釣ってやるぞ!
釣れない。
釣れない。
が、数時間に渡ってイカからの反応は無し。
無駄に気合が入っている人ほど、一人で空回りして釣れない。釣りなんて往々にしてそんなものである。
自分で釣れなくてもせめて姿は見たい!お願い、誰か釣ってください!!
「あっ、掛かりましたよー!」
「あっ、掛かりましたよー!」
そう思っていると、背後で釣りをしていたSさんが気持ちよく竿を曲げている!
しかも結構な大物らしく、20分近くも格闘している。これは期待できる!!
真っ赤な大イカが海面に浮いてきた!
真っ赤な大イカが海面に浮いてきた!
「うおおお!」「デカい!」「何だこれ!」船上はイカのシルエットの大きさに驚く声に包まれる。
巨体にギャフを打ち込む!勝負あった!!
巨体にギャフを打ち込む!勝負あった!!
ソデイカを船上に取り込む際には、「ギャフ」という頑丈な鉄の手鉤を突き立てて引き上げる。もうタモ網を使うとかいう次元ではないのだ。
ちなみにこの時、水中でスミをすべて吐き出させることがこの釣りでは肝要であるという。それをしないとどうなるかは後ほど明らかになる。
10キロもある立派なソデイカ!
10キロもある立派なソデイカ!
揚がってきたのは片手では持ち上げるのが難しいほど大きなソデイカだった。
しかし、この日お世話になった船頭さん曰く、「重さで言えばその倍くらいにはなるよ。」とのこと。この倍といえば20キロか・・・。とんでもない世界だな。
うわあああ!重い!」「頑張れー、しんかい君!最後まで一人で釣り上げるんだぞ!」
うわあああ!重い!」「頑張れー、しんかい君!最後まで一人で釣り上げるんだぞ!」
続いて地元の釣り好き少年「しんかい君(本名)」が竿を曲げる!
彼は「名前がしんかいなんだから、深海釣りくらい経験しとけ!」と小塚さんが誘ったらしい。

数十分に渡る戦いの末、海面にソデイカの姿が見えた!しんかい少年も初めての大物にヘトヘトだ。すぐに楽にしてあげようと周りの大人たちが速やかにギャフを打つ。そこまでは良かったのだが、焦ってイカの顔がこちらを向いたまま急いで船に引き上げてしまった。
惨劇の幕開けである。
釣られて盛大にスミを吐くソデイカ。NHKなら撮ろうとも思わないであろう決定的瞬間だ。
釣られて盛大にスミを吐くソデイカ。NHKなら撮ろうとも思わないであろう決定的瞬間だ。
やったっ!やりやがったっ!抜群のタイミングで船上に向けてイカスミを発射するソデイカ。
引き上げる前に十分にスミを吐かせていなかったのが原因だという。
みんなドロドロに汚れながらも楽しそう(船頭さん以外)。
みんなドロドロに汚れながらも楽しそう(船頭さん以外)。
さすがソデイカ。巨体に蓄えているイカスミの量も尋常ではない。船上は大騒ぎだ。阿鼻叫喚、というには笑い声が多いが。
船も備品もイカスミまみれ。
船も備品もイカスミまみれ。
船上を派手に汚された船頭さんも「これ洗ってもなかなか落ちないんだよー!?」と苦笑い。本当にごめんなさい、と一同。
釣り上げた本人以上にはしゃぐ大人たちに若干あきれ気味のしんかい君。
釣り上げた本人以上にはしゃぐ大人たちに若干あきれ気味のしんかい君。
こちらのソデイカも大きい!こんな大物を深海から引き上げるのは相当な体力を使うに違いない。少年の頑張りを船上の皆が我がことのように喜ぶ。もう汚れなんてどうでもいい。むしろ勲章のように思っているに違いない。
富山の港で日常的に見られる(?)光景。北陸のポテンシャルが恐ろしい。
富山の港で日常的に見られる(?)光景。北陸のポテンシャルが恐ろしい。
さらにその後小型の個体(それでも5キロ!)を1パイ追加して帰港した。
よーし、さっそく食べよう!

まずは刺身と巨大イカリング!

一番小さいイカでもこのボリューム。
一番小さいイカでもこのボリューム。
とりあえず一番小さなソデイカを小塚さんの事務所で味見してみることになった。
たっぷり吐かせたつもりでも、体内にはねっとりとしたイカスミがたくさん残っている。
たっぷり吐かせたつもりでも、体内にはねっとりとしたイカスミがたくさん残っている。
ソデイカのイカスミは新鮮なものをなめると、とてつもなく濃厚な味がするのだとか。撮影に夢中で味見しそこねてしまったのが悔やまれる。
「目玉の親父!」
「目玉の親父!」
ところで、イカ類は体に対して眼がとても大きい(世界一大きな眼球を持つ生物はダイオウイカである)。ソデイカほどの大物になると、それこそマグロの目玉のように立派である。しかも魚と違ってちょっと人間っぽい。そこでジョーク好きの小塚さんが人形の胴体にソデイカアイをドッキングさせて鬼太郎のお父さんを製作。「目玉の親父、実在したらけっこう気持ち悪いんだなー。」と思った。

ちなみにこの人形は観賞用ではなく、釣り鈎を取り付けてナマズを釣るためのルアーにするのだとか。そういう遊び心のある釣りができる人って素敵よね。
ソデイカの刺身。短冊からサイコロ状までいろいろな切り方を試してみた。
ソデイカの刺身。短冊からサイコロ状までいろいろな切り方を試してみた。
まずは手始めに刺身から。肉厚で、さいの目に切るとナタデココにそっくりである。食感は意外と弾力が少なく、サックリとした歯ごたえ。あまりイカっぽくはない。味もイカには違いないがやや薄味であっさりとした印象である。おいしかったけれど、口当たりの新鮮さの方が強く心に残った。

これは船頭さんに聞いたのだが、ソデイカは冷凍して寝かせるほど味がはっきりしておいしくなるのだという。
「なら2~3日は寝かせたほうがいいですかね?」 と聞くと、
「いやいや、1年くらい寝かせないと 。」 という驚きの返答が。
すみません。僕はけっこう辛抱強い方だとは思うけど、さすがに1年は待ちきれないです。
フライパンいっぱいのイカリング!
フライパンいっぱいのイカリング!
続いてはみんな大好き、イカリングのフライに挑戦だ。まあ案の定、ビジュアルがすごいことになってしまった。
スルメイカのイカリング(内)とソデイカのイカリング(外)
スルメイカのイカリング(内)とソデイカのイカリング(外)
まあとにかく大きい。比較用に揚げたスルメイカのリングがすごく貧相に見えるがだまされてはいけない。ソデイカリングの方が化け物じみているのだ。
もはやイカリングのフライというよりイカリングのカツといった印象だ。
イカリングひとつで満腹になるという貴重な経験ができた。
イカリングひとつで満腹になるという貴重な経験ができた。
ソデイカリングのフライは非常においしかった。ソデイカの淡白な肉には、適度に油を加えた料理が合うようだ。

メインディッシュは巨大イカ焼きだ!!

みなさんから「せっかくソデイカのために富山まで来たんだから、一番大きいやつは持って帰りなよ!」とありがたいお言葉をいただいた。
僕が釣った獲物でもないのに、富山の人たち優しい!ありがとうございます!!遠慮なく貪らせていただきます。
スルメイカとの比較
スルメイカとの比較
さて、そんなこんなで10キロもある巨大なイカが手に入ったのだ。味はもちろん重視するが、舌だけでなく目も満足するような豪快な料理が作りたい。真に「素材を活かす」とはそういうことだろう。
思案の結果、メニューは胴体を丸ごと使えるイカ焼きに決まった。
ゲソを外してワタを取り去るのも一苦労。
ゲソを外してワタを取り去るのも一苦労。
悪の組織によって左腕をイカに改造されてしまった悲劇の男。
悪の組織によって左腕をイカに改造されてしまった悲劇の男。
しかし、やはり一人ではとても食べきれないので、友人を集めて振舞うことにした。「富山湾で採れた新鮮なイカをご馳走する」とだけ伝えておいたため、実物を見て皆かなり驚いていた。「これ、あれでしょ?ダイオウイカでしょ?」という人も。そんなわけあるか。
ソデイカという名前の由来の振袖。
ソデイカという名前の由来の振袖。
ソデイカという名は、触手にまるで振袖を思わせるようなヒダがあることに由来する。
また、地域によってさまざまな呼び名があり、その体色から「アカイカ」と呼ばれたり、樽をウキにして釣り上げる伝統的な漁法から「タルイカ」と称されたりする。沖縄では「セーイカ」と言うと通りがいい。

バーベキューコンロからはみ出す

しかしこのソデイカ、ゲソを外してもとてもキッチン内でどうこうできるサイズではない。そこで屋外に持ち出してバーベキュー用のコンロで焼くことに。
ザ・迫力
ザ・迫力
せっかく用意したコンロからも空気も読まずにはみ出しやがる。すばらしい。
単品でバーベキューコンロを占領する食材などなかなか無いだろう。
トングや菜箸ではとても持ち上げられない。
トングや菜箸ではとても持ち上げられない。
コンロの上でひっくり返す際には軍手を着けて両手で抱える。男の料理とはこういうものを言うのだ。
ちなみにハケでタレを塗るのは早々にあきらめた。表面積が大きすぎて手間が掛かる上に、いくら外側にタレを塗りたくっても、肉厚すぎてろくに味が付かないことが目に見えていたからだ。
エンペラも当然デカい。
エンペラも当然デカい。
エンペラだけでこの大きさ!お好きな方にはたまらない。
できたー!
できたー!
じっくり焼き続けること1時間半。そろそろ焦げ目が強く出てきたのでこれにて完成とする。
なんだこれ。アノマロカリスか?
これはもはやイカ焼きではない。イカの丸焼きと呼んだほうがしっくりくる。まさか丸焼きという単語を豚や鶏以外に用いる日が来るとは。
圧倒的存在感!左の皿に乗っているのはホタルイカの沖漬け・・・ではなく普通のスルメイカで作った焼きイカ。
圧倒的存在感!左の皿に乗っているのはホタルイカの沖漬け・・・ではなく普通のスルメイカで作った焼きイカ。
期待通り。大迫力のメニューがテーブルに乗った。
普通のイカ焼きと並べると、とても同じ料理だとは思えない。
リングの内側にはまだ火が通っていない部分が。
リングの内側にはまだ火が通っていない部分が。
1時間半も焼いたのに、まだ火が通りきっていなかったのにはさすがに驚かされた。それだけ身が分厚いということだ。
これ以上炭火で焼くと焦げ付いてしまう部分が出てくるので、輪切りにしてレンジでチンすることでお茶を濁した。
切り分けると見た目はかまぼこっぽい
切り分けると見た目はかまぼこっぽい
小さく切り分けて食べてみると歯ごたえがすごい。刺身はサクサクしていて食べやすかったので、火を通しても柔らかいだろうと思っていたのだが、そんなことはなかった。数切れも食べると顎が疲れるほどだ。長時間加熱して水分が抜けたためかもしれない。
そのままでもイケるが、マヨネーズを付けるとよりおいしい。やはり油分との相性が良い。
友人らにも好評。
友人らにも好評。
この日卓についた皆には大いに好評であった。特に貴重なイカのエンペラが好きなだけ食べられるというのがうけていた。
食材としてのソデイカにあえてケチをつけるとするなら、イカとしてはやや大味な点だろうか。しかしこの独特の食感は他のイカでは味わえない魅力的なものである。
内陸国の出身で、この日までイカという生き物を知らなかった留学生のマイケルも気に入ってくれた。
内陸国の出身で、この日までイカという生き物を知らなかった留学生のマイケルも気に入ってくれた。
巨大ゲソ天も作ったよ。
巨大ゲソ天も作ったよ。
最後に大好物であるゲソの天ぷらを作った。「巨大なゲソ天にかぶりつく」という夢のような体験ができたが、噛み切れないどころか身肉に前歯を持っていかれそうになったので結局細かく切り分けて食べた。欲張らずに最初から1本ずつ揚げればよかったかな。

みんなも知らずに食べているはず

このソデイカ、実はごくごく普通に全国各地のスーパーで一年中売られている。ただし細かく切られた上でだ。冷凍のイカステーキやロールイカ、シーフードミックスに使用される、あのやたら肉厚なイカ肉がそれである(ソデイカ以外にムラサキイカなどが使われる場合もある)。今後それらを食べる際は、ぜひこのイカの赤々とした立派な姿を思い出してほしい。何気なく食卓に並ぶ海鮮料理も少し味わい深く、
感慨深いものになる…かもしれない。
沖縄の市場で売られていたコブシメという巨大なイカ。今度はこいつを捕まえて食べてみよう。
沖縄の市場で売られていたコブシメという巨大なイカ。今度はこいつを捕まえて食べてみよう。
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