古典文学をなぞる
まずはことの発端である古典文学をなぞってみる。書籍『えんぴつで方丈記』をやってみることにした。
予想では“書いた人と同じ気持ちになれる”はず。はたしてほんとにそうなるだろうか。
えんぴつで古典文学をなぞるシリーズが出ている。書籍『えんぴつで方丈記』(ポプラ社 2012)より。
参加したのはデイリーポータルZ編集部より古賀(写真左)、石川(右)
そして私、大北(左)とおなじくデイリーポータルZのライター西村(右)
意外と内容が入ってこない
古賀:やってるとおもしろいね、これ
石川:字がきれいになるって快楽
ですね
西村:わ、おれの字がきれいって感覚ですね
石川:意外と発見が多い、こうやって書くのかって
石川:もうちょっとやりたい
大北:パズルみたいなひまつぶし力が思ったよりありますね
大北:内容についてはどうですか? 頭に入ってくる?
石川:まったく
古賀:まったく
大北:チッ!
なんと。古典文学をあじわえるのかと思ったら内容が頭に入らなかった。書き手の気持ち以前の問題だ。
思うに、なぞる字がきれいすぎて作業に集中しすぎたのではないか。
point
・なぞる作業のおもしろさ
・内容はあたまに入ってこない
古典文学以外はどうだ?
大北:ウォーミングアップがすんだところでこれから色々やっていきます。まずはこれ
古賀:なにこれ?
大北:ラーメン屋『海新山』にあった貼り紙をなぞります
西村:これなぞるのか!
ラーメン屋に貼ってあったコラーゲンに関する説明書
写真から文字をぬきだし、なぞる用に薄く出力する
ていねいになぞるおっさんの講釈
大北:ていねいにそのへんのおっさんが書いたものをなぞっていくこの感覚
古賀:さっきよりは内容が頭に入ってくるかも。現代文だからかな
石川:それでも入ってきにくい。書き写すのとなぞるのってちがいますね
石川:書き写すのは一度自分の記憶に入れるからか
大北:これ書いてる人のきもちになれました?
石川:いや、ならないね
古賀:ならないね~
大北:くそっ
古賀:でもコラーゲンは体の要素を支えてるんだなと思った
西村:学習効果ありだ
石川:コラーゲンってよりも書き手に対してかな、親近感がわいた
大北:おれも同じものを書いたって仲間意識?
石川:そうそう。同じ釜のめしを食った感じ
大北:ラーメン屋のおやじにそんな感情を……
西村:対話してる感じですかね、文字をなぞりながら
大北:“聞こえますか? 今あなたの脳に直接うったえかけてます”ってやつか
point
・内容は入りにくい
・書いた人と対話する感覚
ラーメン屋のおやじに仲間意識を抱きはじめる
商品パッケージはどうだ
大北:次はこれでーす
西村:あ~!
古賀:あ~っ、いいねいいね、これはもう昔からなぞりたいなと思ってたよ!
えんぴつでなぞる『辛そうで辛くない少し辛いラー油』
他人のくつしたを履く感覚
古賀:これ変なのっ!
大北:なんだ急に
古賀:自分の字じゃないくせのある字をなぞる感覚、もんんのすごく変っ!
西村:たしかにへんですね、これ
石川:なんかちょっとね、屈辱的な感じになる
古賀:そうそう、屈辱的、屈辱的!
大北:? 他人がぬいだ靴下をはくような感じ
とか?
石川:ああ~、それそれそれそれそれそれそれ!
大北:親近感はまた感じた?
石川:フライドガーリックの部分すごくふざけた感じで屈辱的
古賀:なんか他人のダジャレをまた言わされてるみたいな感じだね
大北:親近感、感じとらんな
西村:あざとさがきわだつ感じかな
石川:さっきのコラーゲンはメッセージだったけど、これは文字のデザインでよさを伝えてくるから、あざとさは際立つんですよね
point
・くせのある字をなぞる感覚はすごい
・書き手の印象がわるくなる場合も
つづいてはなぞるのはこれ。わかりますか?
山が動いた
古賀:あ! ヴェローチェだ!
西村:これだけでわかるのすごいな~!
大北:180円でコーヒー出してるとこもすくないので
石川:これ、いい姿勢でやろう
大北:石川の猫背が治った!
コーヒーチェーンのヴェローチェの字
えんぴつでなぞるヴェローチェ
古賀:うお~~~、これこんな字なんだ
!
大北:“す”とかこんなの書いたことない!
石川:ウォータースライダー的なたのしさですかね
西村:すらすらすら~ってスピード感がある
大北:このあと、こうカーブくるのか、とか
西村:円はひらがなですね
古賀:ですね、まったく気づかなかった
西村:そもそもなんでこんな字なんですかね
古賀:なんでこんな絵手紙みたいなんだろ
大北:ただ180円だと伝えるだけなのに、こんなに情緒がこめられていたとは
point
・なぞるとわかる字のおもしろさ
・制作側の配慮にきづく
つづいてはメモ書きをなぞります
自分のメモをなぞらせる
西村:なんですかこれ?
大北:これおれの4年前のメモです
石川:(苦笑)
大北:うわ~、知ってる知ってる、この字めちゃくちゃなじみがある
(笑)
古賀:やってることわけわかんないね
石川:あ、ほんとだ、この字見たことあるわ~
大北:あ~、はずかし。手に汗にぎりまくりです
さすがに恥ずかしくなってくる
古賀:“目白を押して目白押し”?
大北:そうなんですよ、でもまだそれはいい方ですよ。“チャップリンになる”とかはやばい、“海賊王におれはなる”的なね
西村:やばいですね~
石川:これなぞってると顔が浮かびますね
西村: これなんて書いてあんだろ
石川:いや、それ知らないほうがいい気がする。だんだんわかっていくのがおもしろい。考古学の研究みたい
大北:この恥ずかしさの正体は、発掘される縄文人のそれだ
point
・自分の字をなぞるのは圧倒的な自然さ
・知人なら顔が浮かぶ
チが唐辛子ではないか? イタリア料理店、カプリチョーザ
こんなに長いのか
大北:つづいてはカプリチョーザです
古賀:あ、これもへんな字だね
西村:長いですよね
古賀:長い! カプリチョーザこんなに長かったのか
大北:この長さってもしかして……
古賀:はい
大北:……パスタ的な?
古賀:あっ!
西村:チも唐辛子的な?
大北:あ~、完全にそれだ!
あなたがデートに使ったイタリア料理店、じつは長いんです
言いがかりでしかない
古賀:カの部分さ、書いても書いても終わらないね
西村:ほんと
石川:この長さって書いてみないとわからないですよね
石川:“イタリア料理”の部分、コロッ、コロッ、としてる
古賀:ほんとだ、ふざけてる
石川:アニメーションついて、くるっ、くるっ、といきそうじゃないですか?
西村:あ~、ありそう
古賀:憎らしい感じだ
大北:たらればで腹立ててる不毛さ
西村:なぜか否定的感情がもちあがりますね
大北:“書いても書いても終わらない”については言いがかりでしかない
(笑) 終わるものこれ。
point
・なぞりは諸刃の剣、否定的感情がわく場合も
女性が書いたなにげない文章
エース登場
古賀:これなに?
大北:これはですね……
古賀:(ゴクリ)
大北:…… モスバーガーの!
石川:ああ~~~!
大北:黒板サインですよ!
古賀:おおおおおおお!
石川:ちょっとえんぴつ削らせてください!
超大物、えんぴつでなぞるモスバーガーの黒板
なぞる前にえんぴつを削らせてください! と石川
モラルの堤防が決壊する
古賀:きたね、これはきたね
西村:ケーキとかニコちゃんマークとかすごいな~
大北:すごいですな、西村さん
西村:ぜったい自分では書けないですな
大北:けしからん、って言いながら鼻の下のばそう
西村:ニコちゃんマーク? けしからんな!
古賀:やばいね、これ、おっさんたちが若い子の文字なぞってる姿
ものすごい背徳感
書いた人を大絶賛する
古賀:でもいいな~、この子、この子のこの字も。女子が思うかわいい字だよ
大北:たしかにこの人が作ったハンバーガーならたべたいもの
古賀:やさしい子だよ、これもう~ああ、この子と友だちになりたい!!
大北:よし、モスに行って土下座しよう
!
石川:“これ書いた人と友達になりたいんです!”って
石川:……あのさ、好きな子の文字をなぞる、ってなんかそういうの一ジャンルとしてあるんじゃないの?
大北:リコーダー?
西村:好きな子のリコーダーなめるやつだ(笑)
古賀:うん、へんたいだよ、これ
石川:この子のことが気になってしょうがないね
大北:君はもうリコーダーなめちゃった感じあるね
古賀:でもそういうのあるんじゃないかなほんとに
大北:性の大海は広いですから
西村:桂浜を見る坂本龍馬の視点ですね
新しい扉が開きそうになって思わず筆をおいた石川
大北:好きな子の漢字ドリルをそっとなぞるのありそう
石川:好きなアイドルのブログをそのまま打ち直したり……
古賀:あ~、それはやばい
西村:新しい
大北:アイドルのサイトをそっくりそのままコーディングするとかね
西村:コピーペーストは禁止で
大北:むしろコピペでいいってなったら究極ですよね。変態性の極み。
石川:ああもう、全部なぞるとやばい気がする……
大北:……あらたな扉がひらかれる
古賀:ひどいね!!
石川:このへんでやめとこ
大北:出ました、このへんでやめとこ宣言(笑)!
point
・好きな子の文字をなぞる、新しいへんたいの発見
・好意的感情が増幅される場合も
「ケイタイラジオと電池を買おと思いましたが80才になるので指に力が入りませんので入れていただきたいと思いましたがだめですと云われました。お願いが悪かったのでしょうか」
えんぴつでなぞるクレームと回答
大北:つづいてはスーパーにあったお客さんの意見と店の回答
石川:あ~、これいい
古賀:まずちょっと読んじゃうねこれ
西村:80才のおばあさんがラジオを買ってその場で電池入れてくれとお願いしたらだめだと言われた、と
古賀:入れてあげればいいのにね
石川:なぞってて頭に内容が入ってこないですね
西村:アクロバティックな字でそっちに注意が
大北:読んでてあれだけひどいとか言ってたのに
スーパーの『お客様の声』をなぞろう
大北:下はどうですか?
西村:字のスピード感すごいですね
大北:回答側の“はやくおわんね~かな”
は思いますね。これは書き手の気持ちのりうつるな~
古賀:内容も重いし、字の密度もあるし……
西村:さっきのモスバーガーとは正反対ですよ
古賀:だってもうあたしTwitterやりたくなってるもん
、これ
大北:終わってからにして
スーパーの『お客様の声』をなぞろう
さてつづいてのこれはなんでしょう
らくがきを丁寧になぞる
西村:日曜中山11Rは2番です?
大北:これはですね、東京競馬場のトイレにあった落書きです
石川:便所のらくがきか
大北:便所のらくがきをなぞってもらいます
正解は、東京競馬場にあった便所の落書きです
この便所のらくがき、字がうまいですね
古賀:字がうまいですね
石川:たしかに、この山の字とか
西村:この書き方はうまい人の書き方ですよね
大北:便所のらくがきつかまえて、字うまい、ってのもすごい(笑)
古賀:しかしこれなんなんだろ
大北:雷に打たれたようにひらめいたのかも、「明日の中山は2番……」
西村:敬語で
大北:「2番、です
」(笑)
大北:それか、神が書いてるってパターンないですかね
古賀:競馬場のトイレで
石川:トイレにバリバリバリ~って落雷が落ちて
西村:焦げたあとがこの字になってた(笑)
石川:でも“です”だからね
大北:あ、神様はですます使わないのか
石川:女神だったら“です”の可能性ある
古賀:東京競馬場のトイレに女神!
西村:プロファイリング、進みますね~(笑)
石川:プロファイリングの結果、女神というのもね(笑)
いよいよ本日のメインイベント、小1が書いた0点の答案です
0点の答案をなぞろう
大北:さあ、本日のメインイベントになります。0点の答案です。これは昨日西村さんのお子さんである太郎くんに作ってもらいました。
西村:上の学年の問題をやってもらったんですよね。漢字テストだから知らないと書けない
学童クラブに仲間とやってきたお父さんがテストをとけ、と
そうしてできあがったものがこの答案である
0点の答案をなぞろう
古賀:名前がむちゃくちゃなのは?
西村:ふざけて書いたんですよ、これ。まちがっていい、ってのせすぎて
大北:まちがえると目の前の大人たちがほめるから
西村:ゆがんだ教育の結果ですね
大北:じゃあなぞってみますか
名前部分はふざけている
0点の迷宮に入りこむ
古賀:うわ~、いい
大北:ほお……
石川:いいな~
石川:小学生男子の字ってきほんイライラするものですね
大北:小1の書いてる姿勢からすごいですよ。体ができあがってないから、もうぐにゃぐにゃ
古賀:これは今までになくゆっくりやってしまう。味わいがある
石川:“お”とか曲線が逆になってる部分がある。すごいな~
古賀:“きれおんな”ってなんだ!?
西村:“母”は気遣いでまちがった可能性ありますね。ぼんやり分かってるのはあると思うんですけど、基本読めてないとは思えます
「父母」の読み方は「きれおんな」。となりの「きれ」が重複しているいいかげんさ
アートっぽいな
古賀:いい、いい。これすごくいいな~
大北:こうくるか、あほだな~、の連続ですよね
石川:めずらしい動物見てる感じがある。こういうのもあるのか~って
西村:これ昔の文字ですよね、漢字の前の象形文字みたいに(笑)
古賀:いや、もう、言っちゃおう、ちょっとアートっぽいなと
大北:引越し屋じゃないほうのやつだ!
西村:“じどうじとく”?
大北:“自業自得”のことですね、これは現場で“あ~、じどうじどくやっちゃおうかな~”って必殺技出す感じ
ありました
西村:まちがってますね
大北:やっぱり“ちゅうし”すごいですね
古賀:あ~、これいい。もったいなくてなぞれない
。一度書き取ってみよう
「ちゅうし」の漢字を書き出す古賀。あたらしい漢字のようだ
古賀:なんすかね、これ
西村:なんなんですかね(笑)
古賀:これでステッカー作りたいよ、もう
大北:年末の今年を代表する漢字に選びたい、“ちゅうし”って
石川:書き取りもよく見るとまちがってますね
西村:ほんとにわかんないから、近くの文字を書き写してるんですよね
大北:あ~、わかる。わからないけど恥ずかしいからうめるときそんなことしてた。当時の青ざめた感情がよみがえってきた……
「ほお……」「これはいい……」と感嘆がもれまくるなぞり現場
古賀:お父さんとしてはどうなんですか?
西村:やっぱりね、はずかしいですよ。あと冷や汗が出ます
古賀:まあ二年生のやつですから
西村:でも頭のいい子ならできちゃうんだろな~
大北:いよっ、0点!
石川:0点屋っ!
西村:大向うみたいに言ってもね、不安は不安なんですよ!
お父さんの恥ずかしさ
文字の感情を増幅させることだ
大北:さ、総評なんですけど、やる前には“書いた人のきもちになれる”のだと思ってましたがやってみるとプロファイリングでしたね
古賀:内容というより文字に気をとられる
石川:客観的になるね
西村:そうそう、なんでこうなったの? って考えちゃう
石川:文字に抱く感情がやたら増幅される感じがすごかった。良い子だなってモスバーガーの店員に思ったし、ラー油は逆に腹が立ってきた
大北:カプリチョーザの“カが終わらない”って話はいいがかりでしかない。終わりますからね
石川:きれいな字、フォントのようなものはあんまりなにも思わないですよね
西村:“きれい”とか“美人”とかは特徴がなくなってくることらしいですよね。だからアニメの美少女はみんな同じ顔になるって
古賀:バン!
大北:古賀さんすいません、今日はガッテンボタン用意してないんですよ
古賀:バン! バン!
石川:あとは新たな変態性と
大北:原子爆弾のようなね、科学の副産物ですよそれは
西村:アインシュタインと同じ悩みがまさかここで
大北:さあ、タイトルなんですけど『0点の答案をなぞると脳みそがマイルドにとけるんです』にしようと思ってたんですけど
古賀:ここで決めるんですか?
西村:でもマイルドにとけますよこれ
大北:そうですよね。やってみると、アホになるというよりアホだな~って思うほうでした
「ちょっとなぞりたいな」そんな新しい感情がわくようになった