有楽町電気ビル。この20階に外国人記者クラブがある
まだだ……
有楽町の電気ビルの20階にある外国人特派員協会、またの名を外国人記者クラブ。
外国人記者クラブができたのは戦後すぐ、あのマッカーサーが作れといってできたそうだ。
ちなみに私もマッカーサーを甲州街道で見たと豪語するおじいさん理容師に髪を切ってもらっている。マッカーサーが今の日本に与えた影響ははかりしれない。
ここまですごい人が並んだ壁もないですよ(ほとんどだれかわからなかったけど)
まだだぞ……
外国人記者クラブとは日本にいる外国人記者たちが仕事したり会食したり、著名人をまねいて記者会見してもらったりするところ。
ロビーにはここで記者会見をした著名人の写真がかざられている。田中角栄が外国人記者から金について質問されまくったのもここ。
あった、マスコミ寿司は本当にあったのだ
出た、マスコミ寿司
そんな外国人記者たちが会食するためにダイニング、バー、寿司と3つの飲食スペースがある。その寿司こそがマスコミ寿司。
入ってみると明るく清潔でちゃんとした店内。
カウンターに資料が山積みで、寿司を食う人にマイクが何十本もむけられてたりもしない。一体ここのどこがマスコミなのだろう。
このお店をとりしきる岡野さんに話をうかがった。
店長の岡野さん。マスコミ寿司に入って三年目。
あんまりマスコミマスコミしていない
――マスコミ寿司ってすごい名前ですよね
「そうですよね。ふらっと入ってきたお客さんにも『なんだふつうにいいもの出してるじゃないか』って言われたりもしますね(笑)」
――寿司屋としてはそんなにマスコミマスコミしてない?(なんだこの質問は)
「ここは会員制クラブで、記者の方以外にもたくさんいらっしゃるんです。
お客さんも8割は日本の方ですね。この辺りにすむ社長さんですとか。接待で使われる方が多いです。
記者の方も日本に長い方ですから普通の江戸前を好まれる。やっぱりお店も日本人向けになりますね」
明るく清潔でマスコミっぽさのない店内
命名、マスコミ寿司
店長の岡野さんはマスコミ寿司をまかされて三年目。入ってきたときからマスコミ寿司だったそうだ。
――マスコミ寿司って誰がつけたんですか?
「10年以上前にここができて、当時のGMがつけたそうです。外国の方だったんですけど、日本人の感覚だとなかなかつけられない名前でしょ(笑)」
当時はバーにネタケースだけあって、その寿司が好評だったので独立することになったそうだ。独立、命名、マスコミ寿司! 会場のどよめきは最高潮だ。
「箸袋にありますけど“真酔米”と書いてマスコミと読ましたりね、ユーモアある方だったんですね」
「真酔米」と書いて「マスコミ」。酔って寿司食ってるイメージはあっても、マイクむけてるイメージはない。
まともだよ、マスコミ寿司
――マスコミ寿司を任せるって言われて不安じゃなかったですか?
「それよりも外国人記者クラブってきいて悩みましたね。でも8割は日本人だし、外国の記者さんもみんな日本語しゃべれるので問題はなかったです」
たしかにそうだ。大きな問題を前に、マスコミ寿司の名前はもはやどうでもいい。
と同時にマスコミマスコミさわぎたてた自分がここにきて恥ずかしくなってきた。ふつうだ、慣れてくればふつうじゃないか、マスコミ寿司。
カウンターの後ろがこれだけ見晴らし良い寿司屋は少ないらしい。もはや話にマスコミのマの字も出てこない。
どうすれば入れるのか?
――マスコミ寿司はだれでも来れるんですか?
「外国人記者クラブが会員制なので、メンバーの方に連れてきてもらうか、自分でメンバーになるかですね」
会員になるには、すでに会員である人物二名からの推薦と、審査が必要。会費もかかります(月、約16,000円)。
かつては入るのに何年もウェイティング状態だったらしいが、今はそこまできびしくないらしい。
人数がへった理由は東日本大震災もそうだが、インターネットがあるので記者クラブにいかなくてもよくなったからだとか。
インターネットが変えたことって大きいのだな~とどこに行っても思う(あとマッカーサーと)。
まともな寿司ネタがならぶ。ああ、マイクの一本でもここにあれば……
あこがれのマスコミ寿司
――会員制って行ったことがないんですけど
「ぼくも勤めるようになってはじめてです。
会員制だと静かでおちついた雰囲気ですよ。学生さんとか観光客の外国人が入ってきたりとかないですから、接待で使われる方が多いですね。
つれてこられた方も『ここ会員制だよ』なんて言われるとそれだけでよろこばれるみたいですし」
なるほど、会員しか入れない店と聞くとそれだけでうれしい。それが町内会でも若い根っこの会でも、ましてや外国人記者クラブである。
私が犬ならば今ここでうれションも辞さなかったろう。
「マスコミ一品料理」 これはいい。ふるえる。
見逃せない、マスコミにぎり
このあと、月替りのイベントが好評で目当てのお客さんも多い、ダイニングの料理をここでも食べられるので寿司嫌いの人でもOK、などなど聞けば聞くほどふつうのいい店に思えてきた。
そうだ、ふつうじゃないか。マスコミ寿司。
そう思えたのもつかのま、お昼のメニューをひらいたときに、やっぱりここはマスコミ寿司なんだと強く思わずにはいられなかった。
すいません、このマスコミにぎりってのを一つください!
そんなこと言いながらも、ありましたマスコミにぎり。プレスクラブにぎりとの差はお寿司二カン。
これがマスコミにぎり 1,600円也。めちゃめちゃちゃんとしとるやんけ……
これがマスコミの味
とまどっている。デイリーポータルZの取材でほんとにおいしいものが出てきてしまった。
――おいしいです。ものすご~く、ちゃんとしてますね。
「接待で昼に使われる方も多いんですよ。ランチ用に別のネタを用意してる店もあるみたいですけど、うちは夜も同じですからね。」
巻物がついてくる。味100点、マスコミっぽさ0点。
カリフォルニアロールでさえ出ない
――変わった寿司があるわけではない?
「カリフォルニアロールにぎってくれって注文はゼロですね。日本にいる記者の方ですから好まれるのは江戸前の寿司なんですね」
――そうですよね……
「おもしろいことしたいんですけど……なくてすいません」
「あ~、そういうおもしろいの出したほうがいいですかね~」 よろこぶのは部外者だけですよ!
まじめなお店のまじめな人でした
――マイクを海苔で巻いてみたりしないんですか
「なるほどね、創作寿司か……いや、僕自身、中より上くらいのお店をわたってきたので、くだけた発想っていうのがなかなかできなくてね」
マジメだ。だれだこんなマジメな店とマジメな人をあげつらっておもしろがっているのは。
そのとき、よく磨かれたテーブルに一瞬自分の顔が映った。鬼だ、鬼の形相がそこにはあった。
内と外との見方のちがい
後日、マスコミ寿司に行ったことがあると言う人がいた。どうやって入ったのかときくと、やはり義父が会員で連れてってもらったという。
「でもあそこ、ふつうですよね」
あとにつづくのは“大北さんが書いているのっておもしろサイトですよね”だろう。さらにそのあとには“対して、うちの義父はちゃんとしてますよね”が待っている。
そう、私がおもしろおかしく書きたてるのは、彼のお義父さんがふつうに通っている店なのだ。
それでもやっぱりへんじゃないか。マスコミ寿司ってへんじゃないか。と思うあなた。
あなたももちろん共犯者だ。さあ、一緒に修羅の道を生きよう。