特集 2013年3月18日

無個性で、町をおこすぜ、桃色ウサヒ

!
私はゆるキャラファンである。
もともと着ぐるみが好きで、可愛いものが好きなんだから仕方ない。ゆるキャラに恋してしまうのは当然の成り行きであった。
いま、時は、空前のゆるキャラブーム。くまモンにも、バリィさんにも会った。嬉しかった。
しかし、軽い虚しさが、胸を襲うのだ。
私は何を愛してるのだろうか? ハリボテの何が、私を動かすのだろうか、ゆるキャラっていったい何なワケ?

そんな時、一体の、不思議なキャラとの出会いがあった。

・無個性が売り(実際、造形としては可愛くない)
・ゆるキャラさみっと(日本最大のゆるキャラフェス)の舞台裏を、日記に書いてる(そんなゆるキャラほかにはいない)
・っていうか、中に入っている青年が、普通にメディアに顔出ししている
・その青年は「町おこし」をテーマにしている研究者で、自ら着ぐるみに入り、日々活動している


無個性? 顔出し? 研究者? 町おこし?

あまりにも分からないことだらけだな、と思いながら、そのキャラクター「桃色ウサヒ」が出演するイベントに、行ってみた。
埼玉生まれ。電子書籍『初恋と座間のヒマワリ』(リイド社刊)発売中。最近、ほぼ毎日ブログを更新していますので、良かったら読んでください。

前の記事:東京で、沖縄を思いながら、タコライスを!

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初めて出会った時のウサヒは、ダイナミックな動きをしたと思えば、こんなふうに膝をかかえたり……自由でした(ダイキン工業フーハ東京にて)
初めて出会った時のウサヒは、ダイナミックな動きをしたと思えば、こんなふうに膝をかかえたり……自由でした(ダイキン工業フーハ東京にて)
可愛くない……けど、かわいい! 仕草がすごくカワイイ! 動きが機敏! そしてサービス精神がすごい! ああ、どんどん好きになってしまう! あんま可愛くないのに! 可愛くないのに!
なんなのこのキャラ!?
……そんなわけで、桃色ウサヒの中の人、佐藤恒平さんにお話を伺ってみました。
桃色ウサヒ。かわいい…よね!?
桃色ウサヒ。かわいい…よね!?
ウサヒの仕掛け人で中の人・佐藤さん
ウサヒの仕掛け人で中の人・佐藤さん

町おこしの……研究??

――根本的には研究者なんですよね?

「はい、地域振興の研究者をしています。実験的な地域おこしを現地で試す研究者なので、活動家って言っても差し支えはないんですが…、研究者と名乗るほうが信頼感もあるかなって思って。」

――町おこしの研究……。どんなことをされてるんですか。

「今の町では、くだんのゆるキャラ?『桃色ウサヒ』を使った地域情報のPR活動していますが、商店街の活性化や、伝統工芸品産地の活性化とか、学生さんの就職意識の向上とか……。」

――はい。

「あと、無人の廃墟の村おこしとか、踊って地域活性とか……ツチノコを捕って売る町おこしとか……。」

――……つ、つちのこ??

「僕が女子校生の格好をして、『女子校生が捕ったツチノコを売りにしている町の産業』というのをテーマにした劇をやったんです。やっかみを女子高生がたおしていくっていう……壮大なストーリーでした。」

――げ、劇? フィクションなんですか? それ町おこしになるんですか?

「いやぁ、みんな成功した町おこしって間近で見たことないだろうから、ぜひ、臨場感ある町おこしを体験してもらおうって思って……。」
――確かに、成功した町おこしは、テレビや本でしか見たことはないですけれど。でも、みんなに伝わりましたか?

「はい、呼ばれた所で上演したりとか。GEISAI(アートイベント)に出展したら入選させてもらったり、あとマサチューセッツ工科大学のサイトにも紹介してもらったんですよ!! 大学の先生のブログで。

………あの、この説明だと、僕のやってること、どんどん意味が分からなくなってないですか?」

――あ、はい。全然わからないです。

「…じゃあ、まず僕がなんでこんな町おこしをしてるのか、研究テーマである『非主流地域振興』とは何かからお話しますね。」
今をときめく、くまモンと。
今をときめく、くまモンと。

非主流地域振興ってなんなんですかね?

――「非」主流地域振興って何なんですか?

「はい、現在主流の町おこしとは別の方法で、地域が元気にできないかっていう考える研究です。例えばちょっと乱暴な言い方なんですが、お年寄りに手厚い介護サービスをする町っていうのが今の地域福祉の主流だとするならば、逆に厳しい環境を作って、鍛え抜かれた強靭なお年寄りを育成する町づくり(介護予防の町づくり)、なんて感じですかね。」

――ちょっと逆の発想で行う町おこしなんですね

「まあ、そうでいうことですね。ウサヒを見るとわかると思いますが、一般のご当地キャラクターとはちょっと違うトコいっぱいあるでしょ。あれは全部、この非主流地域振興に基づいて設計されています。」

――でも、なんでそんな研究を?

「大学の入った頃から『地域おこしに生かすデザイン』をテーマに研究活動を続けていたんですが、なんとなく腑に落ちないことがあって……。」
――というと?

「本屋さんには並んでる町おこしの成功例の本とか見ると、『奇跡の町おこし』『奇跡の集落』とかやたらと『奇跡』って言葉で強調されて使われているんですよね。その事例自体はすごいんだけど、全国には1700以上の自治体があるわけで、奇跡の確率でしか町がおこせないのか、と思うと……。」

――確かに奇跡の○○って本は多いですね。

「町おこしって言葉は、僕が生まれた1980年代に出来た言葉なんですけど、かれこれ30年以上にわたって町おこしをやってるこの国で、奇跡の確率でしか町がおきていないのだとすると、もしかしたら、町おこしのやり方に、何か根本的に間違いがあるんじゃないかと思ったんです。」

――そこで非主流の……という考え方に至るんですね。

「大学院からは、主流メソッドじゃない地域振興を研究するようになりました。奇跡の町おこしの成功要素を抽出するタイプの研究じゃなくって、違う方法のことをやっても地域が幸せになれるような成果が出ないのか? っていうのを考えて。
それで『非主流地域振興研究者』を名乗る決意をし、活動し始めたことになります。」
昨年末、ドイツの国営放送から取材が来たそうです。ドイツ人の目にはどう映ったんだろうか……。
昨年末、ドイツの国営放送から取材が来たそうです。ドイツ人の目にはどう映ったんだろうか……。

町おこしに悩んでいた中学2年生

――大学入りたての頃から、町おこしをやりたかったんですか。

「うーん、中学のときから漠然とやりたいなーと思ってました。社会の将来を憂いてて……。」

――変わった中学生ですね。

「いや、わりと普通の中学生でしたよ。ビジュアル系バンドとか好きでした、マリス・ミゼルとか。『ゴシック&ロリータバイブル』とか熟読してました。
その時は人口2500人くらいの小さな町に移住してきていて、母親が町の施設で働いたりしていたんです。明るさが売りの人だったので、地域おこしイベントの司会とか、町のお見合いイベントのコーディネーターとか頼まれごとをされてたんですよ。……すごく頑張ってたんですけど、それがなんか痛いたしいというか、地域の人と温度差がすごいあるところを見ていまして。なんで温度差があるんだろう、どうして頑張っている母を、頑張っただけ応援しようと思わないんだろう、田舎の人って変だなあ、この町で将来暮らすのやばいんじゃないか? ってその時に思ったんです。
世間一般で言われる『中ニ病』の世代の時、何かちょっとおかしいところで、社会に鬱屈を感じていたんですね。」

――中二のころから、町おこしにひっかかりがあったんですね。

「だから、とにかく町を出ようって思ったんです。地域を変えれる力をつけようって……。デザインとか映像とか、一通り教えてもらえる高校へ進学して。クイエイティブ系の仕事で食べていきたいなと思ってたら、先生に、『お前、この勉強して何がやりたいの』って言われて。『町おこしとか出来ますかね…』ってなんとなく聞いたら、それを先生がすごく褒めてくれて。それでめっちゃやる気でました。
町おこしをするデザイナーになろうと考えていたら、高校二年の冬に、たまたま、山形の美術大学の先生が、学校紹介に来たんです。僕、ノートに書きためた地域おこしの案とかを見てもらったら、『どこの大学に行きたいの?』って言われて。『東京の美大に行きたいです!!』って言ったら、『地方を盛り上げる勉強したいのに、東京に行ってしまったら活動なんか出来なくならないかい? 君は地方の大学で研究すべき人材だ』的なことて言われて。」
――ちょっと、うまいこと勧誘されちゃいましたね。

「褒められ慣れてなかったから…そういうのに弱いんです(笑)。
そんなこんなで、山形の大学に行って地域おこしの活動をやってていたんですが、そこでちょっとした問題が……ウチの学科ってまだ方向性が定まってない学科だったので、年に1度、学科の名前が変わっていったんですね。」

――新しい学校って、そういう所ありますね。

「大学って教えてくれる所だと思っていたけど、けっこう試験的に運営されているもんなんだなってことを知りました。今はそうでもないんですが、当時はカリキュラムもあまり安定してなくて……『社会の役に立ちたい』とか、聞こえいいこというだけでは食っていけないぞと、現実にうちひしがれていたんですが、そんな迷える僕を危惧したウチの教授が、インターンシップを紹介してくれまして。
3年生の時に、市役所と、福島の会津で伝統工芸品の復興をするのと、二カ所行きまして。そこで、学校の授業以外に、国や自治体に資金もらって、町おこしの活動をやる方法を学ぶ事になりました。」

――学生さんの時点で、そういうことを知るのは珍しいですね。

「大学の先生が、国から援助をもらって研究をするのはよくあることなのですが、学生はその予算の取り方とかはあんまり興味ないですからね。
ただ、国からそこそこ、お金は出てるはずなのに、あまり町おこし成功!! って話を聞かないなぁってことにも気づきしました。」

――「奇跡の町おこし」は、ほとんど起きてないわけですね。

「そういうことです。地域振興のあまりうまく行ってない実状を間近でも見ることになりまして……。スターウォーズで言うと、フォースの暗黒面に落ちた気分です。」
暗黒面に落ちた結果。
暗黒面に落ちた結果。

いろいろな町おこしのアイデア

――ツチノコは、どこタイミングで入ってくるんですか。

「その直後ですね。いきなり非主流地域振興やりたいって言ってもしかたないんで、まずは仲間集めしようと思ったんです。でも、まじめな地域振興の話しても食いついてもらえないから、劇をして仲間集めをすることにしたんです。
とりあえず、僕のやりたい町おこしのスタートから完結までを見てもらいたいなぁって思って。
幸い、高校の頃の例のアイデアノートにちょうどいいのがあって『女子校生が収穫した』てっいう物産品のブランド作りアイディアです! まぁ、収穫物は『ツチノコ』なわけですが。」

――それ、高校生の頃のアイディアだったんですね。

「こうして『女子校生UMAハンター大海原ネス子』は生まれたわけです。」

――そんな名前なんですか、主人公。
ネス子が売っていたツチノコ。
ネス子が売っていたツチノコ。
ネッシーのヒレ(霜降り)も売っていたそうです。
ネッシーのヒレ(霜降り)も売っていたそうです。
――わあ、いいですねえ! このツチノコ!

「僕、美大生とはいえど、論文書いて卒業している人間なんで、美術の専門指導はうけてないんですが、こういう胡散臭い工作が得意なんですよ。」

――(笑)ものすごく味がまずそうなところがいいですよね。微妙な値付けも!

「そそそ。これは完売してて…。」

――ていうか、リアルに販売してたんですか?

「劇の会場で販売してました。これを販売していると、途中から販売を妨害してくる悪いやつが現れて、それを女子校生役の僕が退治するという、アクション仕立ての劇が始まるのです。」

――いったい何個くらい売れたんですか。
「…600個くらいですね。でもツチノコ以外にも、赤字商品たくさん作っているので…。ネッシーのヒレとか、ビッグフットの足跡とか。あと、商品を良く見せたくてスーパーマーケットのサランラップをピッチリ貼る機械(業務用)とか買ってしまったりとか……。」

――それはまた無駄な買い物を…。架空の町は活性化したけど、リアルな財政は潤わなかったんですね(笑)。

「未確認生物で生計を立ててる町のパンフレットまで作ってますし、台本はなかったけど、衣装にはお金掛けてたからなぁ……。」
――あれ、ひょっとして台本なかったんですか、それは。

「流れだけかいてある進行表があって、『ここで僕がこういうセリフを言うことによって、人の気持ちが相手の気持ちがこう変化するんだ!!』とか、狙いだけは書いてあります。
あとは、それぞれの役に演じながら、思ったことを言って貰うんです。人との付き合いに台本はないから、その時の言葉でいかにドラマチックに場を演出するかが、僕がみんなに体感して欲しかった地域おこしのそんな極意みたいいなものでした。でも結果、当時の劇のメンバーは、町おこし関係のことをしている人が多いんですよ。」

――非主流地域振興は、こうして幕をあけたと……。

そうですね。同時期には『30代女性の理想のお婆ちゃん像見つける』がテーマの魔女の町おこしとか、『人が誰もいない場所での町おこしは可能か』を探る実験跡地とか、いろんな町おこし企画を実行しました……それらはどれも「非主流」の発想を軸に行った企画です……。」

――…面白そうだけど、わかりにくいです! ていうか、わからないです!(笑)

「成功したか? って聞かれるとなんともなんで、細かい説明は省きますね。でも、僕は成功までの道のりを信じてこれらの活動は行っています。」
くつろぐウサヒ……。
くつろぐウサヒ……。
美術品としてのウサヒ。と、床の間に似合う!
美術品としてのウサヒ。と、床の間に似合う!
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受け身キャラ、桃色ウサヒ誕生秘話

――そんな非主流発想のプロジェクトのうちのひとつが、桃色ウサヒなんですね?

「はい、コンサルタントや大学教授が、上から目線で町おこしを指導しようとするから、うまくいかないのではないか? という発想から、かわりに着ぐるみがやればどうなるのか試したくて、始めました。
大学院の卒業論文はこれで書こうと思いまして。研究費の範囲で買える、3万円の、ピンク色のウサギの着ぐるみを買いました。
研究室に着ぐるみが届いたときの、先生の残念そうな顔は今でも忘れません
……。」

――桃色ウサヒの初期型は、本当にどこにでもある着ぐるみですよね、パチンコ屋さんの開店時に店頭にいるような…。あれ既製品なんですね。
桃色ウサヒ、最初はオリジナルのぬいぐるみではなかった…。
桃色ウサヒ、最初はオリジナルのぬいぐるみではなかった…。
「そうです。あの住宅展示場とかにいるやつです。
僕の研究は人気のご当地キャラを作ることではなく、町おこしを円滑に進めるためには、着ぐるみのほうが有効なんじゃないだろうかというものだったので。形とか見た目とかはどうでも良かったんです。安けりゃなんでも良かったんです。」

――なんで朝日町だったんですか?

「どこの町に行くか探すのに、電話帳で自治体を探したんですがアイウエオ順にのっていたわけで……。

――「あ」さひまちからアプローチしたわけですか。

「僕としては、奇跡じゃない確立で成功する町おこしがしたいわけだったんで、どの町でも良かったんです。結果的に一番最初にアプローチした朝日町が研究を受け入れてくれまして、お世話になることになったんです(現在もウサヒは山形県朝日町のキャラクター)。
奇しくも、敬愛するみうらじゅん氏と、あのひこにゃん先生が『ゆるキャラがブーム』なるものを作ってくれていたので、大学院生がご当地キャラのようなも作りたいっていうし、まぁいいんじゃない! みたいな感じに役場の方もなったんだと思います。ナイス朝日町役場。」
現在、ウサヒのいる山形県朝日町の文具屋さんには、スーファミが普通に売っているらしい…。
現在、ウサヒのいる山形県朝日町の文具屋さんには、スーファミが普通に売っているらしい…。
――朝日町の心の広さが、若干「奇跡」のような気もしますが……

「まぁ、そういわず。 論文では心理構造の部分からやっています。地域おこしを本当にやろうとした時に、僕の親がやって失敗した理由は、自分から『がんばります』って言ってしまったことだったと思うんです。他人が十分にやる気だと、自分は別に遠巻きに見てればいいかなーって気持ちになるのは、わりと当然な気持ちだと思うんですよね。
ましてやコンサルタントさんに上から『この町のここはいけないなんて言われたら』そりゃあ、まぁ勝手にやってくださいって気にもなってしまいますよね。」

――コンサルさんは口を出すのが仕事なわけだから、仕方ないかもしれませんが…。

「まったくです。ただ、地域おこしの楽しい部分って、けっこう企画を考えたり、案をだしたりする部分なので、その楽しい部分を住民から奪ってしまうのはもったいないなぁと……。
だったらもういっそう、『受け身なキャラクター』を作ったほうが、いいと思ったんです。
ほら、着ぐるみを使った町おこしの企画だったら、誰でも自由に発想を広げられるかなーって思って。

――なるほど、何でもありの町おこしはよりは、イメージがつかみやすいですね。見た目を無個性にしたのは?

「今のご当地キャラはどうしても個性がありすぎて、それに比例して運動性能が低いんです。そんなキャラでは地域の人のアイデアをはさむスキがまったくなくなってしまうので、なんでも付加できる、動きやすいキャラクターが僕の研究では理想の形状だったんです。

研究者の僕の顔は着ぐるみで隠れて、キャラクターとして存在して、町の人に企画者になってもらう。僕自身もアイデアはもちろんあるんですけど、それはちょっと封印してでも、町の人たちが考えた面白い発想で、どんどん進化していく『カスタム型ご当地キャラ』、それが桃色ウサヒです。」
佐藤さんとウサヒ(初期型)
佐藤さんとウサヒ(初期型)
――始めたばかりのときは大変だったのでは?

「企画の説明をしても、納得してもらうのはなかなか難しいですから。実際に取材を体感して知ってもらうことを重ねていくしかなくて……。
あ、そういえばそんなときに勇気づけられた記事があって、デイリーポータルZさんのファービーが好きになれるか? って記事なんですが(『人はファービーを好きになれるか』)僕も地域住民に無個性な着ぐるみを愛してもらえるまで耐えられるかを研究してて、すごくシンクロして、感動したんですよ。今のウサヒのブログの書き口にもかなり影響を与えていますよ。


――学生の時に行った時のウサヒの手応えは、成功だったんですか?
「思った以上にありまして、卒業したら観光系の地域おこしの仕事で町に来ない? って言われたんですけど、一度サラリーマンをすることにしました。」

――なぜですか?

「少しでもいいから、会社員の経験がしたかったんです。研究は机上の空論になりやすいから、企業で働いたことがある経験で、説得力が違ってくるのではないかと思って。
僕、奇抜なことをやろうとはしていますが、自信とかはそんなになくて。むしろ、過去の経験からロジックを組んでやっているんです。大学院までの経験じゃあ限界があるなと感じていて。」


――働く大人の経験が、着ぐるみに役立つと考えた訳ですか。

「サラリーマンもやったことある着ぐるみになら、ウサヒはもっと面白くなる、と思ったんです。若さにまかせたがむしゃらな動きだけじゃなく、都会の生活も、給与をもらう喜びも、仕事をとってくる大変さも知った着ぐるみに自分はなる!! 3年くらい関東でサラリーマン修行をしようと考えていたんですよ!!
でも、2年目の春に朝日町から電話がありまして、『新しい着ぐるみ作ってやるから…またウサヒやらない?』って誘ってきて、つい…。サラリーマンは1年ちょっとで辞めてしまいました。」

――あれ? 大学勧誘の時と時とおんなじ展開じゃ(笑)

「このパターンに弱いのは変わらないんですね。
でも、あの頃とは違ったのは、非主流地域振興の理論と、サラリーマンの経験がありましたから。」


――いまの形のウサヒに変わったのって、平成23年の夏、くらいですよね。さらっと変えましたよね…、顔変えるって大変なことなのに!

「新しい着ぐるみが出来るのは嬉しかったけど、研究的には『着ぐるみであればなんでもいい』ってスタンスは変わらなかったので。わりとひっそり変更しました。変更に気づいた子どもからは『なんか怖くなった』『目が虚ろになった』というわりと冷たい意見が寄せられました。」
子どもたちから「虚ろ」と形容されるウサヒの瞳…(確かにバリィさんのほうはキラキラしている…)。
子どもたちから「虚ろ」と形容されるウサヒの瞳…(確かにバリィさんのほうはキラキラしている…)。

地域住民は人気のないデザインを愛せるのか?

――デザインはご自分で、ですよね?

はい。圧倒的無個性をコンセプトに、6案くらい顔の案を作って、知ってる人たちにばーっとアンケートをとったんです。そして、一番人気なかったやつを採用しました。

――なんでまたそんな過酷な選択を!

「いうまでもなく『非主流地域振興』の考えに殉じたまでです!
人気投票の上位を採用するっていう手法が、影響力の無いキャラクターを生み出しているんじゃないかという仮説から入ったんですよ。
あくまでも仮説ですが、一般うけの良いモノを選ぶ人よりも、マイノリティを選ぶ人ってこだわりや愛着があるんじゃないですか。一番人気の無い顔を選んだ人がウサヒの最初のファンになってくれればいいかなって思ったんです」
――選ばなかった人たちはどうなるんですか?

「だんだん慣れてくれればいいかなって。
別に見た目だけがウサヒを好きになる要素ではないので『変な顔だけど動きがいい!!』とか思って好きになってくれないかなぁ……と。
『なんだか見慣れて可愛く見えてきた』なんて言ってくれればしめたものです。
それに、最低人数のファンからスタートすれば、あとはファンが増えるだけです!!」

――ポジティブなんだかネガティブなんだか分からない考え方ですね……。しかし、このゆるキャラブームの中での、ゆるキャラとしてのウサヒって……なんなんでしょうかね?

「ウサヒって、地域の特徴をまったく反映していないんで、厳密にはゆるキャラの定義にはあてはまらないんですよね。でも、朝日町のPRは目的にしているんで『ゆるキャラ界のグレーゾーン』って呼ばれています。」

――桃色なのにグレーゾーン! でも、ちまたのゆるキャラと同じ方法だったら、非主流じゃなくなっちゃいますもんね

「そうなんです。目的は同じ地域振興、使うのも着ぐるみなんですが、使い方のルートがまったく違うんです。
だから、ウサヒはゆるキャラとしては人気はないですよ。ゆるキャラグランプリでも850体中、244位ですし。自慢できるのは人口たった7500人の町のキャラが生み出した結果であることとと、広報費は予算からの6000円と、ファンからの寄付の15000円(桃色ウサヒ基金)しかかけてないってことですかね。まぁ安定のそこそこ順位です。」

――それって強さなんでしょうか……。

「うーん、強いのかって言われると、ウサヒは負けてばっかりなんですが、独自路線だから、負けても関係者が全然ガックリしない『弱さの美学』がありますね。」
独自路線といえば、ウサヒのいる朝日町には、空気をまつってある「空気神社」というナゾの神社もあります。このステンレスが神社!
独自路線といえば、ウサヒのいる朝日町には、空気をまつってある「空気神社」というナゾの神社もあります。このステンレスが神社!
――弱さの美学ですか。

「ゆるキャラサミットであったことなんですけど、隣が、同じ県の別の市だったんですよ。必然的に、うちの町と農産物とか、かぶるんですよね。で、なんと、ウチがりんごをくじ引きの景品にしてる隣で、なんとりんごの無料配布を始まったんです!!」

――え、ええーー!

「最初、スタッフみんなで騒然となりましたが、『落ち着こう、うちは無料配布できるほど資金面が強くない。だからわざわざくじ引きにしてるんだ!!』ってことをみんなで確認しまして。
独自路線でやっているっていうスタッフの共通の認識があるから、こういう時ほど団結が強まるんですよね。
まぁ、独自路線でやりすぎて、ゆるキャラPR動画は放映禁止になりましたけど。」
ウサヒ、衝撃映像(?)
頭が取れる描写がまずかったらしい(なんで?)。ちなみに楽曲は町の作曲家が製作しているそう。
いったん広告です

着ぐるみに入ると、ホスピタリティがあがる!?

――中の人として、顔を出して活動するというのも、特殊ですよね。

「顔を出しながらやってるキャラクターも他にいますけど、中の人がこんなに出ているのは少ないと思います。」

――中の人が分かっていても、着ぐるみ着ちゃうと、なにか別の者に感じてしまいますよね。人格って変わりますか?

「中に入ると、人に優しくしたい気持ちになりますよ。ホスピタリティーっていうんですかね。こっちの顔が見えなくなる安心感から、気恥ずかしさなく、人に優しくできます。
これは、僕だけじゃなく、ウサヒに入った町民みんなが言っています!」

――あれ? 中の人って佐藤さんだけじゃないんですか?

「はい、もちろん。君も入らない、あなたも入ってみない、って言って誘ってます。これならば、僕の役場との契約が突然終わったとしても、ウサヒの活動はまわっていくでしょ?」
――そうか、どこでも出来る町おこしって、そういうことでもあるんですね。

「そうそう、あえて着ぐるみを着ているのは、僕じゃなくても出来るようにするためです。『抜け殻式地域おこし』とでも名づけましょうか!!」

――ぬけがら……。あまり地域がおきそうにないネーミングですが、なんだか私も、ウサヒに入ってみたいなあと思ってしまいます、一度。

「ウチの事務所に来れば全然お貸ししますよ。ホスピタリティがんがん上がりますよ!」

――きっと、中に入ったら、見えてくる視界が、全員、笑顔じゃないですか。そんな桃源郷ないじゃないですか。羨ましいなあ、と思って。

「…あ、『桃源郷』っていいですね、俺も講演とかで使おうっとその表現。着ぐるみからの視界って桃源郷です。」

――でも最近のゆるキャラは動きが派手で、入るのに技術が要りますよね。とくにウサヒは何でも動けますよね。

「アレは運動性能をフルに高めてもらうため、着ぐるみを作る段階で、『こういう動きもしたい』って注文してるんです。根気よく話を聞いてくれた、あとりえパレットさん(製造会社)には本当に感謝しています。」

――スキーもお得意ですよね。

「もともと、スキージャンプの選手をしてたこともあるんで、結構得意ですよ。
ただ、スキーのために、ウサヒの頭に首にカチって固定する器具を付けてくれっていったら、製造会社の社長さんからムチウチになる可能性があるから駄目だと言われて、ここは方針が衝突しました。結局、中の人を気遣う職人のこだわりが勝り、頭は固定してないんです。
なのでいでうっかり頭がとれたりしてしまったんですが、その取れるところが意外と人気が出てて。結果良かったみたいです。」

――なんですかそれ(笑)。…他に大変のことはありますか?

「実は前、ウサヒって、目がくもりやすくて、ずっと活動限界が30分くらいだったんですよ。
それがある日、工学部の大学生にそれを見せたら、『ウチでラボで改造しましょうか』って言ってくれて、大学でウサヒを改造してもらいました。5000円で(笑)。
排熱ファンが付いたおかげで、ゆるキャラグランプリでの活動限界が30分から2時間に伸びたんですよ。」
コレは没になったアイデアメモ。物理的に無理です、工学部の大学生に諭されたそうです。
コレは没になったアイデアメモ。物理的に無理です、工学部の大学生に諭されたそうです。
――おおおお、それはすごい! それもまた弱さがあるから出来た関係ですね。

「結局、人に頼っていかないと地域おこしは出来ないってことを着ぐるみは僕に教えてくれました。背中のチャックすらひとりでは上げられませんから。
ゆるキャラサミットだって、本当にスタッフ頼りっぱなしでしたよ。」
なんと、『さまぁ~ず×さまぁ~ず』のパパと息子と、なにげに一緒に写真とってるウサヒさん…。レアですよこの写真。
なんと、『さまぁ~ず×さまぁ~ず』のパパと息子と、なにげに一緒に写真とってるウサヒさん…。レアですよこの写真。
「ウチはなんといってもアテンダントさんが良かったんです。」

――あれ何なんですか!? すごい可愛い女の子たちじゃないですか!

「大学時代のツチノコの劇団で一緒だった子と、学生さんを、スカウトしてやってもらいました。」
ウサヒが仕込んだアテンドの女子。か、かわいい! ちなみにアテンドに可愛い女の子のコスチュームはウサヒが配信しているweb漫画のキャラクター(「桃色ウサヒwebマンガプロジェクト」の衣装です。
ウサヒが仕込んだアテンドの女子。か、かわいい! ちなみにアテンドに可愛い女の子のコスチュームはウサヒが配信しているweb漫画のキャラクター(「桃色ウサヒwebマンガプロジェクト」の衣装です。
――やってて良かったですね、ツチノコの劇。

「はい、ツチノコを探してて良かった! 他にも若干20歳のウサヒの担当上司や、観光協会のお姉さん、ウサヒの宣伝用にと『オレオレ詐欺防止用のポケットティッシュ』を2000個も寄付してくれ団体や、オリジナルラベルを提供してくれるデザイナーさんがいたり。人と仕事がつながって、ウサヒがなんとかやっていけてます。」

――では、今後の展開は。

「そうですね、理想はウサヒ目安箱とか作って、もっといろんな意見を聞けるキャラクターになりたいですね。例えば恋の悩み相談があったら、中学校まで行って相談にのったり……。生協の白石さんみたいなのが理想です」

――確かに、くまもんは恋の相談にのってくれませんよね。でも、着ぐるみなのに、喋るんですか?

「あ、僕、町の人の前では、積極的に頭をとることにしてるんです。
ウサヒは町民と一緒に朝日町のコンテンツを作っています。あくまでも広報のためのツールという感じです。
町外のお客様に『ご当地キャラ』とか『ゆるキャラ』のとして接していますが、町民はウサヒと一緒にネタを考えるディレクターさんをやってもらっているんです。
町外の子どもと会う時は、絶対に頭をとらないようにしているけど、町内の子どもの前では適度に脱ぎます。だって子どもも、立派な町民ディレクターだから。
朝日町に住む人の特権として『ウサヒを自由に出来る権利』があるって感じですね。
ま、そのせいでスキーしようとか、川に潜ろう、風呂に入ろうというムチャぶりが出てくるんですけど(苦笑)」

――町外での『中の人』は、地域振興の研究者、町内ではウサヒでみんなのリクエストに答えるアクターな訳ですね。

「……まぁ、普段は、ただの雪かきが下手なあんちゃんですけどね。」
町民のアイディアで実現した、ウォータープルーフ版ウサヒ。
町民のアイディアで実現した、ウォータープルーフ版ウサヒ。
町内の酪農家を、取材した時のウサヒ(牛の世話)
隣町の酪農家を、取材した時のウサヒ(牛の世話)
――いつか時がきたら、ウサヒを卒業したいですか?

「時が来たら間違いなく卒業します。
地域振興の研究者としての人生が僕の一番大切な道なので。ウサヒの成功をきっかけに、別の地域おこしをがんばる人が現れたとき、地域のみんなが応援してくれるような雰囲気が出来たら、ウサヒの仕事は完了です。
実際、ウサヒ以外の非主流地域振興プロジェクトもいくつか進行していましね。そっちの成功にむけて力を入れます。」

――ウサヒがメジャーになったら、もう非主流ではなくなるのでは?

「なんかまかり間違って、今のゆるキャラ業界が崩壊して、ウサヒのほうが主流になってしまったら、ウサヒに対抗する研究を考えます。それは何故かっていうと、バランスというか、ひとつのやり方だけがすべてではないと思っているからです。」
――地域振興の答えはひとつじゃないと?

「いえ、地域振興の答えは『住む人の幸せ』というたった一つの答えしかありません。複数あるのはそこまでの道です。主流が大通りだとした、非主流は裏道です。もし、大通りが土砂崩れにあったとき、逃げ道ってやっぱり必要でしょ。
それに、ちょっとヘンテコな道のほうが楽しくゴールにたどり着けることだってあると思うんです。そんな道の開拓者であり続けたいと僕は思っています。」
佐藤さんに「佐藤さんって面白いですね」と言ったら、「たぶん町おこしをしながら見える景色が『桃源郷』だからですよ」と言われた。
日本に数千体いるゆるキャラの中身、彼らが何を考えているのか分からないなあと、思いながら眺めている。
でもそのうちの一体は、ツチノコ売ったり、町おこしに人生をかけたりしていた。思いも寄らなかった。こんな中の人がいるなんて。
圧倒的無個性ウサヒ、彼の表情は不思議で、見れば見るほど、混乱してくる。

朝日町の雪にまみれるウサヒ…。
朝日町の雪にまみれるウサヒ…。
コイツを可愛いと思うのは、何故だろう。よく分からない。
ただ、分かることはひとつ。
こんなキャラには、誰もかなわないよ、ということ……!

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