開店前の町の接骨院
きっかけは接骨院で
話は昨年末にさかのぼる。運動で痛めたヒザがなかなか治らないのでスポーツ接骨院と書いてあった治療院に入った。
接骨院に入るのもはじめてで、こういうところでは一体どんなことをされるのだろうと緊張していた。
するとうちはこういうものを使いますので、とものものしい機械が出てきた。
「NASAの機械なんですよ」
それが私とNASAとの出会いだった。
横たわるベッドにNASAがやってきた
NASAが目の前に現れた
まさかNASAが出てくるとは。
私の目の前に現れたNASAはピーヨロロロと妙な音を立てていた。
たしかにこれはNASAにちがいない。そう思わせる音だった。
動画をご覧になられる方はNASAの音をお聴きください
NASAが痛い
何なんだこれは。
接骨院のたにかわ院長に話を聞くと、これはアキュスコープといって、ケガで乱れた生体電流を正常にもどす装置なんだそうだ。
「ちょっとチクっとするかもしれませんよ」
そしてNASAの機械は私に電気を流した。痛かった。
どうしてNASAは、私のヒザをピリピリさせるのだろう。NASAはもっと大きなところでスペースシャトルを威勢よく飛ばしているものだと思っていた。小さな痛みにうっすら涙がにじんだ。
「ちょっとチクっとするかもしれませんよ」NASAが痛い
みんなNASAにあたっていたのか
状態はあまりかわらなかったがNASAが出てきたその事実に私は興奮した。
じいさんばあさんやスポーツやってる子供らがたくさんいる街の接骨院である。みんなNASAに電気流されていたのだ。
二度目の通院ではヒザの痛みがなくなった。月面着陸を見られなかった私は今、ヒザでNASAのすごさを実感した。
全治一ヶ月を2日で治したりするらしい。ベッカムカプセルとかああいう類のものだろうか。
もとは帰還兵の脳をなおす機器
このアキュスコープはもともと不調をきたした帰還兵の脳を治すものだったらしい。
そうだ、これぞNASAだ。NASAにはやっぱり兵士の脳を治していてほしい。おっさんのヒザを治してる場合ではない。
そしてケガにも効くというので二十年前だかに輸入されるようになったのだと。(なぜケガに効くのかは接骨院のサイトにまかせます)
[参考]たにかわスポーツ接骨院『アキュスコープ治療』
元々はこうやって脳を正常に戻す治療機器なんですよ
NASAっぽさが止まらない
「日本でも微弱電流を流す機器って出てるんですけど、体の電流を読みとれるのはこの機械だけです。
でもこれ、特許をとってないらしい。なんでかっていうと中に入ってるICチップが他で作れないから」
そうだ、いいぞNASA。NASAにはICチップがよく似合うぞ。
「その中には254種類のほ乳類の平均化された細胞のデータが入ってるんですよ。このデータが作れないからマネできないんですよ」
いいぞいいぞ。ノアの方舟っぽい逸話のミステリアスさもNASAならではじゃないか。
「そのデータね、昔ナチスが、アウシュビッツやってたでしょ。あそこの人体実験でとったデータだっていうんですよ。
それをNASAが持ってるらしいんですよ」
お、お、どうしたNASA。行きすぎじゃないか。あの凄惨な歴史か。あれがめぐりめぐって運動不足の私のヒザにくるか。いいのかNASA。
こんな器具を当てて治療をする
極秘組織がおれのヒザを治す
じゃあこれNASA自体が作ってるんですか?
「そうです。メイドインNASAです。
輸入してる代理店のほうで日本の電機メーカーさんに解析頼んだらしいんですよ、でも開けた瞬間に壊れた
って。極秘の感じになってるんですよ」
なんだそれはと思って検索してみると院長のブログがでてきた。そう、このたにかわさんが一人で突っ走ってる可能性も大いにある。
NASAだと言われればこれがNASAかと思ってしまう
消されるかもしれない
「ぼくはおもしろくてやってる感じですね。アキュスコープが大好きでね。まだまだすごい力があると思うんですよ。
たぶんNASA自身もよくわかってないんですよ
、この機械のすごさをね。」
NASAもわかってないと言うたにかわ院長とアキュスコープ。私たちどころかNASAさえも置いてけぼりの独走状態である。
「これ作ったのはレーダー探知機とか迎撃追撃ミサイル作った人。NASAにネブリンスキーっていうねチェコの人がいるんですよ。今行方不明中なんですけど
。」
しまった、私も消されるかもしれない。
今のNASAのイメージ。ヒザを治してくれる。
ネットで買えるNASAを探そう
しかしヒザである。あれだけの話のスケールでやってることはヒザなのだ。身近だ。急に興味がわいてきた。
NASAは他にどんなことをやっているのだろう。
たとえば楽天ショッピングでNASAと検索してみよう。出るわ出るわ、一体どれだけのNASAのものが買えてしまうのか。
ふとんの上をNASAの人が飛んでいる (※画像クリックで引用元『NASAアウトラストR合掛け布団』販売ページへ)
NASAは寝具を作りがち
楽天のNASA検索はとにかくこのアウトラストという素材が出てくる。とくに敷きパッドや枕などの寝具に多い。
NASAはこんなおふとん作ったりする組織だったのだろうか。
楽天でNASAを検索してたどりついたページ。宇宙飛行士どころか、もはや宇宙人がいる。 (※画像クリックで引用元『アウトラストひんやり敷きパッド&枕パッドセット』販売ページへ)
いっぱいいる…… (※画像クリックで引用元『アウトラストひんやり敷きパッド&枕パッドセット』販売ページへ)
NASAはいいふとんも作ってるのだなあ
アルミ蒸着シートもNASA
もう1つの勢力はスペース暖という素材。とにかくアイテム数が多い。
「NASAの為に開発された技術を転用したハイテク素材」とあってはっきりとは書いてないが、サバイバルキットの中に入ってる銀色のアルミ蒸着シートのことっぽい。
宇宙飛行士がカーテンの上を飛ぶ (※画像クリックで引用元『スペース暖断熱カーテン「ストップ温暖化」2枚組』販売ページへ)
宇宙飛行士がスリッパの上を飛ぶ (※画像クリックで引用元『スペース暖ポカポカルームシューズ』販売ページへ)
NASAにはもっと自分を大切にしてほしい
断熱シートでカーテン、スリッパ……そしてなんとペットマットまで。
NASAの尊厳よどこへ。そんなに尽くしていいのかNASAよ。その技術、もっと自分のために使っていいんだよ、NASA。
そして猫の上を。NASAよ! (※画像クリックで引用元『ワンニャン快適ホットマット』販売ページへ)
NASAは「ひんやり」か「ぽかぽか」
こうしたNASAを見ていくとひとつの傾向にきづく。寝具系に「ひんやり」と「ぽかぽか」のうたい文句が多いのだ。
NASAとはひんやりでありぽかぽかである。かと思えば「快適」の文字がおどる。温度に関しては、なんでもありの無敵の状態である。
NASAは私たちの目をひんやりさせてくれる (※画像クリックで引用元『サーモクールアイピロー』販売ページへ)
NASAのおじいちゃん力
ヒザを治したNASA、夏はひんやりしとけよ、冬はぽかぽかしとけよというNASA、こうしたNASAにひとつの傾向が見える。
そう、おじいちゃんっぽいのだ。
うすうすそう思っていたがこれを見た瞬間にこれだと思い当たった。NASAランドセルである。
テンパーフォーム素材を使用したNASAランドセル (※画像クリックで引用元『地球NASAランドセル』販売ページへ)
ランドセル作りに定評のあるNASA
NASAは自然食も好き
雑穀などの健康食品もNASAは好き。それらはたいてい、NASAが開発というよりは「NASAが認めた」という書き方をしている。
雑穀にはじまり、青い藻、果ては粘土(!)まで。おじいちゃんっぽいと書いたNASAだが、ここにきてぐっとおばあちゃんっぽくもなってきた。
NASAは藻に注目しがち (※画像クリックで引用元『ブルーグリーン アルジー500mg』販売ページへ)
自然食品に目がないNASA。中におじいちゃんが入っているんじゃないか。
NASAは除菌もしてくれる。「世界規模の認定」と商品よりも認定の形式に重きが置かれている (※画像クリックで引用元『ザ・モンスタースプレー500ml』販売ページへ)
その他のNASA
ネットには身近なNASAがたくさん見つかる。もちろんNASAっぽいNASAもたくさんある。
たとえばエアロビクスがNASAの運動プログラムだったのは有名な話である。
断熱塗料、スペースペン、パラセール、電気自動車、サングラス、自転車ヘルメット、形状記憶合金……
ちょっぴり意外なところではサイリュームもNASAである。
アイドルとNASAへの賛辞でサイリュウムを振っているのだ (※画像クリックで引用元『株式会社アルバート』サイリュウム紹介ページへ)
勉強机を照らしてくれるのもNASAじいちゃんのおかげ (※画像クリックで引用元『ジェントライト』紹介ページへ)
やっぱり中におじいちゃんが入ってる気がする
NASAの浄水器
そして検索でとにかくよく出てくるのが逆浸透膜の浄水器。一体何社あるんだというほどNASAの水が売られている。
ところでNASAの水で検索しているとすごいラーメン屋を見つけた。
こんなカジュアルなNASAは見たことない。
(
実際見た方のブログ)
古代中国料理の店にあったNASAの水
私たちのNASA観をうちくだくこの軽さ。こんなNASAがあったのかと驚いた。
場所は学芸大学駅から徒歩五分、海新山という店。どうやらテレビ番組の企画で「汚なうまい店」として紹介されたりもしているらしい。
中が見えず入りにくいことこの上ない
およそNASAらしくないみっしり具合
NASAの水のラーメン屋
狭くて決してきれいではない店内。しかしやたら貼り紙がしてある。肝心のウォータークーラーの貼り紙はどうなっているのだろう。
見ておどろいた。NASAじゃなくなっているではないか。
「イキイキ健康ライフは、おいしいお水から」なんと、NASAじゃないぞ
これがNASAなのか!
「NASAね。NASA、もうやめちゃったのよ、故障してその辺、水でばちゃばちゃになっちゃってね」
NASAの水はどうしたのかと聞くと、店のお母さんが教えてくれた。
「それで業者呼んで直してって言ったんだけどね、分からないっていうのよ。あたし頭きてね、もう自分でやるっていってNASA開けてみたのよ。
そしたら土管みたいなのがあってね。たぶんね、最初に設置した人が悪いのね。もう直しようがないからやめちゃった」
NASAよ。
月に行ったNASA、シャトルを打ち上げたNASA……おばちゃんが開けたら土管みたいなのが入ってたNASA。
NASAよ、これは本当にあなたなのだろうか。私はまだあなたを信じていいのか。
元NASA、現イキイキライフの水、うまい
NASAの水はうまかったらしい
NASAの水の味はどうだったのだろうか。
「NASAね、まあおいしいっていう話だったわよ。でも今使ってるのもおいしいわよ
大体、NASAは高いんだから。35万円とかいって、それでフィルターだけで毎年5万円も6万円もかかるのよ。それで故障ばっかりするんだからあたし頭きちゃって」
高いな、NASA。それはおばちゃんもいきどおるだろう。
ところで35万円も浄水器にかけてて一体どんなご飯出してるのだと思ったらこの店、メニューが3種類しかない。
コラーゲンラーメンと超コラーゲンラーメンとコラーゲン入り餃子である。おばちゃん、わるいけどそれ煮こごり方面に偏りすぎだ。
これがコラーゲンだと見せてくれたお母さん
健康食品入れすぎて高くなったラーメン
せっかくの機会なので超コラーゲンラーメンをたのんだ。
1,500円と高いが、これにはNASA(かつて使用した分ふくめ)価格だからしかたない。「うちは社長さんとかが食べる」とざっくりした客層をお母さんも言っていた。
テーブルの上には秋元康の推薦コメントがあり「もしかしたら、すごいラーメンかもしれない」と書いてあった。
そのとき直感が走った。(……そんなはっきりしたうまさじゃないのだろうな)と。
超コラーゲンラーメン。70%くらいはさっきのコラーゲンをとかしてスープに。
おじいちゃんが支持しそうなラーメン
これは熊笹の粉だ、カニの甲羅の粉末が入ってて……とお母さんが説明してくれる。能書き山盛りラーメンである。
食べてみると味はいい。そしてものすごく複雑だ。いろいろなものが入っている。入りすぎている。分からない。もはや味が分からない。いろんなもの入りすぎてラーメンではなく、薬膳スープに麺が入っているイメージだ。
油っこくもないので食べ進めても飽きが濃ず、滋味といえるラーメンかもしれない。
どうしてNASAがここにあったのかわかった気がした。このラーメン、おじいちゃんが喜びそうな感じなのだ。薄く味が行き届いていて栄養価が高い。
NASAはおじいちゃんっぽさに宿る。私の新たなNASA観が固まりつつあった。
「中高年層のコラーゲン不足は深刻だ」深刻だで終わる貼り紙も珍しい
スープも残さず飲め
「コラーゲンは脂じゃなくてタンパク質だから。全部スープ飲んだほうがいいのよ。
あたしもよく食べてるから病気もしないし、こう言ったらなんだけど、あたしいくつに見える?」
……。緊張が走り、思わず無言になってしまった。
「……72才になるのよ。社交ダンスだってやってるしね」
NASAよりもおばあさんに「あたしいくつに見える」と聞かれた動揺をかくしきれなかった。なんかびっくりしたよ、ああ、NASAよ。
取材協力
海新山
東京都目黒区五本木2-53-8
TEL 03-3719-7678
近くの親戚より遠くのNASA
私たちのヒザを治してくれるNASA。ぽかぽかにしてくれるNASA。ひんやりさせてくれるNASA。ランドセルを持ちやすくしてくれるNASA。高いがうまいのはNASAの水。
NASAよ、ありがとう。NASAに言うありがとうはおじいちゃんおばあちゃんに言うありがとうと同じような感覚だ。
親でもなければ子でもない。私たちを遠くから温かい目で見守ってくれているNASA。
今年のお盆は帰ります。NASAに言うことじゃなかったかもしれませんが。