で、ある時、たまたま、お客さんが他にいなかった時。
一緒に飲んでた友人Ｔさんが、店員さんと何やら話し込んでいた。
ぼやーっと見ていたら、
「ねえねえ、大塚さん、このお店、まだ、開店から閉店まで飲んだ人って、いないんだって！」
とのこと。
へ、へえ。
開店から閉店？ 11時開店の23時閉店だから、12時間かあ。12時間、飲めないかなあ。飲めるんじゃないかな？ と言ったら、
「じゃあ、やってみなよ、大塚さん！」
とＴさん。
Ｔさんはその場で、お店に取材交渉を始めた。おいおいおい、いやいやいや。いやいやいやいや。
そんなこんなで、12時間飲み、決行日は１月14日（月）となった。
そう、３連休の最終日、あの大雪が降った日……。
店の前で、放心しながら雪を見る。
とりあえずヘパリーゼは買ってきたぜ。飲んだぜ。
朝、空を見ながら、
「終わったな…」
と思った。
「えっ12時間飲むの？」「面白そう！」「楽しそうだねえ」「うん、遊びに行くよー」と約束してくれた人々は、みんな遠方に住んでいた。
パソコンをチェックする。天気図には雪だるましかいない。
朝、11時、近所に住んでるＴさんとは合流し、飲みはじめてはみたものの…。
激しく降る雪。
もう、横なぐり。
11時、まだお客さんはいなかった。ああ、素敵なメニュー。ありえない値段…。
揚げ物も、美味しいのよねえ。
ま、飲むか…。
とりあえず、ビールを飲む。
「あのさ、Ｔさん……。」
「なに。」
「来てくれる友だちに、近況を聞いて記事にするっていう、徹子の部屋方式の、ゲストをお迎えするスタイルを考えてたんだけど……。」
「ふむ」
「これさ、誰も来てくれないんじゃない？」
「そうかもね」
「何か話題ある？」
「そうね～……」
Ｔさんはゴソゴソと、新宿京王百貨店の、駅弁大会のチラシを取り出した。
「これ、眺めてたら、12時間くらい、あっというまだよ！」
「……そんなに間がもたないでしょ！？」
「えっ、結構、これ見てるとワンダーランドだよ！？」
駅弁大会のチラシ、好きですけどね。
「っていうかさＴさん、私、最近、節酒してるから、お酒に弱くなってるのよねえ」
「そのへんは自分で調節しなさいよ、ゆっくり飲むとか、強い酒は飲まないとかさあ」
「でも今日は……飲まないとやってられないかも……最初、ウーロンハイとウーロン茶を交互に飲むっていう方法を考えてたんだけど、もう今日はずっと飲んじゃう！ そして時間感覚をなくしちゃう！」
「まじか。大丈夫？」
「いや、昨日、緊張してよく眠れなかったから、既に倒れそう！」
「え、だめじゃん！」
ブブー。携帯のバイブが鳴った。最初に予定していたゲスト、ほそいあやさんから「電車が止まりました……」との連絡。
途中まで来てくれていたらしい。本当に申し訳ない。
ニギス若干し150円。シシャモみたいな魚。
合鴨パストラミ150円。おいしい加工肉。
ちくわ天130円。からっとあがっています。
かぶみそ110円。最近、かぶ、高騰してるのにこのお値段…。
あぶりシメサバ180円。じゅっと脂がのってて、ちょーうまい。
あげポテト130円。わざと不揃いに割ってある感じが、食感が面白くておいしい。
いっかい外に出てみる。雪、つもるばかり。すごい、今季初の天気ねえ。
しんしんと降る雪。
ああ。大昔に、山手線徒歩一周しながらライブ更新するって企画をやったことがあったけど……その時くらいに、つらいなあ、と思った。
終わりが見えない、恐ろしさ。
あの時、みんなには秘密にしてたけど、途中で右膝を痛めちゃったんだった。泣きながら歩いた。あの日は雨が降っていたなあ…。
ぼやーっとお酒を飲んでいると、ぱっと、見たことのあるシルエットが、店の中に入ってきた。アレッ！？
Ｔさんの友人が予告なしで来てくれた！ 彼はＡさん、30代の好青年。コートは雪まみれだ。嬉しい！
「いや～、どうしても立ち飲みしてから帰りたくってね。駅が帰り道だったしね。ハッハッハ。」
待望の初ゲストである。
乾杯して、話す。
「あのー、Ａさん」
「なんすか」
「前からナゾに思ってたんですけど」
「はい？」
「Ａさんってたまにイベントで、流暢な司会をやってるけど…」
「はいはい」
「あの……司会業ってどうやって覚えるの？」
「え？ いやあ、大学のサークルとかのイベントで、やってたりしたんですよ……『お前喋れるから司会ね』、みたいな感じで、適当に。イロイロやりましたけど…、あ、僕、神宮花火大会の１コーナーで司会したことありますよ。」
「ハア！？」
「アルバイトだったんですけど、なりゆきで。キャパ１万５千人ですよ！ だから結構でかい会場でも平気ですよ～！」
「えええええ～。」
……そんな過去が！ 人生いろいろだ。
お酒を飲んだから訊ける、普段とくに訊かない話。
そういう話がしたかった。ナイス。
彼は軽く飲んで、さっと帰って行った。ありがとうＡさん！ いい人だ！
この店の特殊メニュー、カレー。店員さんが、以前、カレー店に勤めていたから、だそう。
手でごりごり、おいもをつぶして作っていたポテサラ140円。うんまい！
あげにんにく150円。ミソと合います。
さばたつた150円。このお店は焼き物も美味しいの。
わかさぎ天150円。熱いうちに食べるぞ。
えび天150円。安い…よね。
ホタテ刺し150円。
この日は連休の最終日だったので少なかったけど、普段は刺身も多種あります。
ハムキャベツ150円。キャベツもうまい。
白菜キムチ。いい色。
さといもコロッケ。あっつあつをほっくほくで食べます。
そのあと、いろんな人から次々に、
「行けません、ごめんね」「また今度～」「すいません無理です～」
というメールが来て…。
しょうがないよ、しょうがないよね、と思いながら、6時間、私は「１時間１杯くらいのペース」で、だらだら飲んでいた。
店員さんも、お酒を作りながら、ニコニコと「これで何杯目なんですか～？」と訊いてくれた。
私も「６杯目です～」と、きちんと答えていた。
しかし、18時にやっと来てくれた面子は、ツワモノばかりだった。
友人、ＳさんとＬさんは、雪で遅延になっている電車を乗り継いできた、お酒大好きな人たち。
「わーやっとゲストがきたー」
「ひさしぶりー」
「ワーイワーイ」
合流の喜びもあり、テンションをあげて飲んでいった。
最初、「あの仕事、うまくいってよかったですね」「そうねそうね」なんて、世間話をしたのは覚えている。
しかし。
途中から記憶がない…。
とくに、最後の３時間の記憶が、ぶっとんでいる。
まったく、まったく、まったく、まーーーったく、覚えていない！
学生の頃、こういうのあったけど、大人になってからは初めてかもしれない。
Ｔさんによると、何かろくでもない話を、大声でしてたらしい……。
かろうじて覚えているのは、Ｌさん（女子）に、おっぱいさわられたことくらいか。いや私のムネなんて何がどうなってもいいんだけどさ。
Ｓさん、Lさん、私。後日確認したら、私だけじゃなく、SさんLさんも、記憶がぶっとんでいたそう。ひどいね！ ひどいね私たち！
私が泥酔してしまった後、Ｔさんと共通の友人が３人来たらしいのだが、とりあえず挨拶したことくらいしか、覚えてない。
申し訳ない…。
あと、わたくし、帰りが大変だったらしい。
・道ばたの雪だるまに、「ワーイ」と言いながら、タックルしようとした
・タクシーでおくってもらったらしいのだが、降りたとたん、雪道で転倒。雪の上にズボッと倒れ込んだらしい
・立ち上がらせようとしたら、「いいっ、ここで寝る！」と言ったらしい。「家に帰らなきゃ死ぬよ」と言われたら、「いいっ、ここで死ぬ！」と動かなかったらしい。
・なんとか歩かせて、アパートにぶっこんだそうです。
死ななくてヨカッタ…。
【飲酒リスト】
ビール/コーン茶割/コーン茶割/ヨーグルト割/コーン茶割/コーン茶割/トマト割/コーン茶割/ヨーグルト割/コーン茶割/バイスサワー/バイスサワー/コーン茶割 and more...
（コーン茶がほの甘くて、一番のお気に入りでした）
翌日は完全ダウンで動けなかった。
胃がやられ、オレンジジュースしか飲めず、迷惑かけた人に詫びのメールを入れつつ、ひとりシクシク泣いていた。情けない。
そしてもう、数日たっていますけど、お酒、まったく飲めません！
12時間……飲めたけど……。
後半が記憶になくて、レポートが出来ず、後悔してるってことは成功じゃないわけで。
深い反省の中、生きているわけで。
１日３食をツマミで過ごし、雪の中に倒れる。
そんな大人に、私はなりたくなかった。
（……でも楽しかった！ 多分！ うわー！）
取材協力（本当にすいませんでした）
「きど藤」
東京都杉並区高円寺北3-3-9 1F
https://twitter.com/kiddy0130
若きイケメン２人がやっている立ち飲み屋さん。やはり立ち飲みは、数時間でシュッと終わらせるのがカッコ良いと思います！
