スタンド黒板、こんなの
冒頭写真ですでに「ああ、あれね」とお分かりいただけたとは思うが、いまいちど見ておこう。
今回あらためて見てみたら繁華街はスタンド黒板だらけだった。
多いのはやはり飲食店
バーも
洋食系ではなく、和食系の飲食店も
馬刺しもスタンド黒板でアピール
ネイルサロンなど美容系も多い
こちらは美容院なのだが…
店長が意外なビジュアル。こういった手書きが街中にあふれている
記憶が確かならば、私が東京に出てきた15年前くらいにはまだそれほど街では見かけなかったように思うのだが、いまや繁華街では各店が立てているといってもいい。文字通り乱立状態だ。
屋内にも
小さいのもあるのか
手書きなので、うまいのもあればそうでもない味わい深いものもある。
こういった看板の書き方については「黒板ポップ」というジャンルがあり専門の業者がいたり指南本なども出ているようだが、下手でも堂々と平然と街に並んでいていいなと思う。
なにしろコンビニにもある。袋文字が書き慣れていてうまい
この店は日によってかなりいい味の看板が出るのだが、この日は普通だった
もっとおしゃれなものじゃなかったっけ?
しかし思い出して欲しい、こういったスタンド黒板って元々もっとおしゃれなものじゃなかったか。
黒板のメニューといえば以前はビストロやピッツェリアのような、ちょっとくだけた(でも実際日本ではそこそこシュッとしている)お店の前に立てかかっているイメージだったじゃないか。
こんなタッチとか
英語しか書いてなかったり
なにか黙らされるものがあったり
この手のお店では「本日のスペシャリテ」的なメニューを店員さんが黒板で持ってきたりもして「黒板、大活躍だなおい!」などと思いつつ、そのおしゃれ度の高さにふるえたものだ。
パブやバルのようなしゃれた立ち飲み屋もスタンド黒板のイメージがある。
スタンド黒板自体がもうかっこいい
お酒のメーカーが提供している風のも多い
アイリッシュパブもスタンド黒板
ビストロ(フランス)にピッツェリア(イタリア)にパブ(イギリス)にバル(スペイン)。
スタンド黒板はかつてはヨーロッパの風をびゅんびゅん感じるツールだったじゃないか。
きっかけはカフェブームか
そんな、憧れのヨーロッパのイメージだったスタンド黒板に、いまや“馬刺し”と書いてある。
これほどまでに急激に世の中に広まったのはいつだろう。ぱっと思いつくのはかのカフェブームか。
恵比寿の有名なカフェの看板(スタンドではなく1枚板だったが)
調べてみると第一次カフェブームといわれたのが2000年~2003年の頃らしい。「カフェごはん」という言葉が生まれたころだ。スターバックス的なコーヒーチェーンがいよいよ広まってきた頃でもある。
おしゃれなスタンド黒板はこの頃一般化したのではないか???
KAWAIくなりだした
勝手な推測ではあるが、カフェブームに乗じて、欧米風のクールな筆記体風一辺倒だったスタンド黒板に日本的なKAWAII要素が入りだしたように思う。
かわいい系のスタンド黒板
パンチを効かせるという展開も
こちらもその流れ
チョークアートといえば
写実タッチがかっこいいのがあった
業態を一切問わないスタンド看板ぶり
浸透、そして現在。確認した限り都内の繁華街においてはスタンド看板はもう完全に看板のいちジャンルとして行き届いていた。
多いのは外食店や美容系であるが、それ以上に気をはいていたのが整体やマッサージなどの治療院である。
こういったお店はビルの上階、しかも小さな部屋でやっていることが多いので人通りの多い場所で目立つスタンド黒板はもってこいなのだろう。
おしゃれなカフェからここまで来た
花屋さんのツリーのとなりにあって「はり」「光線機」である
この手の特におしゃれを狙っているのではない看板には共通点があった。チョークやパステルを使っていないのだ。
黒板ではあるが学校にあるようなあの黒板ではなく、ホワイトボードのブラック版のようなもの。マーカーでかけるタイプのスタンド黒板なのである。
チョークよりも消えにくく、かつ書き換えが楽。こういった商品の登場もあってさらにスタンド黒板は広まったのかもしれない。
ちなみにホワイトボードのスタンド看板も少しは見かけたが、圧倒的に黒いものが多かった。ボードとはいえ、根底の意識はやはり「黒板」なのだと思う。
ものすごくアピールしてくる
ポップな骨盤
ダンススクールに書店まで
人通りの目立つ場所でアピールしたいのは治療院だけではない。おれもおれもと名乗りを上げて、もはやノンジャンル、商売という商売がスタンド黒板を出している。
これがかつて一大旋風を巻き起こしたカフェ文化の現在なのだ(いい切ったぞー!)。
ベリーダンスも
書店も
ただの薬局じゃないぞ、調剤薬局だぞ
ブランド買取も
そして名刺、お前もか
飾る、貼る、黒板としては使わない
参入の幅が広がりに広がったことによって、看板の筆致もおしゃれだとかおしゃれじゃないという枠にはもはやとどまらなくなったのは先に述べたとおりだ。
さらにここまでくると筆致の枠を超えたものも現れ始めた。装飾である。
パッケージの箱を貼って立体化
何かを書くのではなく、とにかく貼る。そして周りには花を
黒板に紙に書いた紙を張ってシートでカバー
もはや板で覆う
さらに枠も塗るぞ。一気に黒板感が薄れた
もはや誰だったのかわからない
当初とは別の道を歩み出し、そして歩みきったともいえる現状である。
麺食がシルクロードを通って全世界に広まり、その間土地それぞれの麺文化を興し発展したがごとく、スタンド看板もさらに独自の道を歩みだすのかもしれない。
目を見張るシンプルという方向性も
ヨーロッパの風の正統な継承
ちなみに今回ヨーロッパの黒板文化を正統に継承しているのではと感じたスタンド黒板ががこちら。
気取らずこなれた書き味がかっこいい。
居酒屋さんの空席情報。ささっと必要なことが書いてあるあたりに正統さを感じた
こちらのお店で発見。かっこいい
そして樽
さて、そして樽だ。
いや突然なにをやという事態ですみません。今回の取材中、やけに樽を見かけたのだ。
日々生きていてそんなに見ないはずの樽をである。
樽だ
また樽
気が付いてみれば心当たりがある。樽を店頭に置いているビストロやパブって多くないか。
ビストロやパブといえば、そう、日本におけるスタンド黒板の起源とも言われるあの方々である。
そして樽
もはや日本社会に完全に浸透したスタンド黒板。変わって次に台頭してくるものがあるとすれば、それは樽であろう。
樽はいいすぎました
スタンド黒板はおしゃれである。今回、撮影前まではぼんやりまだそう思っていたが、完全に上書きされた。
スタンド黒板がおしゃれな時代はとうに終わっていたのだ。
ネクストカミングとしての樽は言い過ぎたかもしれないが、治療院やネイルサロンの前に樽が転がりまくる光景というのはそれはそれでぜひ見てみたい。
追記:イーゼルにメニューをのせる文化についても浸透完了していました