「シナボンがこわい」とは
今回のタイトルは「シナボンこわい」である。落語の「まんじゅうこわい」のようであるが、落語のようにあべこべの意味でいっているのではない。
シナボンは本当にこわい。
悪い意味での「こわい」ではないことは最初に断っておきたい。尊敬と憧憬の意味をこめての「こわい」だ。
簡単にいうと、おいしすぎて、いや、まだ食べたことはないので「おいしそうすぎて」こわいというのが正解か。
そのおそろしさはこの先徐々にお分かりいただけるはずだ。まずは再上陸1号であり現在(2012年12月)唯一の国内店舗である六本木店へ行ってみよう。
シアトルズベストコーヒーとのコラボ店舗だそう
シナボンを食べ損ねたゼロ年代
今回の再上陸以前、シナボンはいちど1999年に上陸した。当時のことはうろ覚えだが、そこからわーっと店舗も広がったのではなかったか。ブームが起きた。私にとってシナボンは憧れのスイーツだった。
しかし気づけばブームは終わり、最後の1店舗も2009年に閉店したのだ。閉店の際にニュースになったのを観て「ああっ!」と思った。「まだ食べてないのに!」と。
私は、こわがるあまりに憧れのシナボンを食べ損ねたのである。
あのコールドストーンクリーマリー日本1号店のはす向い
こわすぎて日本に根付かなかった?
実は前回の上陸があえなく撤退となった理由も、シナボンのおそろしさが原因ではないかというのはよく聞く話だ。
おいしすぎてこわい。つまりその、カロリー値をふりきった過剰なおいしさと甘さが詰まりに詰まったお菓子、それがシナボンであり、健康志向の日本人には向かなかったというのだ。
それでもシナボンは帰ってきてくれた。ありがとう! 両手を広げて迎えたい。
店頭には大きくシナボンのビジュアルが掲げられていた。おいしくないわけがないしかし重い食べ物であるから覚悟しなさいよというオーラが出まくっている。
覚悟はいいか
ミニじゃなくていいんですか、本当に
さて、この六本木店。ことし2012年11月15日の開店時には大行列ができたそうだ。私がたずねた11月の末にもまだ購入制限があったり夕方には売り切れたりと余波は続いているようだった。
混雑の情報は得ていたので腕まくりをしてこの日は平日の開店の8時にあわせて早々にやってきた。さすがにお客の波はまだだ。
並ばずすんなりシナボンとコーヒーを頼むことができた。
これが……これが、シナボン……
あこがれの……
シナボンにはレギュラーサイズのほかに「ミニボン」という小さめのサイズがある。人生初のシナボンとの対峙、ここは迷わずレギュラーサイズをオーダーだ。
しかし、店員さんはしきりにミニの間違いではないか確かめ、オーダーが通ったあとでもバックのスタッフさんが「え? レギュラーですか?(ミニじゃなくて?)」と聞き返していた。
サイズ見本も出ていた。右がミニ(見本はシナボンクラシックではなくさらにこわい「キャラメルピーカンボン」)
店に入ってすぐのシナモンのかおりに「お~アメリカっぽーい」などと思ったが、接客は盛りの良い学生街の定食屋のおかみさんが一見さんを心配するがごとくである。
それもそのはず、今回再上陸するにあたっては、日本では「ミニボン」の方を主力にすえる方向だそうだ。レギュラーサイズのシナボンを全面に押し出して撤退となった前回の轍をふまないという思いもあるのだろう。シナボンのおそろしさはもはやオフィシャルなものだといってもいい。
こわごわと一番外側から。アメかというぴかぴかさ加減
さてはこれ、パンじゃないな
さあこわいこわい、憧れのシナボンである。食べよう。
うん、甘い。
そして、ものすごく、うまい。……うまいぞ!
そうだ、おいしいのではない断じてこれは「うまい」だ。うまみがすごい。上にかかったアイシングや中のフロスティングの甘さとシナモンの風味はどストレートながら、思った以上に複雑な味がする。
かかっているのは“クリームチーズフロスティング”とあった。チーズの味が、主張はしないものポイントなのかもしれない。これは子どもには食べさせられないやつだ。大人の味だ。
一番外側からおそるおそる食べ始めたが、シナボンは中がすごいらしい。割りますかね。うん、割りますよ。
わっ!
さてはこれ、パンじゃないな。
シナモンロールといえば菓子パンの一種だと思っていたが、これはどう見てももうパンじゃないだろう。
だとしたらなんだろう。中はぐつぐつしていて種類でいったら煮物と言ってもいいくらいだ。
シナモンと砂糖が生地の限界を超えてじゅわじゅわ染みこんでいる。なんだこの食べ物としてのテンションの高さは。
そしてやはり畳み掛けるこのしっかりした甘さよ。ゆるふわな日本スイーツの甘さに平手打ちが軽やかに決まって痛い(歯が)。
とろとろに煮込んだ角煮かという
シナボン、としかいいようがない
パンではないし、もちろん角煮でもない。ではなにだろう。もはやシナモンロールでもないだろうこれは。
そうだこれはシナボンなのだ。シナボンでしかないのだ。「あの食べ物はすごいよ」と噂には聞いていたが、全くその通りだ。シナボンという名の、ほとんど文化だ。食べ物の理論としてはラーメン二郎と同じである。
こわがり旨がりながら、気づけば半分平らげた。いかん、メモを取らねばとそれまでの感想を書き付けるためにフォークを置いたそばからものすごい勢いで満腹感が押し寄せてきたではないか。
食べてみたら恐るるに足らずであったと書くつもりで来たが、食べてなおおそろしい。
裏かえしたら裏は裏でまたじゅわじゅわだった
積年のシナボンへの思いは果たした。想像通り、いや、想像を上回るおいしさとおそろしさであった。
事前にはシナボンにとりこになって毎日食べに来るようになっちゃったらどうしようと恐れてもいたのだが、このおいしさは私などにはもったいない。
「幸せすぎてこわい」なんてセリフは一生使わないと思っていたが今である。私こわいわ。走って帰ってお布団にもぐっちゃうくらいこわい。この幸せ、半年に1度くらいの頻度で十分だ。
こわさの根源はなにか
それにしても、このシナボンのおそろしさの根源はなんだろう。やはりカロリー値だろうか。
キャラメルやチョコバージョンもあります。畳み掛ける恐怖と喜び!
確かにシナボンのカロリーは大変に高い(数値は
米シナボンのサイトに公開されているのでご興味のある方はおそるおそる覗いてみてください)。
内勤の成人女性だったら2個で1日分のカロリーは軽々オーバーだ。さすがシナボン先輩、こわいぜ!
ただ、おそろしさはそれだけではない気がするのだ。ふつうのケーキやパンが高カロリーでも、静かに青くなるだけでここまでは騒がない。。
「no music no life」みたいなキャッチコピー
ふつうのシナモンロールってどんなのだっけ
シナボンはシナモンロール界のラーメン二郎である。つまり、異端な魅力なわけだ。
では普通のシナモンロールというとどういうものだったろうか。食べたことはあるがそんなになじみがない。
シナボンがああなってしまう以前のシナモンロール、普通のシナモンロールを確かめよう。そうすればシナボンのおそろしさの理由も分かるかもしれない。
日ごろ一番目にするシナモンロールといえば、スターバックスのものだろうか。
スターバックスのシナモンロールはこわいのか、否か。確かめよう。
シナボン先輩の家にはすごそうな飲み物もあった。いわゆる全方向である。
すっかり普通の存在、スタバ
さて、スターバックスだ。
おしゃれなコーヒー屋があるなあるなとは思っていたが、東京の繁華街やオフィス街ではいつのまにやらそこらじゅうにある存在になってしまった。
フタのついたコーヒーのカップを持って横断歩道を渡るなんて10年前にやったら「ニューヨーカーかよ!」と突っ込まれるような行為も今ではそこそこ普通である。
カップ持って歩いても誰にもひやかされないなんて
会社のものすごい近所にあるのをまったく知らず改めて浸透を実感した
シナボンは今のところ圧倒的に非日常だが、それに比べるとなんだこのうまい汁はと驚愕したキャラメルマキアートも夏場のフラペチーノのいまや日常の甘味なのだ。
甘味処スターバックス
日常の甘味処、スターバックス。飲み物も甘いが、食べ物も甘いものが充実している。これが魅力的で、以前はある意味「こわいわあ」とも思っていたが今ではすっかり慣れてしまった。
シナモンロールも日々普通に売っているのをみかけるが、手を出したことはなかった。
今日も普通にいらっしゃいました
スターバックスではメニューにひとつひとつカロリー表示がついている。包み隠さずに牙をむくという方針である。
カロリー的な意味ではどのメニューもなかなかにこわいが、シナモンロールは気を吐くこわさだ。ボリュームも思った以上である。
(カロリーのことを書くと野暮だとは思いながら調べたことを書くと、こちらのシナモンロールはつぼ八のステーキと同カロリー値であった。いいね!)
ふるえて買ってみよう。
絵のように美しいシナモンロール
上品でおとなしいシナモンロール
サイズはシナボンより2回りくらい小さいか。だが、背はすこし高い。
持つとどっしりまではいかないが、とっしり、くらいの重量があった。
マフィンのように型からはみだす感じで焼きあがっていてかわいい
見た目はころっとしていてかわいらしい。迫力のようなものもなく静かで上品だ。シナボンと比べると攻撃する意思のようなものを全く感じない。
なにかもう食品としての姿勢というか、前提が違うようにすら感じる。
裏側もこの平常心
シナボンと同じ種類の食べ物だとは思えない
分け入っても分け入ってもパン
スタバのシナモンロール、こわくない
私が下した判断でいうと、スターバックスのシナモンロールは平常心で普通においしい菓子パンであった。うまいうまいともぐもぐ食べ進んた。こわくはない。
重量感をとってもアイシングの甘さをとっても現実として掲示されていたカロリー値を考えてもハレかケかといったら、スタバのシナモンロールだって立派にハレであり、立派に恐怖なのだと思う。
しかし、終始驚かされるところもなく、食べながらおだやかな時間が過ぎるばかりであった。
平常心だが歯にしみるくらいは甘い(アイシングの部分)
こわいシナモンロールの条件
シナボンはこわいが、スターバックスはこわくない。ここで落ち着いて、シナモンロールのこわさについてまとめてみよう。
・カロリー値の高さ(ボリューム含む)
・異常ともいえるおいしさ
・テンションの高さ
・非日常性
・見た目の攻撃性
といったところか。この点を兼ね備えればシナボン級にこわいということになりそうだ。
噂によればディーン&デルーカ(上にかかったアイシングが半端ない量)やセブンイレブンのシナモンロール(アイシングのテクスチャがざらざらしていてアメリカン)も有名なようだが、そんななか見ておきたいのがあのアメリカ発のでかいスーパーマーケット、コストコのシナモンロールだ。
シナボンが不在だった間、ファンの間ではコストコのシナモンロールを代わりに食べるのが定番だったという情報もある。行ってみよう。
ぺろりと食べちゃったという意味ではスタバのシナモンロールのほうが怖いという説も
シナモンロールがない! が、こわい!
シナボンの代用品のようにも言われていたコストコのベーカリーコーナーのシナモンロール。なんと確認したところ私の買いに行ける範囲の2つの店舗では現在は取り扱いがないことが判明してしまった。
シナボンが再上陸したと思ったらコストコのシナモンロールが(近隣の店舗とはいえ)なくなっているとは。日本におけるシナモンロール枠は数が決まっているのか。
がっくり肩を落とす私だったが、せっかくなので日ごろコストコに行きつけている友人と一緒に行くだけいってみた。そこで友人が「これで代わりにならないかね」と選んでくれたのがマフィンだ。
物量感による圧倒的なおそろしさ
コストコというのは、大型の倉庫を店舗とした形態のスーパー。商品はまとめ売りが基本である。
シナモンロールも以前はこのマフィンのように箱にぎゅうぎゅうに詰めてセットで販売されていたそうだ。
おそろしさのポイントであるボリューム、非日常性、見た目の攻撃性などなどばっちり備わっている。こわい、こわいぞコストコよ。
良いこわさ出てる
テンションも半端じゃない
シナモンロールのこわさの要素のひとつとして「高いテンション」というものがあったが、コストコは商品ひとつひとつのテンションばかりでなく店全体でテンションが高い。
物の量はもちろん、何かにつけてのありえない色使いや試食の行列、でかいカートに平然と大量の商品を積み込み歩く人々などほとんど祭りである。
私などは今回はじめて行ってうっかり消火器の3本セットを買いそうになっていた。「コストコテンションに気をつけて!」と友人にいわれてはっとした。目をさませ、 狭い家に消火器3本いらんいらん!
iPhone比較。1個1個のでかさよ
異文化への畏怖
シナモンロールの穴を埋めるべくマフィンのほかにもピザも買った。これがまたとんでもなくでかい。見たことのないでかさである。
比べるために置いたiPhoneが小さすぎて見落としそう
このときにハッと気づいたのだが、シナボンやコストコへの恐怖というのは異文化への畏怖なのではないか。
バターたっぷり、砂糖たっぷり、シナモンたっぷりのシナボンはまさに異文化。でかすぎるピザも言わずもがなだ。
ひらたくいうと「カルチャーショック」である。
3ページ目まできてカルチャーショックて、とんでもなく当たり前のところへ着地してしまってあわあわしていてまたこわい。
撮った写真を見ていたら、ピザの1ピースが取り皿から笑えるほどはみだしていた
分ければ、ほら、こわくない
なんだか問題が着地してしまったのであとはもうでかいピザを食べた。大人7人と子ども3人が集まったが、ピザは食べても食べてもなくならなかった。うん。納得のこわさだ。
しかし明日の朝ごはんにまたピザを食べると思えばなにかわくわくするともいえる。シナボンもそうだ。こわくてわくわくするのだ。
コストコに行きなれている友人だが、買い物のあと大量買いした品物を仲間内で小分けにするのがまた楽しいのだという。
なるほど、小分けにして祭りの買い物から普通の買い物への脱皮させるのか。
例のマフィンにクッキーにチョコにブラウニーにと私も分けてもらった
食べるときも小さく切ると、こわくないぞ!
なるほど、小分けになってしまうとこわさはほとんど空中分解したように思う。
そう思うと、1個だけで十二分にこわさを体言するシナボンはやはりすごい。
「シナボンこわい」である。
コストコのマフィンはしゃれたお弁当にしてさらに怖さもへっただよ
そして食べ物全体への畏怖
書いているうちに突き詰めそもそも食べ物ってこわいよな、と思いあたった。生鮮食品は痛まないようにきりきり気持ちを払うし、保存食品も賞味期限に気を使う。食べもをの敬う飢餓の記憶が私にシナボンを恐れさせていたのか!(ちがうか?!)
それから今回はコストコ好きの友人宅へ行ったついでに庭の柿をとらせてもらった。これがコストコで売られている食料以上に大量でうれし笑いしながら、いたむ前になんとかせねばとおそろしい。ご近所にくばります。
本記事はシナボンをこわがっていたら最終的に大量の柿を得ていたというサクセスストーリーでもあります