電柱の近くにあるあの玉
正式名称は玉碍子(がいし)と呼ぶらしいアレ。 電柱の隣にあることが多い。
意識しないと見つからない。
アップで見ると、固い玉で二つのロープをつないでいることが分かる。
十代の半ばぐらいまで、これは白くて柔らかい玉にワイヤーが食い込んで いるものだと思っていた。おそらく理科の教科書で見たカエルの細胞分裂の影響もあるのだろう。
やわらかい玉食い込み物語
そんないつもワイヤーが食い込んでる玉にたいして、「うわーなんか大変そうだな」と思う気持ちと「でも触ったらムニムニしてて気持ちよさそうだな」という思いの間で揺れ動いていた。
絵本風にするとこんな感じだ。
あるところに白くてやわらかい玉がありました。
そこに2本のワイヤーがやってきて、
やわらかい玉はずっと引っ張られたままでした。おわり。
しかしそんな純粋な子供の想像とは裏腹に、 大人になるとあれは固いもので、食い込んでるように見える溝も元からあるものだということが分かってしまう。
ここでご本人登場。
そして実はそんなに丸くない、ということも買ってみたら分かった。
玉「これぐらいのワイヤー、余裕ッス」
さすがに路上にある本物を再現することは出来ないが、 それにしても玉はまったく大変そうでなく、触ったら気持ちよさそうでもない。
知れば知るほど、やわらかい玉の幻想が消えかけていく。
もちろん玉の性能としてそうあるべきなのは分かる。ただ子供の頃の気持ちもあっさり捨てたくはない。あの玉が、白くてやわらかくて本当に食い込んでるのを見てみたい。
ならば自分の想像に近い玉を自らの手で探してみるしかないのではないか。 食い込んであの形になる白い玉を。
そこでこんなの作りました。
シンデレラ方式で理想の玉探し
本物の玉碍子(がいし)より自分の理想に近い玉を探すため、 あのワイヤーで引っ張られてる状態を再現する道具を作った。
高低差のある木の穴にワイヤーを通してる単純な仕組み。
引っ張って食い込ませる。玉にとっては拷問器具かもしれない。
この引っ張られる玉の部分にいろんなやわらかそうな白い玉を試してみて、 最も良い感じに食い込む玉を探そうというもの。
王子がガラスの靴の持ち主を探すため、 多くの女性に靴を履かせたシンデレラのエピソードから着想を得た、とっても乙女な道具。
いきなり固い玉から始めるルール違反
最初に試す玉はこのスチロール球。
白くて丸いから。
ご存じの通り、白くて丸い、けど固い。たぶん食い込まない。
でもやっぱり白くて丸いから、という理由で買ってしまっていた。 がんばって引っ張ればボロボロになりながらも食い込んでくれるかもしれない。
電線というよりアドバルーンか。
はい予想通り食い込みませんでした。
もしも本物の玉に食い込み用の溝がなかったらバージョンと言えそうだ。
そして溝がないとすごく滑る。撮った写真はすべて玉が滑り落ちる直前に撮った物です。溝大事。
豆大福
弾力はないかもしれないが、やわらかさは期待できる。
なぜか神棚に飾る縁起物みたいに見えた。
モッチリした食い込みを見せる大福。
食い込んだときの状態がきれいに分割されてて、なるほどなかなか良いではないか。 おいしく食べられるのも魅力的だ。
だらしなく落ちていく大福。
ただ弾力がないのが命取り。しっかり食い込ませていても、 すぐにだら~と垂れてきてしまう。
もう引っ張りに耐えられなくなってしまった、やわらかい玉の老いた姿といったところだろうか。
マシュマロ
丸くないことを除けば、弾力も柔軟性も期待大。
あ、かわいそう。
あ、なんかかわいそう。
やめて!マシュマロをいじめないでっ!
思わずそう叫んでしまいそうな食い込み具合。 この気の毒な感じこそ玉に求めていた感覚である。
とはいえやっぱり丸くないのと小さすぎるのが物足りない。 理想の女性像はもうなんでもいいぐらいになってる私だが、やわらかい玉の理想は譲れないのだ。
ゆで卵
シンデレラ最有力。
この企画を考えたとき、まっさきにやわらかい白い玉候補として思いついたのがゆで卵だった。見た目、色、つや、弾力、どれを取っても本物のイメージに近い。
お店によっては玉碍子を玉子碍子と表記してるところもあるぐらいなので、 そうとう期待できる。
見た目はかなり良い。
食い込みに負けてないこの弾力。
かわいそうなだけではない、美しいフォルムを保った食い込み。
引っ張り続けられてつらそうなんだけど、それでも凛とした態度を崩さず耐え続ける卵。 これはかなり理想的なやわらかい白い玉である。
溝の跡が出来て、本物に近くなってた。
なんだか分からないボールが一番良い
卵はかなり良い。良いのだが、やっぱり食べ物だからという後ろめたさはある(いまさら!)。
そこでなんか白くてやわらかくてちょうど良さげなボールをトイザらスで見つけたので、 これを試したらすこぶる良かった。
ソフトテニスボールだそうです。そういうのと無縁なので知りませんでした。
おおこれはかなりものすごいアレだ。
食い込み具合がとてもちょうど良くてグッド。 ムニ~という音が聞こえてきそう。
聞こえてきた!
上から見るとよく分かる見事な食い込み。理想的なやわらかい玉。玉キングだ。
最終的に見つかったのがあまり知らないテニスのよく分からないボールというのは、 真犯人は宇宙人だったミステリーみたいな展開だが、知らない世界にはもっとふさわしい玉で溢れてるのかもしれない
NASAが開発した新素材とかで出来た玉とかすごそうだ。
絶滅の恐れがあるあの玉
玉碍子(がいし)を買ったお店の話によると、 いま玉碍子はあまり手に入らなくなってるらしい。
確かに道ばたで玉碍子を探してたときも、四角いタイプの物を多く見かけた。 これから徐々に玉碍子も見なくなってしまうのかもしれない。
そしてさらに時が経ち、四角いタイプも見かけなくなってきたとき、 ソフトテニスボールに代わるのかもしれない。