特集 2012年12月4日

魚を歯科検診

誰の歯でしょう?
誰の歯でしょう?
海に囲まれた日本。冬だろうと夏だろうと、魚屋に行くとその時季折々のおいしい魚がたくさん並んでいる。幸いである。
しかし、多くの人は多様な魚の食味を楽しむのに気を取られがちで、その造形の面白さに気付いていないかもしれない。
今日は普段わざわざ覗きこまないであろう魚たちの口の中、歯並びに注目してみよう。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

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魚を丸ごと買いましょう

僕は普段スーパーの鮮魚コーナーで魚を買うのだが、大抵の魚が切り身に加工されてしまっている。
とても便利でありがたいのだが、捌く前の魚を観察するのが好きな僕にとっては味気ない。
特に、今回は魚の歯を見たいので、頭が落とされていない丸のままの魚を買う必要がある。
困った時のアメ横。
困った時のアメ横。
というわけで東京上野はアメ屋横丁にやってきた。
色んな魚が姿のまま売られている。楽しい。
色んな魚が姿のまま売られている。楽しい。
アメ横は料理店からの買い付けも来るとあって、種類豊富な鮮魚たちが過剰な処理を施されることなく販売されている。
意外とマイナーな魚もいるので、生死にこだわらないようなら魚好きにとってはちょっとした水族館並みに楽しい。
今回はできるだけメジャーな、一般家庭の食卓に上るような魚ばかりをたくさん買って帰った。
さあ、魚の歯科検診の始まりだ
タイプ1:滑り止め型
まずは最もポピュラーな食用魚と思われるアジの口から覗いてみよう。
見慣れた魚体。
見慣れた魚体。
どんな歯並びなのか。
どんな歯並びなのか。
とりあず口を開いてみると…。
びよーん。
びよーん。
口が飛び出した!アジの口ってこんなギミックになっていたのだな。こういう発見も楽しい。肝心の歯はどうだろう。
地味…。
地味…。
拡大しないと分からないほど細かい歯が並んでいた。指の腹で撫でると少しだけ突起があるのが分かる。
おそらくこの魚は餌をかじったり咀嚼することなく丸飲みにするタイプなのだろう。
この貧相な歯はその際の滑り止め程度にしか機能していないに違いない。
このタイプの歯の持ち主は他にどんな魚があるのだろうか
メバル。これはスーパーで購入。
メバル。これはスーパーで購入。
メバルとして売られていた魚。ウスメバルだろうか?この辺はよく似た種類が多くてわからない。
触るとザラザラ
触るとザラザラ
アジ以上に体に対して細かい歯が無数に並んでいた。
これはスズキ。
これはスズキ。
やすりのよう。
やすりのよう。
スズキもサンドペーパーのようにザラザラした細かい歯を持っていた。
おそらく餌の小魚を吸いこんで食べる際に逃げられないようにこんな形になっているのだろう。
また、この手の歯の持ち主は大抵、アゴの力が弱いという共通点を持っている。物を噛む必要が無いからだろう。
なの釣り上げた際に口に指を入れて針をはずしても平気な場合が多い。
タイプ2:
噛みつき・捕獲型
さあ、地味な歯並びばかり見せられては退屈だろう。
ここからは多少エンターテインメント性のあるかっこいい歯並びを紹介していく。
柔らかい身が魅力のサワラ。
柔らかい身が魅力のサワラ。
サバの親分のようなこの魚はサワラ。スーパーでは切り身になっている場合がほとんどなので、どんな形の魚か知らない人も多いだろう。
一見すると大人しそう。
一見すると大人しそう。
静かな面差し。口は大きいが大人しそうに見える。
口を開けてみよう。
!!
!!
あっ、超怖い。
ぱっと見の外見にだまされた。これは完全にモンスターの顔だわ。
鋭く長い歯が綺麗に並んでいる。歯の形から察するに、これは餌の魚を噛みついて捕まえるタイプのようだ。
実は普段食べている魚の中には、意外とこの手の歯並びを持つものが多い。
干物がおいしいカマス。
干物がおいしいカマス。
貧弱そうなカマスも実は…。
架空の怪物の口みたい。
架空の怪物の口みたい。
やたら怖い歯並びをしている。歯というかもはや牙だ。舌を噛んだら痛そうだ。

そして牙を持った魚と言えばこいつは外せない。
タチウオ。
タチウオ。
獲れたてはピカピカの体がかっこいいタチウオである。
この魚もひょろひょろペラペラしていて貧弱そうだが口を開けると…
あー、やばい。
あー、やばい。
水中でこいつに追われる小魚はさぞ恐ろしいことだろう。
しかし、ここまで長い牙があると逆に餌が採りにくかったりしないのか。ファッション感覚で伸ばしているうちに収拾がつかなくなったのか。
でもここまで来るとちょっとかっこいいよね。
でもここまで来るとちょっとかっこいいよね。
このタイプの歯の持ち主は、その歯を突き立てて獲物をホールドするのでアゴの力がそれなりに強い。噛みつかれると流血は免れないので、生きているうちは安易に素手で掴まない方がいいだろう。
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タイプ3:
噛み切り型
噛みつき・捕獲型に似ているが、もっと凶悪なタイプもある。サメのように獲物の体をかじり取って食べる連中だ。
言うまでもないヤバさ。
言うまでもないヤバさ。
タチウオやサワラの歯が針の鋭さなら、こちらは刃物の鋭さ。顎の力はさらに強い。
普段食べている魚では、以外にもフグやカワハギがこれに類するニッパーのような歯を持つ。
フグはともかくせめてカワハギだけでも用意したかったが、今回は店頭に並んでおらず購入できなかった。
タイプ4:噛み砕き型
続いてはまた異なるベクトルで見るものを威圧する歯並びの魚を紹介したい。
見慣れたあの魚たちの歯である。
マダイ。タイミング良く頭だけ売られていた。
マダイ。タイミング良く頭だけ売られていた。
タイ。祝いの席に欠かせない、日本人にとって一番なじみの深い魚だ。
その姿はおろか、身の色から味わいまではっきりと想像できるあの魚である。
見慣れた顔。
見慣れた顔。
だが、その歯をまじまじと見た経験がある人は少ないだろう。
国民的高級魚は一体どんな歯を持っているのだろうか。
うわっ
うわっ
見ちゃいけないものを見た気分である。なんかえらいことになっている。
指を噛まれたら爪が砕けそう。
指を噛まれたら爪が砕けそう。
一本一本の歯が太い。しかも奥の方の歯は二列になって生えている。
歯の先は決して鋭くはない。しかしその鈍さがかえって恐ろしい。
これはエビやカニなど、固い殻をもった生き物を噛み砕いて食べるのに適した歯なのだろうと想像できる。
こっちはクロダイ
こっちはクロダイ
ついでと言っては何だが、立派なクロダイもいたので買ってきた。シルエットはマダイにそっくり。外見上の大きな違いと言えば体の色くらいのものなので歯並びも似たようなものだろう。
少し唇が薄いが、顔立ちもマダイに似ている。
少し唇が薄いが、顔立ちもマダイに似ている。
せっかくなので口をこじ開けてみる。
えっ…。
えっ…。
マダイ以上に大変なことになっている。怖いを通り越して気持ち悪い。
上顎
上顎
マダイの二列に並ぶ歯で驚いていたが、こっちはそんなもんじゃない。「列」どころか「面」にびっしりと歯が生えている。
下顎
下顎
人間の臼歯を思わせるような丸い歯が大量に並ぶ。
それもそのはず、クロダイは甲殻類どころか貝まで噛みつぶして食べてしまう悪食なのだ。
当然顎の力も異様に強い。
そういえば子どもの頃、「釣りをしていてクロダイが釣れても絶対素手で針を外すな。ペンチを使え。」と教わったことがある。これが理由か。
番外:歯無し
以上で魚の歯科検診はひとまず終了であるが、最後に歯らしい歯を持たない魚もいたことを付け加えておく。
サンマ
サンマ
秋の味覚サンマ。なんとなく、アジのように滑り止め型の歯を持っているのかなと予想して口を開けたのだが…
ツルッツル。
ツルッツル。
歯は見当たらなかった。これは勝手な推察だが、サンマは滑り止めの歯をあてがう必要もないほど小さなプランクトンなどを食べているのではないだろうかと思った。
舌平目。
舌平目。
顔が変だったのでなんとなく買ってみた舌平目。どんな顔かというと…。
ちょっと見ただけじゃ何がどうなっているか分からない顔。
ちょっと見ただけじゃ何がどうなっているか分からない顔。
こんな顔。
そもそもどこが口なんだ。
ここが口。
ここが口。
なんとか口を探し出してこじ開けて見たが、歯らしい歯は見当たらなかった。
近縁のヒラメにはとても鋭い牙のような歯があるので期待していたのだが…
まあ面白かったのでよしとしよう。

歯並びで食性がわかる

魚の歯科検診、地味ではあるがなかなかどうして面白かった。
何といっても、歯を見ることでその魚が何をどう食べているかを想像できるのが楽しいのだ。化石から恐竜の生態を暴く古生物学者になったような気分を手軽に味わえるのだから。
こんなに楽しいなら魚の歯を観察する趣味が確立されてもいいと思う。魚を食べる人も、熱帯魚を観察するのが好きな人もいるのだから。
魚の歯を磨いたのは初めてです。
魚の歯を磨いたのは初めてです。
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