特集 2012年11月20日

沼の妖怪「カムルチー」をつかみ捕れ!

かっこいい!
かっこいい!
沼やクリークに潜む「カムルチー」なる魚がおいしいと20年近く前に祖父に聞いた。
ずっと食べてみたいと思っていたが、スーパーで気軽に買えるような魚ではないのでその機会には恵まれずにいた。
このままでは口にしないまま一生を終えてしまいそうだ。思い切って自分で捕まえて食べることにした。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。

前の記事:シオマネキのハサミ。大きいのは右?左?

> 個人サイト 平坂寛のフィールドノート

捕獲方法:手づかみ

カムルチー。その名の響きからも察しが付くように元々日本にいた魚ではない。
中国大陸から持ち込まれた全長1メートル近くに成長する大型の肉食外来魚である。
近年はその数を減らしつつあるものの、未だに各地の湖沼や河川で繁殖し、日本に昔から棲んでいる小魚や小動物を食べてしまっているそうだ。
カムルチーが棲む沼
カムルチーが棲む沼
今回カムルチーを捕まえる沼にはタナゴやフナなど、在来の小魚が多く生息している。
しかし近年、カムルチーやブラックバス、さらにはブルーギルといった外来種が放流されてしまい日本古来の生態系が乱れ始めているという。
水面に乱立しているのは枯れたハスの葉。
水面に乱立しているのは枯れたハスの葉。
最近では積極的に駆除が進められているがなかなか功を奏してはいないようだ。
駆除を手伝う、などと偉そうなことを言うつもりは一切ないが、今日は僕も一匹連れて帰らせてもらうことにする。
網も釣竿も持たない。最も原始的かつ野生味あふれるな漁法、「手づかみ」で挑む。
網も釣竿も持たない。最も原始的かつ野生味あふれるな漁法、「手づかみ」で挑む。
ところで、カムルチーの捕獲方法としては釣りが一般的である。熱心な愛好家も存在するほどである。
しかしこの取材を行ったのは11月も半ばを過ぎた頃。寒さに強くないカムルチーたちはもはや半分冬眠しているような状態で、ほとんど餌を食べようとしない。
よって釣りで捕まえることはできない。

ならば寒さに凍えてじっとしているところを網で掬うという方法も考えられるが、これも却下。なぜなら僕はカムルチーのような大きな魚を掬える網を持っていないからだ。
じゃあもうワイルドに手づかみでいいか。だってその方が楽しそうだし。

なかなか見つからない

魚を驚かさないよう出来るだけそっと入水。
魚を驚かさないよう出来るだけそっと入水。
胴長を履いて静かに明け方の沼へと入り、カムルチーの姿を探す。
水面、というより水底に目を凝らす。
水面、というより水底に目を凝らす。
この沼は基本的に浅いのだが、ところどころ落とし穴のように深くなっている。この時期、カムルチーはそういう深場に潜っていると思われる。
しかし、せいぜい股下程度の深さでなければ魚影を見つけることは難しいし、見つけたとしても手が出せない。
思い切って水草の繁茂する岸辺のみに狙いを絞ることにした。
沼の中で藪こぎすることになるとは…。
沼の中で藪こぎすることになるとは…。
見つからない!
見つからない!
しかしなかなか姿を見せてくれないカムルチー。
二度ほど大きな魚影を見つけてドキリとしたが、いずれも大きなコイであった。
やはりカムルチーは深場にしかいないのか?

捕獲成功!

このまま見つからずに終わってしまうのか…?
そんな考えが脳裏をよぎったその時!
いた!
いた!
水底に大きな黒い魚が見えた。ウナギを極太かつ寸詰まりにしたような体型。
一瞬、初めて見るその魚体の正体がわからなかった。
屈み込んで数秒間目を凝らしてみて、やっとそれこそが追い求めていた魚だと気づいた。
「カムルチーだ!」
抜き足差し足。
抜き足差し足。
この一尾がおそらく最初で最後のチャンス。
はやる気持ちを抑えて逃げられないようそっと近づく。
心臓がバクバクとカムルチーに聞こえてしまいそうなくらい大きく音を立てている。

射程距離まで近づいてもカムルチーは逃げようとしない。
ヒレもエラも動かさない。まるで死んでいるようだ。
あるいは本当に寒さのあまり熟睡していたのかもしれない。僕だってこんなに寒い朝は布団で寝ていたいし。

さあ、いよいよつかみ捕るわけだが、どこを狙えば良いか。
細長くなめらかな胴体はヌルヌル滑ってつかめないだろう。
ならば狙いは骨格が硬く、口、エラ、眼窩など多少の起伏がある頭部のみ。
手応えあり!
手応えあり!
両手で思いっきり押さえ込むように掴む!エラに手を突っ込む勢いだ。
手の中で魚が暴れる!先程までの静かな姿からは想像もつかないパワーだ!
しかしこちらとて必死。決して逃がすものかと力を込める。
こいつが憎くも愛しきカムルチー!
こいつが憎くも愛しきカムルチー!
捕れたー!!これがカムルチー。ひょっとすると「雷魚(ライギョ)」という呼び名の方が一般的かもしれない。
しかしこれだけ大きな魚を手づかみなんて、改めて考えると結構すごいことやった気がするな。
魚類離れした頭部。
魚類離れした頭部。
大の男が思い切りつかんでも潰れなかった頭部。硬い骨と鱗でガチガチで、魚らしさに欠ける印象だ。
ちなみにこのカムルチーをはじめとするタイワンドジョウ科に分類される魚の英名は「スネークヘッド」という。うーん、確かにちょっとヘビっぽくもあるかな?
凶悪な牙!
凶悪な牙!
口を開けると鋭い歯が並ぶ。顎の力も相当強いので、噛み付かれたら流血は免れないだろう。
歯の鋭い川魚というとピラニアなど海外の魚が有名だが、日本の淡水域にもこんな牙を持っている魚がいるのだ。外来種だけどね…。

本当においしいのか!?

ついにカムルチーを食べられる。十数年越しの夢が叶う瞬間だ。
じいちゃんの言ったことは本当だろうか。
まな板の上でもド迫力。
まな板の上でもド迫力。
うーん。捕まえておいてこんなことお世辞にも美味しそうには見えないんだよなあ…。
でもお肉は綺麗。
でもお肉は綺麗。
半信半疑で捌いてみるとあらびっくり。すごくおいしそうな白身。これは期待できそうだ!
…皮はやっぱり真っ黒なんだけどね。
…皮はやっぱり真っ黒なんだけどね。
しかし皮はどす黒く、少々食欲を削ぐ。
川魚は皮に臭みが溜まることも多いので、剥いで調理すべきかと思ったが、今回はあえてそのままにしておいた。めんどくさかったので。

カムルチー、おいしい!

まず一品目はムニエル。
まず一品目はムニエル。
とりあえずシンプルなムニエルにしてみた。
まずは素材そのものの味をしっかりと見極め、他の料理に工夫を凝らそうという考えだ。
いただきます!
いただきます!
恐る恐るかぶりつくと…。
おっ!いけるいける!
おっ!いけるいける!
おいしい!ジューシーだけどさっぱりとしてクセが無く食べやすい。懸念していた臭みもないぞ。
「見た目の割にまずくはない」とか「まあ食べられる」とかいうものではない。
色眼鏡をかけずに判断して本当においしいのだ。じいちゃん、疑ってごめん。

それもそのはず。このカムルチーという魚、原産地では好んで食用にされ、養殖も行われているほどなのだ。
日本にやってきた経緯も実は食用目的だったのである。全然普及しなかったみたいだけど。
まあフライは間違いなくおいしいでしょ。
まあフライは間違いなくおいしいでしょ。
続いてフライも作ってみた。どんな魚も揚げてしまえばそれなりに食べられる味になるもの。
カムルチーならば間違いなくおいしいに決まっている。
もはや味に対する不安は無い。
もはや味に対する不安は無い。
今度は何のためらいも無く豪快にかぶりつく。
当然うまい。
当然うまい。
ムニエルにしてあれだけ美味しいんだから、まあフライにして不味いはずないよね。
冷めてしまう間もなくあっという間に完食。
蒲焼きも作ってみたが…。
蒲焼きも作ってみたが…。
この魚、どう料理してもおいしいんじゃないか?ということでウナギやアナゴのように細長い外見からインスピレーションを受けて蒲焼きにも挑戦。
まずくはないけど…
まずくはないけど…
あら?ちょっと期待はずれかも。
決して不味くはないけど、ムニエルやフライにはやや劣る味わい。
蒲焼きに向いている魚ではないようだ。
なんとなくだが、和風な味付けよりスパイスを利かせたエスニックな味付けの方がこの魚には合いそうな気がした。

絶対、絶対火を通そう!!

今回の取材で確かにカムルチーはおいしいことがわかった。自信を持って他人にお勧めできるくらいだ。夏場なら意外と簡単に釣れるそうだし、上野アメ横の鮮魚店で売られているのを目撃したと言う知人もいる。その気になれば手に入れられる魚なので、この記事を読んで興味を持った方はぜひ食べて見てほしい。
ただし、この魚には人体に害を及ぼす「有棘顎口虫」という危険な寄生虫がいる場合がある。他の淡水魚一般についても言えることだが、調理の際には必ずしっかりと火を通さなければならない。いくら身が綺麗でも刺身で食べてはいけないのだ。
魚が動けないくらい寒いってことは当然こっちも寒いんだよね。
魚が動けないくらい寒いってことは当然こっちも寒いんだよね。
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