特集 2012年12月12日

ぬるいチキンラーメンというメニューの謎

ぬるくなったチキンラーメンではなく、「ぬるいチキンラーメン」というメニューを食べてきました。
ぬるくなったチキンラーメンではなく、「ぬるいチキンラーメン」というメニューを食べてきました。
山形県の形を横顔に例えるなら、耳たぶあたりに位置する河北町というところの食堂に、「ぬるいチキンラーメン」というものがあるらしい。

お店の評価サイトや食べ歩きブログで、「ぬるいチキンラーメンが出てきた」と、食べた感想を書かれているという話ではなく、メニューの名前からして「ぬるいチキンラーメン」らしいのだ。

ラーメンといえば熱さが命なのに、わざわざぬるいラーメンを出している理由を確かめにいってきた。
趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

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きっかけは友人のTwitter

この「ぬるいチキンラーメン」という、「切れ味の悪いジャックナイフ」とか「ダイエット中のお相撲さん」みたいな、どうにも必然性の見えないメニューの存在を知ったのは、友人のTwitterへの投稿画像だった。
これがその画像だ。いろいろ突っ込みたいところが多い。
これがその画像だ。いろいろ突っ込みたいところが多い。
チキンラーメンの選択肢が、「ぬるい」と「つめたい」の二種類。そこは「あたたかい」と「つめたい」じゃダメだったのだろうか。ぬるいって。

「ぬるい」を宣言するラーメンなんて初めてだ。猫舌御用達の店なのだろうか。しかもチキンラーメンって、まさかあの日清のチキンラーメンのことか。いやそれはないか。

そしてこのメニューをよく見てみると、ラーメンに「もち入り」と「もちなし」という選択肢があり、さらに「ちからラーメン」というのが別にある。いろいろとわからないことばかりなので、とりあえずこの店にいってみることにした。

餅がメインの店だった

この旅のきっかけとなった写真をアップした友人夫妻と一緒にやってきたのは、山形県河北町にある、お食事処 葵。

友人の話だと、ここはつきたての餅がメインの店だそうで、山形には餅とそばの店とか、餅とラーメンの店とかが結構あるらしい。そういえば私が通っていた山形の大学の目の前にも、餅とコーヒーの店というのがあった気がする。
お食事処 葵。餅がなくなると営業終了となるらしいです。
お食事処 葵。餅がなくなると営業終了となるらしいです。
ちなみにこの友人夫妻は例のぬるいチキンラーメンは注文したことはなく、また注文した人を見たこともないそうだ。

まあ、餅がメインの店で、わざわざぬるいラーメンを食べようとは思わないか。
入口でも当然の餅押しだ。
入口でも当然の餅押しだ。
店内はちょっと広めのこぎれいな食堂という感じで、とりあえず清原和博と阿部慎之助の手ぬぐいから、店主が巨人ファンであるということがうかがい知れる。

この雰囲気だと、特に奇をてらってぬるいチキンラーメンを出すような店ではなさそうだ。そんな店だけに、なんだかそれを注文することがドキドキしてしまう。

よそ者が触れてはいけない食文化、あるいはなにかの暗号だったらどうしよう。図書室で下巻しかない推理小説を探しに行くような気分である。
地方によくあるタイプの食堂ですね。
地方によくあるタイプの食堂ですね。

ぬるいチキンラーメンを頼むまでの葛藤

案内された席に座ってテーブルにあったメニュー表を見ると、その上半分は餅が占めていた。お食事処と名乗りつつ、ごはん類は一切ない。なるほど、事前の情報通り餅がメインの店らしい。しかも納豆餅が基本のようだ。

特盛の納豆餅が43個で1,500円か。高いのか安いのかまったくわからないが、勢いで注文したら3人でも量が多すぎて後悔することは間違いなさそうだ。
餅、ラーメン、そばという、あまり見ない組み合わせの店。
餅、ラーメン、そばという、あまり見ない組み合わせの店。
そしてメニューの右下に書かれているのが、お目当てのラーメンの欄だ。

まず「ラーメン」と「冷たいラーメン」があり、それぞれに餅入りと餅なしが用意されている。餅なしの値段が書かれていないということは、もちが入っていても同じ値段ということなのだろうか。気になるが今日解くべき謎はこれじゃない。

そしてその隣に書かれているのが、お目当ての「チキンラーメン」の「ぬるい」と「冷たい」だ。これには餅は入らないらしい。そしておろし肉中華は「冷たい」と「あつい」で、「ぬるい」の存在を否定している。ああ、この店のルールが読み取れなくてモヤモヤする。

「もち入りのラーメン」と「ちからラーメン」の違いについては、次回にでも考察したいと思う。
「もち入りのラーメン」と「ちからラーメン」の違いについては、次回にでも考察したいと思う。
もちろん私の注文は、入店前から「ぬるいチキンラーメン」の一択に決まっている。

その存在を確かめるためにはるばるここまでやってきたのだが、こうやって実際にメニューを見てみると、「ぬるいチキンラーメン」というが、ちっとも注文しようという気にならない。

日本人は松、竹、梅とか、特上、上、並のように、値段に3種類の選択肢があると、その真ん中を選びがちだとよく言われるが、食べ物の温度に関しては、熱い、ぬるい、冷たいとあって、ぬるいを選ぶ人は少ない。だから自動販売機にも「ぬるい」はないのだ。

うーん、ぬるいのかー。チキンラーメンがぬるいんだよなー。熱いラーメンにもちが入ったラーメンのほうが、やっぱりおいしそうだよなー。なんて迷いつつも、初志貫徹ということで、ぬるいチキンラーメンを注文。記事にする気がなかったら頼まなかったと思う。せっかくなので150円プラスして納豆餅をセットにした。

注文するときに、「この人がぬるいチキンラーメンなんて…」と店員さんに笑われないかとちょっと心配だったのだが、「はい、ぬるいチキンラーメンですね!」と、注文されてちょっとうれしそうな感じで応じてくれた。「よくぞ頼んでくれました!」みたいな表情をされたような気さえもする。

同行の友人達は、それぞれ「おろし肉中華(あつい)」と「肉そば」を注文したのだが、この二つもメニューの名前と実際の料理が、なかなかイメージと違うのだった。

納豆もちがうまい

まずやってきたのは、セットで頼んだ納豆餅だ。ラーメンとライスを頼んでライスだけ先に来ても困るけれど、ラーメンと餅なら餅が先でも問題なしだ。

それにしても、お店で餅を食べるのなんて何年振りだろう。山形に住んでいた学生時代以来かもしれない。

山形県民はうどんやそうめんを納豆の入っためんつゆで食べたりするが、新米のつきたて餅も、納豆との相性もまた素晴らしい。箸でつまむとフニャーっと伸びて、歯で噛むとネチョーっと優しく受け止めてくれる柔らかい餅。

餅、久しぶりに食べるとおいしいな。うん、おいしい。山形まできてよかった。

これが山形の納豆餅。店名が葵だけに、どことなく御紋っぽい盛り付けだ。
これが山形の納豆餅。店名が葵だけに、どことなく御紋っぽい盛り付けだ。
この店には「もち大食い番付表」というのが張られていたのだが、それによると120個も食べた人がいるらしい。

たくさん食べるのには、噛むのではなく飲むのがコツだそうで、山形の一部の人の間では、カレーよりも餅こそが飲み物のようだ。
普通の人は15個くらいで満腹になると思います。
普通の人は15個くらいで満腹になると思います。

これがぬるいチキンラーメンだ

納豆餅のうまさに感動していると、ほどなくしてぬるいチキンラーメンが運ばれてきた。そうだ、本命はこっちだった。

運んできたおばちゃんの手つきを見ると、丼はそこそこ熱そうだが、果たして本当にぬるいのだろうか。
これがぬるいチキンラーメンか。
これがぬるいチキンラーメンか。
やってきたぬるいチキンラーメンを見る限り、日清のチキンラーメンを、ガス代節約のために沸騰前のお湯でつくった貧乏学生の昼飯みたいなメニューではないようだ。

正面から写真を撮ろうと持ったどんぶりはけっこう熱い。よくみるとスープから湯気も少しは出ている。ぬるいラーメンということで、家族で最後に入るお風呂くらいのイメージだったのだが、そこまでぬるいということではないようだ。
写真には写っていないけれど、ほんのり湯気も立っている。
写真には写っていないけれど、ほんのり湯気も立っている。
見た目から判断すると、脂っぽさのまったくない、さっぱりとしたラーメンのようだ。

私は猫舌というほどでもないが、口の中を火傷はしたくないので、だいたいのラーメンはまずフーフーしてから食べる。しかし、これはぬるいを売りにしているラーメンということで、ノーガードで一気にすすってみることにした。
ぬるいというか、熱々ではないラーメンという感じかな。
ぬるいというか、熱々ではないラーメンという感じかな。
ぬるいチキンラーメンは、スープからうっすら湯気が出ているだけあって、そこそこ熱い。出前で頼んだラーメンくらいの温度というところだろうか。

前に猫舌の人が、ラーメンにいきなり水を入れて食べているのを見たことがあるが、これならそんな必要は当然ない。この温度ならフーフーも水もいらない。よって夫婦二人きりでくるといいかもしれない。フーフー水いらず。

そして特徴的なのが、麺の腰である。時間が経ってぬるくなったラーメンと違って、出来立ての段階でぬるいだけあって、細い縮れ麺にシャキっとした腰があるのだ。そして麺に不要なぬめりがない。

これは温度の好みによるところが大きいかもしれないが、私はおいしいと思う。マイナスになりがちなぬるいというファクターが、出来立てのラーメンをすきっ腹の状態で冷めるのを待たずに食べられるという、プラスの要素となっている。

この味を例えると、日清のチキンラーメンをすべて手作業で丁寧に作ったような味とでもいうべきだろうか。この二つはチキンラーメン同士、根本的には近い部分があるような気がする。
チキンラーメンというだけあって、具はチャーシューでなく鶏肉。しかもこの歯ごたえは親鳥だな。
チキンラーメンというだけあって、具はチャーシューでなく鶏肉。しかもこの歯ごたえは親鳥だな。
試しにと友人が頼んだ「おろし肉中華」のあついバージョンを一口食べさせてもらったのだが、冷たい大根おろしが乗っているとはいえ、やはりノーガードですすったら熱くてむせた。

「ラーメンはこうでなきゃ!」と、ちょっと思った。
おろし肉中華。チキンラーメンよりも和風寄りな味付けなのかな。
おろし肉中華。チキンラーメンよりも和風寄りな味付けなのかな。
あふぃい。
あふぃい。
ちなみにもう一人が頼んだ肉そばは、鶏の親鳥を煮込んだ冷たい和風だしに、腰のある冷たいそばを入れたもので、このあたりではちょっとしたブームになっているメニューである。大変おいしい。正直、これが一番好きだ。
これは麺もスープも冷たい。ガチガチに固い親鳥がうまいんだ。
これは麺もスープも冷たい。ガチガチに固い親鳥がうまいんだ。

チキンラーメンがぬるい訳

ぬるいチキンラーメンは実在し、それは出来立てなのにちょっとだけぬるく、そして麺が決して伸びていない、ミステリアスな食べ物だった。

そんなラーメンの謎を解くべく、ストレートに店員さんに話を聞いてみた。
食べてもわからないことは、作った人に聞くと早い。
食べてもわからないことは、作った人に聞くと早い。
「このメニューは20年以上前からあるんですが、チキンラーメンを出すってなったとき、まず最初のメニューがぬるいチキンラーメンだったんです。 熱いも冷たいもなくて、まずはぬるい。普通ラーメンっていうのは熱いものだと勘違いされてしまうので、最初から『ぬるいチキンラーメン』って書いて出していました。」

「そんなに歴史のある食べ物だったんですか。その上で、スタートからぬるかったと。」

「なんでかっていうと、うちのチキンラーメンを食べた時に、ぬるいのが一番おいしいんです。そもそも私たちが意図するチキンラーメンのスープの味が一番出るのが、ぬるいチキンラーメンなの!」

「確かに脂っこいスープがぬるかったら台無しだけど、あのさっぱりとしたスープなら、熱々よりも、ちょっとだけぬるいくらいがおいしいかもしれないですね。あの温度ってどうやって出すのですか?」

「茹でた麺を水で洗うんです。それを熱いスープと合わせた温度が、私たちが本来意図するおいしいチキンラーメンなんです。ところが店で出していくうちに、熱いのも食べたい、冷たいのも食べたいという要望にあわせて、熱いのもあり、冷たいのもありっていう風になったんです。」

「え、熱いチキンラーメンも存在するんですか!」

「今日は土日祭日のメニューになっているので熱いメニューが載っていないんですけれど、平日のメニューには、熱いのもあるんです。ちょっとスープの作り方が熱いのは違って、ひと手間かけないとできないんですよ。」

ぬるいのにコシを感じる麺の謎は、麺を一度冷たい水で洗っているからだったのか。麺にぬめりがない理由もわかった。茹でた麺を洗うというのは、うどんやそば、つけ麺などでもやるけれど、それをそのまま熱いスープに入れて、全体をぬるくするというところが斬新だ。

それによって、熱さにごまかされることなくスープの味を楽しめるし、普通は伸びて味が変わっていってしまう細い縮れ麺も、食べ終えるまでおいしいままだ。

謎はすべて解けた。明確な思想があった上での、ぬるいチキンラーメンだったのだ。

そしてここが一番肝心なところだったのだが、店主が猫舌なのかどうかを聞くのを忘れてしまった。

猫舌の人はぜひ行ってみるといいと思います

出来立てのラーメンを一気にすすってみたかったという猫舌の人は、この店のぬるいチキンラーメンを食べるといいのではないだろうか。ここならズズズっとすするのにちょうどいい温度で、一口目を食べることができると思う。

あと餅好きの人にも、肉そば好きの人にも、おすすめのいい店でした。
完全に冷めたスープでも、おいしく飲める味なのです。
完全に冷めたスープでも、おいしく飲める味なのです。

お食事処 葵
住所/山形県河北町谷地字月山堂372-2
電話番号/0237-73-2892
営業時間/11:00~19:00
定休日/火曜日
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