創業明治17年の老舗、蛇善の主人といくヘビ狩りツアー
ヘビ狩りの集合場所は、浅草橋にある創業明治17年という老舗の蛇善。
蛇善はその名の通り、マムシの蒸焼きなどを自社で加工販売している健康食品のお店で、ここの社長の浅見さんと有志(どんな志だ)が行くヘビ狩りツアーに誘われたのだ。
浅見さんは仕入れのために自らヘビを捕まえるヘビのプロ。まさに蛇の道は蛇ということで、今回は社長の指導に従って、危険のない範囲でのヘビ狩りを楽しもうと思う。
蛇と善という文字が並ぶのは、日本でもここくらいだろう。
総勢7人でのヘビ狩り。山ガール風の女性が混ざっているが、今日はヘビ狩ーるなのだよ。
ぱっと見た感じは中華料理屋のメニュー風だが、ちゃんと読むとクラっとするラインナップ。
そしてショーケースには生きたシマヘビ。もちろん食用だ。
ちなみに私は小学生くらいの頃、長野の田舎にいくたびに素手でヘビを捕まえていた覚えがある。
ヘビに対して嫌悪感は持っていないが、あの頃からすでに何十年も経っている。今でも躊躇なくヘビを捕まえることができるだろうか。
浅見さんがダイヤモンド☆ユカイさんに似ている
ヘビを求めてやってきたのは、蛇善から車で1時間ほど移動したところにある、関東某所のどこにでもよくある普通の田舎町。いわゆる里山と呼ばれる、人の手が入った低い山に囲まれた場所だ。
ヘビ狩りの格好については、長袖、長ズボン、長靴の3長セットに加えて、軍手の着用が安全面から指定されている。浅見さんは長髪なので4長だ。
私は武器もなしに毒のあるマムシと対峙する度胸はないので、釣竿を支える棒を持ってきて自慢したのだが、みんなから「その隙間から逃げるだろ!」と突っ込まれた。使ってみて、自分でもそうだなと思った。でも杖としては便利だったからいいんだ。
こうやって捕まえるつもりなのだが、相当太くないとこの棒の先の隙間から逃げるよな。
ヘビ狩りのプロである浅見さんは、ギザギザした専用のヘビハサミを使用。ヘビのおもちゃはIKEAで買ってきた。
浅見さんの話だと、ヘビ狩りのシーズンは基本的に10月いっぱいくらいなので、11月上旬となった取材日は、1匹でも顔を見られれば御の字という感じらしい。
ヘビ狩りの本命はもちろんマムシだが、マムシに噛まれるとリンパ腺に毒が回り、男性の場合は蕎麦屋の玄関先に置かれた信楽焼きのタヌキのように体の一部が腫れてしまうという話を聞いたばかりなので、ヘビには出てきてほしいが、マムシは勘弁という気持ちである。でもせっかくだから、やっぱりマムシも見てみたいんだよね。
こちらが蛇善の社長、浅見さん。まだマムシに噛まれたことはないそうです。
ところで蛇善の社長である浅見さんだが、しゃべり方といい、雰囲気といい、ロックシンガーのダイヤモンド☆ユカイさんに似ている。
ダイヤモンド☆ユカイさんが、蛇柄のブーツでロックを歌う人生ではなく、代々続く蛇屋に生まれていたらこうなるんだろうなという感じの人なのだ。よってこの記事を読んでいる人は、浅見さんのセリフは脳内でユカイさん風に再生してほしい。
「じゃあさ、まずはあそこから攻めようか。本当は春にいい場所なんだけどね!」
※ダイヤモンド☆ユカイさんの「☆」は、六芒星が正しい表記らしいです。
レッツゴー、ヘビ狩り!
これがプロのヘビ狩りだ
最初にやってきたのは、ほぼ垂直にそそり立つコンクリートの壁。この壁のところどころに空いている穴にヘビが潜んでいることがよくあるそうだ。
ヘビ狩りで一番危険度が高いのは、毒があって攻撃的なマムシなのだが、こういった急な坂は上れないので、ここでの狙いは比較的安全なシマヘビやアオダイショウ。浅見さんの我々に対する気遣いが感じられる。
とかいって、足元にマムシがいない保証はどこにもないのだが。
「こういう穴がさ、ヘビのいいねぐらになっているんだよ!」
恐る恐るのぞくと、そこにはカエルが鎮座していた。
ヘビ狩りというのは、広範囲に歩き回って偶然の出会いで探していくものだと思ったら、プロの探し方はそうではなくて、実績のある場所をピンポイントでチェックして、気配がなければすぐに車で移動をするという、ラン&ガン方式。
その探す場所も、季節や時間帯、狙うヘビの種類によってすべて違うそうで、浅見さんの頭に入っているヘビマップをもとに、次々と場所を変えて効率的に探していく。これがプロのヘビ狩りか。
「こういうさ、道路と草のキワに結構いるんだよ」
「こっち側の斜面は午前中に太陽が当たるから、よくヘビが日光浴をしに出てくるんだよね」
いきなりマムシらしきヘビ発見!
太陽が出てだんだんと気温も上がってきて、私も暑くなってダウンを脱皮したところで、先頭を歩いていた浅見さんが「ほら、あそこにいた!」と声を上げた。
どうやら待望の本日初ヘビを発見したようだ。
ええと、どこ?
素人目にはどこにいるのか一瞬わからなかったのだが、よく見ると小型のヘビが壁の穴から出て日向ぼっこをしている。
しかも、この柄はマムシじゃないか。こういうところにはマムシはいないっていっていたのに!
この独特の模様、マムシだー!
浅見さんは「写真撮れた?OK?」と我々に確認した後、ヘビを鋭く睨みながら中腰で身構えた。
ここから意外な行動に出た。
そして構えたと思ったら、まさかの手づかみでマムシを悠々キャッチ。えー。
「これはね、マムシじゃなくてアオダイショウという無毒のヘビ。小さいアオダイショウは、マムシに擬態しているんだよね。」
よかった、マムシじゃなかったのか。
「とりあえず1匹いたね!」
シマヘビを見つけた!
もう11月ということで期待薄だったのだが、実際にヘビがまだ活動しているのを見て、俄然やる気が出てきた。
すると私の目も子供の頃にヘビを見つけまくった時のサーチ機能が復活してきたようで、アオダイショウを捕まえたすぐ近くで、ツタに絡まったシマシマのヘビを発見!シマヘビだ!
明らかにマムシではないのだが、自分で捕る積極性はまだ復活していないので、浅見さんをすぐに呼ぶ。
真ん中にヘビがいるのがわかるかな。それにしても、俺よくこれを見つけたな。
「こんなのよく見つけたね!」と褒めてくれた浅見さんは、ちょっと素手では届かないからと、私の棒を使って、見事にシマヘビをキャッチ。
わざわざ持ってきた棒が役に立ってとてもうれしい。財布の中に入れてある絆創膏の出番が来たときくらいうれしい。
「この棒、なかなかいいよ!」
「こいつ、健康状態が最高だよ。飼うには一番いい大きさだね!」
このシマヘビというのは無毒で、もし素肌を噛まれたとしても、浅見さん曰く、「痛くはないんだけれど、イラッとするんだ。イラっと。」という程度らしい。
それにしても、やっぱりダイヤモンド☆ユカイさんに雰囲気が似ている。ユカイさんに会ったことはないのだけど。あと似ているといっているのはこのメンバーで私だけなので、私の間違った思い込みかもしれないことを記しておく。
ヘビってかわいいですね
シマヘビだったら肌を露出していなければ素人でも大丈夫ということで、我々も触らしていただいたのだが、これが意外なことに、全員がヘビをかわいいと感じてしまったのだ。
久しぶりに触るヘビはちょっとひんやりしていて、しなやかな本物の蛇皮は特別な高級感を感じさせる。そして、どんな蛇型ロボットよりもスムーズに動く体中の関節がかっこいい。
いきなりヘビを渡されて、おっかなびっくりの蛇ガール二人組。
しかしすぐにヘビのかわいらしさに魅了されて、すっかり笑顔になってしまった。
軍手をしていてはこの滑らかさは味わえないと、素手で握られたアオダイショウ。青大将ということで、「よ、田中邦衛!」と言ってみたが、誰にも理解してもらえなかった。
みんなに写真を撮られまくって、まんざらでもない表情のシマヘビ。赤い目がキュート。
手に絡みつかれたときには幸福感さえ感じてしまった。でもヘビ的には、マジで噛みつく5秒前。
ヘビ、かわいいじゃないか。子供の頃の自分が夢中になってヘビを捕まえていた理由がよくわかる。
そしてヘビ狩りが楽しい。キノコ狩りは相手が動かない。釣りは道具やエサが面倒臭かったりする。バードウォッチングは見て終わり。だがしかし、ヘビ狩りは違う。
狙った場所で運よく見つけたら、それを素手や簡単な道具で捕まえることができ、そしてそれは商品や食材となるのだ。マムシのような毒ヘビを相手にするのはともかく、その道のプロとシマヘビやアオダイショウを探す分には、これこそ理想的なアウトドア遊びの一つといってもいいのではないだろうか。いや、ちょっと言い過ぎた。
なんだか知らない土地で異文化のおいしい料理に出会ったような気分である。浅見さんの話だと、ヘビを捕って売ることを仕事にしているトリコという人が何人かいるそうで、そんな生活にちょっと憧れてしまった。私がやったら、絶対マムシに噛まれるんだけど。
ヘビの写真が続いたので、お花の写真で一息ついてください。
毒蛇、ヤマカガシの登場
続いてやってきたのは、水辺に隣接した、きれいに整備された公園だ。こんなところにもヘビがいるのかと思ってしまうような場所だが、大自然満載の山の中よりも、田んぼや公園などの、少し人間の手が入った場所のほうが、エサとなるカエルやネズミが多いので、ヘビも多く住んでいるらしい。
ここで出会ったのが、ハブの10倍、マムシの3倍の毒の強さを誇るというヘビだった。その名はヤマカガシ。
この看板を見つけて、喜んで車を止めるのが蛇狩りツアー。
「やっぱりね、このコンクリと草むらのキワがいいんだよ!」
「あー!ヘビいたー!」と、同行の女性の悲鳴に近い大声が聞こえてきた。ここで大切なのは、素人にはそれが毒蛇かどうかがわからないので、うかつに素手で掴もうとしないことだ。
長靴で追い立てられて草むらからニョロニョロと這い出てきたのは、オレンジと黒のコントラストが美しいヤマカガシというヘビ。私が子供のころ、一番捕まえたヘビである。
このヘビ、絶対に素手で触らないでください。
このヤマカガシというヘビは、ずっと毒のないおとなしいヘビだと思って遊び相手にしていたのだが、わりと最近になってマムシ以上の毒を持つヘビであるということを知った。
ヤマカガシは性格がおとなしいのと、毒のある牙が口の奥にあるため、一般的に毒蛇という認識がされていないかったのである。素肌をそうとう深く噛まれない限りは問題ないのだが、運が悪いと30分で歯茎から血が出てきて、アウトとなってしまう場合もあるらしい。子供のころの自分に教えてあげたい情報だ。
「ヤマカガシに噛まれると、歯茎から血がでませんか?」とにっこり笑う、青大将ならぬ若大将の加山雄三のCM映像が頭の中を流れた。
ヤマカガシはおとなしいヘビなので、捕まえようとしない限り、噛まれることはほぼないそうです。捕まえるんだけどさ。
ヤマカガシの首筋にはヒキガエルの毒が溜められている
浅見さんに尻尾をつかまれて観念したヤマカガシは、よくなついた犬や猫が撫でてほしいところを差し出すように、生き物の急所であるうなじのあたりをこちらに向けて、ゴロニャンと丸まってきた。
毒蛇とは思えないこのしぐさ、なかなかかわいいやつである。
ゴロニャーン。
しかし、このかわいい姿にだまされてはいけない。罠なのだ。
このヘビは毒牙以外にも、首筋に今まで食べてきたヒキガエルの毒を貯蓄しており、うかつにここを触るとその毒液が出てきて、それが目に入ったりすると大変なことになるのだそうだ。
奥の牙と首筋に毒を隠し持つヤマカガシ。職務質問されたら絶対に捕まるタイプのヘビなので、皆さんも怒らせないようにしてください。
季節外れの桜がきれいでした。
素敵な一日でした
同行者の誰かにヘビを寄せ付ける匂いでもあったのか、ポンポンポンと朝のうちに調子よくヘビを見つけることができたヘビ狩りツアー御一行。
しかし、この時期は午前中が勝負とのことで、それ以降はポツポツと浅見さんが小さなヘビを捕まえるくらいで、お昼近くになってからは、ヘビを探しながらも健康的に里山ハイキングを楽しみましょうという感じだった。
マムシが多くいるという場所にも連れて行ってもらったが、残念ながら時期が遅すぎたのか不発。せっかくだからこの目でその毒々しい姿を見てみたかったのだが。
ただ歩くのではなく、ヘビを探すという目的があるのが楽しいのよ。
「こういうね、竹藪の穴にマムシがよくいるんだよ。夏はさ、夜に探すのがおもしろいんだ。」
「もうこの時期はヤマカガシしか活動していないね。」と、また簡単にキャッチ。
珍しい白蛇かと思ったらヒモだった。こういう間違えが本当に多い。
カサカサカサという音のする方をみたがトカゲだった。足のある爬虫類に用はない。
蛇の抜け殻を発見。みんなで少しずつ財布にしまって金運アップだ。今のところ効果はないよ。
ちょっと山に入ると、イノシシが歩いた後だらけ。イノシシ狩りもしてみたいなー。
水辺を探っていたらサワガニをゲット。このあたりのサワガニは赤くないそうです。
久しぶりにノラっぽい犬に吠えられた。
こんな感じで昼過ぎにヘビ狩りは終了。残念ながら蛇善のメイン商品であるマムシを捕まえることはできなかったが、アオダイショウ、シマヘビ、ヤマカガシが計5匹と、この時期にしては大漁だ。
何度も書いたが、ヘビ狩りがこんなに楽しいとは思わなかった。もちろん向き不向きはあるかと思うが、少なくとも私には向いている。そして参加者の全員が、また来年連れてきてもらおうと考えているのが伝わってくる。
感覚としてはキノコ狩りに近いけれど、毒キノコは毒ヘビと違って、向こうから襲ってくることはない。このあたりの緊張感をどうとらえるか、というところだろうか。
この時期にしては大漁だ。
ヘビ狩りは春の彼岸頃にシマヘビからシーズンインをして、梅雨頃からはマムシを追いかけ、秋のヤマカガシでシーズンを終える。
そして草が枯れて地形を確認しやすい冬場のうちに新しい狩猟場の目星を付けて、来たるべき春に備える。
ヘビ狩りで感じる四季の移ろいか。いろいろな生き方があるんだなと漠然と思った。
まだ蛇は食べていません
持ち帰ったヘビのうち、シマヘビは蛇善でも食用として売っているくらいなので、おいしく食べられるヘビなのだが、参加者の一人がこの子に対して愛着が湧きすぎて、ペットとして飼うと持って帰ってしまった。よって私はまだヘビを食べていない。
ということで、自分で捕まえたヘビを食べるというのを、来年の課題にしよう。実際にヘビ狩りを体験してみると、それが全然奇をてらったことではないことが分かってもらえると思うが、そのあたりは無理に分かりあえなくてもいいかなとも思う。