ファッションリーダーに、おれはなる
ストリートスナップに撮られるべくやってきたのは東京の原宿だ。各地からお洒落の猛者が集まる原宿。週末の表参道や竹下通りはさながら、最先端ファッションの見本市のようである。
ファッション感度の高さは日本屈指
いつもは基本ユニクロ
痩せてからというものお洒落に貪欲になっている僕だが、ふだん身につけているのは基本ファストファッションである。
ジーパン(ユニクロ)、Tシャツ(ジーユー)
当たり前ですがそんな僕とは比較にもならないほど、ストリートスナップの人たちは皆さんシャレオツです
ファッションの切り札は布
ユニクロはとてもいいお店だが、ストリートファッションに載るためにはいささか個性が足りない。ただでさえ顔が地味で没個性なのだから、それを補うためには相当攻めたファッションが求められる。
というわけで考えたのが「布一枚を華麗にまとう」というスタイルだ。
2012年秋ファッション界のキラーアイテム。それは布
布をコーディネートに採り入れる(というかほぼ布を巻き付けるだけの)ファッションは、3年前から僕が提唱しているスタイルだ。詳しくは
こちらの記事をご覧いただきたい。
当時はその攻めすぎたスタイルが時代を先取りしすぎたため大きなムーブメントを巻き起こすことはできなかったが、今なら受け入れてもらえるかもしれない。
布は日暮里の繊維街で購入
さっそく布をまとっていく。お洒落な若者も興味津々
着衣はいたってシンプル
しかし、まとうといっても相手はただの一枚の布であるため、選択肢としてはそのままかぶるか巻きつけるかしかない。まずは今回のコーディネートのベースとなる黒の布をかぶる。
今回のコーディネートの核アイテム(布)
頭を通すための穴を開ける
核アイテム、完成
あとはかぶるだけ
さらにワンポイントとして紫のストール(布)を首に巻く
鉄の作品を作る芸術家みたいになった
いいじゃないか!
ファストファッションに2つのアイテム(ともに布)を加えただけで、ファッションに一家言をもつ人みたいな出で立ちになった。正直なところ若干のおもしろを期待していたが、布ファッション、ふつうにかっこいいんじゃないか?
しかし、これだといささか地味すぎる。最終的にはもう1アイテム加えてこうなった。
今秋の流行色、黒+紫+赤を採用
腰巻は一世を風靡したキャッツアイスタイル
これほどのオシャレ泥棒、スナップ隊が放っておくはずがない。さあ、いざ原宿の街へ繰り出そうぞ。
さあ決戦だ
原宿でも一等賞のお洒落エリア
やってきたのは原宿表参道から渋谷方面へ抜けるキャットストリート、いわゆる「裏原宿」と呼ばれるエリアである。原宿の中でもひときわお洒落な若者が集まるこの通りには、毎週のようにスナップ隊が現れるという。
いわばお洒落スナップの聖地
スナップ隊を探す
最近ではツイッターなどでスナップ撮影を告知することもあるという。ファッション誌のアカウントをフォローしておけば、スナップ隊の動向を掴めるというわけだ(どうしても掲載されたいので色々調べた)。
裏原宿に馴染めているかどうかはさておき、赤さにおいては、カラーコーンや看板にも負けていない
攻めた髪型に遭遇。さすが裏原宿
さすがはお洒落の聖地。地元の葛西では見かけないファッショナブルな髪型や個性溢れる着こなしのぶつかり合いだ。いわば日本最高峰のファッション戦争。ライバル達の熱い視線を感じる。
その時、カメラを持った2人組を発見
ハッキリ言って自信はある
ストリートを品定めするように見つめる2人組。間違いない、スナップ隊だ。ホントにいた!
さっそく全力でアピールしたいところだがここは我慢だ。ガツガツすると甘く見られる。まずは何食わぬ顔で通り過ぎ、相手が声をかけてくるのを待とう。
ただ、声をかけられてもすぐには撮らせない。渋々OKするくらいのほうがクールだから。
内心緊張しています
何食わぬ顔で
通り過ぎる
通り過ぎちゃった
声をかけられなかったので、本当に何事もなく通り過ぎてしまった。先方は僕以上に何食わぬ顔だった。仕方ないので何食わぬ顔で彼らの目の前を何度か往復した。
何度か往復して存在をアピール
ホラホラ撮りたいんでしょ!
目もくれないとはこのこと
なぜだ?
僕などまるで存在していないかのように目もくれないスナップ隊。これほどの逸材を見過ごすなんて日本のファッション業界はどうなってるんだ。そんなんじゃパリに追いつけないぞ。
とはいえまずは相手に興味を持ってもらわないことには始まらない。仕方ないので若者風のトレンドを採り入れつつ、彼らに歩み寄ることにした。
歩み寄りその1:ジーパンの片方をロールアップ
歩み寄りその2:キャッツアイを辞めて二重ストールに
歩み寄り終了
ジーパンの片方をロールアップするのは若者に人気のHip Hopファッション。ブロンクス生まれの筆者が言うのだから間違いない(ブロンクスはHip Hop発祥の地)。
さらに80年代生まれの象徴であるキャッツアイスタイルも捨て、お洒落重視の二重ストールに変更した。
再チャレンジ
こっち見ろ
ここまで歩み寄ったんだからぜひともスナップされたいところだが、相変わらずこちらに近寄ってくる気配はない。なんなんだ、おっさんは原宿の汚物じゃないぞ。
こちらには目もくれず、お洒落さんを次々ハントしていくスナップ隊
こんなにかっこいいのに
あの、スナップ隊の方ですか?
声かけちゃった
声を掛けられないならこちらから売り込むしかない。プライドを捨て、正直にスナップに撮られたい旨を伝える。だが…
「いや~、ちょっとうちでは難しいですね」
紳士的かつやわらかい口調ながらもキッパリとした拒絶。頼もしいことに彼はNOがいえる若者だった。個人的には残念だが、日本の未来は明るいぞ。
聞いてみたら本当に超メジャーな男性ファッション誌の撮影隊だったのでショックは大きい。あんなメジャー誌に載ったら親も喜んだだろうに、故郷に錦を飾るチャンスを逸した。
その後も街中で見かけたカメラマンを尾行するなどしたが、箸にも棒にもかからない
奇抜ファッションの聖地へ
裏原宿における布ファッションは、時代が半世紀早かったのかもしれない。そこで奇抜なファッションの若者が集まることで知られる竹下通りに移動してみた。ここならおっさんの戯れも受け入れてもらえるかもしれない。
竹下通り
ここでも浮く
だが、平日の竹下通りには奇抜な格好をしている人は思いのほか少なかった。修学旅行生なども多いし、みんな意外と落ちついたファッションだ。
結果、ここでも浮くことになる。
荒廃した世界からやってみた未来人のようでもある
北斗神拳の伝承者
このままでは核戦争によって荒廃した世紀末を予感させてしまうので、布ファッションに原宿のポップカルチャーを採り入れることにした。
ポップ&ガーリーな小物がいっぱい
ポップさとともに変態度が5割増した
見覚えのあるトゲトゲに暗い世紀末を思い出す未来人
ポップな店員さんにサングラスを選んでもらう未来人
というわけで布ファッションに似合うサングラスを店員さんに選んでもらったところ、こうなった。
一気におばちゃんチックになった
店員さんが選んでくれた紫のサングラスは思いのほかしっくりきたが、ストリートスナップというより大阪のおばちゃんみたいな方向性にシフトした。
変態サングラスと布で、世紀どころかジェンダーの垣根をも超えてしまったようだ。
竹下通りにはかなり攻めた服が売られているが
攻撃力という点では負けてない
奇抜という点でシンパシーを感じる洋服屋の前で記念撮影をしていると、店員さんが話しかけてきた。
店員さん「お兄さん、かっこいいですね」
僕「ええ、布なんです」
僕を何とかしてください
こんな変態に話しかけてくれるのだからこの人はいい人に違いない。せっかくだから入店し、コーディネートのアドバイスをお願いしてみた。
竹下通りは客を選びません
「何を足したらストリートスナップに載りますか?」
ストレートに欲求を伝えると一瞬戸惑いながらも一生懸命アレコレと考えてくれる店員さん。内心やっかいなのに声をかけちまったなと後悔していたかもしれない。申し訳ない気持ちでいっぱいだが、スナップされた暁にはインタビューでこのお店のことを言うので許してください。
「とりあえず片方ロールアップはやめましょう」
店員さん「布は脱げませんか?」 僕「マストなんで」
布ありきのコーディネートに苦悩する店員さん
なんかホントすみません
布は100年早かった
竹下通りの地下にあるこのお店。とてもお洒落な服が揃っているのだが、布に合うコーディネートは残念ながら見つからなかった。やはり21世紀の服と布でケミストリーを起こすのは難しいのかもしれない。
その頃、同行の編集部・安藤氏は皮ジャンを試着するなど普通にショッピングを楽しんでいた
けっきょくこのスタイルに落ちついた
ハットを被る
あと他に直せるところがあるとすれば、この父っちゃん坊やみたいな髪型だろうか。しかしこの格好で原宿のオシャレ美容室に殴り込むのはさすがに気が引けるので、ハットを被ることにした。
これまたシンパシーを感じるデザイン
テイストも合ってる
どこかに到達した感はある
しかし、いよいよ社会と変態の境界線を超えてしまった気もする。世界が霞んで見える
リアルファッションモンスター
だんだん自分がテレビとかで取材される名物おじさんに近づいていくのが分かる。ああいうおじさんにならないために義務教育を受けてきたのに台無しだ。天国の父に土下座したい。
心なしか、周りが距離をとるようになった
いつの世も異端者は孤独なものだ
リアルファッションモンスター
きゃりーぱみゅぱみゅがファッションモンスターなら、リアルにモンスターなのが布おじさんこと今の僕だ。
しかし、ストリートスナップにさえ撮られれば全てが逆転する。このキモイ(ついに言っちゃった)格好も「尖ったファッション」として肯定されるのである。
とはいえ信号待ちはツライです
ラストチャンス
再び表参道に戻ると、先ほどとは別のカメラマンを発見。もうすぐ日が落ちるので時間的にもラストチャンス、この人に声を掛けられなかったら諦めよう。
女の子にストリートスナップをお願いするカメラマン
おれならすぐ撮らせるんだけどな
おーい、ファッションモンスターですよー
しかし、お呼びかからず
かくして、ストリートスナップへの憧れは打ち砕かれたのだった。布はその場で脱ぎ捨て、ユニクロでお洒落なフリースを買って帰った。
攻めファッション≒変態
残念ながらストリートスナップ隊に見染められることはなく、おっさんの野望は儚く散った。残念だが、これからもファッションに対する攻めの姿勢は失うことなく探求していきたいと思う。
とはいえ、攻めたファッションは変態と紙一重なので、みなさんも気をつけましょう。