呼び出した西村さんに警備服をわたす
ぶらぶらしてるおじさん二人
バランスからいって警備員は二人いたほうがいい。そう思って、デイリーポータルZライターの西村まさゆきさんを呼び出す。
西村さんは当サイト屈指のぶらぶらしてるおじさんで、勝手に警備員にうってつけの人材だ。
「ベルトが二つあるんですね」などふむふむ言いながら突然の警備服にも動じない西村さん
お父さん、勝手に警備員になる
舞妓はん体験のそれだ
西村「やっぱり警備服はピシっとしててかっこいいですね」
大北「西村さん、くそほど似合いますね」
ぶらぶらしてるお父さん二人がお互いをほめあう。のっけから非常にまずい構図だ。
外に出ると太陽がまぶしい。いてもたってもいられない気恥ずかしさ。私なんかでいいのかしらん。この気持ちは京都のまちかど舞妓さん体験のそれだ。
観光地浅草に来た
浅草で勝手に警備員
勝手に警備員になって何をしたいかといえば写真を撮りたい。それも名所を際立たせて自らは警備員として花を添えるような写真だ。
まずは手始めに観光地浅草で、名所を勝手に警備することにした。
あげまんじゅうを買い食いをする警備員
五重塔を勝手に警備
有名な雷門前はあまりに人が多くて撮れなかったが、人がいないうってつけのスポットがあった。
私たちはこの立派さをたたえるためにも勝手に警備をすることにした。
一見ふつうの写真だが、警備員がのらである
目の前にいた本物の警備員が笑っていた
勝手に警備員おそるおそるスタート
写真は納得の仕上がりだが、現場はまだ地に足がついていなかった。
「大北さんあそこのほんものの警備員が笑ってますよ」と西村さんが指さすも、顔を上げれない気恥ずかしさ。気分はまだ舞妓はん体験中。
「あ、これもいいんじゃないですかね」と西村さんが次の警備候補にあげたのは小学生の花。
小学校の鉢植えにとてつもないプレミアム感が宿る
警備員がいるプレミアム感
小学生が作った鉢植えも、勝手に警備をしてみると驚くほどプレミアム感があがった。いる。この鉢植えを作った子供の中に将来の日本を背負う人が確実にいる。
西村「すごいですねこれは。菊の花にちがいない」
大北「それか違法性のあるケシか何かですよ」
写真の仕上がりに手応えを感じた私たちは手当たり次第に警備をしはじめた。
行列のできるパワースポット
パリからやってきたアート作品
この細いビルに大臣が住んでる
総理大臣の今日の予定11時45分バナナチョコにて会食
警備員がバナナチョコを食べると急にダメになった
チョコバナナくってたらモテた
修学旅行生にモテる
ここで事件。修学旅行生がチョコバナナを食べる私たちを見て「カワイー」と声をあげた。
「大北さん、こんなのに“かわいい”ってすごいですね」「西村さん、女子高生の“かわいい”はFacebookの“いいね”くらいの感覚ですよ」と言いながらも明らかに動揺を隠せない二人。
西村さんはすぐiPhoneで「かわいいって言われた」とツイートしていた。
自らの出自になやむヒーロー
その後も別の高校生から一緒に写真撮ってくださいと言われたりする。
彼女が(警察がチョコバナナ食べてる~)とおもしろがったのは修学旅行の浮かれのせいだろう。
しかし家に帰って写真を整理していて気づくはずだ。「これ警備員だ」と。この高校生が観察力にとんでいたならさらに気づくだろう。「この腕章のむだに空いたスペース、レンタル品だ」と。
そう、正解はぶらぶらおじさんである。コスプレぶらぶらおじさん二人がチョコバナナ食べていただけなのである。
ああ、これ以上高校生の青春の一ページを汚したくない。そんな呪われたヒーローがわれわれ勝手に警備員なのだ。
残念、正解はぶらぶらおじさんでした
浅草寺本堂。のらの警備員がいる
うしろから見ても勝手に警備員
警備員かぶらぶらか
一方、警備員でないことが喜ばれる場合もある。
走ってたら「警備員が走ってきたからびっくりしたよ」と近くのおっちゃんが言っていた。
そういえばチョコバナナ屋のおばさんも警備員に何か言われるかと思ったと言っていた。
これらはさっきと違って「おめでとう、正解はぶらぶらおじさんです」派の見方である。
警備員に客引きはこないしチラシも渡されない
警備員の視覚的な意味
「警備員の格好すごいですね~」と西村さん。たしかにそう、世界が一変する。
客引きは声かけないし、道を何度も聞かれるし、どけ(!)と人扱いされなかったりもする。
西村 「制服の魔力ですよね。そういえば小学生の頃、警官にあこがれたなあ」
大北「よかった、西村さんの夢がかないましたね。」
西村 「これは違いますけどね」
ちなみにこういうのはどう見えるかなと思って西村さんの胸ぐらをつかんでみると、「胸ぐらつかんでる」とおっさんがニンマリして帰っていった。
これはちがう。ただの見たまま言っちゃうおじさんである。
グーグルマップ片手に勝手に道案内をする
次の警備先へ
「あそこに行ったらなじむんじゃないですかね」「京橋まで電車で一本だからちょうどいいですよね」と次の警備先を決めた。
箱物ならどこでもよかったのだが警察博物館だ。
写真としておかしなところはない。だがよく見るとこの警備、野生の警備員である
警察博物館前にいるとすごい頻度で道を聞かれる
銀座の警備はものすごく道を聞かれる
この日終始道を訊かれつづけたがこの銀座での訊かれっぷりはすごかった。立て続けに道を訊かれ、そのたびに西村さんは携帯で道を調べていた。
「意外と断れないものですよね」と言う西村さん。いや、ふだんなら「この辺の者じゃないんですよ」で断れたはずだ。
責任。今、勝手に警備員に責任感が芽生えようとしている。この後にくるものは社会人のみなさまはもうお気づきであろう。
そう、成長である。勝手に警備員が勝手に成長しはじめているのだ。
博物館内にて。警備員なだけでも場違いなのにましてやアマチュアである
また警察として写真を求められる
博物館内で写真を撮ったりしていると、西村さんがおじいさんに「写真入って」とお願いされてた。
「別にへんなとこ出すわけじゃないからね」「いや、出していいですよ雑誌でも何でも」とやりとりしている西村さんとおじいさん。
ちがうんだ、おじいさん。その人はおじいさんと同じぶらぶらおじさんなんだ。
受付の方がすぐそばにいたけど苦々しく思っていただろうなあ
銀座は警備員の街
警備員のなじむ街と浮く街がある。
西村「カメラ持ってる以外はまったく浮いてないですね」
大北「ものすごいなじみようですよ」
高級店や高層ビルが建ち並ぶ銀座では二人も驚くほどのなじみよう。なんせ古来より銀を作ってたのだ。まるでこの街は警備員のためにあるようなものだ。
高級店建ち並ぶ銀座二丁目の交差点で
全く違和感がない
その辺のビルの前に立つだけでなじむ
ところがポーズをとるととたんになじまない
もっとも警備員な街はどこだ
銀座は警備員がなじむ街だったが、もっとなじむ街がある。そう、警備のメッカ永田町である。
これほどまでに警備つくされた街もないだろう。ここにもあそこにも警察がいる。
ここを警備することが全警備員の夢。ちがうかもしれないが、勝手になった警備員たちはそう思っている。
ところで国会見学を終えた小学生たちがこんにちはと私たちに声をかけてくる。「はい、こんにちは~」と西村さんが挨拶をする。
ぬけぬけとまあ、である。
小学生に「こんにちは」と挨拶される警備(アマ)
記念写真とわりきる
大北「いや私たちは何もまちがっちゃいないですよ、これは私服ですから」
西村「『何言ってんですか、写真撮っちゃダメなんて法律あるんですか』って言ってやりますよ」
そう息巻いていた私たちだったが国会が近くなると「先手を打ってね、撮っていいですかって聞くのもいいかもしれませんね」と態度を軟化させていった。
大北「すいません、記念写真撮りたいんですけどいいですか~」
警備員(プロ) 「線から入らなければいいですよ」
気軽に応じてくれる国会の警備の方の対応をみて、ふざけたぶらぶらおじさんってよく来るんだろうなと思った。
国会を勝手に守るノーギャラの警備員
“線に入らないように”という唯一の職務を全うするアマの警備員
各交差点での警備もボランティア警備員におまかせ
日本の未来は野良が守る。別の門で警備が手薄になるとでかい態度に。
ちょっぴりお役に立ちたい勝手に警備員
観光地から国会まで色々警備してみたが、ここらで一度くらいは人の役に立つ警備がしてみたい。
この日は同じくデイリーポータルZライターの乙幡啓子さんが神田で展示の準備をしていた。ちょうどいい。勝手に作品の警備をしにいこう。
※展示はこちら→「
トランス・その他・ら・エクスプレス」
入り口がどこかを聞くと「あ、おつかれさんです」と挨拶される
勝手に警備員としての自覚が芽生えつつある
神田の取り壊し作業をしているビルなので警備員が数多くいて、すれちがうたびに会釈される。
「積極的にあいさつしていこうかな」と西村さんが息巻く。この頃には本職(警備員でなく、勝手に警備員)としての自覚さえ生まれつつあった。
「『本官を愚弄する気か』って言ってみたいなあ」と夢を語る西村さん。
大北「それは本気の警備員でも警察じゃないからだめですよ。あれならいいんじゃないですか?『許可とってる?』とか」
西村「その辺で撮影してるやつに『何~?許可とってないだと~?』って」
大北「『許可とってないの? よし、おれが責任持つ』ってばんばん許可する」
西村「勝手にね」
大北「勝手に警備員だから」
勝手ながら警備しに来ました~
驚いていた乙幡さん。おめでとう、正解はぶらぶらおじさんです。
お役に立ちたい勝手に警備員
「おつかれさまで~す……わわわわ~」とマンガみたいな声をあげて驚く作者乙幡さん。
大丈夫です、作品を守りに来ましたと言う私たちにいまいち腑に落ちないでいる。
乙幡さんは知らないのだ。私たちが警備するとこんなに作品の価値が上がることを。
百万、千万、億、兆、京……勝手に警備員のおかげで作品の価値はうなぎのぼり
「異常な~し」と確認していく勝手に警備員。本人の存在こそが異常なのである。
記号として強すぎる警備員の制服
勝手に警備員、実際に警備のけの字もしていないが、写真だけではなかなかの働きぶり。これすべてノーギャラである(しかも衣装は持ち出し)。
そもそも世の中の警備員もアルバイトが大半だろう。本職と勝手に警備員では中身もそれほど変らないはずだ。もしかしたら中には勝手に警備員もまじってるのではないか。
「なに?許可とってない?その心意気気に入った、まあ、しっかりやりたまえ」
例えばこのように声をかけてくる警備員はもぐりである可能性が高い。
「おまえん家、なんか大臣住んでねえ?」
そんな風に友達から言われた場合も、勝手に警備されている可能性が強い。
以上のような発言に全くおぼえがない場合、それはすべて本物なのでご安心ください。