規定の箱に入らなかったため失格のカニのミニ四駆
非公式で練習コースを疾走させた
毛ガニで作ったミニ四駆は大会規定の大きさよりも大きかったため失格となった。
しかし、せっかく作ったのでなんとか走らせたい。このジャパンカップには練習用コースがあってだれでも自由に走らせていいことになっている。
そこで当日出会って「カニのミニ四駆すごいですね~!」と感動してくれた植松くん(中1)に声をかけ、レースさせることにしたのだ。
植松くんと練習場で競争させようということになった
「入るタイミングがわからないね」(と言いつつも手に持ってるのはカニだ)
ちゃんと走るのか
レースはカニのミニ四駆が走り、そのあと同じレーンを植松くんのバーニングサン(車名)が走ることになった。追いつかれたら負けだ。
誰も走らせてないタイミングを待って、カニをコースに入れる。ついにこのときが来た。
育ててきたひな鳥を放鳥するような感覚。カニよ、おまえが生きる場所はここなのだ。さあ、勇気を出して最初の一歩を踏み出そう。
シャコーーッッ!!と情緒とは無縁のスピードで疾走するカニ
猛スピードでカニは
コーナーも見事なバランスで曲がる
少年と毛ガニ
感動を上回る速さ
ジャパンカップへの憧れ。一週間の工作の苦労。そもそもカニがミニ四駆のコースにおさまるのかといった心配。それらがもろもろ感動となるのだろうと思ったが、そんな情緒とは無縁だった。
速いのだ、カニのくせに。速すぎて感動するひまもないほど慌ただしい。
動画を撮っていたので見ていただこう。
こどもたちから「速え、速え」の声
コースに放つと同時にオ~!とどよめきの声が上がり、ついでこどもたちの「速え速え速え!」の声。
その後何度かためしてみたが、速さと重心のバランスが悪いのか一周程度で転倒してしまう。
転倒すると後ろから植松くん(中1)のバーニングサン。ガツン!「ごめんなさい!」とあわてる植松くんが猛スピードで再び動き出したカニを止めようとして「痛っ!」毛ガニのトゲで手を痛める。
もう何が何やらである。
ひとつひとつを味わう時間などない。これがミニ四駆の速さなのだ。
うっかりカニのお兄さんになってしまった
コンクールデレガンスまで待つ
走らせることに満足したあとはコンクールデレガンスを待つ。
ジャパンカップは1600人が参加して5人ずつのレースがひっきりなしに行われている。残りの1595人は待っている。
おれのジャパンカップの思い出=みんなうつむいてくりくりしてる
待って一体何をしているのかといえばみんなずっと車をくりくりしている。整備とチューンナップのために、会場の至る所で車にねじ回しを向けてくりくりしているのだ。
そしてレースは一瞬。多くは大ジャンプでコースアウトして破損する。破損したら午後の出走にむけてまたみんなでくりくりする。一体なんだろうこの世界は。
コンデレは机の上に勝手に置いて待つ。一緒に走ってた植松くんもカニの隣で出場したが、内心カニの敵ではないと思っていた。
コンデレ審査開始
ついに見た目コンテストコンクールデレガンスが始まった。机に並べられた出場者をMCガッツ(※)とさくらいなるさんの二人が紹介していく。
どうやらここで気になったものをピックアップしコメントを入れて優秀賞4台の選定をしているようだ。
※今の"ミニ四ファイター"とか"タミヤの前ちゃん"みたいなマスコット的な人。びっくりするほどトークがうまい。
マイクを持ったMCガッツとさくらいなるさんの二人が紹介していくustream中継(アーカイブは
こちらから)
こちらがustreamの画面。よし、これなら勝てるんじゃないかと思った。
優勝ねらえるんじゃないか……?
他の出場車を見ているとたしかにきれいだし工作も驚異的にうまい。しかし僭越ながら申し上げるとこれといってインパクトは感じられない。
おまえが言うなと言われるだろうが、おれが言う。さっきから画面にちょいちょい見切れてくるカニが「おまえらインパクト弱いぞ」と言っているのだ。
「つづいてこのかわいらしいの見てみましょうか」他の車を紹介する間にもちらちら画面に入ってくるカニ。甲殻類の存在感は大きすぎる。
「じゃあさっきから注目度存在感大のこれいきましょか」 そしていよいよ、カニがピックアップされる!!
いよいよカニの審査
そしていよいよカニがピックアップされた。現場では二人の音声がマイクを通して流されていてドキドキしながらコメントを聞いていた。
(以降はustreamのアーカイブ※
こちら7:44あたりから抜粋)ガッツ:じゃあさっきから注目度存在感大のこれいきましょか。大北さんから。
さくらい:コメント「冷凍ものでなくボイルもの毛ガニを使いました」
ガッツ:冷凍するとちょっと水っぽくなるからね
さくらい:あ~、え?本物?
本物も本物、北海道展で買ったボイルものである(高かった!)
ガッツ:ボイルにかぎるよねってカニの評価になってんじゃないかそれは
さくらい:そうですね
ガッツ:ちょっと待って下さいこれリアルキャンサーですか?
さくらい:ほんとだ
ガッツ:タミヤシール……タミヤ印のカニですねえ
さくらい:この、がんばって載せた感(苦笑)
審査のお二人が問題にしている「本物なのか!」という点だが、なんでそこまでワーワー言ってるのか分からなかった。そりゃカニなんだから本物使うだろう、とその時は思っていたのだ。(今は、これ模型のコンテストだろってことに気づいてます)
タミヤ印、これは「北海道タミヤから出てるカニだ」と言ってむりやりジャパンカップ規定をくぐりぬけるために貼ったタミヤシールのこと。載せるのもたしかにがんばった。
ガッツ:リアルにカニですねこれ
さくらい:リアルガニですかね、これ……匂う?
ガッツ:あっ!ちょっと匂ってください、これはどうです、本物ですか?
男の子1:カニの匂いするー!
さくらい:お寿司屋さんの匂い!?
ガッツ:君はどうですか?
男の子2:カニの匂いする……
ガッツ:やっぱりカニの匂いするよね
さくらい:すご~い!すごおい!
ここで審査員がカニの匂いに気づいて騒然となった。(こいつやっぱり本物のカニを使いやがった……)そんなでかいインパクト残せたんじゃないか。そしてついに出た、「すごい」のコメント。
いったんじゃないか!これいいとこいくんじゃないか!
「カニの匂いがする!」「すごい!すごおい!」とカニを嗅ぐみなさん。よし!優勝は近い!
ガッツ:いや~これはちょっとustreamをご覧のみなさんにもカニの匂いをお届けしたい
さくらい:ボイルしたからこその匂いですね
ガッツ:ですね
さくらい:冷凍じゃちょっと
ガッツ:うん、冷凍じゃ出ない(※多分出ますが話の流れ上)
ガッツ:なんでカニだったんでしょうね
さくらい:ね、どうしてカニ……カニ好きだったんですかね
ガッツ:カニ座なのかも
さくらい:カニ座(笑)
ガッツ:つづいてこれいきましょう、ねこめしさん……
どうしてカニなのか。それはすべてこのためだ。
本物のカニがミニ四駆のコースを走るインパクトのためだけにやってきた。すなわち見た目、そうコンデレのためといってもいいだろう(コンデレのことは当日知ったけど)。
審査の感触はよし。とにかくインパクト勝負のカニは存分に力を発揮した。
と思ったらこの後ものすごい展開が待っていた。こんなことだれが想像できるだろうか。
サンマのせてきた車がいたのだ
まさかの海産物かぶり
頭をかかえた。まさかサンマをのせてくる車がいたとは。
いや、比べればもちろん勝つ自信はある。こっちは本物だし、カニという物自体のおもしろさは上だ。しかしだ。MCガッツが言う。
「今日はカニとかサンマとか一体どうしてるんだ~?」
さあまとめられたぞ。海産物ということでひとくくりにされたぞ。もちろんMCガッツ悪くない、二つ海産物来たんだから別のフォルダを用意したくなる気持ちはわかる。分類して知を育んできた人類として正しいぞ、MCガッツ!
だがこれで色物枠は確定してしまった。これが吉と出るか凶と出るか……まずは優秀賞4枠の選定から!
優秀賞はこれとこれとこれとこれで最優秀賞はこれで各審査員賞はこれで~す
ひざから崩れ落ちた
敗北、箸にも棒にもかからず
優秀賞四枠、すべて落選。色物あつかいなら審査員賞で拾ってくれると思ったがそれもすべて落選。かろうじてMCガッツが「どれにしようかな~、(まさかの)カニかな~」と前フリでふれた程度であった。
審査の一番最後はさくらいなる賞であった。カニの匂いを「すごい!」と言った方だ。
「わたしはこれです」あれだけカニの匂いをすごいと言ってくれたのに……
敗因は色々ある
こうして全ての審査にもれた。優秀賞を見ていくとその敗因はわかる。一言で言えば場違いだったのだろう。
まず車じゃなかったのは大きかった。他は車だなとわかるくらいの見た目だが、カニはカニだった。この時点でまあ落選しても文句は言えない。
そして最も大きかったのは本物だったということではないだろうか。
みんな模型作りの技術を駆使して、手の込んだオリジナルのデザインを完成させてきた。だがこっちは本物だった。自然だ。言うなれば「デザイン by 神」である。それが一番おもしろいと思ったからそうしたのだ。
でもそういう場所じゃないんですよね。そんな声がきこえてくる気がする。それくらいの分別のつく年になった。
大人のミニ四駆大会出場はこれで終わる。
こうやって見ると、敗因として“本物だ”というのはでかかったかもしれない
独自のミニ四駆道を行く
しかしそんなカニは今、このサイト、デイリーポータルZの展示の一部として渋谷ヒカリエで展示されている。数多あるミニ四駆の中であの華やいだ場所で展示されてるのは毛ガニのミニ四駆だけなのだ。えっへん。
もうふっきれた。ジャパンカップはジャパンカップでいいだろうし、コンデレはコンデレでいい。私は独自の道を行く。独自のミニ四駆道を追求していく。
「次回はエビですか?フグですか?」
タミヤの人と話してて聞かれたが、次回は回転寿司だ!寿司を載せたミニ四駆をコースでたくさん走らせて、回転寿司屋をオープンする!!