近いようで遠いようで近い
太田市といえば日本三大焼きそばの街として有名だが、今回はうなぎだ。間違えた、ナスだ。もう一度言おう。食べるのはナスです!
JRと東武を乗り継ぎ、目指すお店の最寄り駅である「三枚橋駅」に到着したのは、東京を出て約2時間半後のことであった。
三枚橋駅13時。どうしようもないほど夏休みっぽい空気がひろがる駅前では、ギャルが車でのお迎えを待つ。
ロータリーすらないこじんまりとした駅前には、自転車(ほぼママチャリ)がぎっしり並んでいる。
駐輪場でもないのに、整然と並べられているのがエライというかスゴイ。
持ち主のほとんどは、たぶん中高生かと思われます。
というのも、ほとんどの自転車のハンドルがこういう状態なわけで…。久々に見たなー。
お店はここから車で5分程度の場所にあるらしい。真夏の炎天下、歩いて行ける距離ではないので素直にタクシーを呼んだ。
運転手さんとの雑談では、当然のように太田焼きそばのことが話題に上がる。いわく「太田の焼きそばってのは、特徴があったり統一されてるワケじゃないんですよねぇ…」とのことで、妙に申し訳なさそうなのが印象的であった。
それにしても、見事なまでに外を歩いてる人がいない。
そういえば、群馬といえば日本一の暑さを連日記録している地域じゃないか。
車社会ということもあろうが、ギラギラと日が射す土曜の真っ昼、みんな屋内に避難しているのだろう。そりゃそうだ。
のぼりがはためく通りにさしかかったと思ったら…
そこが目指すお店であることが判明。おお、なにやら木がこんもりしておりますよ。
実は「ナスの蒲焼き、もうやってなかったらどうしよう…」と少しばかり不安を抱えての訪問であった。
ウワサを聞いて現地に出向いても「もうやってないんです~」と言われたことが過去に何度かあるのだ。
しかし、のぼりが大量にはためく様を見て「これなら大丈夫だ、こんなに力を入れてる商品なら食べられる!」と安堵したことをここに告白しよう。ああ、嬉しい…。
青い空に映える、白いのぼり。なんて美しい…。
田んぼに囲まれたお店の周囲は木が生い茂っており、強烈な日差しを和らげてくれていた。
プレハブのこじんまりしたお店には、地元のお客さんが車でひっきりなしに来訪。
木漏れ日の中で料理を注文。店に入らず、そのまま持ち帰ることも出来ます。
どのお客さんも、すごく手慣れた感じで注文している。お店の人との会話を聞いている限り、この店はものすごく地域に密着した存在なのだな…と思わせられた。
どうやらみなさんリピーターなんですね。っていうか常連さんだ。
そんなお店にタクシーで乗り付けたわけで、恥ずかしさを感じつつも、さっそく店内へ…
こういうサービスたまらん! そして日替わりランチ500円とは。私も通いたい…。
注文はセルフになっているので、さっそく窓口で「うなぎの蒲焼きを!」と告げる。
「あ、さっきタクシーで来たお客さん?」と聞かれてしまったが、やはり相当目立ってしまったようである。
壁には、ナスの蒲焼きを取材された時の新聞が貼ってありました。
なんとNHKのニュースでも取り上げられたそうで、チラシもこの通り立派!
「実は、うなぎの蒲焼きをどうしても食べたくて来ました!」と事情を話すと「えーっ、わざわざ東京から食べに来たの?」と、仕事中にも関わらず、いろいろとお話を聞かせてくださった。
こちらが店長の川田さん。奥様いわく「もうね、すごいアイデアマンなのよ~」とのこと。
このナスの蒲焼き、てっきりうなぎの高騰にヒントを得て新しく作られたメニューかと思っていたのだが、まるっきり違った。
なんと、作られたのは4年も前のことだという。…えっ、そうなんですか?
奥様が、当時のことなどを話してくださいました。
なんでも、4年前に地元紙であるところの上毛新聞で「ぐんまふるさとレシピ大賞」なる料理コンテストがあり、その年の課題素材が「ナス」だったと。
そして小学生、中学生、高校生、一般、プロと部門別に審査され、応募総数約2千もの中から受賞したのがこの「茄子の蒲焼き重」というわけなのだそう。
店内には、その時の賞状が大事に飾られていました。
某ホテルの料理人が再現した料理写真に、川田さんは「違う! ナスをもっとたくさん並べないと!」と納得してない模様。
まさか4年も前に賞を取り、それからずっと食べられてきたメニューだったとは…。
てっきり「うなぎが高いから作ってやれ」と、流行りに乗って作られたメニューだとばかり思っていたので、この話には驚いた。すみません、勝手に勘違いしてました!
そして、ついに出来ましたよ、うな重ならぬ、ナスの蒲焼き重が…。
ごはんが見えないくらい、ナスがびっしり! これで600円は安い。
お重のフタを取ったときの「うわ~!」という気持ちが、うなぎの時のそれとさほど変わらなかったのが我ながら意外だった。
いや、うなぎの時よりドキドキしていたかもしれない。なんせこっちは初めてお目にかかる料理なのである。
そりゃ胸も高鳴るってもんですよ。
この照り! ツヤ! うなぎに負けてない!
どれどれ…と、期待で胸がパンパン状態。
…ん! お? これは……?
茄子の下には鶏肉、さらには海苔が敷かれてまして、そりゃあウマいさ! というね。
うまい。普通にうまい。さすが4年も続いてる料理だけあって、ちゃんとおいしい。
誤解してはいけないのは、これはうなぎの代替品ではないということだ。あくまでナス料理として、きちんと完成されている。
ナスでごはんがわしわし食べられるなんて麻婆茄子くらいだと思っていたが、今度から蒲焼きも加えなければ…と認識を新たにした。
というわけで、あっというまに完食。
太田に来たからには食べずに帰れないだろう…と、別に注文した焼きそば(じゃがいも入り)と唐揚げも、抜群のおいしさであった。
この唐揚げがまた、凶悪なまでに美味!
以前、焼きそばの食べ歩きで太田を訪れた学生さんに、店が定休日であるにも関わらず「せっかくだから」と店を開け、焼きそばを作ってあげた、というエピソードを持つほど世話好きで話好きな川田店長。
私が帰りのタクシーを呼んでいると「もっと話したかったなぁ」と残念そうに言うやいなや「あ、ちょっと待ってて!」と車を飛ばして自宅に戻り、手渡されたのは…。
なんと、自ら仕留めた猪肉! そういえば店に「猪汁」というメニューがあって気になってたけど、自分で獲った肉を使ってたのか!
「ヒレ肉だからどう食べてもおいしいよ」とのことでしたが、本当にその通りで驚いた。猪ってこんなにおいしいの…。
おみやげまで頂戴し、久々に取材で嬉しい思いをしちゃったな…と恐縮しきりであった。社長、ありがとうございました!
再現してみた
すっかり猪で舞い上がっていたが、太田から帰って数日後、ふと「あのナス重って、その気になれば作れてしまうのでは…?」と思いついた。
ナスを電子レンジでチンして、蒲焼きのタレさえあれば、なんとかなるのでは?
というわけで、ナスをチンしてフニャフニャに柔らかくしたら、
油を敷いたフライパンで焼き色をつけて、そこへ蒲焼きのタレをジュワ~っと…。
これがたまらんかった。匂いだけでごはんが食べられるのでは…と思うくらい、食欲をそそるいい匂いが部屋中に充満する。
炊いたごはんを切らしていたので、お重は諦めて皿に盛りつけてみた。
山椒を振ったら、さらに「っぽく」なった。
ナスの香ばしさに甘辛いタレが絡みつき、噛めばフワフワのナスが口の中で溶けていく…。
単品だと、あまりにうま味が強すぎておつりが来る状態。たまらずビールで口の中の均衡を保った。
そして噛み切れないナスの皮が、なんとなくうなぎの皮を思い出させてくれるという至れり尽くせりっぷり。
お店の味には劣るが、これはこれでアリな気がしてきた。
なんというメシ泥棒。ダイエット中に作るべきでないことだけは確か。
しかしこの料理、ごはんがいくらでも食べられちゃいそうで怖い。お重に出来なかったのが悔やまれるような、ホッとしたような…。
定番料理として認定したい
うなぎの値段が落ち着いて再び口に出来る日が来たとしても、ナスの蒲焼き重を相変わらず食べ続けるに違いない…と思ってしまうところが、既に完成された別の料理なのだなー、と感じた。
ナス重、食べてみたいけど太田市にはどうしても行けそうにないという方は、最後に作った方法で試してみて下さい。雰囲気は十分すぎるほど伝わるかと思います。
チラシにさりげなく載ってたキャラクターがすごくかわいかった。