これが糖季五輪だ
これから20種類の20種類の「甘そうだな」と思われるものを小さじ1杯ずつ試食し、甘いもの順に並べていく
。
日本一甘いと言われるお菓子と世界一ではどちらが勝つか?砂糖の100倍と書かれている甘味料を食べたらどうなるのか?
ベスト10を決める甘美で苦難の選考過程を、少しだけご覧いただこう。
左から甘そう順に20種。右から試食して、最後には甘みの壁が立ちはだかる。
選考に助っ人も呼んだ
糖ベスト10を選考する筆者は甘党ではない。味は好むが、日常的に摂取をしない。
せっかくだから甘党の人にも意見を聞きたいと思い、元デイリーポータルZのライター土屋遊さんを呼んだ。
冒頭のガムシロ9個入りアイスコーヒー写真は「大体5個以上は入れて、コーヒーと糖をいちど分離させる」という土屋さんの普段の飲み方。アイスコーヒーを独自にベトナムコーヒー化させるのだ。一体なんでそんなことをするのかさっぱり分からない。
ガムシロップ5個は入れるという土屋さん
基準は小さじ一杯の砂糖
選考に先立って、小さじ一杯の砂糖を食べた。この企画に先立って一体砂糖ってどれくらい甘いのかな?と食べたときと同じだ。まあ、甘い。そして背徳の味がする。
以降は、選考途中のハイライトをご紹介する。
天然の甘味料成分が入っている甘茶。砂糖の200倍の甘さだという。
スクラロースは砂糖から作られた合成甘味料で砂糖の600倍の甘さ(だが、商品は使用しやすいように薄められている)
砂糖の○○倍ってどういうことだ?
お花祭りで飲まれる甘茶の甘味成分は砂糖の200倍、シュガーカットに入っているスクラロースは600倍だという。
実際の商品は薄まっているが、味くらいはわかるのでは。そう思ってお茶をそのまま食べてみた。
「わかめだ」(感触のことだと思う)
舌が搾乳されているような甘み
舌が絞られるような甘さ
砂糖と全くちがう甘み。甘いというの感覚はするんだけど、舌が絞られるような甘さ。これもしかしたら苦いと言うのではないかと思うほど、舌にギュッとくる。
外国で生魚を半分に切ってごはんで叩きつぶしたものを「SUSHI」と出されても「ウ~、イエ~」としか言えないように、なんとなく甘いことは認めてその場をそっと離れたい甘み。
これは別物だ。
その後水を飲むとただの水なのにものすごく甘い。これはすごいぞ。舌がどうにかなっている。その証拠にビールがものすごくまずいもの!
結論、砂糖○○倍っていうのは甘み自体を疑うような甘み。
水の味が変化する。ものすごく甘い。
対して、ビールはものすごくまずくなる
日本一甘いvs世界一甘い
真味糖(長野)vs
グラブジャムン(インド)
東京でも三越で買えた。長野県松本のお菓子、真味糖
クルミを入れた時点で砂糖に勝てるわけがない
テレビ番組『秘密のケンミンSHOW』で「これほど甘い菓子には出会ったことない」と取り上げられたらしい開運堂の真味糖。
大雑把に言うとクルミをハチミツや醤油入りの落雁で固めたようなもの。最初の口当たりはやさしいものの、後味がどんどんくどくなってきて尻上がりに甘くなっていく。70点(砂糖が100点として)。
だがクルミ他色々入ってるので、砂糖100%にはやはり勝てない。さて世界はどうだろう?
対してこちら。世界一甘いと言われるインドのグラブジャムン。ドーナツのシロップ漬け。
インドの人もお湯で洗って食う
こちらも検索で「世界一甘い」と書かれてたインドのお菓子。デイリーポータルZでも「世界一甘い!」と取り上げていた。(※検索すると世界一の根拠はけっこう適当だったが、それは日本一もそうで、言いだしっぺが勝ちのようだ)
[参考]インドのドーナツが世界一甘い
この缶詰を買ったインド食材店のインドの方は「甘すぎて、僕なんかはお湯でシロップを落として食べる」と言っていた。むこうで暮らしていると普通に食べるけど、こっちの味に慣れるとインド人でも食べないらしい。
砂糖を食べ続けたあとの我々は、全然甘くない!の合唱
甘みにおいては日本代表の勝ち!
「甘いですよ~、昨日もテレビの人が、リアクション見るっていって買っていきました」と店の人は言っていた。しかし食べてみると「全っ然、甘くない!」と二人声をそろえて言ったくらい普通。点数は50点。
ここまでジャブジャブのシロップ漬けにされてるせいもあるだろうと翌日一人で食べてみたが、やはり甘みはそこそこ。尻上がりにくる真味糖の方が少し強いように思う。
温めるとスパイスの効いたドーナッツをはふはふ食べる感じでうまい。このまま食べていけそうだ。でも世界一甘いと言われるものを常食するのは怖い。どうしよう。お湯か。
人はいずれお湯でドーナッツ洗うようになるのだなあ、と先輩の顔を思い出す。
糖をとりつづけると踊りだす瞬間がある
世界が狂う
「何もかもが甘い!世界が狂ってる!」と試食会中盤のメモにある。人間が許容できる甘さには限界があって、突如イヤになるタイミングがくる。
次の試食はガムシロ。最初っからドギュンと甘く最後までぬかりなく甘い。125点の甘さ。甘すぎてのどがからい。
隣では「ガムシロなんて水みたいなもんだからな」と土屋さんが言う。これが普段超甘党の人が見てる世界か。パトラッシュ、なんて甘ったるいんだ……犬を抱いて眠るフランダースの犬の最後のように、甘い世界で動きたくなくなってくる。
以降、顔がもどらなくなる
感覚が狂う
「疲れた!」と突如大きな声を出してしまう。砂糖は疲れがとれるものだが、疲れをとりすぎて疲れたような感覚がやってくる。しかし声はでかい。体は元気だし感覚も鋭い。
この甘い世界ではテンションが高くなってくる。超甘党の土屋さんがいつもハイテンションなのは糖のせいではないかと思い当たる。
糖類最強
糖類の中で最も甘いのが果糖。砂糖の1.73倍と言われていて、ハチミツの40%を占めるらしい。期待のエースだったが結果は?
果糖は製菓材料のお店で買える
甘いけど、甘みには限界がある
これは甘い!甘さの瞬間最大風速は最高記録。点数では135点をつけた。しかし甘みはすぐに収束し、まあこんなものかとい感じもある。
超甘党の土屋さんは「ガムシロ入れるのは3つ以上は8個も10個もかわらない、甘さには限界がある」と教えてくれた。今回はその気持ちがちょっと分かった。
むちゃくちゃ甘いからといってカラいもののようにのた打ち回ったりはしない。甘さには感じられる限界があるのではないか。
踊ったりした後にこんなこと言ってるので根拠はない。すべて体感での話。
砂糖なのにお菓子
主観だがもっとも美味しかったのは和三盆。粉が細かくて一瞬で溶けてしまい、甘みもあとをひかない。甘み点数は70。雪を食べてるような甘さだ。
よく高級和菓子に「和三盆を使用」と書かれているが、和三盆をそのまま食べても和菓子のような味がする。
幼稚園児が油で和三盆をこねまわしたものでも「シェフにご挨拶したいのですが…」と喜ばれると思う。
和三盆を食べても和菓子の味がする
みつ類総じて甘い
今回は小さじ一杯という容量あたりの比較だったので、シロップ類は砂糖が多く入っていたのかもしれない。
ガムシロは125点。黒蜜(きび糖はこの味が近かった)も105点。と少しだけ高い。ハチミツも自然界にある最高の甘さなだけあって、砂糖より甘く感じた。
容積あたりの甘みにおいては液体総じて強し。
今回の印象だけでもってきた甘いもの。とけたアイス、カルピス原液、チョコなどは総じて凡庸な結果に
カルピス原液やとけたアイスは甘くない
とけたハーゲンダッツは甘いだろうと思っていたが、最低点の25点。カップに口をつけてごくごく飲んでみると重く甘苦しいが、小さじ一杯程度では全然。離乳食のようだ。
カルピス原液も思ったほどは甘くなく60点。しかし「こんなにおいしいのか!」「すっぱいって最高にうまい!」などシロップ中毒者には味の黒船となった。
ブドウ糖や果糖の単糖類特有のすっきりした味。映画で見るコカインのような扱いを見せる超甘党。
甘さの発見
単糖類であるブドウ糖はただ甘みだけがあるようなスッキリした味わい。「いやな感じが全然しない!」と、甘みは感じているのに点数は55点。
いや、55点?あれだけ甘いのに?点数つけておいてなかなか納得がいかない。
「甘いけど、すっきりしてるからかな。やっぱりイヤさが必要なんじゃないか?」とここで見学しながら全部気になって試食してきたお知り合いの伊藤さんから。
なるほど、それは今までの試食から思い当たるところがある。甘さはそれ単体だとすぐに流れていってしまうので、ちょっと舌に留めておくような仕組み、100円ショップで買ってきた金網を設置してS字フックで甘みをひっかけられるようにしておくとぐっと甘くなる。
イヤさ、イヤな後味、それは「高級和菓子って甘くないよね」の逆の話。甘み×くどみ。それが甘さなんじゃないか。
見学しながら好奇心で全部試食した伊藤さん(辛党)。甘すぎてほっかむりをかぶるというメタモルフォーゼも見せた。
塩は味のひっかかりが上がる
すべて試食し終わったあとに、「塩を少し混ぜれば甘さは上がりますよ」というアドバイスを事前にいただいてたので試してみた。塩はまさに引っかかりの装置。ほんの少しの塩でぐっとくどくなる。120点。
油もいいのでは?と言われたが、油をまぜるとなんとなくぐったりしたくらいで、甘みにはそれほど関係がなかった。
甘さの発見
最後のベスト10に行く前に、この日超甘党の土屋さんの口から出た名言をまとめた。
・プリンのシロップが物足りないからグラニュー糖入れてる
・(カルピス原液をなめて)あたしはコップ一杯で飲む女だよ!
・ガムシロは水みたいなもんだから
・ガムシロを3個以上頼むと嫌がられるから、友達にも3個頼んでもらって、合わせて6個入れる
・ボトルでくると全部入れる(ガムシロ)
・親子三代超甘党で、そのばあちゃんが死んだから今日はその追悼だ
・(つぶあん食べて)甘くもなんっともないっ!
・わたしのコーヒーを飲むと歯がとけるって言われる
・私のせいで近所の子供たちみんな甘党になって虫歯だらけになった
シティボーイズのコントで、砂糖にはちみつをかけて食べる人が出てくる。甘党の人は南国のような陽気な世界を生きているのではないかと、ハイテンションな土屋さんを見て思った。さあ、ベスト10だ。
試食が終わったあと食事を摂り、冒頭のガムシロアイスコーヒーをふつうに飲んでいて驚いた。
全試食を図にした。一番左が基準となったきび砂糖
糖ベスト10はこのような結果に終わりました
蟻が見た世界
この世界はなんて甘ったるくてベタベタしているのだろう。シロップ漬けの桃缶のような体で順位付けを終えた。
最高に甘い世界は?甘すぎると人はどうなるの?すべて体感によって知り得た世界があった。
最終的には「イーッとして、ポンッ!」とメモにある。一見して、夢を書き取ったメモのようだが、どういうことかと効かれたらイーッとしてポンッ!なのだとしか説明しようがない。
超甘党の人はやっぱりどこか感覚で生きているところがある。土屋さんの採点結果を見たら2点とか3点とかが並んでたので全部ボツにした。
ちなみにボツになった土屋採点はこれ。砂糖100に比べてチョコが2とか、感覚が論理を超えた採点になっている。
糖は最高の調味料!
それにしても、終わったあとの塩のうまさよ!枝豆食って全身に染み渡る塩の世界。ビールが辛口に思えるなどの変化もあるが、料理全般が飛躍的にうまくなった。
空腹は最高の調味料というが、糖だ。料理のさしすせその一番上にきているのもそのことだ。糖こそが最高の調味料といえよう。
糖、バンザイ!いつか尿から出るその日まで、私は糖を愛することに決めた!
試食あとのビールは糖質50%オフ。これで全部チャラに~!