特集 2019年11月12日

本の索引作りが趣味ってどういうこと?

本の巻末にある「索引」作りが趣味という学者がいた。それって楽しいの?

とある学者のWikipediaを読んでいたら夫婦のなれそめについて「ロールズとマーガレットは本の索引作成という共通の趣味を持っており」という記述があった。

本の索引作りが共通の趣味?? 索引って巻末にある「この言葉は何ページにあります」情報のことだろう。それが楽しいなんてことがあるのか?

索引作り、楽しいというならやってみるか。

1980年生。明日のアーというコントのユニットをはじめました。動画コーナープープーテレビも担当。記事はまじめに書いてます(動画インタビュー)

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ジョン・ロールズの趣味は索引作り

アメリカの哲学者ロールズのWikipediaには「ロールズとマーガレットは本の索引作成という共通の趣味を持っており」

しかも「一緒に最初の休日はニーチェに関する書籍の索引を作成して過ごした」んだそうだ。初デート、索引作り。

索引作りは映画を観に行ったりドライブにでかけたりするのと同じような楽しさがあるのだろうか?

そんな知的な二人の淡い思い出を追体験するために知的なおじさんを呼んだ。

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本に関する記事もいくつかあり本が好きそうな伊藤健史さんと索引作りをする

基本的には学術書につくもの

趣味としての索引作りの可能性を探るため、楽しい仲間をさそうことにした。

デイリーポータルZライターの伊藤健史さんは本が好きそうなので索引作りにも興味あるだろうと声をかけたところたくさん本を持ってきてくれた。

だが索引とは基本的には学術書や百科事典につくもののようで、ロールズ夫妻を目指す今回はノンフィクションの本に限らせてもらった。なので『砂の女』も『家畜人ヤプー』も却下だ。向かい合うには世界が濃すぎるし。

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伊藤さんが持ってきてくれた本。濃い小説ばかりだが、索引は基本的にノンフィクションにつくものだそうだ

 

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古書店に重複してあったノンフィクション本という観点から『心を整える。』(著:長谷部誠 刊:幻冬舎)を選んだ

我々のニーチェはW杯日本代表キャプテン

古書店で2冊以上あるノンフィクションを探したところ『心を整える。』というW杯日本代表キャプテンだった長谷部誠のベストセラー本が見つかった。

「なるほど、ぼくらのニーチェは長谷部なんですね」と伊藤さんが言う。それまで思い入れは全くなかったが、索引をつけさせていただく、という態度になり長谷部氏を尊重する気持ちが芽生えてきた。

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「ぼくらのニーチェは長谷部か~」「きれいな本ですね、シャツが洗いざらしだ」

長谷部を読み解く

一冊全部に索引つけるのは大変そうなので第一章だけにしぼり、とにかくまずは読んでみることにした。

大北:読み終えました、長谷部のことがよく知れました
伊藤:ときどき文豪を引用してくるんですよね
大北:あれだれなんですか、トーマス・カーライル。インテリですね、長谷部
伊藤:検索しました。代表作は『英雄崇拝論』、『フランス革命史』だそうです
大北:長谷部がインテリすぎてぼくらにはまったくわからない(笑)

第一章をざっくりいうと
・長谷部は心を鎮めるよう努めている
・昔は心が不安定でパフォーマンスが悪かった
・心を鎮めるためにこんなことをしている
という内容だ。

試合に勝って時計をもらった話や趣味のひとり温泉の話など、色々な話が「~ということをして心を鎮めている」でそれぞれ結ばれている。タレントエッセイ的な内容でもあり、ビジネス書のようでもある本だ。

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心を鎮める方法が書かれた本のようだ

索引にのせる言葉を選んでいく

さてここから索引を作っていく。どんな言葉を索引に載せればいいのだろうか

伊藤:目次とはちがったものにしないといけないんですよね
大北:何が重要なんでしょうかね
伊藤:前書きに『僕のキーワードは「心」です』って書いてますね
大北:もう、言ってしまってるんだ(笑)。じゃあ心関係を中心に語句をピックアップしていきましょう

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索引の候補となる言葉を拾っていく。膨大な量になっていく

索引を作ってる人に聞いてみる

知り合いに医療系の出版社に勤めている人がいて、仕事で索引も作ってるというのでちょっと聞いてみた。

その人によると普段はソフトで語句を抽出して索引を作るらしい。なかば自動化された作業のようで、面白みがあるという話でもなさそうだった。

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伊藤さんの帽子は2002年W杯のものだったが長谷部は出てないやつだし本人も思い入れなさそうだ

ロールズの索引は素晴らしいらしい

その人は大学で法哲学を専攻してたらしく、索引作りが趣味おじさん、ロールズのことも知っていた。

ロールズが作る索引のすごいところは親子関係まで書き込む詳細なものであることらしい。「Aという項目を知りたければBという項目も参照せよ」というような。

そして主義主張があったうえで誘導が強引でない、そんな索引であるらしい。これはソフトがいくら進化しても作れないものだという。

さすが索引おじさんロールズ。我々は長谷部誠にとってのロールズになりえるのだろうか?

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我々は長谷部のロールズになれるのだろうか?
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メンタルについて書かれた本であるため「無言、気まずくて、悔しさ、悔しさと自分の怒り」など心情をキーワードにしてピックアップしたりした

索引チョイス会議

この本に索引があったとして、どんなことを知りたくて索引にあたるのだろうか。そんなことを考えて大きく4つに分けることにした

・心の対処法
「心を鎮める」など長谷部が問題にどう対処したか、など
・心の問題
「緊張」「胃痛」など心の困りごと
・サッカーに関する言葉
「浦和、レッズ」「W杯」などサッカーの話題からあたりたい人
・ハセが好きなもの
「Mr.Children」「ひとり温泉」など長谷部ファンがあたるであろうこと

今私達はこの本の読者を代表して何が知りたいかを探っている。索引作りにはそんな作業がある。

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伊藤:ちょっとこれは入れたほうがいいかも、Mr.Children。
大北:ハセが好きな音楽だ!
伊藤:第一章以降でもベスト15を発表したり何回か出てくるんですよね

長谷部のことがわかり、親近感がわいている

大北:伊藤さん、これなんですか? 「ハセ」ってキーワードですか?
伊藤:長谷部の呼び名、要りませんか?
大北:要らないと思うんですけど、でもだんだんハセっていう気分にはなってきてますね。親近感がわいてきた

大北:この「自己負担」って言葉はハセが試合に勝って時計もらったときのやつですか?
伊藤:そうです。ぼくのへぇが炸裂した瞬間なんですけど
大北:ロレックスの時計どっちか選べって言われて持ってない方選んだら差額払わされるやつ(笑)
伊藤:差額出さなきゃだめなんだ!っていう驚きが
大北:「自己負担」でそこさかのぼる人いないですよ

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ハイライト、般若になるハセ

大北:「般若」入れたいですよね
伊藤:新人時代に家族を呼んだら試合に出してもらえなかったんですよね※。そのあと壁にボールを蹴りまくってたときですよね、怖いなあ
大北:「悔しさ」と「怒り」もキーワードで拾ってるんですけど、この2つがが兼ね備えられると般若になるんですよね、ハセは

※2軍の試合の遠征メンバーに呼ばれた長谷部は試合に出られると思い家族を呼び寄せた。が、試合には出られず、浦和に戻った長谷部は練習場に忍び込んで壁に向かってボールを蹴り続けた。「般若」のような顔になっていただろう、ということだが長谷部が悔しさを早く消化するようになるきっかけとなったエピソードである。

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こうしてキーワードを固めて、さかのぼってページ数を入れていく

積み上がっていく楽しさがある

大北:見逃しがあるか不安だー
伊藤:これ何度もさかのぼりますね
大北:この「スタイル」ってのは拾わなくていいのか? とか色々戻りますね
伊藤:あー、あった「心を鎮める」ありました
大北:キーワードが増えていくと楽しいですね。充実感がある
伊藤:積み上がっていく楽しさですね

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こうして出来上がった、これが『心を整える。』第一章の索引である。試合や監督のカウントが謎だ

長谷部にめちゃくちゃ詳しくなっていく

大北:出来上がってくのおもしろいですね(笑)
伊藤:試合(笑) 試合の伸びがエグい(笑)
大北:試合なんてワードをチョイスするから…
伊藤:ほぼ全ページにある…

大北:それにしてもめちゃくちゃ長谷部に対して詳しくなっていきました
伊藤:しかも長谷部の心理に
大北:サッカーではなくて(笑)
伊藤:いまだにどんな選手かわかっていない(笑)
大北:誠実で真面目な人、ただサッカーのことはすべてが謎という(笑)

伊藤:ああ、ヴォルフスブルクに住んでた間取りが目に浮かぶようです
大北:ヨシトさん(大久保嘉人)がかつて住んでた部屋ですね(笑)

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伊藤さんが索引作りのために持ってきた本「これダイソーだけで売ってるオリジナルのダイソーブックスってやつなんですけど」

自分だけの索引ができた

伊藤:でもすごいですよね、この索引使えば簡単に般若のところに行けるんだから
大北:般若のとこ(笑)便利ですよね。たしかに自分の愛する本だったらよりアクセスが用意になったり。自分だけの便利さがある
伊藤:ミスターチルドレンだってパッと出ますからね

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伊藤「中がすごいんですよ、こういう本があるんだ!っていう」フリー素材にセリフを入れていったような本でした

大北:これプラモデルが組み上がった感はありますね
伊藤:達成感はすごいなー。でも一冊やれって言われたらすごく大変ですよね

大北:索引の親子関係とかむりでしたね
伊藤:すごいな、それをニーチェでやるんだ!
大北:ぼくら長谷部でさえ無理ですからね
伊藤:長谷部はかく語りき(笑)
大北:ツァラトゥストラ長谷部(笑)


趣味としてはある本に身を捧げる行為

大北:結論、趣味としてはありだと思います。二人でやることによってデート的なことにはなるかもしれないですね、好きな本でやったら楽しそう
伊藤:数時間、長谷部について索引作っただけで楽しかったですからね。申し訳ないですけど長谷部に今まで興味なかったですから

大北:めちゃくちゃ読み込むことになるからその本に身を捧げる感覚ですよね
伊藤:「『心を整える』第1章マニア」のみが共有できる「あーあれね」「はいはい言ってましたね」が醸成されたのが気持ちよかったです。
大北:二人だけのツーカー状態になる。気持ちいいですよね
伊藤:「消化ってあったじゃないですか」「あーはいはい一箇所ありましたね」とか。
大北:「般若」って言って「長谷部が家族呼んだのにレギュラー外された事件ですね」って(笑)
伊藤:でもちゃんと響きました。「おい、般若になってるぞ」って今後の人生で道を踏み外しそうになった時に、長谷部選手の言葉で励ましあえればと思いました。

索引作り、趣味としてはあり。好きな本に身を捧げるような感覚であるし、誰かとともに索引作りをするなら二人だけの共通言語が増えることだろう。

索引作りしたいほど好きな本があればいいが、興味のない本でもそこそこおもしろいので趣味としての可能性は高いことがわかった。

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