初めての水餃子、水槽1780円
水餃子に必要なもの
水餃子をするには何がいるだろう?まず水槽じゃないか。みなさんには思うところはあるだろうけど、ここはぐっとこらえていただきたい。まず水槽、である。
水槽は二千円もしなかったが、あれもこれもと揃えていくうちに五千円を超えてきた。高いぞ、水餃子。
草を模したオブジェ。なくてもいいが、あると水餃子が映えるだろう。
ヒーターとそれを隠す流木風オブジェ。これは本当に必要かどうか疑わしい。
本当に要るの?「水餃子に水草」
水槽の装飾用に水草のオブジェを買う。ちょっと高かったが、これで水餃子が生き生きとして動き回れることだろう(※餃子が死んだように沈む様子はのちに明らかになります)。
これらはもちろんなくてもいいが、水餃子には必要なものもある。そう、底面にしきつめる石だ。
食洗機が石洗機になる。字面だけ見ると投石機に近い。
鬼ババの気分で石を洗う
これからやろうとしているのは熱帯魚じゃない。水餃子なのだ。人の口に入るものだから石は徹底的に洗った。
何度も何度も石をゆすぎ、中性洗剤で二度ほど磨き、最終的には食洗機でもう一度洗った。
風呂場で石を洗っていると、背中から妖気が立ち上ってきた。我が家に旅人が来ていたら、とって食っていたかもしれない。
生の水草もほしいな、昆布でも入れてみるか(ダシ用のだけど)
餃子はデパ地下で買った
レイアウト、これは楽しい。水餃子ファンの気持ちがわかる。
いよいよ完成間近
「水餃子にはLEDライトだね」料理人がそう言っているのを聞いたことがない。
だけど水槽で画像検索すると、みんな照明を設置している。となるとこれは必要なのだろう。食べるのでなくペットなのだから。
照明を近づけ、セロファンで青くした蛍光灯もなんとなく置いた。これでやんちゃな車のように青く光る水餃子が見られるはず。
水餃子も下茹でし、あとは水槽に湯を入れるだけである。さあ、待ちに待った癒しがついに……!
さあ水餃子をしよう
水槽からこんな湯気見たことあるだろうか
完成、水餃子
水槽に水温は40度までと注意書きがしてあった。耐熱ガラスじゃないから壊れてもしらないよ、ということだった。
それは困る。だけどぬるい水餃子も困る。壊れないか、まだいけるか、とぬるめから始めてどんどんお湯を追加する。
気づけば、こんなに熱い水槽を見たことがないというほどにあっつあつの水槽が出来上がった。さあ、感動の瞬間。水餃子を泳がそう。
へえ~、これが水餃子か
餃子は死んでいる
水槽の中に水餃子を泳がせると、ゆっくりと生気なさそうに沈んでいった。
当然だろう。彼らは生きてはいない。それは望んだこととはいえ、頭の中にもやもやが立ち込めた。あるいはこの瞬間、一気に知能指数が下がった脳で出血したのかもしれない。
ヒーターをつける。温水で対流を作り、餃子を動したい。
だが、私の餃子は全く動かない
うすく濁って昆布の匂いがする
思ったよりも水が濁っている。昆布のダシと、水餃子のでんぷん質がとけでているのではないか。
かつてテツandトモは「海の中で昆布のダシが出ないのなんでだろう」と歌っていた。次は「お湯の中で乾燥昆布がダシを出すのは真理である」と歌ってもらいたいものだ。
水槽からは昆布の匂いがする。これは水餃子にない香りだし、熱帯魚の水槽からもしない香りだ。
誰だ、昆布なんて入れたやつは。
水族館でも中華料理屋でもなく、わが家でゆっくり鑑賞する水餃子。男の夢。
(こういうサスペンス映画見たことある…)
暑い…
そしてものすごく暑い。部屋の真ん中に寸胴に入れるくらいのお湯が鎮座しているのだ。ラーメン屋かここは。
実際、昆布のダシが出てるので飲める。水餃子鑑賞というよりはラーメン屋の方が近いのかもしれない。
ものすごく暑い。部屋がラーメン屋の厨房のようだ。
ペットと中華料理の間で
よく見ているとだんだん可愛らしく思えてきた。熱帯魚というよりは、マリモ感覚だ。
つるんとした質感も、(口当たりよさそう…)というより(泳ぎやすそう…)と思えるようになってきた。私自身が、食べるものでなくペットとして捉え始めている。
そうだ、名前をつけてはどうだろう。ためしに「ぎょうこ(餃子)」と呼んでみると、むくむくと別の感情が立ち上がった。
愛の視点で見るとソフトフォーカス(水のにごり)がかかる餃子
愛したペットは中華料理
これが癒しというものか。
だけど愛したペットは中華料理。明日にはより水に溶けているだろう。いずれお別れする運命にあるのだ。(この辺りの心境は脱獄囚に恋した村の娘に近い)
それならいっそのこと食べてみようと思う。
ペットからまた料理に引き戻すために箸を入れる。おかしい、汗が目に入ってしみる。なかなか餃子をつかめないでいる。
汗が目にしみて、なかなかつかめないでいる……
ほっかほかである
飼っていたものを食べる……これが人間の業だ!
餃子としてのうまさ
これから一度はペットとして愛したものを口にする。
だが人間の本能のおそろしさよ。つるんとした口当たりよさそうなボディを前に、舌の下に潜んでいた唾液が待ってましたとばかりに湧き出てきた。
酸味の効いたたれとともに口の中に入ってきたら、もう辛抱たまりまへん!何もかも忘れて、噛んで噛んで口の奥に肉のうまみを行き渡らせて……
だめだ!私は、けだものだ!
そうして私は、愛する家族をたべることになったゾンビの気持ちをちょっとだけ分かったのです。
味はふつうだ~
水槽から何かを食べること
そもそもの発端は、金魚すくいのちょっとした袋に水餃子が入っていたらおもしろいかな、程度のものだった。だが気づけばゾンビの悲哀みたいなことになっていた。
多少昆布くさいものの、熱々で餃子自体の味はいいし、絶対に自分で納得できるほどすべての器具を丁寧に洗った。だがそれでも納得できない部分もあった。
水槽から出して食ってること、それ自体の違和感というのはやっぱりあるのだ。
いや、待てよ、それならイケスはどうだ。イケスも取り出してすぐ食べる。水槽に魚がたくさん入ってるイケスだとすると意識の問題はないはずだ。イケスと水槽のちがいとはなんだ?水草か?
どうやらやっぱりあの水草は要らなかったのである。