特集 2012年7月17日

若者のお尻の穴を食べた

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突然だが、もう亡くなってしまった僕の父方の祖父母は有明海沿いの町に住んでいた。少年時代の僕は、遊びに行く度にカニをはじめとする有明海の特産品を食べるのを楽しみにしていたものだった。
そんなある日、祖父がバリバリの九州弁で「有明海の若者の尻の穴は美味い。」と驚愕の一言を放った。
小学生だった当時の僕は「さすがじいちゃん、人生経験の厚みが違うぜ!」と感心していた。
月日は流れて十数年、僕も成長して大人になった今、そろそろお尻の穴のひとつでも経験しておこうかと思い立ち、有明海へと飛んだ。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

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有明珍味の数々に圧倒される

一応断っておくが、「若者のお尻の穴」とは食べ物の名前である。ご安心頂きたい。
バフンウニよりも食材にふさわしくないネーミングだと思うのだがどうか。
道の駅では「よく来てくれたな!」と佐賀弁で歓迎された。
道の駅では「よく来てくれたな!」と佐賀弁で歓迎された。
若者のお尻の穴は有明海名物であるという。有明海の若者の・・・。荒海で鍛えられた屈強な海の男を連想させるではないか。なぜか心ときめく。
さて、地域の特産品ならとりあえず道の駅だろうということで、佐賀県は太良町の道の駅を訪れた。
ムツゴロウが当然のように売られている。「地もの」って、そりゃそうだろう。
ムツゴロウが当然のように売られている。「地もの」って、そりゃそうだろう。
館内は興味深い有明海の幸であふれている。
エイリアンみたいでかっこいいワラスボの干物。
エイリアンみたいでかっこいいワラスボの干物。
現地では「くつぞこ」と呼ばれて親しまれているシタビラメの一種なのだが…
現地では「くつぞこ」と呼ばれて親しまれているシタビラメの一種なのだが…
なぜか品名が「カニ」。
なぜか品名が「カニ」。
…確かに海の幸は豊富だが、若者のお尻の穴は見当たらない。
僕が見たいのは若者のお尻の穴なのだ。お尻の穴が見たいのだ。

職員の方に訊ねてみると、太良町のあたりではあまり若者のお尻の穴は食べないらしい。よく食べられているのは有明海沿岸でも限られた地域で、たとえば福岡県柳川が有名だそうだ。
というわけでやってきましたよ柳川。なるほど、噂にたがわずきれいな街並みだ。
というわけでやってきましたよ柳川。なるほど、噂にたがわずきれいな街並みだ。
柳川といえば風光明媚な観光地として知られている。お尻の穴などというワードとはなかなか結びつかないが本当にこんなところで見つかるのだろうか。
柳川は詩人北原白秋の出生地でもある。そして尻の穴の産地でもある。
柳川は詩人北原白秋の出生地でもある。そして尻の穴の産地でもある。
ムツゴロウカニ合戦?ストーリーの読解が困難な壁画を発見。
ムツゴロウカニ合戦?ストーリーの読解が困難な壁画を発見。
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柳川の魚屋さんはヤバい。

柳川の街並みを堪能しながら歩いていると鮮魚店を発見した。ちょっと覗いてみよう。
昔ながらの魚屋さんといった佇まい。これは期待できそうだ。
昔ながらの魚屋さんといった佇まい。これは期待できそうだ。
おお!このウナギみたいな魚は!
おお!このウナギみたいな魚は!
生きたワラスボがいる!干物じゃない!
有明海のゲテモ…もとい珍味の代表だが生きた姿ははじめて見た。
顔怖い!でも目はつぶらでかわいい。
顔怖い!でも目はつぶらでかわいい。
口を開けるともっと怖い!
口を開けるともっと怖い!
ワラスボ以外にも有明海の珍生物が所狭しと並んでいる!こりゃ面白い。
せっかくなので一部を紹介したい。
ザリガニみたいなこの生き物はアナジャコ。名前にシャコってついてるけどシャコの仲間じゃないよ。
ザリガニみたいなこの生き物はアナジャコ。名前にシャコってついてるけどシャコの仲間じゃないよ。
当サイトでも取り上げられている。アナジャコは柳川でも売られていた。
有明海では普通のシャコも日常的に食べる。
有明海では普通のシャコも日常的に食べる。
この謎の物体はウミタケという二枚貝の肉。これもなかなかおいしい珍味
この謎の物体はウミタケという二枚貝の肉。これもなかなかおいしい珍味
ものすごい量のクラゲがけっこう大きなかたまりで売られている。時々大発生してニュースになるエチゼンクラゲだろう。
ものすごい量のクラゲがけっこう大きなかたまりで売られている。時々大発生してニュースになるエチゼンクラゲだろう。
地元でメカジャと呼ばれるミドリシャミセンガイという生物。
地元でメカジャと呼ばれるミドリシャミセンガイという生物。
なるほど、三味線みたいな形だ。
なるほど、三味線みたいな形だ。
これはまだ食べたことのない食材だったので少し買ってみた。若者のお尻の穴と一緒に食べよう。
メカジャを買うついでに店主に「若者のお尻の穴ありますか…?」と訊ねると「あるよ!」と威勢のいい答えが!やったぜ!!

正体はイソギンチャク!

「これこれ!」と差し出されたのは海水と共に何かが詰まったビニール袋。
ついに対面!お尻の穴たち!夢のようだ。
ついに対面!お尻の穴たち!夢のようだ。
店主いわく「これがワケノシンノス。うまかよ!」とのこと。
ワケノシンノスとは有明海地方の方言で若者のお尻の穴のことを言う。「ワケ」が若者、「シンノス」がお尻の穴という意味なのだ。
その正体はなんとイソギンチャク!
その正体はなんとイソギンチャク!
袋に詰まっていた物体は生きたイソギンチャクであった。これがワケノシンノス、すなわち若者のお尻の穴の正体だったのだ。

お店の方がおっしゃるには、から揚げがおいしいけど味噌汁に入れたり煮付けにしてもいけるとのこと。色々な料理が作れそうだ。
ちなみにお値段は1キロ2300円だった。高いのか安いのかわからないぜ!
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調理編

いよいよ持ち帰って調理開始だ。
お尻の穴どーん。
お尻の穴どーん。
いざ台所で食材として対峙するとその存在感に圧倒される。
海水から取り出すと丸く縮む。
海水から取り出すと丸く縮む。
さて、調理を行う前にどの辺がシンノス、お尻の穴っぽいのかを確認したい。

まず上面(触手がある側)から観察しよう。
触手は完全に体内にひっこんでいる。
触手は完全に体内にひっこんでいる。
うーん、確かにお尻の穴っぽいかもしれない。
続いて下面(海底にくっついている側)も見てみよう。
なんかキュッてなってる。キュッて。
なんかキュッてなってる。キュッて。
ああー!これはこれでお尻の穴っぽい!
上から見ても尻の穴。下から見ても尻の穴。
尻の穴尻の穴尻の穴尻の穴…。
尻の穴尻の穴尻の穴尻の穴…。
かつてこれほど密度の高い若者のお尻の穴画像を掲載したウェブサイトがあったであろうか。
まあ悪ノリはこれくらいにして調理に移ろう。
まずは尻の穴を開く。こう書くとかなりまずい雰囲気だ。
まずは尻の穴を開く。こう書くとかなりまずい雰囲気だ。
続いてしっかり塩もみしてぬめりと内臓の汚れを取り去る。
続いてしっかり塩もみしてぬめりと内臓の汚れを取り去る。
下ごしらえが済んだワケノシンノス。
下ごしらえが済んだワケノシンノス。
はじめはどうなることかと思ったが、下ごしらえを終えてみれば水分が減り、キノコのような貝のような、とりあえず食材らしい姿にはなってくれた。あとは煮るなり焼くなりするだけだ。

おっと、そういえばもうひとつ食材があった。メカジャ(ミドリシャミセンガイ)だ。
メカジャの下ごしらえは簡単。砂の付いたもやしにそっくりな尾の先端を取り去り、洗うだけ。
メカジャの下ごしらえは簡単。砂の付いたもやしにそっくりな尾の先端を取り去り、洗うだけ。
このメカジャことシャミセンガイという生物は貝の名を冠してはいるが二枚貝とは分類上まったく異なるもの。しかも太古の昔からその姿を変えていない生きた化石でもあるそうだ。
メカジャの中身はこんな感じ。確かにアサリなどの二枚貝とは全然違う。
メカジャの中身はこんな感じ。確かにアサリなどの二枚貝とは全然違う。
メカジャは味噌汁にすることに。濃厚なダシが出ている。ほんのり磯の香りがするのも良い。
メカジャは味噌汁にすることに。濃厚なダシが出ている。ほんのり磯の香りがするのも良い。
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から揚げが美味い!!

さて、いよいよ試食である。ワケノシンノス、一体どのような味わいか。
ワケノシンノスづくし(+メカジャの味噌汁)!
ワケノシンノスづくし(+メカジャの味噌汁)!
この日作ったのは魚屋さんにすすめられたワケノシンノスのから揚げと煮付け、それから刺身とエスカルゴをイメージしたニンニクバター炒めの4品。それからメカジャの味噌汁である。

まずはから揚げから試そう。
外見からは何なのかわからない。
外見からは何なのかわからない。
初めて食べる食材はやはり緊張する。
初めて食べる食材はやはり緊張する。
勇気を出して一口ほおばる。
かなり好みの味でした!
かなり好みの味でした!
おっ。おいしいじゃないか!食感はコリコリとしていて鶏軟骨のから揚げに似ている。さらに磯の香りがほのかに口の中に広がる。サザエと鶏軟骨の中間といったところか。
一口食べたら止まらない。あっという間に完食してしまった。
こちらは煮付け。
こちらは煮付け。
ニンニクバター炒め。上に乗っているのは青のりではなくパセリ。
ニンニクバター炒め。上に乗っているのは青のりではなくパセリ。
煮付けもニンニクバター炒めもそれなりにおいしかったが、ぬめりがやや気になり、万人受けはしないであろうと思われた。塩もみが足りなかったのだろうか。
ただ、磯の貝類がお好きな方にはたまらない味だろう。
メカジャ(ミドリシャミセンガイ)の味噌汁。これがまた美味い!
メカジャ(ミドリシャミセンガイ)の味噌汁。これがまた美味い!
興味本位でワケノシンノスのついでに買ってみたメカジャだが、味噌汁を一口すすってみてその判断は正解だったと確信した。
とても上品なダシがしっかり出ていて大変美味しい。アサリやシジミの味噌汁にも似ているがどこか異なる。フジツボの味噌汁に似ているような気もする。おいしくも不思議な味であった。

さあ、最後はワケノシンノスを生でいただこう。
トリを飾るのはお刺身。
トリを飾るのはお刺身。
刺身も当然おいしいでしょ!
刺身も当然おいしいでしょ!
やはり海の幸は何でも生で食べるのが一番美味しいと思う。きっとイソギンチャクも同じだろう。から揚げがあれだけ美味しかったのだし。
あれっ?
あれっ?
…微妙。火を通していないと食感がギョリギョリして気持ち悪い。それに磯の風味が強すぎる。なんだか大人の味という感じだ。
ワケノシンノスを刺身で味わうには僕はまだまだ若すぎたようだ。

個人的に各メニューに点数をつけると、から揚げ100点、煮付けおよびニンニクバター炒めが各70点、刺身が30点といったところだろうか。
何はともあれ、若者のお尻の穴もといワケノシンノスはただ珍しいだけではなく、個性的で美味しい食材であることが確認できた。

ネーミングの疑問

しかしひとつ疑問が残る。ワケノシンノスという名を与えた人物は何をもって「ワケノ」としたのだろうか。少なくともその人物は若者と年配の方のお尻の穴を見比べた経験があるということだ。肛門科の先生だったのだろうか。
また、この名が定着したのもすごいことだ。それは多くの人がこの名に対して「あ~。確かに若者のお尻の穴っぽいね!お年寄りのとは違うね!」と判断し、納得したということだろう。どうなってんだ有明海。
ワケノシンノスを捌くの図。いい思い出になりました。
ワケノシンノスを捌くの図。いい思い出になりました。
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