銀座で聴けるアルプス民俗音楽
我が人生において、相当縁遠い楽器であったアルプホルンを吹くためにやってきたのは、銀座にある音楽ビヤプラザ ライオン。ここは日替わりの演奏を楽しみながら、おいしいビールが飲める場所で、今日はアルプス音楽団が出演する日。
ビヤホールの生演奏といえば、ハワイアンとかグループサウンズ(ブルーコメッツとか)というイメージだったが、ビールの本場であるドイツもアルプス民俗音楽の文化圏だそうで、ここ音楽ビヤプラザでもアルプス音楽団の人気は高いらしい。
今のところ、どんな音楽なのか全然ピンと来ていないけど、アルプスの少女ハイジのオープニングみたいな感じだろうか。
ライオンというビヤホールがあるのは知っていたけれど、入るのは初めて。
1階は普通のビヤホールで、5階がステージのある音楽ビヤプラザになっている。
オープン前の会場に入ると、アルプス音楽団の方がリハーサル中で、トランペット、チューバ、アコーディオン、ピアノの演奏に合わせて、おじさんがヨロレイヒーと陽気にヨーデルを歌っていた。
なるほど、こういう感じの音楽なのか(想像してください)。言われてみれば、確かにアルプスっぽい気がする。ハイジのオープニング、当たらずとも遠からず。
アルプスを一切感じさせない写真ですが、アルプスを感じさせる音楽なのです。
ちなみにおじさんはヨーデルを歌っているが、この店は食べ放題ではないはずだ(ヨーデル食べ放題っていう歌を知っていますか?)。
アルプホルンが長い
さっそく今回の取材を仲介してくれた友人であり、アルプス音楽団の音楽仲間のある松永さんに、楽団所有のアルプホルンを出してもらった。
青空の下でなく、建物の中で見るアルプホルンは、イメージよりもさらに長く感じる。
長い、長すぎる。アルプス民俗楽器、アルプホルン。
アルプホルンとは、山の斜面に生えた、根元部分の曲がったモミの木などをくり抜いて作られた楽器。
吹く部分にマウスピースという部品があるだけで、指で押さえるボタンや穴が一つもない。音は一種類しか出ないということだろうか。
日本の楽器でいえば、山伏の吹くホラ貝が一番近いような気がする。
直接ではなく、マウスピースというものを付けて吹くそうです。
なんとなく、根元の曲がったアルペンホルン向きの木を探しに行きたくなった。
こんなに長い楽器、アルプスから運んでくのはさぞかし大変だったろうなと思ったが、なんと今時のアルプホルンは、三分割できるんですね。
途中がスポっと抜けるのか。釣り竿でいうところの印籠継ぎだ。
サックスと変わらない大きさになってしまった。
子供の頃、結婚式にお呼ばれをして、そこのウェディングケーキが、食品サンプルみたいに食べられない素材であるという事実にガッカリしたことがある。そんな感じ。
だが私だって、ワンピースの方が性能がいいかもしれないが、持ち運びを考えるとツーピースを買うよなと、話を自分のレベルに引き下げて納得する。服じゃなくて、釣り竿の話ね。
ちゃんと音階があるらしい
このアルプホルン、どんな音が出るのか、松永さんにちょっと吹いてみてもらった。
ブオーンと決まった低音だけが出る楽器かと思ったら、全然違うんですね。
その巨体に似合わない進軍ラッパみたいな高い音。大きい楽器は低い音と決まっているものではないのか。あ、オペラ歌手は体格いいな。そういうこと?
構造としては、ただの穴の開いた長い棒なのに、吹き方だけで音階を調整できるのが不思議。この音、どこかで聞いたことがあるけれど、これがアルプホルンの音だったのか。
アルプホルン、吹けるかな?
このアルプホルン、管楽器だけでなく楽器全般が義務教育止まりの私でも、吹けば音が出るのだろうか。
最近吹いたのは、黒ホッピーの空き瓶。口笛すら吹けない。そんな俺でも、音階は無理として、音くらいは出してみたい。
とりあえず、力いっぱい吹いてみようか。
これ以上強く吹くと、目玉が転がり落ちる。
湿ったマキに火が着くくらい頑張ったが、まったく音が出なかった。出る気がしない。これで音が出るんだったら、吹き矢はうるさくてしょうがないだろう。
いつもならここで諦めるところだが、松永さんがマウスピースだけで練習すれば音は出せるようになるというので、ちょっとやってみることにした。
口を指で引っ張るといいらしいよ。
なるほど、マウスピースだけで音が出るというのも理屈が謎だが、唇の形を変えてやると、出産するゾウの鳴き声みたいな音が出た。
指導されてみるものですね。松永さんは俺の秋元康だ。
最初は力いっぱい吹いて音を出していたが、ちょっとわかってくると、そんなに強く息を吹かなくても、ちゃんと音を出せるようになってくる。
音が出るって面白い。この体験を3歳くらいでやっていれば、私も立派な音楽家になれたのかもしれない。
コスプレで挑むアルプホルン
15分に及ぶ特訓を終え、今度こそはとアルプホルンに再挑戦。
まずは恰好から入らなければと、レーダーホーゼンという民俗衣装をお借りした。
この日のためにハイソックスを購入しました。
見た目はバッチリ。結構似合っているのではないだろうか。これからは私のことを森ボーイと呼んでほしい。
頭が人より大きくて、帽子が乗っかっているだけなのが残念だが。
この格好で吹けなかったら詐欺だろう。
吹いてみると、生まれた星に帰りたがっている怪獣の鳴き声みたいでもあるが、それっぽい音がちゃんと出て、自分でビックリした。
どうやると音の高さを変えられるのかの法則性はまったくわからないけれど、吹き方を適当に変えると、一応音が変わるのがうれしい。
楽しくて、このまま5分ほど吹き続けてしまった。アルプホルン、ちょっと欲しい。これを使って、「なんていっているでしょうかゲーム」とかやりたい。
せっかくなので、この格好で外に出てみたが、全然注目されない。さすが東京ですね。
銀座ではアルプスの民族衣装よりも、看板に乗った猫の方が珍しいのか。
「ほほう、これがフレンチホルンというやつか」
「アップルでアルプスっと」
アルプス音楽団の演奏はハイテンション
せっかくなので、アルプホルンがどんなふうに演奏で使われるのかをみるために、ビヤホールに客として残り、ビールを飲みながらアルプス音楽団のショーを楽しませていただいた。
ステージは、3人のアルプホルンの合奏からスタート。
アルプホルン、穴の開いた長い棒なのに、ちゃんと楽器だ。それだけで曲が成り立っている。是非この人達にホラ貝を吹かせてみたい。きっと山伏もビックリ。
そしてアルプホルンの演奏が終わると、ステージ上は一気にハイテンションとなった。じっくりと演奏を聴かせるスタイルではなく、お客さんを巻きこむタイプのパワフルなステージ。オクトーバーフェストってこんな感じなのだろうか
寡黙な方だと勝手に思っていた、リーダーである竹田さんの軽快なトークが冴える。すごいぞ、アルプス音楽団。
どんどんと客席に流れ込んでくるタイプのステージ。
アコーディオンのおじいちゃんがいい味出している。
もちろんヨーデルのおじさんもノリノリだ。次はヨーデルに挑戦しようかな。
クーグロッケン(カウベル)は、ハンドベルみたいな音かと思ったら、ガシャガシャと豪快でびっくりした。
ステージは三部構成で、後半にはお客さんがアルプホルンを体験するコーナーもあるそうです。吹きたい方は、是非どうぞ。
アルプホルン、正直音を出せると思っていなかったので、それなりに音を出すことができて、大変満足。おかげでおいしいビールが飲めた。
これを機会に、もう少しいい年になったら、尺八でもはじめてみようかと思う。竹を掘るところから。