特集 2012年6月11日

「ちくわサラダ」は完全武装のポテトサラダだった

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熊本に行くので取材ネタがないかネットで調べていたところ、ちくわサラダという料理に行き着いた。「ちくわの穴にポテトサラダを詰めて揚げたもの」という、何とも庶民的というか、しかし庶民的の一言で片付けるには奇妙な、そんな料理である。いったいどういうつもりで作ったのだろうか、ぜひ食べてみたい。
インターネットユーザー。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変わった音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。
『雑に作る ―電子工作で好きなものを作る近道集』(共著)がオライリーから出ました!

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街の人の声

取材前日、別件の仕事で地元の人と一緒になったので、記事のネタになるものがないか聞いてみたのだ。
「そうですねー、何かあったかな…」
突然の質問にちょっと迷っていたので、すかさず下調べの成果をぶつけてみる。
「ちくわの穴にポテトサラダ詰めたやつありますよね?」
「ああ、うーん、ありますね。」
しばし間。
「でも…、あれは別に…。」
「熊本名物ですよね?」
「いや、全然そんなことは…」
「好きですか?」
「うーん、普通…。そうだ!食べ物だったら刺身がおいしいですよ、天草ってわかります?(以下、刺身の話に)」

ちくわサラダに対して、おどろくほどのテンションの低さである。刺身の猛プッシュぶりを見るに、この人が元々ローテンションな人間なわけではない。あの様子はひとえに、ちくわサラダに対する思い入れのなさゆえなのだ。

さらに、あとから他の人にも聞いてみたのだが、同じく「いや、別に…」といった反応であった。どうなんだ、このちくわサラダの存在感…!

いきなり元祖へ

明けて翌日。

いつもなら、元祖の店なんてのは記事のおいしいところなので最後にとっておくのだが、前日のインタビューでなんだか不安になってきたので、いきなり核心に迫ることにした。

ちくわサラダはお弁当屋チェーンの「ヒライ」という店が考案して、広めたそうだ。そのヒライのウェブサイトを見に行くと「ちくわサラダ物語」というページがあり、ちくわサラダに関する詩のようなものが書かれている。詩というか、ほぼ碑文。昨日の二人とは正反対のテンション。そうそう、これだよ。このパッションだよ。
そのパッションを体で受け止めにきた
そのパッションを体で受け止めにきた
熊本市の中心地にある店舗にやってきた。弁当と、量り売りの惣菜を売っていて、全国チェーンでいうとオリジン弁当みたいな店だ。
そして店に入って正面、いきなりど真ん中に鎮座していたのが、これ。
ちくわサラダ!
ちくわサラダ!
あ、でかい。フルサイズのちくわ1本、手のひらには収まらないサイズ。普段ちくわを丸かじりする事がないので忘れていたが、そういえばちくわってデカかったな。ハッとさせられるサイズである。

売り場には3品。元祖ちくわサラダ、元祖ちくわサラダミニの他、アスパラちくわサラダなんてのも並んでいた。
元祖ちくわサラダ
元祖ちくわサラダ
アスパラちくわサラダ
アスパラちくわサラダ
具入りのもあるのか!元祖、アスパラの2本を持ってレジへ。

支払いのついでに聞いてみると、季節によっていろんな味を出しているそうで、これまで他にも納豆や玉子サラダ、おから、焼きそばなどのバリエーションがあったそうだ。
店の奥には食事スペースが控えている
店の奥には食事スペースが控えている
食事スペースではうどんや丼物などの食事を注文することができるのだが、買った惣菜をその場で食べることもできる。2本のちくわサラダを温めてもらった
調味料はソースで
調味料はソースで
ちくわサラダに対して明らかに熱意に欠けていた昨日の地元人2人、そしてそれとは対照的に熱意にあふれていたヒライのサイト。ここで僕も、自分の立場を明らかにしておこう。はっきりいって、あんまり期待してない。だってねえ。ちくわでしょ?練り物に、ポテトサラダ詰める意味がわかんなくない?
かじりついてみる
かじりついてみる
うまいやんけ…
うまいやんけ…
わかりやすい展開すぎてちょっと恥ずかしい。しかし、本当にうまかったのである。
しっとりしたポテトサラダに、ちくわの歯ごたえがボリューム感をプラス。そして衣の油が、揚げ物としてのうまみを担保している。つまりこれはポテトサラダにボリュームと油っ気を補ったものであって、言ってみれば、「完全武装した一人で戦えるポテトサラダ」なのである。付け合わせに甘んじない、主力で活躍できるポテトサラダ。
断面。サラダはちくわの端から注入されているのではなく、ちくわに切り込みを入れて詰められている。おかげで中までポテトたっぷり。
断面。サラダはちくわの端から注入されているのではなく、ちくわに切り込みを入れて詰められている。おかげで中までポテトたっぷり。
入っているポテトサラダはあまりゴロゴロしておらずきめ細かい。具も柔らかめでクリーミー。ポテトの食感だけだが昔マクドナルドにあったベーコンポテトパイの中身を思い出した。
なにぶんでかいので2本食べたらすっかりおなかがいっぱいになってしまった。
なにぶんでかいので2本食べたらすっかりおなかがいっぱいになってしまった。
ちなみにアスパラのほうは、ゆでたグリーンアスパラがまるっと1本入っていた。どちらを食べるかはお好みに応じて。

どのくらい浸透しているのか

前日聞いた地元の人の話だと、ちくわサラダがあるのはヒライだけではないそうだ。他のお弁当屋や、スーパーなんかにもあったりするという。いったいどれほどの普及率なのか、ほかの店にも行ってみた
こちらはダイエーの惣菜コーナー。なし。
こちらはダイエーの惣菜コーナー。なし。
デパ地下の揚物店…にはないか。
デパ地下の揚物店…にはないか。
念のため練り物店もチェックするが無し
念のため練り物店もチェックするが無し
別のスーパーで…
別のスーパーで…
おっと!
おっと!
ダイエーとデパ地下にはなかったが、小さめのスーパーに入ったら一発で発見。さっそく購入。
無駄にメルヘンな場所があったのでここで食べよう
無駄にメルヘンな場所があったのでここで食べよう
ヒライのと同じ見た目
ヒライのと同じ見た目
相変わらず迫力のでかさ。僕はさっき2本も食べたのでけっこうおなかがいっぱいだ。もう、あんまりおいしいと思えないかもしれない…。
かじりついてみる
かじりついてみる
うまいやんけ…
うまいやんけ…
全く同じ展開で申し訳ない。同じ味だったため、ついつい展開まで同じにしてしまった!
バックのクローバーとのコントラストも美しい断面図
バックのクローバーとのコントラストも美しい断面図
写真で見ると若干ポテトサラダの量が多いかな、という気がするけど、食べた印象はそんなに変わらなかった。変わらず、うまい。今日初めて食べたのに、すでにこの味に落ち着きを感じ始めている。

…しかし、ものすごい満腹である。

具で攻める

他にも売ってないか探していると、ヒライとは別のお弁当屋さんを見つけた。
上の看板がくまモン色</a>
上の看板がくまモン色
店内にはちくわサラダ単品のほか、
店内にはちくわサラダ単品のほか、
惣菜盛り合わせにもちくわサラダの姿が
惣菜盛り合わせにもちくわサラダの姿が
単品のみならず盛り合わせまで。元祖であるヒライ以上のフィーチャーぶりである。たまたま店に居合わせた女性二人組が「このクリーミーコロッケは最高においしい」「こんなにおいしいものを他に食べたことがない」と大騒ぎしているのが気になったが、誘惑に負けずちくわサラダを購入。

取材のためとはいえもう4本目だし、ひょっとして、クリーミーコロッケの方がよかったかな…。
かじりついてみる
かじりついてみる
うまいやんけ…
うまいやんけ…
3回目で申し訳ない。しかし、常に期待値よりちょっとだけおいしい。それがちくわサラダなのだ。
かじってみて気づいたのだが、ここのちくわサラダは具が大きい。
特にこの堂々たるハム
特にこの堂々たるハム
芋もちょっとゴロゴロしてる
芋もちょっとゴロゴロしてる
味の方は前の2店と似た感じで、元祖であるヒライの味を踏襲している。守るところは守り、しかし具が大きくてお得感。後発組も決して元祖に負けていない味わいであった。

変な食べ物

3つの店で食べてみたが、東京に帰って改めて思い返してみると、「変な食べ物だったな…」という思いである。もちろんまずいという意味ではなく、おいしい。おいしいけど、今改めてちくわ+ポテトサラダ+天ぷらの組み合わせを考えてみて、おいしさに納得がいかないのだ。

単に組み合わせなので、家で作って再現してみることも可能。しかしあえてそれはせず、「変だったな、あれ…」という余韻を楽しみたい。そんな不思議な存在感の食べ物であった。
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