偏差値の都、駒場東大前
駒場東大前駅近くには学校がたくさんある。東大駒場キャンパスがあり、それに筑波大付属の中高、他に高校が五校もある。
外ででたらめに網を振れば偏差値が入っているような場所。それが駒場東大前だ。
放課後は学生がよく通りかかる立地
中高生がゲームをしている変なマック
初訪問時は去年のこと。そして二回目は今年の1月末。どちらも放課後の時間帯で、頭の良さそうな中高生たちが集まってゲームをしていた。
3人くらいまでのグループはPSPやDSを、4人を超えてくるとトレーディングカードゲームになり、トランプをするものもいた。
私の高校時代には優等生グループがトレーディングカードゲームをやっていた。そのせいか彼らも頭がよさそうに見えた。
トレーディングカードゲーム?テーブルトークRPG?そういうカードゲーム
トランプをしてる者もいた
本題の何ていうのかわからない音楽
そしてかかっていた音楽がとにかくへんだった。
どこかのヨガスタジオでかかってそうな雰囲気で、集中力が高まりそうな音楽。この空気でカードを繰っていると、頭がよさそうというのを超えて、エスパー集団っぽい。彼らはお互いを番号で呼んでいるに違いない。
この状況は1月末に再訪した時も同じだったので驚いた。(同行してた人に話を聞いたが「ぽわ~んとしたへんな音楽でした」とその時のことを覚えていた)
今回、こういう音楽だったと示すためにフリー素材を組み合わせて再現してみた。「ドローン」と呼ばれるボエ~っとした音に、ポコポコしたリズムをつけた。雰囲気はかなり近い。
ゲームしてる中高生の集中力をさらに高めて、エスパー集団にしようとしているのではないか
これは一体何の曲なのか?
しかもこのマクドナルド、これに似たような曲がずっと続くのだ。そんな有線チャンネルあるのか?何かのアルバムか?
そもそもこれは一体どういう音楽なのだろうか。ヒーリングミュージックというものだろうか。それにしてはヒーリングしなさそうだ。
再訪問にあたって、音楽に詳しい人を呼んだ。ミュージシャンの上西さんだ。
音楽に詳しい人を呼んで確認しに行った
「おれ音楽詳しくないですよ(笑)」と言う上西さんだが少なくとも私よりは知っているはず。知らなくてもジャンルの呼び名であるとか、ヒントはもらえることだろう。
上西さんと合流して駒場東大前のマクドナルドに着いたのは木曜日午後6時。さあ、これなんていう音楽ですか、上西さん?
「普通のJPOPですね」
平日午後6時、JPOPが鳴り響く
BGMは普通のJPOPだった。そうです、その通りのJPOPでした。ゲームしている学生はまだちらっとだけいるが、あとは他のマックと何も変らない風景。
上西さんは浅草で打ち合わせがあったその足でここに来てもらった。あと何分で着くとか、どこにいますかとか、ほんとに僕でいいんですかねとか、すべて乗り越えて1分で終了。あまりの気まずさに私は幽体離脱をし、店の片隅でその状況を見下ろしていた。
そうだ、もう一度よく聞いてみよう、JPOPの形をとっているが、その志は集中力を高めようとした音楽なのかもしれない…
あ~、うんうん、これ普通のJ-POPですね
音楽に詳しい人を呼ぶ
「シフトで担当者が変わるとBGMが変わったりもするんじゃないですかね」
なるほどその可能性もある。私の前の訪問は2012年1月31日火曜日午後4時だった。学校が終わり、夕方までの高校生が最も多くなる時間帯だ。
とりあえず、まずはお昼あたりから、と正午前後を狙って出直した。
翌日、午前11時半
全くもってJPOPであります
午前12時前後のマクドナルドは、依然としてJPOP。「見つめる」「愛しくて」「思いがあふれる」という、あ~これこれ、これこそJPOP歌詞に「迷わずに、SAY YES」と入ってきてびっくりした。"こういうのがJPOP"感覚のモロがきた。(調べたらミヒマルGTの曲だった)
金曜正午前後のマクドナルドは中高生がおらず、大学生以上の構成。もしかしたらヒーリングタイムはまだなのかもしれない。
ものすごく普通のJPOP
マクドナルドに聞いてみよう
そもそもマクドナルドのBGMとはどういうことになっているのだろう。お客様電話相談室に聞いたところ、
・おそらく有線を流している
・マクドナルド専用の音楽チャンネルはない
・各店舗によってちがう
・流すチャンネルについて指定はない
・曲については店舗に聞いてもらうしかない
以上の答えが返ってきた。意外にもマクドナルド専用チャンネルはなかった。
それをふまえて私の予想は
「放課後コアタイムである午後三時~五時には、中高生の集中力を上げるために、店長が独断でヒーリングミュージックのオムニバスCDを持ち込んでかけている」
これである。一体なぜそんな売り上げに関係ないことを?そんな批判が周辺のマクドナルド店長からもあるだろう。それに対する返答ももちろん考えてある。こちらである。
「店長はかつて有名な高校生カードプレイヤーだった。『このゲームに勝って行ける全国大会で、あの子に告白する…』そんな大一番のゲームの最中に実家の酒屋がボヤ騒ぎ。集中を乱した彼は勝負に負けてしまう。酒屋がマクドナルドになった今、高校生たちには集中してカードをやってもらいたくて独自のヒーリングミュージックをかけている」
そして金曜日の午後三時半もう一度チャレンジした。いよいよあの音楽に出会えるか。
金曜午後三時半、変わらずJPOPで泣き出しそうです
またも「愛しすぎ」「せつなくて」「みつめてる」
店内は中高生で満席に近かった。やはりカードゲームをしているグループが複数あった。そしてBGMは…変わらずJPOP。
一体どうしたのだ、店長。もっと集中してカードゲームをやってもらいたいと熱く語ってたあの頃の店長はどこに行ったのだ。
カードゲームをする中高生であふれる店内
店員さんに聞いてみる
答えが出る気配がないので、もう店員さんをつかまえて聞いてみた。
――すいません、前に来たときはファーっとしたヒーリングミュージックみたいなのがずっとかかっていたんですが…
「え?そうですか?うちはJ-POPかJAZZを流してるんですけどね。JAZZでたまたまそういう曲がかかったのかもしれませんが」
――いえ、たまたま一曲というよりずっとそんんな曲がかかってたんです。今年の1月の終わりくらいなんです。
「う~ん…そういえばずっとスピーカーが壊れていたのでそれかもしれないですね」
――エッ!?
「最近直したんですよ」
こ、故障だった!それであんなに角が丸くなった音だったのか。結論、あのヒーリングミュージックは、JPOPを壊れたスピーカーでかけて音をつぶしたものだった。
本当か!でもそうかなるほど、という思いもある。でもそうなのか、本当にそんな偶然の産物なのか?えーっ!?
心が全然晴れません
偶然の産物だった
巣鴨のマクドナルドはじいさんばあさんが多いのでSMLのサイズ表記でなく小中大と書かれていたらしい。グローバリズムが土着化した例だ。
[参考]『おばあちゃんの原宿、巣鴨のマクドナルドは小中大』
このような土着マックの一つとして「中高生の集中力を高めようとする駒場東大前のマック」というのに出会った。だがその実態は偶然の産物だった。
グローバリゼーションの問題とは、そのおもしろくなさである。全国どこに行っても同じであることは大変便利であるがおもしろくはない。
私は怒っている。グローバリゼーションに対して怒っている。問題をすり替えるために今一生懸命怒っている。