ある日のこと
僕は仕事の用事を済ませて、家に帰るところだった。
半日の作業だったけど、頭を使ったのでどっと疲れた。緊張感のある現場で、ややストレスも溜まった。
そうだ、音楽でも聴こう
頭が疲れたときはボーッと音楽でも聴くに限る。安らぎの時間だ。
愛用のMP3プレーヤー
気がつけばもう8年も使っている。今どきの製品にはないボディのでかさ、そして武骨さ。友人に「戦場で使うのか」と茶化されたこともある。コネクタの青いチューブは自分で断線を補修した跡だ。戦場にユーザーサポート窓口はない。自分の腕だけが頼りなのだ。
リモコンを上着に付ける
ちなみに僕は通勤で地下鉄に乗るので、イヤフォンは遮音性の高いカナル型イヤフォンを使っている。耳の穴にねじ込むタイプのやつだ。
これさえあれば多少電車の音がうるさくても、音楽に没頭しやすくなる。
これを耳に入れて…
入れて……!?
ビ、ビクターめ!!!許さん!!!!!!
説明しよう。カナル型イヤフォンは耳に詰める部分が別パーツになっていて、これがちょっとしたことですぐ取れ、そして紛失するのだ。メーカー、なんでこんなに取れやすくするんだよ!
スペアパーツは売っているのだが、いつも持ち歩いているわけではないし、コンビニですぐ買えるわけでもない。
クタクタになって働いた後。癒しを求めて取り出したイヤフォン、そして気づくイヤーピースの紛失。
このときの気持ちは本当に純粋な「怒り」である。裏切られた!!という気持ちになるのだ。
いちおうフォローしておくと、いろんなメーカーのを試したところ、なにもビクターだけが取れやすいわけじゃない。しかしこのときばかりは本当に我を忘れ、メーカーに対する怒りで頭がいっぱいになってしまう。
許さんぞ!!!!!!
備えあれば怒り無し
バカバカしいと思う。そんなことでいちいち激怒してしまう自分が。もうちょっと穏便にコトを済ませてもいいだろう。
考えてみると、本当に必要なのはイヤーピースではなくて「音楽が聴ける」ことだ。イヤーピースのかわりになる物があればいいのだ。
かわりになりそうなもの候補
自作だ。この中から、イヤーピース代替として最適な材料を探すのが、この記事の目的である。
セロハンテープ
よく見ると芯の内側がフランスカラーでオシャレである
セロハンテープはどこにでもある。会社にも、家にも。外出先ならコンビニで買うこともできる。これが代替になるならば、もうイヤーピース紛失問題は瞬時に解決である。
ぐるぐる巻いて
先を切断
悪くないように見える
断面はパイ皮のよう
イヤーピースにはある程度の弾力性が必要なので、テープはわざとゆるめに巻いてある。そのため、断面はパイ皮のようにスカスカだ。
この層構造が、音に深みを与えてくれるのだ(期待)。さっそく付けてみよう。
痛っ!
激痛。
セロハンテープ、意外と固いのだ。パイの皮の一枚一枚が鋭いトゲトゲとなり、僕の外耳を刺激する。耳の穴にねじ込むのはかなり苦行だ。
でもがんばった
使い続けたら耳の中全部かさぶたになりそうだ。
音の面では、パイ皮構造が裏目に出て密閉度がおどろくほど低いため、低音が一切きこえない。残った中高音のみでのスッカスカな音楽鑑賞となる。しかし、実はその点はあまり問題ではない。耳が痛くて音楽など耳に入ってこないからだ。音楽が聴けない辛さを忘れさせてくれる、という意味では、悪くない選択ともいえる。
ガムテープ
それならもうちょっとソフトなテープを使ったらどうか。そう思って用意したのはガムテープだ。紙ではなく布のタイプ。
細く切って巻いていくと…
おっ、
けっこうよさそう!
のりの層が分厚いので、パイ皮がセロハンテープほどスカスカではない。感触も柔らかい。
付けてみるとこのフィット感
予想以上だ!
耳にねじ込む瞬間こそちょっとガサガサするが、入ってしまえば異物感無し。普段づかいする程ではないが、応急処置としては充分つかえる装着感だ。そして音の方は…。
おおおお
すべて表情で察していただく構成の記事で恐縮だが、表情から察してほしい。なかなかいい!
静かなところで聴くには辛いだろうけど、電気屋にスペアを買いに行くまでのつなぎとして、ガヤガヤした野外で使うなら許せるレベル。低音も弱いけどちゃんときこえる。テープの巻き具合で自分の耳に合わせた形にカスタマイズできるのもいいぞ。
すごい、いきなりいい素材が見つかった。ガムテ最高!そう歓喜した直後のことである。
ボロッ
ぐるぐる巻きのガムテープを引っ張ってはガス落としたら、イヤフォン本体側が大破。
けっこう本気で落ち込んだ。
輪ゴム
新しいイヤフォンを買いに行ったところ、この製品は生産終了品だと言われた。愛用品だし、実験も途中なのに…。
結局カッターで部品を削ってペンチで無理やりねじ込んで、力ずくで直した。明らかに耐久性は落ちてそうだけど、新しいのがでるまでこれで持ちこたえよう…。
で、輪ゴムである。
巻きつけた
ゴムの弾力に期待
本物のイヤーピースはシリコン製なのだけど、弾力性があり耳によくフィットする。弾力といえばゴムだ。そこで、輪ゴムである。着用してみると
あれ…
意外にスカスカの感触。なぜだ。それは輪ゴムの素材ではなく、形状に問題があった。
輪ゴムをあんまり端に巻くとイヤフォン外れやすくなるので、ついつい付け根側に巻いてしまうのだ。
結果、遮音のために弾力が必要な、耳に入る部分が先細る形になってしまい、フィット感がスカスカになるのだ。
音も、さよなら低音
ひとつだけ利点を挙げるとすると、外れにくさ。
ゴムだけあって滑り止め性能は抜群、イヤフォンの脱落を抑えてくれる。
でも、この音じゃなあ。すごくがんばってるんだけどがんばりどころが間違ってて成果が出ないタイプ。
スポンジ
まずい、全然いい結果が出ない。ここはもうひと手間を許容することにして、後半3つはちょっと仕込みのいるシリーズです。
まずは右の黄色いのから
こういう髪型のプードルいる
ツートーンカラーがオシャレである
スポンジだ。会社にはないかもしれないが薬局かコンビニに行けば買える。スペア買いに電気屋にいくことを考えたらずいぶん手軽だ。
作るのも簡単、適当なサイズに切って角を削って真ん中に穴を開けるだけ。
着けてみると盛大に耳からはみ出る
通常のイヤーピースは耳の穴で支える感じだが、スポンジは耳に入りきらず、むしろ外側からガッチリとホールドするような形となった。新感覚。
このへんなホールド感が功を奏して、抜群の安定感。素材がスカスカなので音が悪いかと思いきや、意外に低音もガムテープと同じくらいには出ていると思う。
何より、簡単にできるのがいい。スポンジから、ハサミかカッターがあれば、2分かからずにできてしまう。
洗浄用スポンジだけに、耳の中もちょっと綺麗になりそうである。
コルク
ワイン好きのあなたに贈る、とっておきの代替パーツ。
一見できはよい
いいんですよ、見た目は
はっきりいってホームセンターにコルク買いに行くくらいなら電気屋行ってスペアのイヤーピース買った方がいいと思う。素材が意外にもろく加工しにくい上、穴あけにドリルがいるのも重大な欠点である(キリでやると割れる)
なんで候補に入れたかというと、家にコルク板が余っていたからである。
全然入っていかない
コルクって表面がモロモロなので、カッターだとあんまり薄く加工できない。だから耳に入るサイズまでちっちゃくならなかったのだ。弾力も意外になくて、潰して詰めることもできない。ほら、1回開けたコルク栓ってもう戻せないでしょ?耳があの状態なのだ。
無理やり手で抑えて聴いてみる
遮音性はよくて、音の方は悪くなさそうだ。
薄く加工することさえできれば…。と思わなくもないが、さっきも言ったようにここで手を尽くすくらいなら電気屋にいこう。
耳栓
大本命である。
カナル型イヤフォンのことを「耳栓型」とも言うが、それなら本物の耳栓を使えば文句ないのではないか。
はさみで短く切って
穴を開けよう
穴を開けるのに苦労した。串で刺した程度の穴では小さすぎるため、ドリルを柔らかく当ててちょっとずつ掘る、という手を使った。でももっといい手もあるかもしれない。たぶんあると思う。
ヴィヴィッドなオレンジがチャーミング
いかにもフカフカな見た目
装着してみると天にも昇るフィット感!
すごい。完璧な遮音性。外の音が全く聞こえない。まあ耳栓だから当たり前か。純正のイヤーパーツ以上である。
そして音楽を再生してみると…。
おおっ
視界が一変した。音楽なのに、視界が変わったのだ。
曲ではなく、音のひとつひとつが見える。それぞれの音に表情があり、ひとつひとつの音が笑ったり泣いたりしているのが見える。いつも聴いてるこの曲、こんなにも繊細な表現だったのか。こ、これが音楽か!
耳栓まじですごい!
完璧。音もフィット感も純正品以上。欠点を挙げるとすれば、あまりの遮音性能に、野外で使うと危ないかもしれないことくらいだ。(そういうところまで考慮しなければいけないのが大手メーカーの物作りの難しいところなのだろうけど)
ベストは耳栓、手軽にやるならガムテ
いや、もう耳栓はほんとにすごい。下手にいいスピーカー買うより、イヤフォンと耳栓買った方がいいぞ。
二番手としてはガムテか。あくまで一時しのぎの音質だが、とにかく手軽。ただし剥がすときは本当に気をつけて欲しい。
ちなみにオーディオレコーダーに自作の耳穴をつけて聞こえる音を録音するのも試したのですが、ぜんぜん音が再現できなくてダメでした。(この記事で一番時間がかかったところ)
全編、主に表情で察してもらう記事になってしまい恐縮である。