売ってません。捕まえましょう。
この仮説が的を射ていることを証明するには、実際に味見をしてカワアナゴがアナゴ味であることを確認しなくてはならない。
だが実行するにはいきなり問題が立ちはだかる。入手方法である。まず魚屋やスーパーでは買えないマイナーフィッシュなのだ。
某県某河川下流の水路。水際まで緑が生い茂っていてかなりいい雰囲気。
そんなわけで、カワアナゴが棲むというとある川にやって来た。
前日に雨が降ったようで、どろどろに水が濁っている。苦戦を強いられそうだ。
ガサガサガサガサガサガサ
カワアナゴは川底に張り付くか、物陰にじっと潜んでいることが多い。よって本来ならば思い切って水に潜ってめぼしいポイントを探った方が効率はいいのだが、この濁りでは水中なんて見通せたものではない。
そういうわけで水際に生える植物の根元を網でガッサガッサと手当たり次第に掬うという何の芸も無い採集方法、通称「ガサガサ」で挑むことに。
まずスジエビが採れた。肉食性のエビで泥臭さが無く、から揚げにするととても美味しい。しかしお腹に卵を抱えていたので逃がしてあげた。
しかしこのガサガサ。芸は無くとも獲物の種類が多岐にわたり、非常に楽しい。先日も楽しすぎて一日中ガサガサし続けて腰を痛めた。いろんな意味で自分の年齢を考えるべきだと思った。
アメリカザリガニ。一瞬本命かと思ったので、おおいに憎たらしく感じました。
ガサガサすること数十分。ふいに網の中に黒っぽいものがゴロンと入った。
すわカワアナゴかといろめきたつも、正体はアメリカザリガニ。も~、紛らわしいよ。アメリカ帰ってくれよ。
うなだれていたところ、今度は網の中でビチビチと暴れる影が!間違いない。今度は魚だ!
まあブルーギルなんだけどね。
ついに捕獲!
ああ、太陽が沈みよる…。
これら以外にも色んな生き物が採れたが、本命は姿を見せないままあっという間に日が暮れてしまった。こうなったら捕まえるまで川から出ないぜ。そう決意を新たにした瞬間、思いが川の神様に伝わったのか網の中にひと際大きな魚が入った。
ッ!!この瞬間があるから生き物探しはやめられんよね。
ぬるっとした土色の体。間違いない。カワアナゴだ。
しかも全長23センチとこの魚にしてはまあまあの大物。
やっぱどう見てもアナゴじゃないよな…。
写真を見てもらえば分かるように、アナゴとは似ても似つかない魚である。
立派なヒレがあるし、体も太くたくましい。ラグビー部っぽい。均整のとれたかなりかっこいい魚である。
強いてアナゴとの共通点をあげるなら、色が茶色っぽい点くらいだろうか。
顔が似てる??
カワアナゴの顔
アナゴの一種の顔
インターネットを駆使してカワアナゴの名前の由来を調べると、「体じゃなくて顔つきがアナゴに似てるからだよ。」という説が見られた。一瞬、「ああそうなのか」と納得しかけたが上の写真2枚を見比べてほしい。
似てるか!?似てないだろ!絶対!!
これが「似てる」で通るなら僕がキャサリン・ゼタ=ジョーンズ似だと言い張ってもいいことになる。ならんか。
というわけでこの説は個人的には信用できない。というか信用したくない。
もしこの説が正しいなら、カワアナゴと言う魚はずいぶん的外れと言うかテキトーな名前をつけられたものである。
調理編
さて、なにはともあれカワアナゴは手に入った。小さな魚なのでせめてあともう一尾くらい獲っておきたかったが、夜になって雨が降り出し、川が増水しそうだったので渋々引き上げた。
貴重な一尾、慎重に調理して大切に味わわなければ
まな板の上のカワアナゴ。
実を言うと僕は以前にペットとして何匹もカワアナゴを飼っていたことがある。そんなわけでこの魚への愛着は人一倍なのだ。本当はこいつも生かしたまま水槽に入れて育てたい。
しかし今日はあくまで食材と料理人という立場で相対している。心を鬼にしなければ。
ハゼを捌く要領で下ごしらえをする
包丁を入れればいよいよ外見では判断できない部分である肉が露わになる。
白…身?
…おろしてみれば、「まぁ!なんてきれいな白身!本当にアナゴみたい!」という展開を期待ならびに予想していたため、この微妙な色合いの魚肉を見て戸惑った。
なんていうか、うーん。どちらかというとハゼとかアジに近い見た目だ。アナゴじゃない。
まあ、肉の色なんて火を通せばいくらでも変わるものだ。
さて、苦労して用意した小さな小さな半身二枚。どう料理してくれようか。
試食編
カワアナゴの蒲焼きと白焼き。一尾丸々使って一口サイズが二切れ。贅沢。
悩んだ挙句、アナゴ料理と言えばやはり蒲焼きと白焼きだろうという結論に至った。
加熱すると身の色はアナゴにも劣らず真っ白になったが、ただでさえ小さかった半身はどちらも炙る段階でさらに縮まり、ちんちくりんになってしまった。
「本物の」アナゴの貫禄よ。
比較対象である海のアナゴがどんな味だったかを改めてきちんと把握するため、スーパーで買った蒲焼きを用意して食べ比べる。
いただきます!!
さあ、長年の(僕の中での)論争が決着する瞬間である。
まずは白焼きから頬張る。
あれ?あれれ?
あ、フワフワ柔らかくてうまい。本当にアナゴ…っぽい。でも何かが少し違う…。あ、でもやっぱり今一瞬アナゴの味がしたような…。なんだろう、あれ?アナゴってどんな味だっけ…?
「まさしくアナゴ!」か「全然違うじゃねーか、この雑魚が!」の両極端な展開しか想定していなかったので、カワアナゴ選手によるまさかのきわどいコースへのアプローチに頭が混乱する。
ヒントを得ようと焦ってカワアナゴの白焼きの直後に海アナゴの蒲焼きにかぶりつき、味付けのギャップに当てられてさらに舌と脳が取り乱す。
やばい、いったん落ち着いて最終的な答えは蒲焼きを食べてから出そう。
蒲焼きを食べてもこの冴えない表情。
…。とりあえず、うまい。それは確実に言える。臭みもなく柔らかな身。川魚らしからぬ味わい。そうそれはまるで海魚、たとえばアナゴ…。
あ、やっぱりアナゴに似てるよ、カワアナゴの味。やや脂のノリが控えめで大きくて肉厚のアナゴはこれに近い味がするんじゃないだろうかと思った。
挑戦者求む!
ただし、確かに似てはいるが、もちろんまるっきりアナゴと同じ味というわけではない。
強いて言うなら、目隠しをした状態で「アナゴです」と聞かされて食べれば、結構な割合の人がだまされるのではないかといったところである。
でも2口食べただけの僕一人の意見では「カワアナゴの名前 味由来説」の証明にはならないなあ。誰かチャレンジして意見を聞かせてもらえませんかね?