特集 2012年4月19日

異国で途中下車の旅をすると、こうなる

外国で目的もなく電車に乗るとこうなるぞ、という話です
外国で目的もなく電車に乗るとこうなるぞ、という話です
エイプリルフールに勢いでポーランドに行った。

時間の制約もあってホテルのあるワルシャワからあまり離れられないなあ…などと思っていたら、事前に取材する場所を見つけられないまま出発することになってしまった。

ならば当たって砕けろだと、見知らぬ土地しかも外国でぶらり途中下車したらどうなるのかをやってみることにした。

観光とは違った目的のなさが旅っぽくていいじゃないか。
1986年埼玉生まれ、埼玉育ち。大学ではコミュニケーション論を学ぶ。しかし社会に出るためのコミュニケーション力は養えず悲しむ。インドに行ったことがある。NHKのドラマに出たことがある(エキストラで)。(動画インタビュー)

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順調に切符を買う

出発地はウォヴィチ。先日ライターの大北さんが記事にしていた、切り絵の街だ(参照)。ここからワルシャワへ向かう(というかホテルに戻る)1時間の路線の途中、何駅かで下車するのが今回の計画になる。

とりあえずワルシャワ方面の電車に乗ろう。どの電車に乗ればいいのかは切符を買うときに駅員さんからメモをもらった。

なんだ簡単じゃないか。この時点で僕はなんとかなりそうだという確信を得る。
時刻の表記に赤と青があったが、何を意味するのか分からない
時刻の表記に赤と青があったが、何を意味するのか分からない
14時55分に1番線の電車に乗れ、ということか
14時55分に1番線の電車に乗れ、ということか
ホームで電車を待っていると、それっぽいが確信の持てないあやふやな電車が来た。さあ、二択クイズの時間である。

問題.この電車に乗るべきか?
1)まだ5分前だ
2)メモには1番線と書いてあったがこの電車は2番線
3)「ワルシャワなんとか行き」の列車だが、切符に書いてあるのと「なんとか」の部分が違う

伸るか反るかの問題に僕はわりと力強く「これは違う!」と判断した。少し待てばジャスト正解の電車が来るはず。

電車に乗り損ねる

乗るべき電車をまんまと見過ごす瞬間
乗るべき電車をまんまと見過ごす瞬間
時刻表を擦っても擦っても、電車は来ない
時刻表を擦っても擦っても、電車は来ない
中欧の冷たい風にさらされる筆者
中欧の冷たい風にさらされる筆者
答えは「乗るべき」。○×どろんこクイズなら泥だらけである。

おそらくメモに書かれた時刻はアバウトなもので、「1」という数字は「1番ホーム」を意味していたのだろう。幸先の悪いミスだ。例のテレビ番組だったらもっとしっかりやってるだろう。

電車が来るのを弱々しく待つ

次の電車は1時間後。かなり時間が空くので待合室に戻る。

先ほどまでとは打って変わり、いっぺんに弱々しい気持ちになっていた。午前からの取材の疲れがここに来てどっとあらわれたのだろうか、落ち込んだ気持ちが僕に寂しい景色を見させる。
ベンチの隙間に落ちたプリッツのようなもの
ベンチの隙間に落ちたプリッツのようなもの
やたらほそい観葉植物(鉢も薄い)
やたらほそい観葉植物(鉢も薄い)
他にも、ガラスが曇った時計やボロボロに朽ちた壁など、そういうものばかりがカメラに残っていた。もちろんこんなのを見にポーランドまで来たわけではないはずなのだが。

意気消沈しつつぼーっとしてると、ワルシャワ方面へ向かうらしき電車の音が聞こえた。小走りで電車に向かう。
電車の音がして慌てて待合室を飛び出た
電車の音がして慌てて待合室を飛び出た
乗れました
乗れました

ようやく始まる途中下車の旅

こうしてやっと電車に乗れた。

さて待っている間にスマートフォンを使って、ポーランド鉄道のサイトから路線図のPDFをダウンロードしたところ、ワルシャワまでは下図のようになっていることが分かった。

(ちなみにこの路線図のPDF、ポーランド全国の駅を網羅している凶暴なファイルだった)
赤いのが比較的大きな駅だと思われる
赤いのが比較的大きな駅だと思われる
途中下車せずに乗れば1時間ほどの道のりだ。

(上の図を多少正確に説明すると、ワルシャワ周辺はゴチャゴチャしてるので「ワルシャワ」という表記で代表させている。ホテルが近いのはワルシャワスロドミエスチ駅。)

ぶらり途中下車なのに自分がどういう電車に乗っているのかわからない有様だが、まずはウォヴィチから2駅離れたBEDNALY駅を目指す。

果たして一体どんな出会いが待っているのか?
とか言っているうちに目的の駅を通り過ぎた
とか言っているうちに目的の駅を通り過ぎた

列車よ駅を飛ばすな

列車はBEDNALY駅に近づいても速度を落とすことなく、そして、通り過ぎて行った。待っていたかもしれない出会いも一緒に通り過ぎた。

どうやら急行に乗ってしまったらしい。ワルシャワからウォヴィチに来たときは各駅停車だったので、そういうものかと思って油断した。

さらに、少し目立つ駅すら飛ばしていくので、次に一体どこに停車するのかわからない。自分は呪われているのではないかと汗が出る。

一体、僕はどこへ行くのか。途中下車はできるのか。いやあ、これぞ旅ですね(狼狽しながら)。
列車のドアが閉まらないのも怖い。ポーランドのドアは総じて閉まりにくい
列車のドアが閉まらないのも怖い。ポーランドのドアは総じて閉まりにくい
いったん広告です
ちゃんと停まってほっとしています
ちゃんと停まってほっとしています

異臭! SOCHACZEW駅

ノンストップかと思われた列車も10数キロ走ったところで駅に停車した。よかった、ついにはじめての途中下車だ。

喜びを胸に我々は下車、瞬間、臭い! 生き物系とも化学系ともわからないすっぱい匂いがした。煙っぽくもある。正体はわからない。

こう、息を胸いっぱいに吸い込んで「うわーこれがポーランドの田舎町の空気かー」なんていうのが理想だが、深呼吸ははばかられる臭さ。これがこの町の洗礼か。
それでいてどこかで嗅いだことあるような臭い
それでいてどこかで嗅いだことあるような臭い

旧共産圏っぽさ

駅の周りに何かないかとうろうろしていると、ワルシャワの街にはなかった古めかしいデザインのものがいくつかあった。ポーランドが旧共産圏であることを思わせる。

汚れがかなりひどいのだが、フォルムと色使いは古いおもちゃのようでかわいい。こういう分かりやすいのを見られるのであれば途中下車してよかった。
武骨なインターフェース
武骨なインターフェース
角ばったシルエットとものすごい排気ガスのバス
角ばったシルエットとものすごい排気ガスのバス
駅の案内を見ると、近くに鉄道博物館があるそうだ。

なんでこの駅に鉄道博物館が設置されているのかはさっぱりわからないが、あるなら行ってみよう。
駅から200mくらいのところだった
駅から200mくらいのところだった
機関車トーマス的な広場がそこにはあった
機関車トーマス的な広場がそこにはあった

SOCHACZEWで発見 鉄道博物館

なんだか小ぶりな機関車が並んでいて、期待していた以上の様子だ。あらあらまあまあと思って中に入ろうとしたら既に入口は閉まっていた。

看板を見たら、開いているのは午後3時までと書いてあった。ソビエト仕込みのお役所仕事である。時計を見ると今は4時半、閉まっているのも当然だ。

悔しいのでできるだけ堪能してやろうと、裏側からジロジロ見てやった。それと記念撮影。地味。
裏側から見るしかない
裏側から見るしかない
せっかくなので記念写真
せっかくなので記念写真

突撃!謎の塔

そのあと我々は駅近くに戻り、線路のわきにある塔に向かった。でかいし、むやみに絡まった網状の膜と何かが覗きそうな小窓が不気味だ。

同行していた大北さんと「なんでしょうねえ、これ」「なんでしょうなあ」という会話をした。そう、答えはどこにもない。テレビ番組ならあとから編集で正解を付け足してくれるのだろうが、そういうこともできない。(ごめんなさい)
むちゃくちゃ雰囲気がある、けど何?
むちゃくちゃ雰囲気がある、けど何?
魔物を封じたような扉の劣化
魔物を封じたような扉の劣化
さすがヨーロッパという穴
さすがヨーロッパという穴
「たぶん給水塔?」「かな~?」などと結論付け、われわれは駅にもどる。

抱き合うカップル 容赦なく撮る俺

駅のホームにはカップルがいた。電車が来るまで20分以上はあったと思うが、その間彼らはずっと抱きしめあっていた。こんなにべったりする人は日本にはあんまりいない。異文化である。
そこにはむき出しの愛があった
そこにはむき出しの愛があった

ポーランドの流儀

そういえば、このホームでは迎えを待っていたポーランド人男性と会話する機会があった。

地理の話をしたり、「お前らツーリストなの? おれはアルコホーリック!」というアル中ギャグも聞けた。ポーランドに来てようやく現地の人とコミュニケーションできた気がする。

だが散々会話してたのに、このおっちゃんは荷物をまとめるとスッと黙って去って行った。「バーイ」と言うとか、一瞥をくれるとか無く。
ポーランド人すげえ…
ポーランド人すげえ…
一瞬「えっ?」となったが、逆に優雅なのかもしれない。イチャつくカップルとの対比もあって、このドライな去り方には旅行中、最も異文化を感じた。

このおっちゃんがそういう人なだけ、という可能性もある。それはわからない。ただ僕はこの優雅さに敬意を払っておっちゃんを「ポーランドのバロン(伯爵)」と呼ぶことにした。

バロンと別れるとすぐに電車がきた。
もうどこでもいいから停まってほしい
もうどこでもいいから停まってほしい
飛び乗った電車はまたしても急行。もう下車できればどこでもいいが、比較的人がいそうな ブウォニエ(Blonie(lには点が付く))駅で下車したい。(読み方がブウォニエであってるかわからない。)

ポーランドの鉄道の仕組みがまったくわからないために、この途中下車の旅、いちいち不安になる。そもそもこの列車はワルシャワに向かっているのか。
そしてなぜドアがきちんと閉まらないのか。一度、閉めようとしたつもりが逆に開いてしまって、すごくドキドキした。
そしてなぜドアがきちんと閉まらないのか。一度、閉めようとしたつもりが逆に開いてしまって、すごくドキドキした。
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自分がいる正確な位置が分からないのが不安だが、ワルシャワのどこかにたどり着いた
自分がいる正確な位置が分からないのが不安だが、ワルシャワのどこかにたどり着いた

ワルシャワのはずれを歩く

我々は、ワルシャワ中央から数キロ離れたワルシャワなんとか(Warszawa Wlochy(lには点が付く))駅に着いたようだ。読み方はわからない。

路線図のPDFを見ても、ワルシャワ周辺がゴチャゴチャした表示になって位置が不明なのだが、駅名にワルシャワとついているあたりワルシャワのどこかに違いない。

せっかく下車したので、ぶらりと行ってみよう。
読み方が分かりづらいので日暮里みたいなとこだと思います
読み方が分かりづらいので日暮里みたいなとこだと思います

グラフィティにおののく

まずこの駅の地下通路がすごいことになっていた。一面グラフィティやらラクガキやらで覆われているのだ。

ひょっとして、ここはポーランドのギャングが跋扈している地域なのでは…と少し戦慄する。やばい! 読み方が分かりにくいからと言って、ここは日暮里なんかではない!
壁がラクガキで埋め尽くされている
壁がラクガキで埋め尽くされている
ここはやばいとこなのでは…
ここはやばいとこなのでは…
達筆すぎて、アルファベットとして認識できない。どんなことが書かれているのだろうか
達筆すぎて、アルファベットとして認識できない。どんなことが書かれているのだろうか
危ない場所と思いきや実際は駅を出ても人はおらず、ただ管理の行き届いてない駅という感じであった。ポーランド国鉄は万年赤字と聞くから、実際そうなのだろう。安心した。

謎のL

グラフィティと言えば、ポーランドの街には気になるマークがあった。

○の中にLが書かれた変なマークである。たまに王冠みたいなギザギザがついている場合もある。
謎のLマーク。
謎のLマーク。
なんなの?と言われてもわからない。僕はたまたまこれらを見つけてしまっただけの旅行者だ。答えまで求めるのは酷ではないか。

それでも、と言うなら「ポーランド人はLの文字が好きなので、マルで囲んで大切にしているのです」ということにしておいてくれないだろうか。

お地蔵様のような十字架

駅を出るとすぐにあったのはこの十字架。クロスした部分には小さいキリストが飾ってある。ポーランドのお地蔵様みたいなものだろう。

小さいキリストと大きい十字架のバランスの悪さが気になる。どういうことなのだろうか。

そう、考えてみてもわからない。強いて言えば、キリストの像が大きいと夜道でそばを通るとき怖いことが挙げられよう。
大きな十字架だが
大きな十字架だが
キリストはちいさい
キリストはちいさい

最後にポーランドの公園の状況

十字架の裏には大きな公園があった。帰ってから調べたのだが、古い邸宅の敷地を第二次世界大戦後に公園にしたものらしい。

もうそろそろワルシャワに戻らなくてはいけない時間なので、最後にポーランドの公園がどんなものかだけ見て帰ろう。
木の生え方が無計画すぎる
木の生え方が無計画すぎる
遊具のスプリングがすごく柔らかい
遊具のスプリングがすごく柔らかい
公園なのに池の淵の傾斜が挑戦的
公園なのに池の淵の傾斜が挑戦的
犬のフンがたくさん落ちててハトがスリリング
犬のフンがたくさん落ちててハトがスリリング
ひとことで言うと、何も無かった。特に感想も無い。本当に見るだけだった。

このあと駅に戻ると、ふつうに電車が来てふつうに目的のワルシャワスロドミエスチ駅に到着した。なんてあっけない終わり方!

答えは見つからないが謎が見つかる

こうしてやってみた途中下車の旅、テレビ番組とは違うのは、不思議なものがあってもそれが何か分からない点だ。知識はあまり増えないが、疑問はどんどん増えていく。

・SOCHACZEW駅の臭いの原因
・ポーランド人の別れ際のマナー
・Lに丸を書いたマークの意味

一体なんだったのだろうか。出来事を説明しづらいのは難点だが、「有名なものを観て確かめる」だけの答え合わせのような観光とは一線を画す楽しさはあると思った。
「やっと戻ってきた!」と思ったがここは東京から飛行機で10時間の場所
「やっと戻ってきた!」と思ったがここは東京から飛行機で10時間の場所
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