ワルシャワスロドミチエ駅。切符を買ったのはワルシャワ中央駅。
電車に乗るのが難しい
ポーランドの人はあまり英語を使わない。電車に乗るのも一苦労だ。
駅で切符を買ったらどこにも乗り場がない。複雑な地下鉄構内の地図を見てうろうろしてると、次回のドラクエはこういうゲームになってるのではないかと思うほど難しい。
どうやら発車する駅自体ちがったようだ。初心者にそれは難易度高すぎやしないか。このドラクエに感動のラストはなく、乗り遅れて二時間待ちとなった。
グラフィティが延々つづくワルシャワを抜けると
風景が変わり
どんどん田舎っぽくなる。風景は木からして違う。
地方都市ウォヴィチと指宿とハワイについて
目指す街ウォヴィチはワルシャワから50km。都会っぽさが抜けるのに十分な距離だろう。
ウォヴィチの人口は3万人。鹿児島県の指宿市くらいの人口である。お分かりだろうか。ここで問題となってくるのは指宿がどんな町かということだ。
ウォヴィチがどんな町であるかの前に、指宿がどんな町であるか、先にそちらを片を付けることにしよう。
指宿市は「日本のハワイ」を自称しており、毎年4月の市長による「アロハ宣言」があるらしい。
お分かりだろうか。そう、今度はハワイがどんなところであるかが問題になってくるのだ。
こちらがハワイ。気温5度程度。
ヨーロッパの地方都市の女子力の高さ
「へ~、ここが切り絵の街ウォヴィチか~」
説明ゼリフをそのまま口に出すとコントが始まりそうな空気になっておもしろい。旅先でやってみるのをおすすめしたい。
気温は東京の2月くらいだろう。気温は低いが、日射しが暖かい。頭の中では『世界の車窓から』の音楽がずっと流れている。
こういうの見たことある(!)と、ヨーロッパの街並みにミーハー心丸出しで歩いている。
それは地図を見ただけでちがう。この町は中心に教会と広場があるのだ。なんてメルヘンなんだろう!西武に代わってアリオを中心にした近鉄八尾駅前みたいな町ではないのだ。僕はこの時点で心の牡馬を三回去勢した。
ウーマン・リブ!これからは心に内在する女子力を解放し、ヨーロッパの"田舎"と向きあっていく。
こういう街並みテレビで見たことある!
町の真ん中には教会と広場が
駅前にあるのは服屋、雑貨屋……「切り絵こっち→」のような分かりやすい情報はなかった。
大体切り絵ってなんだ?民芸品か。お土産屋を探せばいいのか。
歩いているとおっさんが何か言ってくる。あっちだあっち、と教会の方を指さしている。何か見るべきものがあるのだろうか。
そういえば、地方都市に来ていきなり声をかけられた。ちやほやされたい旅行者は、今すぐ首都をはなれよう。
町の真ん中に教会と広場がある。それだけで何かの物語みたいだ。
お祭りか?
教会の前に人だかりができている。何かが始まろうとしている。お祭りか?屋台も出ている。
なんだ?お祭りか?行列ができている
屋台が一つだけ出てて、パンと飴とクッキーを売っていた。どれも飾りっぽいもの。
右端の馬を模したクッキーを食べてみたが、歯が欠けるかと思うほど硬く、ニッキ味がした
ヨーロッパの田舎旅という壮大な女子会だ
ふらっと来た町でお祭りがやっている。しかもやってるのはでかい数珠を回す地蔵盆のような野暮ったいものではない。ポーランドの民族衣装をまとった若者たちが教会に向かって歩いているのだ。
そして屋台で売ってるのはソースせんべいなんかじゃない。パンとハート型の飴だ。ああ、なんて女子力の高い場所なんだろう。
若者が行列を作って教会の中に入っていく。民族衣装を着た人たちもいた。ウォヴィチは民族衣装を着た聖体節のパレードで有名らしい。
もうこの旅それ自体が、壮大な女子会であるような気がした。ここで私はもう二回ほど心の牡馬を去勢した。これで私の牧場に牡馬はいなくなった。
女性としてテンションの上がりきった私は、その心の盛り上がりをどこにぶつけていいかわからず、とりあえず列に混ざってみることにした。
中はポーランドの若者で寿司詰め、いやSUSHI詰めである。
混ざるのに失敗
教会の中はウォヴィチの学生でぎっちぎち。スラブ系民族のすし詰めをはじめて味わった。
このままポーランド人のふりして息をひそめて混ざっていようかと企んでいたが、(…どういうこと?)(なんで東洋人?)そんな視線が飛び交いまくって、私の生体分子が傷ついていく。
プハっと息を吐きながら教会を出た。思えばこの辺りからおかしなことになっていった。
パンパンである。
切り絵ってどこにあれば見られるのだろう?ここで、左側の女の子に注目していただきたい
どこに切り絵があるの?
教会の周囲はお店が並んでいる。ただし日曜なので大体お休み。さてどうしたらいいんだろう、とぶらぶら歩いていた。
ここで事件が起こる。前を歩く女の子数人がちらちらこちらを振り返ってクスクス笑っている。
このときは旅行者が珍しいのかな程度に思っていたが、残念ながらこれがその後もつづいたのだ。
先程の写真を拡大。もうすでに笑われ始めている。
その後も女の子のグループがこちらを見て笑うことが続いた。
うわ、これ笑われているぞ。気づいたときには目の前が真っ青になった。
私の新しいスタイルはこれだ
心の崩落事故
ショックだった。旅の恥はかき捨てというが、女の子に笑われるというのはなかなかきつい。
ましてや今や牝馬だけとなった私の牧場である。指さして笑われるということが、牧場主失格の烙印を押されているようなものである。
私は残りの牝馬たちを売り払って、もう一度牡馬を集め始めた。もう一度最初からやろう。日本一の牧場を作ろうと決意したあの頃の気持ちに戻ろうと誓った。
私は今、一体何を言っているのだろうか。
ズラリ並んだ芝刈機(たぶん)のデザインに、こういうのの延長線上にF1大人気とかがあるのでは、と思った
見た目が悪いのではないか
この見た目が悪いのではないか。いや、そんな発想に行き着いた時点で弱り切っている証である。
それでもこのロシア人みたいな帽子を日本人がかぶってるのが笑えるのではないか。
例えばそれは人民服を着たアフリカの人みたいな…それは確かに笑ってしまうかもしれないな。
そう思って帽子をとってみると、笑いがへった気もする。ちきしょう、やっぱりこれか!
「共産圏の服みたいやろ」という服屋のおっちゃんのふれこみで買ったコートと帽子が裏目に出た。ちなみに翌冬のバーゲンでは価格が6分の1に下落し「ええもんやけど理解されへんかった」とおっちゃんは言ってた。
途方にくれて飯屋に入るもおしゃれ
切り絵もどこにあるかわからない、町を歩けば笑われるかもしれない…ご飯でも食べて落ち着こう、と食堂と書いてあるお店に入る。
「一体どうすりゃいいんだ」
思わず弱音が口をついて出た。
ところでそんな暗黒のため息をついている食堂がガーリーでかわいい。これがヨーロッパの地方都市だ。持って生まれた女子力がケタ違いだ。
そしてそれは今や牡馬ばかりの牧場主となった私にとって、もっとも必要としていない部分である。
その時のTwitterから。店が地でガーリーをゆく。
英語のメニュー表記にポークチャップと書いてあったもの
ポーランドの地方の食堂
ポークチャップを頼んだらとんかつが出てきた。カツレツだ。シュニッツェルというべきか。今調べるとこちらではコトレットというらしい。
しかしポークチャップである。ケチャップ的なもので煮こまれた豚肉のことだ。英語メニューに訳すときになんでそんなものをあてちゃったのだ。
食べるとこれがまた素朴な味だ。ソースをつけてないとんかつ。それくらいの塩加減だ。
ここで同行してくれたデイリーポータルZライターの藤原が頼んだチキンのなんとかかんとか(覚えてないらしい)を見てみよう。
またもカツである
カツばっかりやで
こちらもチキンカツであった。味付けも同じく、塩コショウ。
付け合せの生野菜は酢は控えめで、油と塩がメイン。少しのハーブが入っている。ポテトも塩。
ソースをかければいいんじゃないだろうか。おい、女子力。女子力さんよ。ソースをかければいいんじゃないかい?聞いているのか、女子力。女子力さんよ。
ウォヴィチに到着して2時間、私たちはまだヨーロッパの"田舎"と折り合いがつかないでいた。
かわいい、ガーリー、おしゃれ……そんなヨーロッパの田舎に拒絶される私たち。奥のテーブルではお人形さんのような子供がいて、手前の東洋人は唇を噛む。
切り絵の店を聞く
もう切り絵を見て終わりにしてもいいと思っていた。店のお兄さんに民芸品が見たいんだけど、と言うとそういうお店があるよと教えてもらった。
切り絵自体は車でちょっと行ったところに博物館のような場所があるらしかった。しかしこれは時間の都合上間に合わなくて、今回は切り絵のきの字が見られたらそれでいいと思っていた。
食堂を出た。そこにいたのは、またもこちらを見て笑っている中学生だ。
うわー、また笑われてるわー
店を出ると彼ら
店を出ると教会前の広場だった。教会の行事を終えたのか、学生たちが外に出てた。またこっちを見てゲラゲラ笑っている。
しかし今までと違ったのは、元気な男の子が奇声を上げていたことだ。ああいうの知ってる、バカ男子だ。クラスで人気のお調子者だ。
あいつならいける。「ジェンドブリィ!」声を上げて近づいてみた。
「こんにちは」と言うものの、「うわー、近よってきたよ(笑)」的なリアクション
ポーランドの中学生は英語を喋ってくれない
「こんにちは」の後、これはお祭りなの?と聞いてもうなずくだけで、英語が返ってこない。学生?と聞いても、仲間内で何か喋ってゲラゲラ笑っている。
無視というか英語を習ってないようだ。この距離にいながらコミュニケーションがとれない。気まずさをお互いに共有する。
この距離にいるのだが、お互い何も喋れない。彼らは輪を作って話しはじめた。丸焼きにされるかもしれない。
何も言わないこの関係性に業を煮やしたのか、お調子者の彼がバクバク食ってたお菓子をくれた。周りはそれを見てゲラゲラ笑っている。
彼にとっては冗談の一つなのかもしれないが、ありがとう、何ていいやつなんだろう、と旅行者としては本気で思った。中学生ギャグに感動するほど私たちは弱っていた。
たぶん教会の行事で配られたお菓子をくれた。だがそれは、君はこんなもの食ってたのか!とひっくり返るほどの味だった。
味のしないコーンスナック
ありがとう…という気持ちから一転、少年からもらったコーンスナックを食べてみると、あ、味がしねえ。
すごいぞこれは、塩味さえしないぞ。世の中にこんなにも味のうすいお菓子があるのかと震え上がるほどだ。ポーランドの味は素朴だな、と言ってたがここまでとは。
「味のうすいものをバクバク食ってると、あたまわるそうに見えるなあ…」
そんなことをしみじみ思ったのだが、今までの感謝を忘れていて我ながら今ひどいと思っている。
「super max」と書いてある。超最大級に味がしないコーンスナック。
ポーランドギャグ「アルコール中毒」
その後も彼らの話は全くわからなかったのだが、一つだけこれは冗談なんだな、とわかったものがある。それがこれだ。
(左側のやつをゆびさして)「アルコホリック!(アルコール中毒)」
ゲラゲラゲラ~
それは悲しいギャグだった
友人の一人を指さして「アルコホリック(こいつアルコール中毒)」と言うと、周囲がゲラゲラ笑う。おお、なんだ。それおもしろいのか。
実はこの後、乗り換えの駅で会ったおっちゃんも「(おれがこの旅行者かって?)いやいや、アルコホリック(笑)」と言っていた。
なんとこのギャグ、流行っているのだ。
調べたところ、蒸留酒ウォッカの国ポーランドにはアル中がものすごく多いらしい。お、お、お、このギャグの背景悲しいぞ(だからこそ向こうの人はおもしろいんだろうけど)。
そしてようやくお土産屋さんについた。首短いなあ。
ようやく切り絵を見た
彼らとお別れして、あいつら素朴でいいやつだったなという思いに包まれていた。
ほとんど何も喋ってないのにお菓子もらって印象を変えるというのは、幼稚園児と一緒だが、それでもあいつはいいやつだと思う。
あんなに味がしないものを一生懸命食べていたし、悪いやつでは決してない。
ところでお土産屋に着いた。壁には切り絵が飾られていた。切り絵のことはどうでもよくなっていた。
なるほど、こういうものなのか
切り絵はこういうものだった
どうでもいいと言いながらも、壁一面に精巧な切り絵が並んでいるのはなかなか圧巻だった。その色合いもデザインもきれいでかわいらしいものだった。
私は牝馬をまた集めはじめた。そう、牧場としてまたやっていく決意を新たにしたのだ。
花やニワトリが切り抜かれている
わしらは鬼や
店のお姉さんは片言の英語で(こちらもそうだが)緊張のあまり手を震わせながら応対してくれた。
お土産をいくつか買ったら少しおまけしてくれて、小さなお土産までくれた。
彼女が「これはあなたへのプレゼントです」と言ってくれたときの目が緊張のあまりもう鬼に対して言ってるかのようだった。「これが今年の貢物です」と言っていたのかもしれない。
流れ着いた外国人が鬼になったという昔話の解釈もあながちウソではあるまい。女子力が戻ってきたなというころに大体こんなことが待っている。
お店のお姉さんがびびってた、なぜ……
切り絵の後日談
その後ワルシャワに戻ったあと切り絵が土産物の定番でどこにでも置いてあるものだと知った。
しかし本場の切り絵はちょっとちがう。額がついて売られている。だから買ってよかったと思っている。
額以外は大体同じなので、額が大事という人はウォヴィチで買うのがいいだろう。
心に巣食う女子発狂ものの店である
折り合いがつく
その後、通りがかったバーの前で同じ年頃の昼から飲んでる男に声をかけられた。
時間が少しあったので、店に入っていったが彼はずっとテレビを見ていた。少し時間を置いて、少し話をしてお別れした。
みんな奥ゆかしい人たちだった。僕が出会った数人のサンプルだけだが、人当たりがいいわけでもなく、恥ずかしがりで優しい人が多かった。
アル中が多かったり、シャイな人が多かったりと、味の薄いものを好んだり。なぜか妙に近い気持ちを抱いてしまうポーランドの人々。これからも遠くから応援してます。