とりあえず話にも出たみかんから始めてみよう。僕がこどもの頃にやってたのがこのみかん風呂だ。
食えるだけ入れればいい
食べられるゆず湯
どうしてこういうことが始まったのかは定かではないが、4人いたこどもたちはゆず湯が大好きで、その延長線上でみかんを浮かべた気がする。
ネットで検索してもちらほら出てきた。ほら、やっぱり悪いのは僕の周りの人たちだ。やってる人はやってる、ラーメンに酢を入れるくらいの文化なのかなと思う。
先に謝っておきますが、モデルを用意できませんでした
食べられるゆず湯
風呂に入ると「風呂って退屈だな~」という中崎タツヤのマンガの台詞を思い出す。ヒマなのだ。
そんなときこのみかん湯である。ゆず湯ほどではないが、みかんの皮もいい匂いがする。はー、いい匂い、と嗅ぐだけでけっこう退屈がまぎれる。
お風呂めしの特徴
→ 『退屈がまぎれる』
そしてころころ柑橘類が転がってるこのユートピア感。ぶらぶら道歩いてて、腹減ったらその辺の草とか石とか食うような感じ。天国ってそういうところだと思うんですよ。そういう意味で天国みたいな世界がここにあるのだ。
お風呂めしの特徴
→ 『食えるものが浮いているというユートピア感』
うまい。中はわりと冷たい。水分が体にしみわたるようだ。
味わうこと味わうこと、風呂で食べるとよく味わう
ぐあ。うまい。ものすごくフレッシュ。汗をかいて体は乾いていたのか。みかんの水分が体中にしみわたるようだ。のどの渇いたお姫様がわらしべ長者とみかんを交換したことを思い出す。
お風呂めしの特徴
→ 『水分を多くふくむものが良い』
水分もいいのだが、一番大事なのは口のギャップだと思う。
口になったつもりでちょっと考えてもらいたい。晩ご飯も終わって次に口に入るのは風呂あがりの麦茶だ。それまで何もない時間がずっと流れる…と思ってたところに、なんだこれは、みかんだ!
つぶつぶに、中に水!?しかもその水が甘くて酸っぱくていい香りがするんですよ。風呂の中でできるしがめるものといえばタオルくらいなもの…そこに、みかんなんて手の込んだものが入ってきてもうお祭りですよ。
みかんってこんなに手の込んだ食べものなのかー、と感心するなんてお風呂だけなんです。とにかく物の味わいがハッキリわかるのが風呂!
お風呂めしの特徴
→ 『味わいが際立つ』
お風呂みかんは大人になってもいいものだった。で、そんな風呂みかんのことを思い出したのには理由があった。
ふと思い立って娘に風呂でバナナを食わせたのだ。風呂に浮かぶバナナにゴクリ……気づけば食べているのは僕の方だった。
皮がついてるものは浮かべてもいいのでお風呂向き
バナナ湯
風呂にバナナを浮かべるとゆず湯ならぬバナナ湯ができた。南洋の冬至はこんな感じでやってるのかもしれない。
いやー、バナナ湯もいい。おもしろい。バナナのその形状のおもしろさ、皮から香る匂い、どれも31才の知的好奇心を満たすには十分すぎるほどだ。えー、こちらインテリ温泉、泉質はバナナ、効能は東大合格でありますー♪
もっちゃりしてる食感も……いける!風呂バナナいけるぞ
のどが乾いたお姫様にバナナを持っていっても、わらしべ伝説はバナナで止まってしまうことだろう。バナナは水分が期待できない、そんなものが風呂に合うのか?と心配していたが……いける、いけます。
水分はそんなにないけど、冷たいもっちゃりしたものが口の中を冷やしてくれる。この温度差いい!あっさりした味わいも、ゆっくり味わえていい。そういえば味覚が敏感になっている気がする。
ちょっと前まで何もなくタオルでもしがんでた世界なので、ちょっとしたものの味がはっきりわかるのだ。
お風呂めしの特徴
→ 『冷たいものがよい』
バナナの匂いってけっこうしますね
写真撮る前に思わず飲んでしまった!
カルピス。うまい。30%くらいうまさ増加中。
冷たい食べ物にイイネ!
カルピスいい!いわずもがな。こんなものうまいに決まってるけど、やっぱりうまい。しかし驚きは少ないなと思って次、おにぎり。
おにぎりイイ!三月の今、冷えたおにぎりなんて食べる気しないがお風呂なら別。冷たい食べものがうまい。
バナナもいけるしおにぎりもいける。お風呂で食べるご飯はマラソンの休憩所っぽいのかもしれない。マラソンには興味ないけど、休憩所には興味があった(小学生が好きな時間は給食と答えるようなものだが)。
これが休憩所ごはんか。あんな大変な思いをしなくても、手軽にそのよさを味わえるのはすばらしいなあ。
はい、おにぎりいただきました、これアリ!
浮かべてこそのお風呂めし
おにぎりもカルピスもよかった、しかしみかんやバナナと決定的にちがうのは、風呂のふたとお盆を使ったこと。
これはやっぱりゆず湯じゃないんだよな、という気もちょっとする。湯の中で浮かべられない分、楽しさが半減するのだ。
そんなわけで次からはまた浮かべられるものに戻ってみたい。
お風呂めしの特徴
→ 『できれば皮のついたもので浮かべたい』
皮でなくても包装であれば浮かべられるなと気づいた
むくという作業も風呂でやればちょっとした脱出ゲームだ
浮かべてこそのお風呂めし
魚肉ソーセージ風呂できた。海を泳いでいた魚たちがとっ捕まえられ、つぶされて、牛や豚たちが腸に詰められるさまに似せられてまた水に帰ってきた。なんか色々あったみたいだけど、おかえり!そしていただきます!
むきにくいビニール包装も、退屈な風呂では一大娯楽だ。今度の週末どこ行く?シネコン?ドライブ?そうだ、ビニール剥こう!
しょっぱいものもうまいなあ
信長公が食べた魚肉ソーセージに
魚肉ソーセージの淡白なあじわいも風呂で食べればごちそうだ。思ったよりも香りが強いのだなとか、若干スパイシーな部分あるなとか、普段意識しないところまで味の探索隊が出る。
いや、もうこれは「お風呂の思考」と呼んでレヴィ=ストロースあたりに研究してもらいたいくらいだが、表現が過剰になってるんじゃなくて、風呂の中ではほんとに「探索隊出まーす」とか頭の中で思っているのだ。
そのあと探索隊は戦国時代にタイムスリップして信長公が魚肉ソーセージ食べたらこんな感じだなとか今タイムスリップしたからこのお風呂タイムマシンだなとか今からタイムパトロールに行ってきます!とかとか。
お風呂の思考を一言で言うと、のぼせているのである。
お風呂めしの特徴
→ 『味をきっかけに思考がドライブする』
このカップ包装も浮かべられるぞ
味見、わー!これはうまいにちがいない!
超絶さわやか
もずく酢がすごい。ものすごくさわやかなのだ。いや、すごい。実際に食べると笑いますよ、これは。何このさわやかさ。
居酒屋でどろんと空気が煮こごりはじめた時に頼んでいたもずく酢が、風呂で食べるとこれはもうカルピスソーダかというほどさわやか。
一息に口に入れるとそのさわやかさに笑ってしまった。わっはっは、さわやかー!もずくがさわやかー!風呂場からもれ聞こえてくるその声に、家族が気味悪がっていたようだ。
酸味、冷たさ、食感のおもしろさ、全部◎で風呂めし界のトップに躍り出た。
お風呂でもずく食うとほんとに今何やってるのかわからなくなりますね
スーパーで連なって売ってるやつ
クリスピーなのがドハマリする
連なってスーパーの棚にぶら下がってるお菓子。浮かべてみてできたおっとっと湯。
湿りやすいスナック菓子はどうなのかな、と思ってたけど、これがまたハマリました。いや、もう、ほんとお風呂めしで食感はものすごく大事。風呂に入って何も食べない喋らない状態に口が飽きているから、そこに放り込まれた食感に口は大喜びする。
こんなパリパリしてサクサクした食べものあるの!?とうれしい悲鳴を上げるほどだが、実際に叫ぶと風呂のエコーがかかってバカくさいのでやめた方がいいだろう。
お風呂めしの特徴
→ 『おもしろい食感がハマりやすい』
パリパリパリパリ、うわ~、おもしろ~!この食感はレジャーだ、レジャー。
ごはんはレンジで加熱する際にちょっとだけ封を切らないといけなかった。おそるおそる入湯。
この辺になってくると「カレーライス湯」というような凝った表現を捨てて、アホと呼びたくなる
風呂で晩ご飯も可能だ
レトルトのカレーとごはんを浮かべてカレーライス湯の出来上がり。いや、たしかにお風呂にカレーとごはんが浮かんでるアホくささは100点満点あげたいくらいなんだが、これどうやって食べるのだ。
思ったよりも取り回しが大変で、しょうがないので風呂のへりでカレーライスをセットする。
味はうまい。渡来してきた感覚だ。これがカレーというものなのですね、という味はずっとする。しかし濃い味はお風呂にはいささか過剰である気もしてくる。そこまでじゃなくてもおいしいです、と遠慮したくなる気持ち。
お風呂めしの特徴
→ 『下界でうまいものは過剰な味になることがある』
しかし、うわー、今お風呂でカレー食べてる!という驚きは思い出したようにやってきておもしろい。
お風呂めしの特徴
→ 『我に返るといつでもおもしろい』
何してるんだこれは、と時折我に返って吹き出してしまう
コース料理といいつつほとんどセブンイレブン産
本日のコース
最後の最後にお風呂で一番食べなさそうなもの、コース料理ができるかどうかやってみたい。
浮かべられそうなものを探ったところ、食前酒→サラダ→ゆでたまご→ハンバーグとパン→デザート、というコースなのかどうかも疑わしい簡単すぎるメニューとなった。
それらをお湯に浮かべるとできた、コース湯だ。フランスの貴族の冬至が出来上がった(と今晩だけでも言わせてください)。
コース湯は、コースのメニューが全てお湯に浮かんでいてメニュー表代わり。これ全部食えるんだな、という多幸感に浸かっているようなものだ。
お風呂でシャンパンあけるのものすごくこわい
ポン。うわ~、風呂なのにおしゃれ!
お風呂のフルコース
お風呂フルコースの開幕を祝い、スパークリングワインを開ける。風呂であけるシャンパンのふたの怖いこと怖いこと。ドキドキ感も3割増し。そして開いたら、ポン。そう、こんなものだ。
なんでこんなことで怖がっていたのか……と脱力と同時にゲラゲラ笑いがこみ上げてくる。
メインよりむしろサラダがうまいんですよね
サラダとメインの逆転現象
前菜用に、袋に詰めて売られていたサラダと小分けにされたドレッシングを浮かべてあった。サラダにドレッシングを注入して食べてみると、う、うまい……しみじみうまい。シャキシャキの食感、そして酸味、冷たさ。待ってました!という味だ。お風呂で欲しい感覚を全部持ちあわせている。
結論から言うと、前菜がメインを超えてしまうそれがお風呂マジック、そしてお風呂マジックはお風呂マジックリンみたいでおいしそうな響きに全くならない。
ハンバーグは魚肉ソーセージに比べると一段落ちるか?下界とこちらの天国では価値観がちがうのだ
風呂で食うクロワッサンめちゃくちゃおもしろいぞ!
メインにはレトルトのハンバーグと、パンはクロワッサン。
今日一番笑ったのがこのクロワッサン。バターとたまごの洋菓子みたいな香りを風呂で嗅ぐのだ。これは強烈な違和感があった。
湯垢がどうしたとか、風呂のフタのサイズが合わないとか、主にそんなことしか考えてなかった風呂という場所。風呂という工業高校に転入してきた美少女がクロワッサンだ。
おれもうバンドはじめる!なんかわかんないけど、バンドはじめます!
クロワッサンはもう笑えて笑えてしょうがなかった、なんでこんなもの食べてるんだという違和感がすごい!
デザートはうまいんだろうなと思って、ちゃんとうまかったのでもう省く。うまいよ!
まとめ
今までに出たお風呂めしの特徴を書きだしてみよう。
『退屈がまぎれる』
『食えるものが浮いているぞ!という天国』
『味わいが際立つ』
『水分がイイ』
『冷たいものがイイ』
『おもしろい食感がイイ』
『うまいものより淡白なものがイイ』
『皮のついたものがイイ』
『味をきっかけに思考がドライブする』
『我に返るといつでもおもしろい』
あ、ありすぎる!こうして書きだすと普段の食事とこんなにも違うのかと実感できる。そして、そんなセンス・オブ・ワンダーは食べものを風呂に持ち込むだけで手に入れられるのだ。このお手軽さにブラボーを贈りたい。今日は大変、ブラボーでございました。
行儀よく、なんてのは大人の都合だ
行儀がわるい、という心配もあるだろう。だけどそこは大丈夫だ。「おれ行儀よくてよかったな~」という場面はこれまでの人生に一度もないのだから。
就職活動のグループ面接で他の志望者全員が「腹へったんだよな~」とポケットに入れてたナポリタンをちゅるちゅる食いだして(なんでもいいが)、それを見てた面接官が「君は食わないの?行儀いいね~、採用!」そんなこと一回もないし、今後も絶対ない!
それに面接で食うナポリタンは就職よりも美味いものかもしれない。だからこそあいつらは食べたのだ。だがもちろんこの閉塞感ただよう時代に、就職はちょう大切。
若く熱意のある君は言うだろう。「就職もナポリタンもあきらめない!」と。
そんな君に言いたい。風呂があるじゃないか、と。就職して仕事して、家に帰ってゆっくりお風呂につかりながらナポリタンを食べなさい、と。
食え!若者よ、バランス釜の風呂でナポリタンをすすれ!