特集 2012年3月24日

都会のオアシス、観賞魚店で水草を愛でる

水族館よりキレイかも。
水族館よりキレイかも。
東京砂漠とはよく言ったもので、あのコンクリートと人の群れをかき分けながら一日中町を歩いていると、やはりふとしたときに大自然の癒しが欲しくなる。緑豊かな里山を心の原風景として持つ日本人として当然のことだろう。
でも都心部に野山は無い。じゃあ水族館か植物園にでも、と思っても会社帰りや買い物の最中にそんな暇はない。
そんなときにうってつけのスポットがある。水草の販売に力を入れている観賞魚店である。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

前の記事:真冬の昆虫採集 「オサ掘り」

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1軒目:渋谷の癒し 「SENSUOUS」
都会と言えば東京。東京と言えば人ごみ。人ごみと言えば渋谷。
この町に緑がもたらす癒しなどありはしない。
言わずと知れたスクランブル交差点の風景。都会の暮らしの中で緑の癒しを求める身にはわずかに点在する街路樹がかえって悲壮感をあおる。
言わずと知れたスクランブル交差点の風景。都会の暮らしの中で緑の癒しを求める身にはわずかに点在する街路樹がかえって悲壮感をあおる。
…と思いそうなものだが実はある。
渋谷駅から徒歩十数分、NHK放送センターの近くにそのお店はひっそりとたたずむ。
こちらです。
こちらです。
ぱっと見たところカフェか雑貨店といった風のお店だが…。
しゃれた箱に流木が。
しゃれた箱に流木が。
大小様々な石も雑然と積まれている。
大小様々な石も雑然と積まれている。
お店の前には石や流木が無造作に積まれている。
どうやら売り物らしいが一体何の店?と初めて通りがかる人は思うかもしれない。
「SENSUOUS Menu」の文字。
「SENSUOUS Menu」の文字。
メニューボードがある!やっぱりカフェじゃん!
しかし良く見ると…。
ヒメダカにカボンバ…。これ魚と水草の価格表じゃん!
ヒメダカにカボンバ…。これ魚と水草の価格表じゃん!
そう!なにかと小洒落ているがこの「SENSUOUS」というお店は正真正銘、れっきとした観賞魚店なのだ。
近年、水槽に水草を植え込んで美しくレイアウトする趣味を持つ人が増えているのだが、
実を言うとこのお店はそんな人たちの間では知らぬ者がないほどの有名どころである。
さっそくお邪魔してみよう。

ガラスの中には草原と森

こんばんは。
こんばんは。
おお、水槽がたくさんある。当り前だけどやっぱり観賞魚店だったのだ。
あなたがもしこのお店に入ったならすぐ、左手にひと際きらびやかな水槽が並んでいるのに気付くだろう。
緑がまぶしい。
緑がまぶしい。
お店を訪れたお客さんの目を引き、レイアウトの参考にしてもらい、さらには心を癒す店主渾身のディスプレイたちだ。
幅たった60センチの水槽に巨岩のはだける草原が!
幅たった60センチの水槽に巨岩のはだける草原が!
こちらの水槽はさながら木漏れ日の射す森のよう。
こちらの水槽はさながら木漏れ日の射す森のよう。
何これ!めちゃくちゃキレイ!
流木や石を巧みに使って森や草原など、美しい陸の景観を水中で再現したようにも、あるいは水草繁り小魚舞う異国の川底をそのまま四角く切り取って来たようにも見える。なんとも不思議な光景が小さなガラスの箱の中に大きく広がっているではないか。
これはいつまででも見ていられる。いや、いつまででも見ていたいと思えた。
家庭に置ける水槽の中でこんなことができるのだから驚きだ。心なしか魚たちも楽しそうだ。
売り物の魚の水槽にも水生のシダを植え付けた流木があしらわれていた。
売り物の魚の水槽にも水生のシダを植え付けた流木があしらわれていた。
この記事を書くにあたって取材させていただいたお店すべてに言えることだが、店内のあちらこちらに水草や魚への愛を感じられるポイントがあった。
たとえばお店で売りに出される時は砂利すら敷かれていない殺風景な水槽でストックされることも多い熱帯魚だが、シンプルながらも綺麗にレイアウトされた水槽で大切に飼われているのを見た時はなんだか嬉しくなってしまった。
商品の陳列もおしゃれだった。
商品の陳列もおしゃれだった。
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2軒目:目黒の名店
「H2目黒店」
続いてはSENSUOUSのある渋谷から電車で少しだけ移動して姉妹店である水辺の動植物専門店、H2目黒店へお邪魔した。
なんとなく熱帯魚屋というより町の花屋という印象を受けた。
なんとなく熱帯魚屋というより町の花屋という印象を受けた。
親しみやすい外観と看板がしっくりと街並みに馴染んでいる。
でも一歩足を踏み入れるとやっぱりすごい水槽がいっぱい。
これでもかと茂った水草はめちゃくちゃ綺麗だけど、魚が遭難したりしないのかと心配にすらなる。
これでもかと茂った水草はめちゃくちゃ綺麗だけど、魚が遭難したりしないのかと心配にすらなる。
向こう側に店内が透けていなかったら山の中にいると錯覚しそう。
向こう側に店内が透けていなかったら山の中にいると錯覚しそう。
文字通り枠にとらわれない水槽もあった。
文字通り枠にとらわれない水槽もあった。
店内にはお客さんが絶えない。
店内にはお客さんが絶えない。
観賞魚店というと水族館のように店内の照明は暗めで、魚の泳ぐ水槽だけがボウッと照らされているイメージだったが、こちらは店内全体がカラッと明るくて入りやすい雰囲気だ。
販売用の水草も丁寧に管理されていてとてもきれい。
販売用の水草も丁寧に管理されていてとてもきれい。
普通の観賞魚店やペットショップではあくまでメインは魚で、水草は刺身のツマというかアクセサリー的に数種類扱われているだけという場合が多いが、専門店は違う。見たこともないようなたくさんの水草たちが各家庭の水槽へ旅立つ日を静かに待っているのだ。

ガラスガラスガラス…。

他のお店でもそうだったのだが、ここで店内にあるレイアウト済み水槽のほとんどがガラス製であることに気がついた。いや、水槽がガラスでできているのはあたりまえなのだが、その徹底ぶりがものすごい。縁にもプラスチックやステンレスを一切使わないオールガラスの水槽ばかりなのだ。
ガラスのみで組み立てられた水槽。清潔で繊細な印象。
ガラスのみで組み立てられた水槽。清潔で繊細な印象。
水槽の形もオーソドックスな横長のものからサイコロ型のもの、フラワーベース風のものまでさまざま。
水槽の形もオーソドックスな横長のものからサイコロ型のもの、フラワーベース風のものまでさまざま。
美しくも無駄な主張を一切しない水槽である。おかげで水草が繁茂する川の底を水ごとそっくり切り取ったようなレイアウト水槽をお店や自室に飾れるのだ。
水槽の中の器具も徹底してガラス製品!
水槽の中の器具も徹底してガラス製品!
さらにこちらの水槽は空間の余白を大きく取った草原を思わせる爽やかなレイアウトだが、写真の右上あたりに注目していただきたい。なにやらガラスの器具があるのに気付く。実はこれは水槽の外にあるろ過機に水を循環させるパイプなどである。
理科の実験器具みたいでやたらスタイリッシュ。当然、この記事で紹介しているような水草に力を入れているお店ではこういった器具を買うこともできる。
理科の実験器具みたいでやたらスタイリッシュ。当然、この記事で紹介しているような水草に力を入れているお店ではこういった器具を買うこともできる。
そういった小物も、水の中の景観を壊さぬよう極力存在感の無いガラス製品を使用しているのだ。確かに、どんなにきれいな水槽でも、人工的な感じがする塩ビ管がごちゃごちゃと張り巡らされていては興ざめだ。でもこれならほとんど気にならない。
プロは水槽を美しく見せるためなら決して配慮を怠らないのだ。
ちなみに、店長さんは「アクアリウムに興味のある方にはぜひ魚と水草を一緒に育ててみてほしいですね。とてもきれいだし、魚にとっても良い環境になります。とても楽しい趣味ですよ。 」とにこやかに語る。

なるほど、水草と魚。どちらが主役というわけではなく、お互いに魅力を引き立て合う存在ということか。店内の水槽を見れば、ああその通りなのだなと直感的に納得できる。
取材協力
SENSUOUS、H2目黒店
http://www.h2-l.jp/
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3軒目:新進気鋭
「アクアリウムショップ アース」
続いては昨夏にオープンしたばかりのお店である「アクアリウムショップ アース」を訪ねた。こちらも立地は世田谷区奥沢と比較的渋谷から近い。
入口からして爽やかな雰囲気。
入口からして爽やかな雰囲気。
水草レイアウトに力を入れている観賞魚店には清潔で洗練された内装のお店が多い。
水草レイアウトに力を入れている観賞魚店には清潔で洗練された内装のお店が多い。
うわっ。店内ピカピカ!オープンして間もないというのもあるだろうが、それにしても片付いている。ホースやバケツが放置されていることも無いし、床も濡れていない。観賞魚店にありがちなニオイももちろん全然ない。なんというか垢ぬけている感じがする。
マリン系ファッションのセレクトショップか。
店内はナチュラルカラーでまとめられていてスタイリッシュ!
店内はナチュラルカラーでまとめられていてスタイリッシュ!
もちろんレイアウト水槽のディスプレイも
もちろんレイアウト水槽のディスプレイも
この日は大きな石や流木を大胆に使ったダイナミックなレイアウトが目立った。製作者によって仕上がりに個性が出るのも水草水槽鑑賞の魅力だ。
この日は大きな石や流木を大胆に使ったダイナミックなレイアウトが目立った。製作者によって仕上がりに個性が出るのも水草水槽鑑賞の魅力だ。
水草で培った技術はサンゴのレイアウトにも応用できる。
水草で培った技術はサンゴのレイアウトにも応用できる。

水草レイアウト水槽を持って帰れる!?

こちらのお店には面白い商品が陳列されていた。
初心者でも安心!そのまま持って帰れる完成済み水槽
初心者でも安心!そのまま持って帰れる完成済み水槽
水は抜いて持ち帰り、自宅でそっと注ぎ直す。
水は抜いて持ち帰り、自宅でそっと注ぎ直す。
運搬中にぐちゃぐちゃになってしまいそうで怖い気もしたが、店長曰くしっかり作られたレイアウトというのはそうそう崩れるものではないそうだ。

水草レイアウトというのは自分のセンスでゼロから作り上げるのも確かに大きな楽しみだが、きれいな水槽が欲しいけれどレイアウトのコツが全然分からないという初心者にはうってつけの商品だろう。見ての通り出来栄えの良さは確実なのだから。
店長は取材中、お客さんに提案する水槽のレイアウト案をパソコンで作っていた。
店長は取材中、お客さんに提案する水槽のレイアウト案をパソコンで作っていた。
こちらをはじめ、水草レイアウトを得意とするお店は完成済み水槽以外にもお客さんから水槽のレイアウト作成や維持の依頼を引き受けていることも多い。個人のほか、病院などからの依頼もあるようだ。
インテリアの要となる水槽の中身をデザインする。さしずめ水中のインテリアコーディネーターといったところか。

道具がいちいちかっこいい

左端はパイプを洗うためのブラシ、その右はガラスにこびりついたコケを落とすためのスクレーバー。ハサミやピンセットは用途に応じて色々な種類がある。単にこういう道具を集めるだけでも楽しそうだ。
左端はパイプを洗うためのブラシ、その右はガラスにこびりついたコケを落とすためのスクレーバー。ハサミやピンセットは用途に応じて色々な種類がある。単にこういう道具を集めるだけでも楽しそうだ。
帰り際に水草の剪定や水槽の掃除に使う道具を見せてもらった。このメーカーのシリーズは全てシルバーで統一されていて、いかにもプロの道具といった感じで大変クール。ハサミやピンセットはまるで医療用のもののようだ。これなら水槽や水道の回りに無造作に放置していても格好がつくかもしれない。
これらはなんと正真正銘の医療用。細かい作業に最適らしいが、都内の観賞魚店ではこちらでしか売られていないのだとか。
これらはなんと正真正銘の医療用。細かい作業に最適らしいが、都内の観賞魚店ではこちらでしか売られていないのだとか。
取材協力
アクアリウムショップ アース
http://www.earth-y2011.com/
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4軒目:
歌舞伎町のオアシス
「アクアフォレスト」
トリを飾るのはなんと新宿歌舞伎町一丁目のお店。
歌舞伎町に観賞魚店?と思われるかもしれない。僕も以前はそう思っていた。だって観賞魚店にとってのネオン看板である水槽の明かりすら見当たらないんだから。
とてもそんなお店があるような雰囲気の街ではないが…。
とてもそんなお店があるような雰囲気の街ではないが…。
それもそのはず。そのお店は地下にあるのだ。
「歌舞伎町」と「地下」という単語から癒しの空間は想像しにくいが、実際とびっきりのオアシスがある。
「歌舞伎町」と「地下」という単語から癒しの空間は想像しにくいが、実際とびっきりのオアシスがある。
最後に紹介するのは新宿サブナード内にある有名店「アクアフォレスト」である。ひょっとすると歌舞伎町に明るい方なら特に観賞魚や水草に関心が無くても存在は知っているかもしれない。
店内は落ち着いた雰囲気で統一されているのだが、店先にだけかなり景気のいい感じの看板が。喜びを隠しきれていない感じがかわいい。
店内は落ち着いた雰囲気で統一されているのだが、店先にだけかなり景気のいい感じの看板が。喜びを隠しきれていない感じがかわいい。
水槽のレイアウトコンテストで優勝した経験があるとか。実力派のスタッフが揃っているようだ。これは楽しみだ。

ミニ水族館的に楽しめる

すばらしい。もじゃもじゃに苔むした流木を大量に、バランス良く配した作品。コケマニアとしてはたまらない。すばらしい。
すばらしい。もじゃもじゃに苔むした流木を大量に、バランス良く配した作品。コケマニアとしてはたまらない。すばらしい。
入口にいきなりこの大作。通路に向けて設置されているということは通行人に足を止めてもらうための水槽であるということだろうが、目論見は大成功だろう。事実、足を止めて感嘆の表情で見入る通行人が大勢いる。
きれいな水槽がたくさんありすぎる。
きれいな水槽がたくさんありすぎる。
ここアクアフォレストはレイアウト水槽の本数が割と多く、見て回るだけでもけっこう時間がつぶせてしまう。ちょっとした水族館+植物園感覚だ。
これは一辺が30センチしかないサイコロ型水槽。レイアウトを担当したスタッフがわかるのもこのお店の特徴。
これは一辺が30センチしかないサイコロ型水槽。レイアウトを担当したスタッフがわかるのもこのお店の特徴。
小さな水槽だって腕次第でこんなにきれいにできるのだ。こんな水槽が自宅の机の上に乗ってたら幸せだろうな…。たぶんこの水槽を見たらだれもが抱く感想だろう。赤い水草のアクセントも素敵。

水草300種!

ずらりと並ぶ販売用の水草たち。
ずらりと並ぶ販売用の水草たち。
お店の方にお話によると時期によって変動はあるものの、水草はだいたい300種以上を揃えているとのことだった。
きっと愛好家たちには水草売り場が水槽というキャンバスを彩る300色の生きた絵の具を乗せたパレットに見えているのだろう。
僕たちもその良さを知るため、ちょっとだけ水草を観察してみよう。
こんな細やかな葉は陸の植物ではそうそうない。
こんな細やかな葉は陸の植物ではそうそうない。
なるほど。たしかに単体で見ても水草はきれいだ。僕は水草の魅力はその繊細さにあるのだと思う。
糸のように細い葉が幾何学模様の華を咲かせ、セロファンのように薄い葉が水中で波打つ様は重力と乾燥という強大の束縛から解放された植物の姿だ。
陸上で生きている人間には、なかなか目にすることができない自然の美だろう。しょせん陸でしか生きていけない僕たちは彼らのそういうところに惹かれてしまうのではないだろうか。
葉っぱが薄いどころかレースのようになっている水草まである。
葉っぱが薄いどころかレースのようになっている水草まである。
取材協力
アクアフォレスト
http://www.a-forest.co.jp/

とりあえず行ってみよう!

なんだか水草の魅力について知ったような口をきいて終わったが、そんなことは問題でないのだ。なんかわからんが水草はきれいでそれでレイアウトした水槽は超きれいでマジ癒されるということだ。それだけは確実。それだけが伝わればOK。
今回紹介したようなお店は日本中に意外とたくさんあるので、興味がわいた方は調べて出向いてみてはいかがだろうか。ひょっとすると生涯続けられる趣味が見つけられるかもしれませんよ。
水草を育てるときは砂利ではなく、粒状の土を使うことが多い。たしかに砂利に根を張る植物なんてあんまり聞かないもんね。
水草を育てるときは砂利ではなく、粒状の土を使うことが多い。たしかに砂利に根を張る植物なんてあんまり聞かないもんね。
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