気になるスポットにはすぐに行くべき!
昔、働いていた会社の近所に明らかにボク好みの「たぶん店長が変な人で、料理の名前とかもダジャレ系のダメな感じのヤツがいっぱいなんだろうな……」というニオイを感じさせるラーメン屋さんがあった。
しかし、何故かその店の前を通りがかる時はいつも、お腹いっぱいでラーメンなんか食べられないモードの時か、もしくはものすごくお腹が空き過ぎていて「こんな全身が栄養分を欲している時に変な物は食いたくない」モードの時で何となーく行きそびれていて、そのまま1年くらい経ったら店がアッサリ潰れてしまったのだ。
へんてこなお店、へんてこなスポットというのは、へんてこ故にいつなくなってしまってもおかしくない一期一会・諸行無常・盛者必衰の存在。だからこそ発見→即突入の心意気で接しなければならなかったのに……オーマイガッ!
……とまあ、そんなこともあったので、最近では気になった場所にはなるべく早めに行くことにしているのだが、それでもどーにもこーにもタイミング&機会が合わずに行けていないスポットも。
そんなスポットのひとつが浅草にある。
浅草というザ・観光地の、さらに観光地・オブ・ザ・観光地である雷門~浅草寺の仲見世通り。そんな超A級観光スポットをちょっと脇に出ると、築20年や30年ではきかないだろうというくらい年季の入りまくった、異様な雰囲気をビンビンに放つ建物があるのだ。
変な存在感があります
この建物、浅草に行くたびにいっつも気になっていたんだけど、浅草に行くのなんて地方から遊びに出てきた知り合いを案内する時くらいなので、さすがに「♪楽しい都、恋の都、夢のパラダイスよ花の東京!」……てな感じでウキウキ東京ウォッチングする気マンマンでいる人を得体の知れない建物探訪に付き合わせるのは悪いでしょ。
「天然・浅草観音温泉」……気になるよねぇ
逆に、ソレに付き合ってくれるような好事家な人だったら、最初から浅草には行かず「東京名所ね、オッケーオッケー!」と、明治大学内にある拷問器具の博物館とかに連れて行くもん。
明治大学博物館の刑事部門にこんなのがいっぱいあるよ
……というワケで今回は、ひとりで浅草を訪れて問題の物件に突入してみようと思うのだ。
衝撃的な事件の警告が
年季が入りまくっているにもほどがある建物にツタが絡まりまくり、ボロいながらも重厚感をかもし出しているのだが、レトロ&チープなフォントで書かれた「唄と踊りで今日も楽しく」という看板によって重厚感台無しに。
ボクはこういう昭和っぽいノリ、好きですけどね
どうもこの建物「浅草観音温泉」なる温泉施設らしい。レジャーの多様化によってさびれきった温泉街とかならともかく、都内の、しかもメジャー観光地のすぐ近くにこんな施設が残っているなんて素晴らしいとしか言いようがないよ!
浅草観音の近くにある温泉だから「浅草観音温泉」という、まあ直球かつ野暮ったい名前もいい感じだしねぇ……。
ちなみに夏場に来るとこんな感じでツタの葉がワッサワッサしております
しかしココ、まだ営業しているのかな? もはや廃墟が残っているだけ状態とかじゃないよねぇ? ……そう思いながら入口らしき扉に近づくと、3月の定休日表が貼ってあったりして、一応営業中らしい。
ホッとすると共に、そこで思わず息をのむ衝撃的な貼り紙を発見してしまった、
これくらいの注意書きはよく見かけるけど……
「1才未満の赤ちゃんは入浴出来ません。うんち事件が多発の為」うわーっ!
おおうっ。
二・二六事件、帝銀事件、生麦事件……事件業界にも色々あるが、未だかつて、これほどショッキングな事件名がかつて存在していただろうか、いやない(反語)。
「これから温泉につかってサッパリするぞ!」という期待感をいきなり打ち砕く「ウチではうんち事件が多発してるよ」というカウンターパンチ。
赤ちゃんが入浴したことによってうんち事件が発生しまくってるから入浴禁止にする、というのはいいけど、別に貼り紙は「1才未満の赤ちゃんは入浴出来ません」でいいのに……。そこで「うんち事件」の件にまで触れてしまう正直者っぷりよ。
ジョージ・ワシントンの例の桜の小話をちょいと思い出しつつ、いよいよ中に入ってみることに……。
完全に昭和! ヘタしたら大正!
外観とちょっとノリが違う壁画……
さて、建物の中に入ると、第二次界大戦時の空襲をもくぐり抜けてるんじゃ感すらただよっていた外観とはまたちがって、レトロはレトロでも、1980年代バブル期テイストなレトロを感じさせる壁画が。
なぜか刑務所っぽさを感じるのはボクだけでしょうか?
一方、下駄箱は昭和初期必至! ヘタしたら大正から使ってるかも……くらいの、ものすごい年季の入りよう。この、時代のちぐはぐ感がムズムズするのよ。
ここ以外にもいっぱいあるんです
それにしても、これだけ靴箱が並んでいる光景はなかなか壮観! しかも結構、鍵が抜かれているようだし、こんなさびれて見えるけど平日の真っ昼間から結構な数のお客さんが来てるんだなぁ、と思っていたら。
「ああ、鍵なくなっちゃったみたいなんだよねぇ。でもまあ、まだまだ使えるのがいっぱいあるから」
と、受付のおっちゃん。あ……そっすか。まあ確かに人の気配をまったく感じないもんなぁ。
しょっちゅう来る人用として「月極貸ロッカー」なんてのもあるようです
こちらは受付。この雑然とした感じもイイ雰囲気
「鍵のスリ替え、持ち逃げ等に注意。土・日は競馬が有り特に注意」決めつけがヒドイ貼り紙が……
床の「それっぽさ」も非常にステキ
21世紀の東京とは思えないほどひなびた空気が漂う館内をぺたぺたと歩いて行くと、またすごくイイものが置かれていた。
これは……
いわゆるライドってヤツですな。しかしなぜここに!?
しかも動かないのね……
貼り紙の変色っぷりを見るに、このバンビさんは随分と前から力尽きていたんだと思うけど……センチメンタルな気持ちになってしまいますな。
「脱衣場の外を全裸で歩き回るなよ」という日本語の注意書きと、「風呂場では全裸だかんな」という英語での注意書き。ビミョーに日本語の読める外国人は混乱しそうね
狂おしいまでにレトロスペクティブ!
さて、脱衣場の方に入ってみると…
ああーっイイ感じ
この建物、全体的にそうではあるものの、特にこの脱衣場は胸がグイグイ締め付けられそうになるほどノスタルジーを喚起してくれる空間。色使い、質感、その他もろもろツボ過ぎる!
ノスタルジーって言ったって、さすがにこんな建物がフツーにあった時代には生まれてないすけどね。何か日本人のDNAに訴えかけてくるものがあるのか……。
しかしこの板張り、どんな風に磨いたらこんなテカテカになるんでしょ
全体的にものすごくボロイ……いや朽ち果てかかってる感はあるものの、ちゃんと掃除は行き届いている感じがまた好印象。
この板張りだって、木材が縮んだり欠けたりしてスキマだらけになっちゃってるのに、すさまじくテッカテカだもん。
そんな、ボロいながらも清潔感のある空間に思いっきり薄ら汚い物体が……マッサージ機かな?
まあ、故障してますわな……予想してました
さっきのバンビさんといい……故障しているなら、さっさと直すなり撤去するなりすればいいのに。
まあ、これだけのサイズのもの、撤去するのにもお金がかかるし、その辺に置いておけばタダでしょ的な戦法なのかなぁ?
こういうところもイチイチいいくたびれっぷり
水銀灯の球が切れちゃったけど、入荷がないんじゃ8月中は一灯で営業するのも致し方ないよね……って、今は3月!
……ま、とにかく温泉に入ってみましょうか
お、おおーっ
いい感じのじーちゃんに出会った
さて、建物自体は古いけれどなかなか趣があってステキな「浅草観音温泉」。
昔の銭湯と言ったら真っ先にイメージされる富士山などのペンキ絵よりはモダンな雰囲気がありつつも、やっぱりレトロ感ただようモザイクタイル絵もイイ味出してるわ。
しかし、なんでマーメイドなんだろ?
あ、コレか、球が切れてる水銀灯って……
ところで、脱衣場からは人の気配が全くしなかったので「とりあえず写真撮っちゃおーっ」と、カメラを持ったまま浴場内に入ったところ、じーちゃんがふたり座っててビックリしましたわ。
だってふたりとも、存在感がほぼゼロだったんだもん。『ドラゴンボール』のスカウターだったら検知できないレベル。
「あのー……お風呂の写真撮っててもいいですかねぇ?」
「あーいいよーいいよー!」
じーちゃんが洗い場でじーっとしている横で全裸にカメラ一丁の男が写真を撮りまくっている様は、端から見たらかなり奇妙な光景だったことだろう。
「熱い Very Hot」って、そこまで熱烈に注意しなくてはならないほど熱いのか
ところで、浴槽はふたつに区切られていて、片方には「熱い Very Hot」なる看板が掲げられているの。
そこまで警告するんじゃ、そりゃーよっぽど熱かろうと思い「熱い Very Hot」じゃない方に足を入れてみたところ……。
両方に足を突っ込んでみましたが、どちらも変わりなく思えるくらい熱い! Very Hot!
一応、冷水が出る蛇口もついているんだけど、熱い風呂を水でうめると江戸っ子のじーちゃんは怒るっていうじゃない? だから、すんごく熱い中、ガマンして入ってると。
ムリするのはよくないですよね
熱いお湯には弱いものの、さすがに下町育ちの江戸っ子じーさん、見知らぬ男(しかも何故か風呂を写真に撮ってたりする不審人物)にバンバン話しかけてくる。
「兄ちゃん、ちゃんと仕事してんのかよ。こんな平日の真っ昼間に風呂入ってるようなヤツはロクなもんじゃねぇからなぁ~。俺? 俺はもともとロクでもねぇからいいんだよ~ワッハッハ!」
「昔はここも観光地みたいな感じで沢山お客さんが来てたんだけどなぁ~。今はアレだろ、メイドっつうの? ソレに行っちゃうから閑古鳥だな」
洗い場には当然シャワーなどなく、それぞれお熱湯と冷水しか出ない蛇口が。両方とも極端な温度なんで調節が難しいの
「ここのお湯、ちょっと黒っぽいだろ? なっ? もともとはもっと真っ黒なお湯が湧いてるんだけどな、衛生がどうとかで濾しちゃってるんだってよ。俺なんかは何か効き目も薄まってる気がするけどなぁ」
まあ、水で薄めてる時点で効き目は薄まってるような気もするけど……。
確かにちょっと黒っぽいかな……。お湯の中に沈んでいるリング状のものは消毒剤なんだとか。うーん、趣が……
このじーちゃんがよくしゃべるしゃべる……。風呂から上がって脱衣場に行っても依然しゃべりまくり。
なぜか下半身丸出しの状態で……。
じーちゃんと話すのも面白かったんだけど、とりあえず脱衣所内の写真も撮っておきたかったので「写真撮りたいんですけど……(だからちょっとどいて!)」とやんわり言ってみると、
「えーっ、このまま撮っちゃって構わねぇ~よ」
いや、じーちゃんがよくても、そんな写真載せようがないからね。
ま、正直、お風呂自体は温泉というよりは銭湯レベルというか……。それで入浴料700円というのはやや高い気もするけど、空間や集まっている人も含めて考えたら十分楽しめましたな。
帰っていくじーちゃん
帰りがけに受付のおっちゃんに聞いたところ、この温泉は昭和36年からやっているんだそうで……思ったよりも古くないなと。戦前くらいからやってそうなイメージだったもんなぁ。
ちなみに温泉の2~3階は以前、休憩所&ダンス会場みたいになっていたらしい。「でももうダンスする人なんていないから」ということで15年くらい前にやめちゃったのだが、未だに問い合わせがあるらしく「やってないって書いといて」と言われたので一応、書いときます。
でも問い合わせられたくなかったら、この看板を外した方がいいんじゃないかなぁ?
ま、とりあえず行っておいてよかった!
温泉は温泉でフツーに好きなので、温泉としてどうだったかと言われると……まあ非常にビミョーな評価なのだけれど、気になってたスポットに行ってみてどうだったのかと問われれば「行ってよかった!」ということになるだろう。
だってココが万一つぶれちゃったとして、後から「こんなとこだった」って誰かから聞いたらやっぱり悔しいもん。
行かないで後悔するよりは、行って後悔した方がいいっ!(いいこと言った風)
●浅草観音温泉
東京都台東区浅草2-7-26
【電話番号】03-3844-4141
【営業時間】6:30~18:00
【定休日】水曜(祝日の場合営業)