飛行機に乗ると浮かれてしまう
「変なところによく行くライター」という職業柄、地方にちょいちょい遠征することがあるのだが、その時どんな交通手段で行くかというのは悩みもの。
まあ、予算などほぼナシの貧乏行軍が基本なので、選択の余地などなく高速バス一択というケースがほとんどなのだけれど、ごくまれにやってくる交通費に余裕のある仕事の場合、大阪くらいの距離でも新幹線ではなく飛行機に乗ってしまう。だって楽しいんだもん、飛行機!
もうこの段階でワクワクします
格安航空券などを探すと実は新幹線より安上がりだったりするものの、自宅から空港まで行く時間、チェックインだなんだかんだする時間を考えると意外と新幹線で行った方が目的地にはやく着いたりするのだが、それでも空飛びたいじゃん! ゴーのピューのキーンよ!?
しかも、なにかあったら落っこちて即死ぬんじゃないかというピリピリ感。雲を上から見下ろすことのできるファンタジー感(飛行機乗ると『天空の城ラピュタ』の歌を口ずさんじゃうよね)。そして、地図で見たことのある地形を実写で見れちゃうグーグルアース感。どれを取っても新幹線など足下にもおよばないわッ! ああっ、好き好き!
ま、ボクの飛行機好きは「バカと煙は高いところが好き」的な理由でしかないのだけれど、世の中には「三度の飯より飛行機大好き!」「飛行機のためなら空も飛べるハズ!」というくらいガチで飛行機をこよなく愛している飛行機マニアがいるんだとか。そんなマニアたちの集う航空関連グッズ専門店があるらしいので今回はそこに行って「バカ煙」枠から一歩抜け出たいと思うのだ。
飛行機マニアたちが集うお店が!
鉄道マニアというのはよく聞くけど、やっぱり飛行機にもマニアっているんだなぁ。となると「乗り鉄」「撮り鉄」みたいに「乗りヒコ」「撮りヒコ」とかジャンル分けされるのか? ……などと思いながらやって来た墨田区石原。フツーの住宅街風の街に超・マニアックなお店があるらしいのだが……。
ありました! 航空グッズ専門店「パイロットハウス」
パッと見、いわゆる街の模型屋さん的な雰囲気がただよっているお店だが、並んでいる商品は航空グッズだらけ! さらに店内に足を踏み入れると……。
茶髪&小麦色の肌をしたプレイボーイ風な機長がお出迎え!
店内はもちろん航空グッズがいっぱい
各国の航空会社のピンズ
飛行機DVD。こんなに出てるんだ!
機長(?)の帽子も山盛り
さらに「その辺のおもちゃ屋でも売られているんじゃないの?」といった感じの飛行機のおもちゃから
「どこから手に入れてきたんだ!?」と出所が不安になる計器やその他メカメカしい商品まで
これは……パイロット用のサングラスってことかなぁ?
とまあ、こんな感じで沢山の航空グッズが販売されているのだが、もう店中航空グッズでいっぱい! ……なのかというと、そうでもないのだ。その理由は。
こぢんまりとした店舗面積に対して明らかにデカ過ぎる機械が置かれているせいで、大事な商品であるハズの航空グッズがものすごく隅っこに追いやられてしまっている始末。一体、この機械は何なの!?
20億円→1500万円にコストダウン
ものすごい圧迫感です
さて、店内のほとんどの面積を占めているこの巨大なマシーン、コレは一体何なのかというと、実はフライトシミュレーターなんだそうな。
おおっ、さすが飛行機マニアが集う店! しかし、それにしたって店内での存在感があり過ぎなんじゃないの!?
あ、そうなんだ
過去に飛行機パイロット経験もある店長が「若手のパイロットを育てるために、気軽にシミュレーターに触れることのできる店を作ろう」ということで開店したのがこのパイロットハウスなんだそうな。
確かにこんなポスターも貼られていました
「実際、飛行機のライセンスってどれくらいで取れるもんなんですか?」
「コレはフィリピンに行って取るヤツなんだけど、単発(プロペラ一個のセスナ機)ならウチのシミュレーターでみっちり練習してから行けば30日くらいで取れるよ」
ちなみに料金は250万円くらいとのこと(技量等によって変わる)。
日本で取ろうとするとその数倍はかかるらしいのでお得っちゃあお得
飛行機のライセンスを取る前の練習はもちろん、取った後もそうちょくちょく実機に乗るわけにもいかないので勘が鈍らないようにシミュレーターなどで定期的に練習しなければならないものの、従来のシミュレーターのお値段はなんと約20億円もしたため、使用量もバカ高かったんだとか。
パイロット試験用の問題集。やっぱりこういうのがあるんですねぇ
「それじゃ大会社に所属したライン(定期便)のパイロットしか育たなくなっちゃうでしょ。一般のライセンス取得者を増やすには手軽に体験できるシミュレーターがないと」
……ということで国交省と共同で開発し、計器を液晶モニターに変えるなど大幅にコストダウンしたフライトシミュレーターを完成させたのだ。
座席や肘当てがだいぶ安っぽいですが、その辺もコストダウンなのでしょう
まだものすごく高い! けど、20億と比べたら相当安くなってますな
大幅なコストダウンによって、使用量もこのお店では体験操縦2000円~(40分)という格安価格を実現。
個人的にライセンスを取ろうと思っている人はもちろん、航空大学や大手航空会社へ就職活動中の人たちなども全国から通ってきているらしい。……というか、航空会社って筆記試験だけじゃなくていきなり操縦の実技試験もあるんだ!
「あんまり詳しく書いちゃダメ」とはいわれましたが、実は取材時に某大手航空会社志望の人向けトレーニングを行っていました。入社試験でこんなゲームみたいなことやらされるんだ……とビックリ!
「でもまあ、シミュレーターだけじゃあんまり利益が出ないからグッズも扱いだしたんだけどね」
ああ、もともと航空グッズを扱っていたお店が一念発起してシミュレーターを買ったら、肝腎の航空グッズを置く場所がなくなって端っこに追いやられてしまったお店……なんだと思っていたら、もともとドーンとシミュレーターがあって、後から空いてるスペースに航空グッズをミッチミチに詰め込んだお店だったのか。
オレ、飛行機を飛ばす
せっかくでっかいシミュレーターが設置されているんだから、触ってみたくなるのが人の性ってもの。
……ということでシミュレーターを体験!
しかし、ワケの分からないボタンやらレバーやらがいっぱいあり過ぎて、何が何やら……状態。
とりあえず初期設定は店長さんがやってくれたのですが……
シミュレーターを起動させてまずビックリしたのが、ゴオオオオ……というエンジン音と座席に伝わってくる振動! 実際の操縦時には音や振動も重要な判断材料となるため、その辺もリアルに再現しているんだそうだ。
オラ、緊張してきただ……
ちなみにシミュレーターの外にあるこのボタンたちは、ちゃんとした教習の時に教官が使用するもの。
「コレを押せば色んな場所を一瞬にして故障させることができるんだよ。去年、全日空機がほぼ背面飛行状態になった急降下した事故があったでしょ? アレも再現できるから!」
まあ、そのトラブルにどう対処するか……ってことなんだろうけど、物騒なことを嬉しそうに語る店長に戦慄!
「じゃ、このパワーを入れると走り出すからねー」ってええーっもう!? まだ心の準備が……
またこの店長さんが、何にも教えてくれないまま色んな操作をホイホイ進めて行っちゃうんだ。「着陸以外は意外となんとかなるから」とものすごく軽い気持ちで滑走スタート!
わーっ、なんかわけ分かんないうちに飛び立った!
もうちょっと丁寧に教えてくれると思ったのに……
ま、あくまでシミュレーターなんで事故ろうが墜落しようが何ともないのは分かってるんだけど、リアルな音&振動で異常な緊張感が……。
このメーターの上昇角度を一定に保って高度を上げなきゃならないらしいのですが
操縦桿に色んな振動がガンガン伝わってきて、一定の角度に保つのも一苦労なの……
ある程度高度が上がったら意外とやることないんですが、汗がビュービュー吹き出しています
やってることは、おそらくゲームセンターの『アフターバーナー』(昔懐かしの飛行機ゲーム)と大して変わらないような気がするのだが、ものすごいプレッシャーが。
音&振動のリアルさと、無数にあるワケの分からない計器たちがガンガン動いているのが強迫観念となってのしかかってきているのか……。
とはいえ、しばらく操縦していると緊張感もなくなってくるもんで
「トップガンごっこしてみよー」とばかりに操縦桿をぐいっと傾けると
うおおおっ、機体がものすごい角度に!
操縦席横の窓は全面海! エライことになってますよ
ま、絶対に安全なのは分かっているので徐々に緊張感もなくなり、メチャクチャに操縦桿を倒してみたり、パワーレバーを最高にしたり最低にしたり……好き勝手な操縦をやって楽しんでいたのだが、突然、ブーッ! ブーッ! ブーッ! というものすごい警告音が!
えっ、何が起こったの? 何が起こったの!?
この世の終わりのような音が鳴り響いてました
最後はドガーンという爆音とともに、どうやら墜落してしまった模様。
当然ケガひとつするわきゃないのだが、尋常じゃない音量で鳴り響く警告音と、悲鳴を上げるかのようなエンジン音に包まれ絶望的な気持ちになり、泣きそうになっちゃったよ……。
その時の様子。あまりのことにビビッて録画を止めてしまったため途中まで
シミュレーターの中でいくら墜落しようがもちろん機械自体が壊れるハズもないのだが、面白半分な操縦で飛行機を墜落させてしまったことで、なぜかものすごくブルーな気持ちになってしまい「なんか……スミマセンでした」と店長さんに言い残して店を去ったのであった。
はぁぁー……疲れた
飛行機好きの究極形態
電車マニアが『電車でGO!』みたいなシミュレーターを喜んでやるように、飛行機マニアにとってフライトシミュレーターってタマランものがあるんでしょうな、やっぱ。
しかしその先に行って、電車マニアが本物の電車を運転するためにはおそらく鉄道会社に就職するしかないのに対し、飛行機マニアはその気になれば個人でライセンスを取るという選択肢があるのがスゴイ!(レンタルセスナ代も1時間5万円くらいと、わりと現実的な金額らしいです)
まあライセンスはともかく、取材の時にいたお客さんから「グアムに行くと30分くらいの講習を受けると即セスナを操縦させてくれるところがあるよ(料金2万円くらい!)」という情報を教えてもらったので、それはマジでやりたいかも……(死ぬかもしれないけど!)。
パイロットハウス
東京都墨田区石原3丁目24-9
【電話番号】03-3625-3841
【営業時間】10:30~19:00
【定休日】年中無休