特集 2012年3月1日

沖縄の魔除け「石敢當」を沖縄以外で探す

沖縄にたくさんある魔除けの石敢當(いしがんとう)、これが沖縄以外にもあるらしい
沖縄にたくさんある魔除けの石敢當(いしがんとう)、これが沖縄以外にもあるらしい
沖縄を歩いていると、その路地のあちらこちらで「石敢當」の三文字が刻まれた石を目にする。これは石敢當(いしがんとう)といって、魔除けの為のものだそうだ。

私はこの石敢當について、ずっと沖縄やその周辺地域にしか無いものだとばかり思っていた。しかしながら、どうもそうではないらしい。
1981年神奈川生まれ。テケテケな文化財ライター。古いモノを漁るべく、各地を奔走中。常になんとかなるさと思いながら生きてるが、実際なんとかなってしまっているのがタチ悪い。2011年には30歳の節目として歩き遍路をやりました。2012年には31歳の節目としてサンティアゴ巡礼をやりました。(動画インタビュー)

前の記事:神奈川県には木の電柱が多いらしい

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沖縄の石敢當

石敢當というものは、沖縄ではT字路など道のどん詰まりに置かれている事が多い。

沖縄で信じられている「マジムン」と呼ばれる悪霊は、真っ直ぐにしか進むことができない。ゆえに突き当たりに達すると、壁をすり抜けて家の中に入ってきてしまうのだそうだ。それを防ぐべく、突き当りには石敢當を置く、との事。

沖縄にはこの石敢當が本当に多く、道を歩けばもれなく石敢當に当たる。石敢當を探すのも、沖縄における町歩きの楽しみといえるだろう。
沖縄では路地の突き当たりに
沖縄では路地の突き当たりに
このような石敢當がかなりの確率で置かれている
このような石敢當がかなりの確率で置かれている
その形状、大きさは様々
その形状、大きさは様々
ちなみに「石敢當」の意味は、昔の中国にいた人の名前らしい。あまりに剛力な傑物だった為、魔除けにまでなってしまったのだ。

その魔除けの風習が中国から琉球へと伝わり、そこに根付いた。海を越えてきた文化。確かに、沖縄だけでなく日本本土に伝わっていても不思議ではない

実際、当サイトの人気コーナー「ちょっと見てきて」においても、川崎駅前や横浜市の石敢當が報告されている(沖縄などにある「石敢當(いしがんとう)」の石標)。

ふむ、これはなかなか面白そうだ。沖縄以外の石敢當、ちょっくら見に行ってみようじゃないか。

東京都世田谷区、羽根木公園の石敢當

まずは東京都世田谷区の羽根木公園。その園内に石敢當があるらしい。
小田急線の梅ヶ丘駅からスタート
小田急線の梅ヶ丘駅からスタート
おしゃれな町ですな
おしゃれな町ですな
程なくして羽根木公園に到着
程なくして羽根木公園に到着
梅ヶ丘というだけあって、園内には梅の木がたくさん
梅ヶ丘というだけあって、園内には梅の木がたくさん
いくつかは既に咲き始めていました
いくつかは既に咲き始めていました
住宅街の中にある羽根木公園。狭い公園なのかと思いきや、これが意外と広く、梅林やアスレチック、野球場まで完備していた。しかし、広すぎて石敢當を探すのが大変だ。

どこだ、石敢當はどこにあるのだ。平日の昼間、小さい子連れのお母さんが多い中、キョロキョロとあたりを見回しつつ徘徊する私はきっと不審者。
お、あれか?と色めきたったが
お、あれか?と色めきたったが
ただの歌碑でした
ただの歌碑でした
ミケ君、石敢當知らない?知りませんか、そうですか
ミケ君、石敢當知らない?知りませんか、そうですか
なかなか良い雰囲気の園路を先に進む
なかなか良い雰囲気の園路を先に進む
遠目で石敢當に見えたものの、近付いてみればベビーカー
遠目で石敢當に見えたものの、近付いてみればベビーカー
なんかもう、長方形の物体なら何でも石敢當に見えてきた。そういう病気なのかもしれない。

園内を一周しかけ、これは管理人さんとかに聞いた方が早いかな、そんな事を思っていたその時だ。
水道の手前(左下)に見えるアレは……?!
水道の手前(左下)に見えるアレは……?!
おぉ、捜し求めていた石敢當!
おぉ、捜し求めていた石敢當!
長方体の石材に刻まれた「石敢當」の三文字。なんか下部が埋まっちゃってるけど、まぁこれが石敢當である事には変わりない。

前述の通り、沖縄では突き当たりの魔除けとして置かれる石敢當。ここでもてっきりそのような場所にあるのかと思っていたのだが……。
石敢當の向かいは道じゃなく、野球場
石敢當の向かいは道じゃなく、野球場
う~ん、無事発見できたのは良いものの、いささか頭が混乱してきた。なぜ、ここに石敢當があるのだろう。だれが、石敢當を設置したのだろう。考えれば考えるほどに謎である。

元は道にあったものを、公園整備の際に現在地へ移設したとか、そのようなところだろうか。

固い地面から軟らかい土の上に移した為、石敢當の安定の為により深く埋めざるを得なかった。それなら妙に埋没している理由にも繋がる……かな。
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世田谷区松原三丁目の石敢當

少々もやもや感が残るものの、羽根木公園の石敢當を確認する事ができた。

実はこの羽根木公園からそう遠くない所に、もう一つ別の石敢當があるという。せっかくなので、そちらも見に行ってみよう。
それにしても、なんか凄い家が多い町だ
それにしても、なんか凄い家が多い町だ
こちらのアパートの名前は
こちらのアパートの名前は
ザ・コンパニオン
ザ・コンパニオン
どこぞの巧がこさえたようなドリームなハウスが建ち並ぶ路地をてくてく歩き、目的の石敢當があるという松原三丁目へ行く。

モダンな(そしてお高そうな)家が多いものの、決して新しいものだけの町というわけではなく、所々に点在する社や塚などの古いものが、この町に深みを与えている。
こういうのが残っているとほっとするよね
こういうのが残っているとほっとするよね
細い路地に並木とか、やはり一味違う町だ
細い路地に並木とか、やはり一味違う町だ
さらに北、京王線の明大前駅近くにまできた
さらに北、京王線の明大前駅近くにまできた
ん?あの角っこに置かれた石は……
ん?あの角っこに置かれた石は……
おぉ、やはり石敢當!
おぉ、やはり石敢當!
住宅街の中、忽然と現れた石敢當が一基。

羽根木公園のものは人為的に切り出された石材であったが、こちらは天然石が使用され貫禄十分。岩の凹凸や苔むしたたたずまいが、なんともいえない風情を醸している。斜めに配された文字もグッド。

うん、なかなかに素晴らしい石敢當だ。……しかし、その石が鎮座する立地には、やはり少々もやもやしたものを感じる。
T字路の突き当たりではなく、付け根に位置している
T字路の突き当たりではなく、付け根に位置している
ゆえに、この石敢當も道を正面にしていない
ゆえに、この石敢當も道を正面にしていない
元は、こちらを向いていたのではないだろうか
元は、こちらを向いていたのではないだろうか
T字路が二つ連結する、クランク状のこの路地。突き当たりを守る石敢當が置かれていても不思議ではない場所ではあるが、この石敢當は向きがどうも不自然だ。

元は本来の目的通り、T字路の突き当たりに置かれていたが、その後の家の建て替えや道路整備やらなんやらにおいて、その辺の事情を知らない人が現在の位置に現在の向きで置いたのだろうと推測される。

ちょうど、曲がり角の車除けに手ごろな大きさだしね。
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埼玉県加須市、千方神社の石敢當

さて、お次は東京から離れて埼玉県加須(かぞ)市。

その中心地、加須駅の近くにある千方(ちかた)神社にも、石敢當があるらしい。
埼玉県北部、東武伊勢崎線の加須駅
埼玉県北部、東武伊勢崎線の加須駅
駅前にたなびく鯉のぼり
駅前にたなびく鯉のぼり
鯉のぼり焼きなんていうのもあった
鯉のぼり焼きなんていうのもあった
穏やかな、歴史のありそうな町である
穏やかな、歴史のありそうな町である
この加須市、なんでも鯉のぼりの生産数で日本一なのだそうだ。

駅前に掲げられた鯉のぼりを見て、「あれ、もうそんな季節だっけ?」と混乱したが、なるほど、それなら納得である。

駅前の道はキレイに整備されているが、一本横道に入ると良い雰囲気なたたずまいの家が多く、なんとも嬉しくなる。
そうこうしているうちに千方神社へ到着
そうこうしているうちに千方神社へ到着
物凄く広々とした神社だ
物凄く広々とした神社だ
境内の案内があったのでチェック
境内の案内があったのでチェック
おぉ、石敢當もしっかりアピールされているぞ
おぉ、石敢當もしっかりアピールされているぞ
これがその石敢當。ずいぶんとデカいな
これがその石敢當。ずいぶんとデカいな
沖縄の石敢當も、世田谷にあった石敢當も、その大きさは表札くらいか、あるいはせいぜい庭石程度であったが、これはそれらよりも随分大型。もはや石碑というべき巨大さである。

しかもこの石敢當、かなり古いのだ。江戸時代後期の文化14年(1817年)に建立されたものなのである。

世田谷のものは、沖縄県出身の方が設置したのかなぁとも思うが、こちらはその古さや大きさの違いから、どうも沖縄由来のものではないように思える。
この文字は、亀田鵬斉(かめだぼうさい)という著名な漢学者のものだそうだ
この文字は、亀田鵬斉(かめだぼうさい)という著名な漢学者のものだそうだ
元は千方神社ではなく、別の場所にあったというこの石敢當。

建立当時にどのような場所にあったのか、それは今になっては分からないが、案内板に市場の神様として祀られたと書かれている事から、突き当たりの魔除けという用途では無いようだ。

すなわちこれは、沖縄の信仰とは別の背景を持つ石敢當なのではないだろうか。奥が深いな、石敢當。
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同じく加須市、龍興寺の石敢當

加須市には千方神社以外にももう一つ、龍興寺というお寺に石敢當が残っているという。

ただ、そこは加須駅から7km程離れた騎西という場所にある。日も傾きかけている現在、歩くにはちょっと無理がある距離だ。しかし、タクシーを使うのは癪である。

そんな時、駅ビルに入っているサンクスに目が留まった。
え、コンビニがレンタサイクルやってるの?
え、コンビニがレンタサイクルやってるの?
サンクスの前に並ぶ黄緑色の自転車。どうやらレンタサイクルのようである。看板を見ると、3時間300円と書いてある。これはグッドタイミング。

ちなみに店員さんに聞いたところ、このようなサービスをやっているのは全国に2店舗しかないそうだ。へー、意外な豆知識。
向かい風が吹く中、自転車で全力ダッシュ
向かい風が吹く中、自転車で全力ダッシュ
郊外の道を走り続け
郊外の道を走り続け
龍興寺に到着。さぁ、石敢當はどこだ?!
龍興寺に到着。さぁ、石敢當はどこだ?!
とりあえず本堂にお参りしてみる
とりあえず本堂にお参りしてみる
灯篭がハートマークでかわいらしい。って、石敢當を探さねば
灯篭がハートマークでかわいらしい。って、石敢當を探さねば
あ、さっき通った山門の前にあったのか
あ、さっき通った山門の前にあったのか
でも、どれだ?多いぞ、石造構造物
でも、どれだ?多いぞ、石造構造物
発見、まさに石敢當
発見、まさに石敢當
こちらのものは、千方神社のものよりさらに古く、明和8年(1771年)。山門前の石橋を邪気が通る事を防ぐ為に、当時の僧侶が建てたとの事だ。

なるほど、道の突き当たりというわけではないが、邪気払いという点では沖縄のものと共通している。基本的な概念は同じだけど、使われ方が違うという感じだろうか。

日本全国に広がる石敢當

沖縄だけのものかと思っていた石敢當。それは確かに沖縄以外にも存在していた。しかも沖縄の人が建てたもののみならず、地域に根ざした古いものまであるとは、意外な驚きだった。

これらの石敢當は沖縄や九州のみならず、関西や、それと東北、北海道にまで広く分布しているようなので(秋田市には30基もの石敢當があるそうですよ!)、近所で見かけたら「ちょっと見てきて」に投稿されてはいかがでしょう。
この直後、久々の自転車ダッシュがたたったのか、ふくらはぎを派手につった
この直後、久々の自転車ダッシュがたたったのか、ふくらはぎを派手につった
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