それはまるで、人の欲を映しだす水晶玉のようでもあり
ここまでのあらすじ。
お金が降ってくるスノードームというネタがかぶったさくらいと四方は作業を分担して合作することにした。さくらいは人形を作り苦労しながらも樹脂で固めることに成功。そしていよいよ工程はドームに入れる作業に。
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詳しくはこちらの記事で)
雪の代わりにお金が降ってくるスノードーム、後編担当の四方です。
空からお金が降ってくる、というドリーミィかつエキサイティングな世界。
前編にてそんな夢世界の住人たち(邪悪顔)が無事誕生しました。めでたいですね。
さてここで人形製作者のさくらいさんからバトンタッチ。
たすきの代わりに住人2名を受け取って、スノードーム完成という名のゴールを目指します。
そのゴールの先に、まさかあんな事件が待っているとは、この時はまだ知るよしもなく……。
まずはお金を刷ります
さて、何はともあれ雪の代わりに降らせるお札を用意しよう。
リアリティを追求するためには本物の縮小コピーが手っ取り早そうだが、当然ながら紙幣複製は重罪にあたる行為である。
スノードームのために人生を切り売りするような真似は避けたい。穏やかな余生を送りたい。あと大病もせず健やかに、それからたまには空からお金が降ってきたりする日常だったら嬉しいな。
というわけで、オリジナルの「百万円」札を作った
お札がずらっと並んだ様を見て「こういうのテレビで見たことある!」と少し興奮した。
切り分けて、こうなった。両面を貼りあわせてある。
極小サイズのお金が完成した。こども銀行のお札よりももっと小さい。指先サイズ。
お金の魔力というのは恐ろしいもので、百万円という馬鹿みたいな額面+肖像画がZ君、というシロモノであってもこれが沢山ある様はなんだか見ていて嬉しいのだ。
お札がたくさん!
紙で巻けば…札束だ!
ちなみにスノードームに入れることを想定して、耐水性のシートに印刷して作ってある。
念のため耐水チェックもしておこう。
コップの水に沈めます
インクが滲んだりすることもなさそうだ、だがしかし
理想ではもっとこう木の葉が落ちるようにふわふわと水中を落下してほしかったのだが、水に入れたお札は凄い早さで、すとーんと底まで落ちた。ニュートンに万有引力でも発見させるつもりか。
通常使われるスノーに比べ、かなり重いことが原因だろう。大丈夫だろうか、本番ではちゃんと舞ってくれるだろうか。バレエ教室に我が子(最近レッスンさぼりがち)を通わせる母の心境である。コンクールが近いのだ。
一抹の不安を抱えたまま、人形たちの待つさくらい邸に向かう。かばんにミニサイズの大金を忍ばせて。
お金で盛り上がる人形たち
こっそり告白してしまうと、お金と人形のサイズについて事前打ち合わせは全く行なっていなかった。まあ何とかなるだろう、と思っていたのだ。こういう場合、大抵何とかならない結末が待ち受けているものだが今回は違った。見事、何とかなってしまったのだ。
お金が降ってきたぞー!わー!(イメージ図)
地面にお金が積もってるよー!(イメージ図)
この人形にこのお札。うん、サイズ感としてはばっちりだと思う。彼らの邪悪な表情もまた良い。 降ってくるお金と、それに大喜びする人形たち。役者は揃ったのではないだろうか。
というわけで、このスノードームの中に夢世界を構築していきます
人形を地面に固定する
用意したのは特大サイズのスノードームである。まずはこの中にしっかりと、頑丈に、人形たちを固定しなくてはならない。
「こんな感じで設置しましょう!」「いいと思います!」という会話を経て
膝を折っている方の彼は接地部分が多いだけあって接着剤を多用すればすんなりとくっつきそうだが、問題は仁王立ちの黄色い人の方だ。
青い人はこれでいいとして
Z君は…。だめだ、どうしても倒れてきちゃうね。
困った、接着剤の力を過信していた。
どうしたものかと首を捻っていると、横で見守ってくれていたさくらいさんの口からこの苦境を打開する素晴らしいソリューションが飛び出した。
「うち、おゆまるがありますよ!」
これがその、おゆまる。お湯で柔らかくなる粘土のようなもの
これでZ君の足を固定すると…いい感じになってきた!
両足をおゆまるで固定する。よかった、どうにか倒れずに済みそう。
さらにここでもう一小細工して、人形の手にもお札を持たせておくことにした。
降ってきたお金を拾い集めながら喜んでいる人々、というリアリティを追求した状況設定である。これがまあ、やたらと似合ってしまった。
「ではいよいよ!」
「スノードームの中に入るよー!」
水を注いで完成間近
お金を手に、準備万端で待ち受ける人たち
スノードーム用の水には、精製水に食器用洗剤を数滴たらしたものを使う。そう説明書に書いてあった。
しかし肝心の、必要となる水の量が分からない。それは説明書に書いてなかったのだ。まあ様子を見ながら適当にやってくれたまえよ、ということだろうか。説明書なのに放任主義。部下の自主性を尊重するタイプの上司みたいな存在。
尊重された自主性に従い、とりあえず精製水をだばだばと注ぐ。あっという間に500mlのボトルが空になった。
最終的には同じボトル3本、つまり1.5リットルもの精製水を消費した。
危なかった。用意してあったボトルが3本ちょうどだったのだ。水を注ぎながら「足りるか、足りないか、いや足りる多分足りる、よし!ぴったり!!」という綱渡り感を味わった。ハラハラさせてくれるスノーボールである。放任主義すぎるのも考えものだ。
そしてパラパラとお金を
投入!
案の定、すいーっと底に沈んでいった。
それはまあ分かっていたことなので一旦考えないことにして、とにかく人形を立たせた土台で蓋をしよう。お金の降るスノードーム、いよいよ完成である。
そっと水の中に沈めていって、
ぎゅっと蓋を押し込む。お、重い…。
水中に舞うお札、金のラメ、そしてダイバー
完成、雪の代わりにお金の降ってくるスノードーム!
ちなみに、実はお金以外のものも入っている。何かというと…。
小さなダイバーたち
さくらい「せっかくだからこれも入れましょう!」
四方「いいですね!水中っぽくて!!」
となったのだ。
冷静に、「なぜダイバーが?」と問われても返答できない。そこにダイバーがいたから、としか言いようがない。熱くなった工作テンションって怖い。
水底に沈むダイバー。お札に埋もれながら。
何はともあれ「お金の降る」スノードームである。早速ひっくり返して、その挙動を確認してみたい。
せーの。
えいっ! どう? 舞ってる? どう?
もう一度。お金、降ってきてはいるのだが。
速すぎる。
百万円札たち、あっという間に落下してしまう。その一瞬をカメラで切り取れないほどに。
スノードームってもうちょっとゆったりと鑑賞できるものだと思っていたが、なんとも忙しない。いくらお金というリアルな欲望を詰め込んだからといって、そんなところまで世知辛くならなくていいのだ。
どうにか上手くふわふわと舞わないものかしらと何度もひっくり返していると、三度、さくらいさんからの鶴の一声が出た。
さくらい「そういえば金のラメがありますよ! 入れてみます?」
何だかゴージャスそうなものが出てきた。それはぜひ、ということでドーム内にキラキラしたラメを投入。その結果がこれだ。
「金(かね)も金(きん)も降ってきたよー!」という光景
優勝パレードの様子、では決して無い
ラメはゆらゆらと水中を舞って、とても美しい。これだ。こういうのを求めてたんだ。
「コインが降ってるみたいに見えなくもないですよ!」とさくらいさん。そして地面にはお札が積もっている。(さらにダイバーも)
思い描いていた夢世界とはちょっと違うが、とてもおめでたいオブジェが出来上がったような気はする。気づけば私は絶えずニヤニヤしていたし、さくらいさんも笑っていた。
「なんか気持ち悪いですね!」
「ええほんとに!」
という、身も蓋もない感想を述べ合いながら。
「これ、どうしましょう?」「今度のエキスポで展示とかしちゃいましょうかね!?」などと2人でひとしきり盛り上がった結果、スノードームはひとまずさくらい家の玄関に設置されることとなった。
今度友人が来るので感想聞いてみますよ、とさくらいさん。
やっぱり不気味って言われちゃうかな、あはは、などと言いながら、私はその場を辞した。
誰かと一緒に工作を作り上げるのって、なかなか楽しいものですね。
本当なら、四方さんの後編でスッキリと終わるはずだったのですが…
まさかの大破!!こうなっても不敵に笑い続ける人形たち。
上空から見ても大惨事。
四方さんと一緒にスノードームを作ってから約3週間後。この日、私はインフルエンザで会社を休んではいたが、平熱にも戻り、体力もだいぶ回復してきて、
「3週間経っても、スノードームの様子はそんなに変わりませんよ」という証拠写真を四方さんに送ろう!とスノードームを持って室内をウロウロしてたのだった。
その途中で落としたのだ。
割れた直後の混乱の記録(twitterより)。「スノーボール」ってなんだ。
3週間、スノードームはずっとうちの玄関に飾っていた。
その間友人が遊びに来たりもしたが、「へぇー、かわいいね」と意外と普通の反応だった。え、本当か。
「きもがられないってことは、意外と思ってたより普通なんですかね…?」と四方さんと話していたりもした。
広範囲に渡って金ラメや札が…
なぜか水がこっちに流れてくる。え、この家斜めだったのか。
1.5リットルの水が入ってただけのことはある。飲み物入りのグラスを割ったときとは、レベルがまったく違う。
水は流れてくるわ、そこへ宅配便の人が訪ねてくるわ、どこからどうすればいいのか…、もう笑うしかない。
飛び散るダイバーたちをボーっと眺めつつ、めんどくさいからしばらくこのまま生活しちゃダメだろうか…などと考える
重い腰を上げ、「病み上がりなのに…」「なんでこんなことに…」と思いつつも半笑いで、破片混じりの1.5リットルの水や大量のラメを片付けたのだった。
これだけ残った。どうなってもお金は手放さない2人。