特集 2012年1月28日

こんなに違う!沖縄もずくと能登もずく

完全に別の食べ物です
完全に別の食べ物です
いきなり個人的な嗜好話で恐縮だが、もしも好きな食べ物は何、と聞かれたら真っ先にもずくを挙げる。小さい頃からの大好物である。

しかし出身地の能登を離れ、東京に来てみたらどうも様子がおかしい。世間で「もずく」と言って食べられているその海藻が、自分の知っているもずくではないような気がするのだ。

あれは一体何なんだ。

長年もやもやと抱いていたこの疑念、今ここですっきり解消させておきたい。
石川県出身。以前は普通の会社員。現在は透明樹脂を用いたアクセサリーを作る人。好きな色は青。好きな石はサファイア。好きな犬はウェルシュ・コーギー。

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東京のもずくは沖縄生まれ

先日企画会議の席で「東京のもずくって変わってますよね」みたいな話題を出してみたが、その場にいた誰からも同意を得られなくてショックを受けた。

世の中の人はあのもずく(みたいなもの)を普通に受け入れているらしい。そもそもあんまり食べないし…という声もあった。もずく文化に深い溝を感じる。

この後の本記事において変わっているのは東京もずくではなく能登もずくだった、というある意味予想通りの事実が判明するのだがそれはさておき。百聞は一見にしかず、ということでとにかく実物を用意してみよう。
近所のスーパー(in東京)で買ってきたもずく
近所のスーパー(in東京)で買ってきたもずく
産地は沖縄、とある
産地は沖縄、とある
片や能登から取り寄せた、能登産もずく
片や能登から取り寄せた、能登産もずく
そこには「絹もずく」の表記が
そこには「絹もずく」の表記が
調べてみると、東京で流通しているもずくの大半が今回スーパーで買ったものと同じ、沖縄産の「沖縄もずく(太もずく)」であるらしいということが分かった。

反対に、能登で食べられているのは「絹もずく(糸もずく)」と呼ばれるもの。こちらは沖縄産に比べて生産量が少なく、あまり出回っていないとのこと。

厳密に言えば沖縄のもずくはナガマツモ目ナガマツモ科、対する能登はナガマツモ目モズク科、ということでそもそも別種の植物であるらしいのだ。やっぱりそうだ。だって全く違うもの。
こちらが沖縄もずく。ああもずくってこんなんだよね、と思われるかもしれないが違う。私に言わせれば全く違う。
こちらが沖縄もずく。ああもずくってこんなんだよね、と思われるかもしれないが違う。私に言わせれば全く違う。
こちらが見慣れた能登もずく。そう、これこそ我が心のもずく。とにかく細くてなめらか。
こちらが見慣れた能登もずく。そう、これこそ我が心のもずく。とにかく細くてなめらか。
太さのみならず、色合いも違うことが見て取れると思う。沖縄の方が黒っぽいのに対し、能登はやや色味が淡い。

そして何より、能登もずくの大きな特徴はそのぬめぬめ加減にあるのだ。
伝わるだろうか、このとろみ!
伝わるだろうか、このとろみ!
比べると沖縄もずくは「つやつや」程度のぬめり加減。
比べると沖縄もずくは「つやつや」程度のぬめり加減。
片栗粉でも使ったかのようなこのぬめぬめっぷり。恐ろしいことに、これでも一度水洗いを済ませているのだ。
片栗粉でも使ったかのようなこのぬめぬめっぷり。恐ろしいことに、これでも一度水洗いを済ませているのだ。
見た目だけでなく味や食感ももちろん違う。食べ比べてみよう。
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両者を食べ比べてみる

ちなみに沖縄もずくが1パック120円の特売品だったのに対し、能登のもずくは700円もした。天然物とはいえとんだ高級品である。セレブもずくだ。(しかし地元のスーパーではもっと格安で売られていたような気もするけど)
沖縄もずくと能登もずく、まずはオーソドックスに三杯酢で。
沖縄もずくと能登もずく、まずはオーソドックスに三杯酢で。
まずは食べ慣れていない方、沖縄のもずくから。
勝手に採点。注目すべきはやはりその太さと、シャキシャキした歯ごたえ
勝手に採点。注目すべきはやはりその太さと、シャキシャキした歯ごたえ
ぬめぬめというよりは「つるっ」という食感。口に入れた感想としては、寒天やところてんのさっぱり感に近い気がする。やはり私の知るもずくとは違う食べ物のように思う。

味とは無関係だが、入手しやすさという評価軸も設けてみた。その辺のスーパーで普通に買えるものなので、まあまあ身近な存在と言っていいだろう。

では能登もずくの方はどうだ。
特徴は細さとぬめり、そして噛み締めると口に広がる草っぽさ
特徴は細さとぬめり、そして噛み締めると口に広がる草っぽさ
草っぽい。そう言うと語弊があるかもしれないが、しっかり「藻!」という味なのだ。これは沖縄もずくにはなかった。

見た目通りのぬめぬめ感もすごい。とろみ成分をがっちり身に纏っている。そして意外かもしれないが、これだけ細いのにも関わらず歯ごたえはしっかりある。

入手しやすさという点では、近くのお店を数件回ってみたがやはりこの絹もずくを取り扱っている店舗は発見できなかった。都内に全く存在していないというわけでもないだろうが、いつでも気軽に、というわけにはいかないようだ。このとろとろ感といい、はぐれメタルみたいなやつだ。
まあよく伸びること
まあよく伸びること
沖縄もずくはもずくではない!と頑なに主張し続ける私だが、美味しいかどうか、でいうと両者それぞれ美味しいことは間違いない。ドラえもんにどら焼きではなく今川焼きを食べさせたって多分美味しいと言うだろう。別物ではあるけど。

熱を通したらどうなる

もずくの食べ方として、お味噌汁の具にするという方法がある。
これがまた、違いが顕著に現われた
これがまた、違いが顕著に現われた
能登もずく、熱々の味噌汁にいれても全くぬめぬめが消えない。口に入れた感触としてはあれだ、なめこの味噌汁だ。対する沖縄はさっぱりしたものである。ワカメの味噌汁と大差ない。
どっちも問題なく美味しいけどね
どっちも問題なく美味しいけどね

第三のもずくを求めて

できればもっと色々なもずくを食べ比べたい。そう思って別のもずくを買ってきてはみたのだが。
カップに入った3個パック。スーパーのもずく、としてはこの形が一番オーソドックスだろうか。
カップに入った3個パック。スーパーのもずく、としてはこの形が一番オーソドックスだろうか。
しかしこちらも沖縄産。ということは太もずくか…。
しかしこちらも沖縄産。ということは太もずくか…。
見た感じ、やはり最初の沖縄もずくに似ている
見た感じ、やはり最初の沖縄もずくに似ている
食べてみると、僅かにこちらの方が柔らかい。煮込んだ素麺みたいな優しい歯ごたえ。
食べてみると、僅かにこちらの方が柔らかい。煮込んだ素麺みたいな優しい歯ごたえ。
何度も言うがまずくはない。しかし、もずくを期待してこれが出てきたらがっかりする。私ならする。

能登もずくへの思い入れが強すぎて客観的な見方ができなくなっているというのも確かにある。 もっと冷静な第三者の評価も聞いてみたい。

そう思い、早速もずくを持って家を飛び出した。
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オフィスにもずくを持ち込む人々

向かった先はデイリーポータル編集部。
編集部員の安藤さん(沖縄在住経験有り)がおすすめのもずくを用意して出迎えてくれた。私が適当に買った沖縄もずくとはまた何かが違うかもしれない。これは期待が持てる。
もずく(2種)とポン酢持参で小洒落たオフィスにお邪魔してきました。
もずく(2種)とポン酢持参で小洒落たオフィスにお邪魔してきました。
こちらが安藤さんセレクトのもずく
こちらが安藤さんセレクトのもずく
我部さんというおじさんが育てたらしい。がべもずくだ。
我部さんというおじさんが育てたらしい。がべもずくだ。
更にその後、新たに別のカップ入りもずく(これも沖縄産)も登場。ちょっと色が違う!
更にその後、新たに別のカップ入りもずく(これも沖縄産)も登場。ちょっと色が違う!
こうして全4種のもずくが揃うこととなった。もずくパーティーか。もずく好きには夢の様な空間であるが、机上の大半が沖縄産であるので気が抜けない。どちらかというとアウェー戦の心境である。
手前がこの場で唯一の能登もずく。がんばれ。
手前がこの場で唯一の能登もずく。がんばれ。

「これはもずくじゃない」って言われた

安藤さん以外の編集部チームの面々や、たまたま別件で打ち合わせにきていたイラストレーターの森田トコリさんまで盛大に巻き込んで、もずく賞味会の幕は開いた。

しかも、聞けば森田さんは富山の出身だという。能登のお隣だ。北陸仲間だ。私と同様に東京もずくに違和感をいだいている可能性が高い。これは心強い。

何はともあれ能登もずくを皆様に見ていただこう。どうです?どうです?
森田さん「いや、こんなの初めてみました…」
森田さん「いや、こんなの初めてみました…」
えっ。北陸人にすら知名度なし!?
これは切ない。他地域の人に言われるより数倍切ない。
これは切ない。他地域の人に言われるより数倍切ない。
ショックだ。そのショックに追い打ちをかけるように、集まったメンバーからはびゅんびゅんと能登もずくのビジュアルに関する批評が飛んでくる。
(以下、カッコ内は発言者の出身地又は居住経験のある地)
・何これ…(全員)
・これはもずくじゃない(東京)
・とろろ昆布みたい(神奈川)
・グリーンカレーっぽくもある(東京)
・なまこの内臓に似てるかも(沖縄)
・これ、食べちゃいけないものじゃないんですか?(岐阜)
・川の石の裏とかに生えてるやつだ(岐阜)
・カエルの卵に似てる。淡水な雰囲気(東京)
・丸めたらマリモになるんじゃないか(沖縄)
言葉のナイフがぐさぐさと刺さって痛い。
内蔵とか卵とかカレーとか言われた。もずくなのに。

全体的に「未知のものが来た!」みたいなざわめきを伴った空気である。おかしい。これがスタンダードもずくだと信じて生きてきたのに。
食べちゃいけないものに見えます、という岐阜からの指摘が心に突き刺さる。
食べちゃいけないものに見えます、という岐阜からの指摘が心に突き刺さる。

いざ試食

まあそうは言ってもせっかくなので食べてもらいます。味付けはシンプルにポン酢でご賞味ください。
もずくを取り囲んでつつく会合
もずくを取り囲んでつつく会合
能登もずくを口に入れ、皆が一様に「こんなの初めて食べた…」という感想を漏らす。こんなに違うと思わなかったよ、と言われて、誇らしいような悲しいような。

続いて沖縄もずく達も順番に試食し、得られた批評はこんな感じだ。
沖縄もずくについて。全体的に安心感があるらしい。
沖縄もずくについて。全体的に安心感があるらしい。
能登もずくについて。悪くは言われていないと思う。
能登もずくについて。悪くは言われていないと思う。
ビジュアル的に一騒動を巻き起こした能登もずくだが、食べてみると普通においしい、という感想が多い。富山県民から「のどに張り付く」と言われてそんなことはないだろうと思ったが、直後に食べ慣れているはずの自分ですらのどに引っかかって「ぐげほっ!」となったことを告白しておきたい。飼い犬に手を噛まれた気分になって少し落ち込んだ。
沖縄もずくは3種類が並んでいたが、それぞれ微妙に食感が異なる。
沖縄もずくは3種類が並んでいたが、それぞれ微妙に食感が異なる。
カップ入りのものが一番シャキシャキ感が強く、それに比べると最初に買ったスーパーのもずくは幾分か柔らかい。

これらのもずく、沖縄ではこのように生で食べる他に天ぷらにするのも一般的だそうだ。美味しそうだが、かといって能登もずくに応用するのは難しい気がする。なんせあのぬめり具合である。

もずくを丸めるスキル

唐突に、能登もずくを食べる仕草について指摘された。
とろりとしたもずくを、箸でうまい具合に食べやすく巻いているのが凄いというのだ。これまで全く無意識だった。

その模様は流行りのGIFアニメでご覧いただこう。
連続再生にしたら、巻いても巻いてももずくが崩れていく気の毒な人みたいになった
連続再生にしたら、巻いても巻いてももずくが崩れていく気の毒な人みたいになった
「さすが慣れてる人は違うね!」「簡単にできることじゃないね!」と言われた。多分褒められている。 まさかこんなスキルを認められる日が来ようとは。能登もずくのおかげで特技がひとつ増えました。

結論:沖縄もずくと能登もずくは別の食べ物

沖縄もずくに対する能登もずく。最終的な意見を総合すれば、初めのビジュアルショックとは裏腹に、味はまあまあ好評だった。

ただしこれを「もずく」とは認識できないと言われた。こっちのセリフだと言い返したいが、どう考えてもこちらが少数派なのでハンカチ噛み締めながら黙るしかない。

普段沖縄もずくを食べている人も、機会があればぜひ能登もずくにチャレンジしていただきたい。ぬめぬめしてて面白いですよ。
このぬめりをぜひあなたのご家庭で
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