山形の長崎は大雪だった
九州の長崎にも雪は降るのだろうか。山形県中山町長崎は、景気よく雪が積もっていた。なんでも31年振りの大雪らしい。
山形の長崎ちゃんぽんを食べにやってきたのは、むら熊というお店。外観は老舗そば屋っぽいのだが、ここで長崎ちゃんぽんを出しているのである。
長崎ちゃんぽんが似合わない雪景色
店の近所で探した長崎の文字。ほら、長崎だ。
味を決めるのは地域性。九州の長崎ちゃんぽんは、なんとなく温暖な気候が似合う味だと思う。
雪国に根付いたもう一つの長崎ちゃんぽんは、はたしてどんな味がするのだろうか。
本場のちゃんぽんとは別物らしい
お店はなかなか広く、日曜のお昼時ということもあり、お客さんでいっぱいだった。
どうもこの店は、ちゃんぽんの専門店ではなく、ラーメン、カレー、そば、かつ丼など、何でも揃った和風レストランのようである。
なのにだ。お客さんの多くが、当たり前のようにちゃんぽんを頼んでいる。売れ筋なのか、中山町の長崎ちゃんぽん。
このテーブルでは全員がちゃんぽんを食べていた。店一番の人気メニューらしい。
メニューを見ると、確かにおすすめとして、長崎ちゃんぽんが載っていた。写真を見たところ、なんとなく私の知っているちゃんぽんと違うのだが、どこが違うのかといわれるとよくわからない。
ちなみに私は多くの埼玉県民がそうであるように、ちゃんぽんをリンガーハット以外で食べたことはない。
『御当地、中山町長崎の味です』だそうです。ちゃんぽんというよりは、五目中華そばという感じかな。
皿うどんはないけれど、『長崎ちゃんぽん(うどん)』というのがあった。店員さんに聞いたら、ちゃんぽんの麺がうどんになったものだそうだ。
店員さんに、「この長崎ちゃんぽんは、九州の味ですか?」と聞いたら、「違います!ここが長崎だからです!」とはっきり否定された。
これが山形県中山町の長崎ちゃんぽん
検討の結果、半盛りの長崎ちゃんぽんと、もう一つの看板メニューである、くま丼のミニサイズのセットを頼んでみた。1,260円とそこそこのお値段。
出てきたのは、半盛りを名乗るわりにはフルサイズなちゃんぽんと、それに釣りあう立派な丼だった。
生卵は、ミニくま丼用だそうです。
長崎ちゃんぽんはパっと見た感じだと、なんだかさびしい盛り付けだが、半盛りはスープや具はそのままで、麺だけが半量なので、具がスープに埋もれているだけのようだ。
それにしても量が多い。
これは友人が頼んだ普通サイズの長崎ちゃんぽん。この店は普通で麺2玉なのだと思う。
案内をしてくれた山形在住の友人が、「山形はちょっと高くても、量の多い店が流行るんだよ」と教えてくれた。
似ているようでやはりどこか違う味
麺が延びるといけないので、ミニくま丼は後回しにして、まずはお目当ての長崎ちゃんぽんからいただいてみる。
スープを一口飲んでみると、普通のちゃんぽんよりもあっさりしていて、ちょっと塩気が強いかなという感じ。豚骨スープがベースのようで、そこに具の魚介や野菜が風味を加えて、ちゃんぽんらしい味になっている。
だが麺は全然違う。ちゃんぽんといえば太めのストレート麺が定番だが、ここはラーメン用の縮れ麺なのだ。もう一人の友人が頼んだ味噌ラーメンと同じ麺だ。
山形の長崎ちゃんぽんは、麺がラーメンと同じ!
食べ進めていくうちに、これって五目中華そば、あるいはタンメンなのではという気がしてくるが、それを魚介の味が打ち消してくる。
あれ、普通のちゃんぽんってどんな味だったっけ。ちゃんぽんの定義とは何ぞや。
食べながら、なんだか頭が混乱してきた。
エビ、イカ、かまぼこなどのスープに沈んだ魚介類が、いい味を出している
この料理をうまく分類できないモヤモヤが渦巻くが、とりあえずおいしいことは間違いない。いろんな意味でちゃんぽんだ。
これが山形県中山町の長崎ちゃんぽんということなのだろう。
店主に由来を聞いてみた
案内人の友人は、「山形に長崎ちゃんぽんを出す店はないから、食べたことのない店主が想像だけで作ったメニューでは?」と適当なことをいっているが、真実はどうなのだろう。
食べ終わってから店主にちょっと話を聞いてみたところ、20年ほど前に店の改装をしたとき、オンリーワンのメニューを作ろうと開発したのが、ここの長崎ちゃんぽんなのだということが分かった。
むら熊の店主は、なんとなく九州っぽい顔立ち。お客さんで、店主は長崎出身だと思っている人がいると思う。
ベースとなっているのは長崎へ研修旅行にいったときに食べたちゃんぽんで、そのおいしさに感動した店主が、山形の人に馴染むようあっさり味に仕上げたのが、ここの長崎ちゃんぽんなのだ。もちろん、「地名が長崎だから」という気持ちもあるそうだ。
日本の洋食が、海外の味をアレンジしてご飯に合うようにしたみたいに、中山町の長崎ちゃんぽんは、本場の味を山形仕様にしたもののようだ。同じ日本だけど。
ちなみに、中山町長崎には、他にちゃんぽんを出す店は1件もないので、いまだにオンリーワンだったりする。
旅から戻ってすぐ、普通のちゃんぽんってどんな味だっけと、リンガーハットへいってみた。
やっぱり麺もスープも山形のものとは全然違いますね。私はどっちも好きです(無難な答え)。
セットのミニくま丼は牛丼+トンカツ
そういえばセットメニューになっていたミニくま丼について書くのを忘れていた。
これは熊肉の丼ではなく、牛丼にトンカツが乗ったもの。トンカツに味は付いていない。クマが好きそうなボリュームである。
一見、野菜が多めのヘルシー牛丼。
だがその下には、冬眠したトンカツが隠れている。
このメニュー、吉野家で出してくれないかな。
牛丼+トンカツ+生卵。すばらしい。
食べ盛りの年齢はとうに過ぎたし、ちゃんぽんでお腹はすでに膨れているが、それでも心が踊る禁断の組み合わせである。
タマネギ、しいたけ、ニンジン、グリンピースと、野菜たっぷりの牛丼は、しっかりと甘い。そうそう、山形ってこういう味付けするよねと、一人で懐かしがってしまった。
ごちそうさまでした。
くま丼のオリジナルは早稲田の三品食堂
この「店主の好物を集めてみました!」みたいなくま丼だが、これにもオリジナルがあるそうだ。
店主が学生の頃、東京の早稲田にある三品食堂に、カツ牛というメニューがあったのだが、お金がなかったので食べたいけれど食べられなかった。その悔しさをバネにして作ったのが、くま丼なのだそうだ。食べられなかったものを出すってすごいな。
店主にそこまで思わせた三品食堂のカツ牛が気になったので、後日早稲田まで足を延ばしてみた。
早稲田大学のすぐ横にありました。
しかし、お隣の早稲田大学が春休みということで、三品食堂もお休み。お目当てのカツ牛は食べられなかった。
なんだとー。これはむら熊店主の呪いだろうか。
くま丼は生卵がついていたので、このカツ玉牛がオリジナルだったのかな。
なるほど、なるほど。食べられないと悔しいし、想いが募る。この想い、どうしてやろうか。ああ、腹減った。
オリジナルのカツ牛は味わえなかったけれど、むら熊の店主がメニューに加えた気持ちは、なんとなく味わえた気がする。
その場所だからおいしい味なのかもしれない
長崎ちゃんぽんとくま丼、どちらも「中山町で愛されているごちそう」という感じで、おいしくいただきました。
あれと同じ味を東京で食べてもピンとこないのだとは思うけど、あの日、あの場所で食べるのには、ベストなお昼ごはんでした。