特集 2012年2月11日

タツのことならおまかせを!小さくても濃厚な水族館

今年(辰年)はこの水族館が熱い!
今年(辰年)はこの水族館が熱い!
先日、自宅の近所で妙なカメを捕まえた。
自力ではどうしても正体がわからないので最寄りの水族館に同定を依頼することにしたのだが、その水族館がなかなか素敵だったのだ。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

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奥ゆかしいたたずまい

これが問題のカメ。こちらを警戒して首や手足を全然出してくれない。
これが問題のカメ。こちらを警戒して首や手足を全然出してくれない。
とりあえず日本産のカメではない。アメリカ原産で、いわゆる緑亀の正体であるミシシッピアカミミガメというカメに似ているが、顔や甲羅の模様などの特徴が合致しない。
うーん、わからん!
困った時はプロに頼もう!やって来たのは茨城県のかすみがうら市水族館。
困った時はプロに頼もう!やって来たのは茨城県のかすみがうら市水族館。
ちょっぴりメルヘンで、主張の小さい外観だ。正直に言うと、気付かずに一度通り過ぎた。
入り口ではアルダブラゾウガメの「アルディーちゃん」が出迎えてくれる。
入り口ではアルダブラゾウガメの「アルディーちゃん」が出迎えてくれる。
どうやらカメにも力を入れている水族館らしい。これは期待できる。
出迎えてくださったのは館長の西川さん
出迎えてくださったのは館長の西川さん
後ほど詳しく述べるがこちらの館長、実はかなり異色な経歴の持ち主なのだ。
真剣なまなざしでカメを観察する館長。
真剣なまなざしでカメを観察する館長。
「ああー。これはミシシッピアカミミガメのメラニスティック個体だね。」
とあっさり答えが返ってきた。
メラニスティックとは体の色が黒っぽくなる突然変異のことだそう。
これが普通のミシシッピアカミミガメ。全然模様が違うよね。
これが普通のミシシッピアカミミガメ。全然模様が違うよね。
なるほど、そうだったのか!さすがはプロ、あっさり問題を解決してくれた。
図書館やパソコンの前で悩んでいないで、すぐにここへ持ち込めば良かった。

マニア歓喜!タツノオトシゴ天国

しかしせっかく水族館へ来たのだ。目的が果たされたからとすぐに帰るのはあまりにもったいない。
一見すると淡水魚メインに見えるが…。
一見すると淡水魚メインに見えるが…。
意外に海水魚も多い。
小指の先ほどしかないダイバーたちアイドル、ダンゴウオの姿も。この愛らしさは一見の価値あり。
小指の先ほどしかないダイバーたちアイドル、ダンゴウオの姿も。この愛らしさは一見の価値あり。
マグロやイルカが泳ぐ巨大水槽はないが、小さな魚をじっくり観察できる小型水槽が充実。限られたスペースを逆手に取った個性的な展示を見せてくれる。
中でもタツノオトシゴの展示が充実!
中でもタツノオトシゴの展示が充実!
タツノオトシゴというのは誰でも知っているメジャーな魚だ。大きめの水族館なら一種類くらい展示していることも多い。
しかしこの水族館は内陸の小型水族館でありながら、なんと5種ものタツノオトシゴを飼育しているのだ。
この数は実は驚くべきもので、これほどタツノオトシゴに力を入れている水族館は探してもなかなか無い。
しかも状態がいい!!元気すぎて写真を撮るのに苦労した。
しかも状態がいい!!元気すぎて写真を撮るのに苦労した。
飼育されているタツノオトシゴたちはみんな見るからに健康そのものだ。
餌や水槽の底に敷く砂など、飼育方法について研究してこだわりぬいた結果のようだ。
他では意外と見られないハナタツという種類も。
他では意外と見られないハナタツという種類も。
タツノオトシゴなんてどの種類も外見は似たりよったりだろうと思っていたのだが、実際このようにずらりと多数で展示されているのを見ると、色も形も大きさも種類によって、いや同じ種類でも個体によって実に多様であることが分かる。
タツノオトシゴストラップのガチャガチャまで。
タツノオトシゴストラップのガチャガチャまで。

タツノオトシゴマニア その激動なる人生

タツノオトシゴ好きにはたまらない空間だ。
しかしなぜこんなにタツノオトシゴに力を入れているのだろう。
やっぱり今年2012年が辰年だから?西川館長に尋ねてみた。

――霞ヶ浦のそばにあるのに海水魚も充実していますね。

「ええ、海水魚は普段川魚としかふれあえないこの地域のお客さんが喜んでくれますからね。個人的に好きだというのもありますが(笑)。自分の好きなものをお客さんにどう楽しんでもらうかが大事だと思っています。」

そりゃせっかく水族館に来たんだもの。普段家の近所で見てる魚もいいけど、やっぱりニモとかにも会いたいよね。
そりゃせっかく水族館に来たんだもの。普段家の近所で見てる魚もいいけど、やっぱりニモとかにも会いたいよね。
――なるほど。その中でも特にタツノオトシゴにずいぶん注力されていますが、これは今年の干支にちなんだ企画ですか?

「いいえ、常設の展示です。タツノオトシゴには特に思い入れがありまして。実は現在この仕事をしているのも、きっかけはタツノオトシゴなんですよ。」

――と言いますと?

「元々は二十代半ばまで半導体を作る仕事をしていたんですよ。ある日、金魚を飼いたいという後輩の付き合いで入った観賞魚店で売られていたタツノオトシゴを見つけて一目ぼれ。その日のうちに水槽を買って一気にハマり、数年後には脱サラして魚関係の仕事を始めたんです。観賞魚店を経営したり水族館の飼育員を経験したりして、いつのまにかここの館長になっていました。」
一人の男の人生をそこまで動かすとは。魔性の魚だ…。
一人の男の人生をそこまで動かすとは。魔性の魚だ…。
おおう。激動の人生だ。元半導体技師の水族館長とは。
館長はこの世界に足を踏み入れるきっかけとなったタツノオトシゴを今も変わらず深く愛していて、彼らのことを語る笑顔はまさに無垢な少年のそれだった。
並み外れた愛があるからこそ、量も質も一級の展示ができるのだろう。

タツノオトシゴだけじゃない!かすみがうら市水族館のみどころ

さて、この辺りでこの水族館で展示されているその他の魅力的な生き物たちを紹介していきたい。

海水魚の話ばかりしてきたが、決して淡水魚が軽視されているわけではない。ずらりと並ぶ管理の行き届いた水槽には国産淡水魚たちが泳ぐ。
霞ケ浦をホームグラウンドに持つだけあって国産淡水魚ももちろん豊富。
霞ケ浦をホームグラウンドに持つだけあって国産淡水魚ももちろん豊富。
特にタナゴ類(フナを綺麗にしたような小魚)は日本に分布する種の大半を網羅している。
実はマニアの多い魚だが、きっとそんな人たちの期待にも応えられるだろう。
海外の魚も多数。まぬけな顔が尋常でなくかわいいネオケラトドゥスという魚。
海外の魚も多数。まぬけな顔が尋常でなくかわいいネオケラトドゥスという魚。
魚だけでなく爬虫類や両生類も20種近く展示されている。
かっわいいカブトニオイガメ。かっわいい。
かっわいいカブトニオイガメ。かっわいい。
すごくなついていて、水槽の前に人が立つと群れになって寄ってくる。たまらん。
こういうマスコット的な存在がたくさんいるのもこの水族館の魅力だ。
なんと平成元年の開館当時から飼育されているというイモリ。なんか皮膚もゴツゴツしていてゴジラのよう。
なんと平成元年の開館当時から飼育されているというイモリ。なんか皮膚もゴツゴツしていてゴジラのよう。
少なくとも24歳か…。大切に育てればイモリってそんなに長生きするんだ…。
彼はこの水族館が生き物たちをしっかりした管理の下で愛情を込めて飼っていることを証明する存在なのかもしれない。

館内は館長に案内してもらおう!

水族館はただなんとなく見るだけでももちろん楽しいが、知識のある人が解説してくれるといっそう楽しいものだ。
担当する水槽の前に飼育員の方が立って展示の説明をしてくれる水族館もあるが、ここかすみがうら市水族館ではなんと館長自らが館内を案内、解説してくれるのだ。
タイミングが合うとエサやりを真近で見学できる。イトウやピラルクなど、大型魚の食事シーンは大迫力。(確実に餌やりを見られるのは日曜の16:30のみ。その他は不定期なので運次第!)
タイミングが合うとエサやりを真近で見学できる。イトウやピラルクなど、大型魚の食事シーンは大迫力。(確実に餌やりを見られるのは日曜の16:30のみ。その他は不定期なので運次第!)
これがものすごく楽しい!みどころがわかるし、飼育の裏話なんかも聞ける。館長さんは人柄も気さくで話もおもしろい。手さえ空いていれば大歓迎で案内役を買ってくれるので訪ねた際はぜひ気軽に話しかけてみてほしい。

小さくても中身は濃い!かすみがうら市水族館へGO!

館長さんは「館の外観を見たお客さんがよく不安そうな顔をして入り口をくぐるのだけど、帰る時には笑顔になっているのが嬉しいですね。」と語る。この発言からも館内の充実ぶりと館長さんをはじめとする従業員の方々の人柄がうかがえる。
大きな水族館では良くも悪くも裏で働く人々の姿がなかなか見えてこないが、ここかすみがうら市水族館では「距離の近い」対人サービスが訪れた人の心を温かくしてくれる。
さあ、今年は辰年!タツノオトシゴに、その他のかわいい生物に、そして素敵なスタッフさんたちに会いに出かけよう!
リクガメのエサやり体験もできるよ!
リクガメのエサやり体験もできるよ!
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