特集 2012年2月8日

銀座でしいたけを売る男

しかも路上販売で売ってます、しいたけ。
しかも路上販売で売ってます、しいたけ。
銀座といえばみなさんどんな印象があるだろうか。老舗、上品、高級店…。まあ東京に住んでいる人でも、働いてる人以外にはけっこう敷居が高い印象の街だと思う。ある日、銀座にまつわるこんな噂を聞いた。「銀座でしいたけを移動販売してる男がいる」。銀座でしいたけ…。さっぱり繋がりが見えないよ!むしろ高級なまつたけの方がイメージ合いそうな?でも調べ終わるころにはとても腑に落ちた思いになるのでした。
1972年佐賀県生まれのオトナ向け仕事多数のフリーライター。世間の埋もれた在野武将的スゴ玉の話を聞くのが大好き。何事もほどほどに浅く広く、がモットー。

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あの肉の感じを図式化するならば…

銀座というと、自分のイメージでいえば映画の中に出てくるモダンな時代の盛り場、だろうか。歴代の東京の盛り場である渋谷・新宿・六本木、そのまた前の時代って感じだ。しかも先の3つに比べると、圧倒的に風格がある。だからたまに行くとその上品さに場違い感を思いしらされる。Tシャツかパーカーですいません、的な。
夜の銀座。石原裕次郎のそんな歌だけ知っている。
夜の銀座。石原裕次郎のそんな歌だけ知っている。
だいたいどんな街でもスニーカー屋とチェーンのCD屋があれば自分側と地続き、ないと敷居高っ!と思う。そういう意味では銀座はやはりちょっと遠い街だ、気分的に。

とアウェイ感を勝手に感じつつ、週末金曜日の夜7時過ぎにふらふら散歩しながら見渡してみると…
シャネル!映画でのみ知識あります。
シャネル!映画でのみ知識あります。
ブルガリ!プルサガリなら知ってる。
ブルガリ!プルサガリなら知ってる。
ルイ・ヴィトン、そして…
ルイ・ヴィトン、そして…
しいたけ!銀座本店です。
しいたけ!銀座本店です。
超高級店の中に突然のしいたけ。そう、銀座にしいたけ屋さんが本当にあるのだ。しかもそれは金曜日の夜だけに現れる。菌だけに(←マジです)。

しかも移動販売なのでどこに現れるかわからない。ブログを参照して今回の出没場所を調べてみると…。いた!
この日は銀座シネパトスの近くに。
この日は銀座シネパトスの近くに。
しいたけマークの自転車と共にしいたけ売りの男が…。
しいたけマークの自転車と共にしいたけ売りの男が…。
この銀座に現れた移動販売型しいたけ屋の名前は「銀座虹の森」。横のお兄さんが店主の虹山虫太郎さん。2010年に銀座でしいたけ売りを初めて、今年で3年目だそう。

しいたけ売り、といっても野菜の行商のように買ったらあとは調理するだけのしいたけを売ってるわけではない。その自転車の中を覗くと…。
この自転車も特注品。しいたけカスタム。
この自転車も特注品。しいたけカスタム。
うおー、なんだ!ブロックみたいなのからしいたけが生えてる!
うおー、なんだ!ブロックみたいなのからしいたけが生えてる!
こちら銀座虹の森はしいたけそのものではなく、しいたけが生える前の「菌床」を売っているのです。買ってちょっと準備すれば上写真の左側のやつみたいな感じで、しいたけがニョッキニョキ生えてくる、らしい。

しかしそんなにしいたけ栽培って簡単なんですか?菌とかそういうのって結構面倒なイメージが…。
「水与えるだけで簡単ですよ!」ってそんなもんなの?
「水与えるだけで簡単ですよ!」ってそんなもんなの?
虹山さんに話を聞いてると、他のお客さんも興味深そうに寄ってくる。やはり「銀座にしいたけ」のギャップは絶大だ。とりあえず菌床をひとつ買って家で育てつつ、後日虹山さんの話を聞いてみることにした。いろんな意味で、なぜ「銀座でしいたけ」?
すぐに次のお客さんが。右の親子も興味深そう。
すぐに次のお客さんが。右の親子も興味深そう。
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一週間でこんなにガンガン生える!

さて虹山さんの話を聞く前に、買って帰ったしいたけを開けてみよう。虹の森で販売しているしいたけの菌床、その名も「CTAKEO」。シータケオ…ちぃ散歩のあの人っぽい…もちろんダジャレですよね?とりあえず菌床を開けてみる。
こんなパッケージ。
こんなパッケージ。
ロールケーキにしか見えない。
ロールケーキにしか見えない。
またこんなラベルだし。高級感!
またこんなラベルだし。高級感!
しいたけとは別の意味で美味しそうなパッケージング。もちろんこの状態では食えません。といっても育てるのもとても簡単。袋から取り出して、水洗いして、あとは直射日光が当たらない適度に風通しのよいところに置くだけ。台所とか。

そして朝晩の2度霧吹きで水をシュッシュ。それで生えてくる、らしいのだけど。
濡らしたらあとはそのまま。マジで生えるですかしいたけ。
濡らしたらあとはそのまま。マジで生えるですかしいたけ。
では菌床の変化を待つ間に、虹山さんがなぜこのお仕事を始めたか?の話を。もともと、しいたけどころか植物の栽培などに興味があるわけでもなく、料理にものすごく凝るというタイプでもなかったという虹山さん。当然実家にすごくでかいしいたけ山がある、でもない。
昼の銀座でお話うかがいました。
昼の銀座でお話うかがいました。
なぜしいたけ屋を始めたのか?それは前職のネットワークエンジニア時代に遡ります。そのきっかけについてメールマガジンを読ませていただいたのですが、それ丸ごと載せるとそれだけで一本記事になってしまいそうなので、簡単に要約を。

毎日の仕事で疲れが溜まり、その日もグッタリして職場から帰ってきた虹山さん。すると部屋にはなぜか新聞紙の上にしいたけが並んでいた。イラだちのぶつけ所になってしまったのか、「なんでこんな所にしいたけがあるんだ!」と怒りちらし、勢いで新聞ごとしいたけを捨ててしまった。奥さんが虹山さんに栄養つけてもらうために食べさせようと作った干ししいたけと知らずに…。

その後、すっかり反省した虹山さん、思わず怒りをぶつけたしいたけについていろいろ調べはじめた。その中でしいたけの菌床に興味を持った。
「実際しいたけの菌床を見て、おがくずからきのこが生えてくる活力みたいなのがいいな!と思ったんですよ。わくわくする感じというか。躍動感みたいなのがあって」

--他の植物の芽が出て、葉が開いて…というのとは違うものがありそうですね。

「なんていうんですかね…わくわくする物がわき上がってくるような感覚があったんですよ。物語感、作品というと大げさですけど、しいたけの世界観で時代のメタファーを作り上げたかったというか」

--大きく出ましたね(笑)。しいたけで時代を!

「銀座虹の森のキャッチコピーで『わくわくをつたえなきゃ。』てのがあるんですけど、大人の童話を作り上げてくようなことをやってみたかったんです。銀座という場所を選んだのもそうなんですけど」
しいたけの持つ活力…普通に野菜としてのしいたけだけを見てもピンと来ないかもしれない。しかし菌床から育ててみるとすごくよく分かる。わずか一週間だけ見ても、驚くほどしいたけってパワフルに生えてくるんですよ、ほら!
買ってきて4日目。真ん中にぽつんぽつんとありますよね?
買ってきて4日目。真ん中にぽつんぽつんとありますよね?
6日目。まさに「にょっきり」と生えてきた!
6日目。まさに「にょっきり」と生えてきた!
7日目。すっかりきのこらしく。朝晩で違う顔だったりする。
7日目。すっかりきのこらしく。朝晩で違う顔だったりする。
8日目。1日、そしてまた1日でこんなに変化が。
8日目。1日、そしてまた1日でこんなに変化が。
わずか一週間程度でこんなにムクムクと…。また他の植物と違って、しいたけというかきのこって最初からきのこの状態で伸びてくるのが、またどこかファンタジーな感じ。しかもこちらの育成する手間は歯磨きついでに水かけるだけ。予想以上に手間がかからない。

何げに力強さがあるしいたけ。その醸し出すストーリー性など、どんどんしいたけに魅力を感じていった虹山さん。熱心に研究を重ね、ついにはサラリーマンをやりながらしいたけ屋を始めることに。

ズブの素人がいきなりしいたけの菌床売り、という意外すぎる展開に最初は菌床の取引先からはなかなか信頼されなかったそう。しかしなんでまた銀座だったのだろう。
--普通人の多い新宿とか渋谷とか考えそうなもんですけども、なぜ銀座?

「場所は大事だなって思ったんです。いかに面白く売るか、てのも含めて。それで前の仕事しながらいろいろ考えたんです。『神田でしいたけ』『秋葉原でしいたけ』とか…」

--今なら秋葉原とかやりそうなもんですよね。

「それでふと『銀座でしいたけ』ってのが出て、それが一番組み合わせでいいな、って。言葉の重みとわくわく感、自分がやろうとしてる事と合致してるんです」

--やろうとしてる事とは?

「楽しさを大人に伝えたかったんですよ。伝えたいのは大人のひとなので。それなら銀座って街はぴったりかなと」

--たしかに、新宿や渋谷に比べると大人比率圧倒的に高いですね。

「あと海外の高級店の一号店や本店ってだいたい銀座じゃないですか。じゃあうちもまずは銀座からと…大きいこと言いましたけど(笑)」
あくまで大人向け。たしかに実際育ててみて、しばらく見てなかった「生命がむくむく育つ感動」みたいなのひさびさに感じたんだよなあ、自分も。
一部分見てもすごいけど、全体見ればさらにすごい。
一部分見てもすごいけど、全体見ればさらにすごい。
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銀座の街に意外とフィットするしいたけ

銀座でしいたけ、というと奇妙な感じだけども、前ページに載せた高級感あるパッケージは正しく銀座な感じがしないでもない。なぜあのパッケージ?そしてなぜ「CTAKEO」?
--あのロールケーキ風のパッケージがいいですよね。

「やっぱり銀座で売るって決めてから、やっぱりスタイリッシュさは必要だなと。それで銀座のイメージって何だろう?スイーツとか?と思ったら、だんたんケーキに見えてきて(笑)」

--それで名前は「CTAKEO」。どこかで聞いたことあるような…。

「しいたけって英語でも"Shiitake mushroom"なんです。日本語としてもいい響きだし、あのキャラクターも考えてたので、あの顔っぽい名前がいいかなと(笑)」
こう見るとケーキにしか見えない。
こう見るとケーキにしか見えない。
箱にはショップカードが。
箱にはショップカードが。
いい事言います、CTAKEOさん。
いい事言います、CTAKEOさん。
ここまで読んできた人なら「銀座でしいたけ!いいかも!」と素直に思えるかもしれない。しかしあらためて路上で売ってるというのはやはりシュールだ。デパ地下とかじゃないんだから。売り始めのころはトラブルとか大変じゃなかったんだろうか。
「今は三輪自転車で販売してますけど、最初は『しいたけ生えます』ってエプロンして、菌床持って売ってました。100%怪しい(笑)。まだ生えてもないおがくず持って『生えますから!』って詐欺みたいな商売ですよね(笑)」

--カラーひよこばりの怪しさですよ!

「『こんなもん買うやついるのか?』って自分でも思ってましたからね。開業初日のこととか、今でも覚えてますよ。どこで売ろうか考えて、銀座4丁目の交差点前でやろうと」

--銀座で一番大きな通りですね。

「そこで『しいたけ生えます』ですよ(笑)。でも緊張というか妙な爽快感がありましたね。周りのお店からはすぐ怒られましたけど(笑)」

--そりゃそうか。

「でも初日で5個売れたんです。『怪しいから買ってあげる』とか言われて」

--妙な同情ですね。
最初に販売した銀座4丁目の交差点前。常に人いっぱい。
最初に販売した銀座4丁目の交差点前。常に人いっぱい。
いまはこの自転車で自宅からえっちらおっちら。
いまはこの自転車で自宅からえっちらおっちら。
銀座では毎週金(菌)曜日、18時から販売している虹山さんのお店。銀座にした理由は先に書いたけれど、実際のところ銀座という場所を選んでみて正解だったんだろうか?
--実際銀座でよかったことって何ですか?

「いっぱいあると思いますよ。入ると温かいですよね。行くと必ずいつも買ってくれる方と立ち話になったり。移動販売ってある意味すごく孤独なんですけど、ふれあえると深くまで話せたりするんで」

--普通のお店とは違う距離感が。

「今は予約してくれる方もいますし、徐々に地元の人たちともつながりが出来てきたりして。銀座って何でも受け入れてくれるような、懐の深い街だと思いますよ。絡んでくる酔っぱらいとかはいませんしね。お酒呑むにしては単価が高いので」

--基本上品な大人が多そうですね。

「だいたい仕事帰りの会社員の方とかです。土日の昼の銀座とかは人通りは多いんですけど、地方から来る方がほとんどですから、わざわざしいたけ買って帰らないんですよ(笑)。高級品買ったり、もっと別の目的があるから」
東京近郊の人にとっても銀座というのは特殊な街だ。お店は多いけれど、あまり日常使いのものを買う感じではない。毎日がハレの街。だからこそふとしいたけを手にしてしまうマジックがあるのかもしれない。異空間のアイテムとしてのしいたけ。

そして帰って水あげてればこんな感じでムクムク生えるのだもの!ちょっと異空間な銀座からのおみやげとしてはいいチョイスかもしれない。
4日目。ぽつりぽつりと丸いものが出てる感じはする。
4日目。ぽつりぽつりと丸いものが出てる感じはする。
6日目。壁をぶち抜いて現れてきたぜー!
6日目。壁をぶち抜いて現れてきたぜー!
7日目。きのこと知らなければちょっと怖い。
7日目。きのこと知らなければちょっと怖い。
8日目。ずいぶんきのこぽくなってきた。
8日目。ずいぶんきのこぽくなってきた。
洗面台の隅で育てたんですが、普段とはまったく違う一角になりましたね。魔界っぽいというか…。これが草花ならそれほど違和感ないんでしょうが、きのこならではのファンタジー&ミステリアス感。

そして育てはじめて10日目…もう十分育ったぽいのでいただいてみました!さあ実食!
食えるジオラマにも使える。
食えるジオラマにも使える。
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もぎたてしいたけ、食べてみた

最初は生産者の人にも、お客さんにも怪しまれてスタートした銀座虹の森。しかし今ではどちらからも信頼され、そして期待されてしいたけを売り続けている。
「菌床は販売するその日に産地から送られてくるんです。最初プレゼンする時は大変でしたけどね。何の経験もない男が『売って下さい!』っていうんですから(笑)。でも今はその方たちが一番協力してくださるので、ありがたいです」

--最初は「大丈夫か?」て感じでしたでしょうねえ。

「でも産地さんが若い経営者に変わったところで『面白いことやってみよう』と言ってくださって、そういう所に恵まれたのが大きいです」

--そういうのは大事ですよね。

「あと産地さんとは『もっとしいたけの菌床ってのを認知してもらおう』って約束してるんです。自分は銀座での販売だけじゃなくて、卸しもやってるので、もっと販売先を増やしたりもしていきたいですし、あとこのキャラクターも有名にしていきたいですし」

--いろんな意味でしいたけを広く世間に!

「あと『NIJINOMORI PROJECT』っていって、売り上げの一部で全国の小学校や老人ホームにしいたけの菌床を寄付する活動を行ってるんです。それも広めていきたいんですよね」
まさに「わくわくをつたえなきゃ」のキャッチコピーのとおり、いろんな活動を通してしいたけとそこから生まれる「わくわく」を届けている虹山さん。しいたけと銀座、その組み合わせだからこそ生まれるわくわく、なんでしょうね。
わくわくを伝えに金曜日の夜、虹山さんは銀座に現れる。
わくわくを伝えに金曜日の夜、虹山さんは銀座に現れる。
と、書いているうちに銀座からCTAKEOをうちに連れ帰ってから10日。カサの裏にヒダが出来れば食べ時、ということでもういただけるはず。ではさっそく!
伸びたしいたけをぶちっともぎって…
伸びたしいたけをぶちっともぎって…
鍋にイン!今晩は石狩鍋です。
鍋にイン!今晩は石狩鍋です。
おお美味そうだ。だってとれたてなんだもん!
おお美味そうだ。だってとれたてなんだもん!
もぎたてのしいたけって初めて食べるな~。もぎたての果物が食べれる所ならりんご園とかなし園なんてのがあるけど、しいたけは聞いたことがない。

では、なかなかの大ぶりなしいたけにかぶりつく。
満を持して、がぶり。
満を持して、がぶり。
味の感想を言う前に…自分は実はそれほどしいたけ好き!てわけじゃないんですよ。「ねぎサミットでねぎ嫌いを完全克服」の時も似たようなこと言ってますけども。まあ「銀座でしいたけ」の面白さと好き嫌いは別ですし、と思って取材も進めてきた。

しかしこのしいたけ、ホントに美味しかったのです!わずか10日水をあげただけとはいえ育てたというマジックがあったのか、もぎたてというマジックがあったのか、それとも虹の森の菌床にマジックがかかってたのか。食感も味も違和感なくはむはむと食べれて、自分としても不思議な感じ。

銀座で買うところからひとつのストーリーを楽しめるしいたけ栽培。いろんな意味でファンタジーなしいたけ体験、きっとある!

でもきのことモビルスーツはあまり合わない。
でもきのことモビルスーツはあまり合わない。

しいたけダブルチャンスキャンペーン

まだしいたけはいっぱい&一度収穫したあと、一週間くらい休息したら二度目の収穫のチャンス!だとか。二度目の方が美味しいらしいので、しばらく楽しみですねえ。

ちなみに虹の森さんは先に書いたとおり毎週金曜日18時に銀座に出没。毎回20個が売り切れ次第終了で、だいたい21時か21時半くらいまで販売されてるそう。またシーズンもあってだいたい11月から5月くらいまで。販売場所など詳細は公式サイトをご覧ください!
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