特集 2012年2月1日

昔の学習雑誌がなんだか不気味なのだ

こわわわわわ。
こわわわわわ。
以前、母が子供の頃に読んでいた学習誌を紹介した(「昔の雑誌の『未来予想図』を鑑賞する」)。そのときは未来予想絵図に焦点をあてていたのでこの雑誌のことはサラッと流したが、実は自分には大変思い入れのある雑誌なのである。だからいつかまた取り上げてみたかった。

その理由の一つが、「なんだかこの雑誌、怖い」ということだ。

ひどくぼんやりしたテーマで、のっけから不安でしょうがないが、今回はこの怖さをぼんやりとでいいので共有していただきたい。
1970年群馬県生まれ。工作をしがちなため、各種素材や工具や作品で家が手狭になってきた。一生手狭なんだろう。出したものを片付けないからでもある。性格も雑だ。もう一生こうなんだろう。(動画インタビュー)

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とにかく恐ろしい

小さい頃、物置の隅にあったこの「科学クラブ」を、たまに取り出しては眺めていた。奥付には昭和34年と書いてあるこの学習誌、当時の自分にはすでにアンティーク物として映った。それ以上に、内容などほとんどわからなかったので、図や絵や写真で面白そうなものをひたすら目で追うだけだったけれど、それでもすごく面白かった。
引き取ってからだいぶ参照したので、バランバランになってしまった。
引き取ってからだいぶ参照したので、バランバランになってしまった。
面白かったのだけど、しばしば「怖い」絵図が襲ってくる。怖いといっても、心霊写真や妖怪のような、そのものズバリな怖さではなく、まあ、不気味というべきか。まずは各号の表紙から見ていただこう。
発電施設と、放電の様子。悪の要塞みたいに描かなくてもいいじゃないか。
発電施設と、放電の様子。悪の要塞みたいに描かなくてもいいじゃないか。
何かと思うが「眼底」だそうだ・・・。
何かと思うが「眼底」だそうだ・・・。
表紙がハゼ!すごく力の入ったハゼ絵だ。
表紙がハゼ!すごく力の入ったハゼ絵だ。
怖いほどに燃えあがる。丁寧に温度表示付きの炎。
怖いほどに燃えあがる。丁寧に温度表示付きの炎。
手描きならではの…と一瞬書こうと思ったが、手描きだからこういうテイストになるかというと必ずしもそうではないだろう。あるいはこの時代の何かがそうさせるのだろうか。おどろおどろしいほどの色、表現に、子供オツハタはおののいていた。

さあ、迫り来る表紙を乗り越え、中身を見てみよう。
物理的解説の扉絵が、こんな。怖いというか、虚をつかれる。
物理的解説の扉絵が、こんな。怖いというか、虚をつかれる。
これも当時、不気味に感じていた絵。どこが?
これも当時、不気味に感じていた絵。どこが?
黒い顔はもちろん、表情のなさも。こわい。
黒い顔はもちろん、表情のなさも。こわい。

不気味に恐ろしい

水圧は恐ろしいものだ。なのでセルロイドのキューピーを使って、実験してやろう。いひひひひ。

というわけはないが、なんでキューピーなんだ。人体模型のもっともゆるいものを使ったつもりだろうが、余計怖くなってる。
しかもこの粗い粒子の写真・・・水圧よりキューピー自体が恐ろしくなってるよ!
しかもこの粗い粒子の写真・・・水圧よりキューピー自体が恐ろしくなってるよ!
高周波加熱の設備だそうだが、空間の空き方で妙な雰囲気に。クラッカー焼くためと書いてあるが、なんだか違うものを焼いていそうで怖い。
高周波加熱の設備だそうだが、空間の空き方で妙な雰囲気に。クラッカー焼くためと書いてあるが、なんだか違うものを焼いていそうで怖い。
断面図も黒く暗く、生き物のようだ。テレビの中にこんな恐ろしいもんがあるとは。
断面図も黒く暗く、生き物のようだ。テレビの中にこんな恐ろしいもんがあるとは。
そしてそのまま恐ろしき写真。
そしてそのまま恐ろしき写真。
墨流しで絵を描こう!わー楽しいなー、とは決して思わせてくれない写真。暗闇から伸びる手が怖いよー。
墨流しで絵を描こう!わー楽しいなー、とは決して思わせてくれない写真。暗闇から伸びる手が怖いよー。
子供には怖いに決まってるわ!
子供には怖いに決まってるわ!
着色写真には独特の不気味さがあると思う。これなんかも、今にも貞子が這い上がってきそうだ。
着色写真には独特の不気味さがあると思う。これなんかも、今にも貞子が這い上がってきそうだ。
薄っすらまとわりつくような不気味さだが、この不気味さに子供オツハタは惹かれてもいた。そうでなければ、何十年も気に留めて探していようはずがない(いったん紛失していたのだ)。

今見れば、その頃感じていたような不安は湧き上がってこないと思うが、それでもやはり怖いものは怖い。次のページでも怖い怖い言い続けます。
怖い、怖~い。…あれ?面白いぞ。口角上げて絵に納まるコウモリ。
怖い、怖~い。…あれ?面白いぞ。口角上げて絵に納まるコウモリ。
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ひっそりと恐ろしい

一見何気ない、普通の学園風景・実験図版にも、恐ろしさはひそんでいた。
何気ない、といいつつ「りゅう酸あそび」しちゃってるが。
何気ない、といいつつ「りゅう酸あそび」しちゃってるが。
なごむ絵を描いてくれたがその下のなごむ絵を描いてくれたがその下のキャプション「みなさんも りゅう酸のとりあつかいにじゅうぶんきをつけてやってごらんなさい」。やるかい。「みなさんも りゅう酸のとりあつかいにじゅうぶんきをつけてやってごらんなさい」。やるかい。
なごむ絵を描いてくれたがその下のキャプション「みなさんも りゅう酸のとりあつかいにじゅうぶんきをつけてやってごらんなさい」。やるかい。
電気で絵がかける、へえー。よくよく見入れば・・・
電気で絵がかける、へえー。よくよく見入れば・・・
ヨウ化ってこう書くの?!「妖怪」みたいでコワイ、ヒィー!よく考えたら「肥沃」の「沃」だ、落ち着こう。
ヨウ化ってこう書くの?!「妖怪」みたいでコワイ、ヒィー!よく考えたら「肥沃」の「沃」だ、落ち着こう。
何が恐ろしいって、絵よりもこういう構成にした担当者が凄い。何がなんだか。
何が恐ろしいって、絵よりもこういう構成にした担当者が凄い。何がなんだか。
なんてことない図版なのだが、なんというか・・・人の気配を感じさせないところが不気味だ。
なんてことない図版なのだが、なんというか・・・人の気配を感じさせないところが不気味だ。
これと、上の絵からはロシアンアバンギャルドを感じる。力強い表現。話がそれた。
これと、上の絵からはロシアンアバンギャルドを感じる。力強い表現。話がそれた。
ところで、小さい頃私が感じていた、これらの「学習書なのに何だか奇妙な感じ」。これは現代ではどうなっているのか、本を買って、ちょっと比較してみよう。
学研の図鑑「ひみつの図鑑」と朝日ジュニアシリーズ「週刊かがくる」。自分が見ても面白そうなのを買ってきた。
学研の図鑑「ひみつの図鑑」と朝日ジュニアシリーズ「週刊かがくる」。自分が見ても面白そうなのを買ってきた。
例えば動物を扱うページ。写真は鮮やか。(「ひみつの図鑑」より)
例えば動物を扱うページ。写真は鮮やか。(「ひみつの図鑑」より)
親しみやすそうなイラスト付き。
親しみやすそうなイラスト付き。
きれい。清潔そう。親しみやすそう。わかりやすい。など、ポジティブ意見がズラッと並びそうな構成だ。実際、見ていて楽しくわかりやすい。

片や、科学クラブの動物モノは、どうか。
「おまえら学習しろよおおぉぉ!!!」と言わんばかりの彩色。
「おまえら学習しろよおおぉぉ!!!」と言わんばかりの彩色。
次、現代の図解。キャラもたくさん出てきて案内してくれる。
太陽の最期は怖いけど、絵は怖くない。(「週刊かがくる」より)
太陽の最期は怖いけど、絵は怖くない。(「週刊かがくる」より)
そして昔の科学クラブでは。
科学クラブ。シンプルかつ、相変わらず人の気配がない図版。そして誰もいなくなった。
科学クラブ。シンプルかつ、相変わらず人の気配がない図版。そして誰もいなくなった。
次、現代の図解。月の裏側はこうなっている。
精緻な写真で、未知の領域に迫る。月キャラも上から見ているぞ。
精緻な写真で、未知の領域に迫る。月キャラも上から見ているぞ。
そして科学クラブでは。
あわわわわ。廃墟に来てしまった。
あわわわわ。廃墟に来てしまった。
どうだ。現代では本の中の皆が温かく迎えてくれる。君のりかいをたすけるよ!と皆、健気に手伝ってくれそうだ。

だが昔の学習誌はどうだ。よく読めば「みなさんも やってごらんなさい」と導いてくれているようなのだが、来る者拒まず去るもの追わず、といった風である。

いや、ここではどちらがいいかという問題ではない。あくまで、「あー怖かった」と言いたいだけなのだ。
熊だ!…いや人間か?怖いぞ!
熊だ!…いや人間か?怖いぞ!
最後に、言っちゃあなんだが怖さ以外の味わいポイントをお見せしたい。
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怖くないけどハッとした

昔はこうだったんだ、と改めてハッとした図版たちを見ていこう。
リュウグウノツカイって言わないのか!リボンといえばリボンだが、かわいくないリボンもあったものだ。
リュウグウノツカイって言わないのか!リボンといえばリボンだが、かわいくないリボンもあったものだ。
今や人気の廃墟スポット、軍艦島が現役だった!
今や人気の廃墟スポット、軍艦島が現役だった!
ちょっと感動を覚えた、「アイロンのなおしかた」。
ちょっと感動を覚えた、「アイロンのなおしかた」。
じょうずなねんりょうの使い方のラインナップがすごい。ひばち、れんたんこんろ、かまど。これ、今も教えたらいいのでは。
じょうずなねんりょうの使い方のラインナップがすごい。ひばち、れんたんこんろ、かまど。これ、今も教えたらいいのでは。

読者コーナーの味わいは永遠に

お楽しみは、内容以外にもそこかしこに埋まっている。読者コーナーというやつだ。今回は特に「クロスワード懸賞」と「切手交換」を取り上げたい。
それにしても質素な読者コーナーである。
それにしても質素な読者コーナーである。
パズル、解いてたんか・・・。
パズル、解いてたんか・・・。
「岩より小さく砂より大きいもの(イシ)」と「電気の圧力を変える機械(トランス)」が同等に扱われているのがすごい。
「岩より小さく砂より大きいもの(イシ)」と「電気の圧力を変える機械(トランス)」が同等に扱われているのがすごい。
ショックなおわび。
ショックなおわび。
なぜかというと、パズルを解いて応募すると抽選で豪華商品がもらえるからだ。
なぜかというと、パズルを解いて応募すると抽選で豪華商品がもらえるからだ。
ここでちょっと説明が要るだろう。

上の写真をパッと見て思うのは「ああ、懸賞に当たった人を呼んで直接賞品を手渡したんだな」ということだろう。しかし地方からの応募もあるだろうから、それはおかしいんじゃないか。

右上の説明を3回ほど読んでやっとわかったのだが、ここにいらっしゃるのは「当社に抽選にきてくださったお友達、○○小学校の皆さん」なのだ。これらのお友達は、「抽選を手伝ってくださった」だけなのである。驚愕の事実。なんて健気なんだ。「高級はしらどけい」などを他の子に当てるために、君たちは。
有志の皆さんが、誇らしそうに写っていた。
有志の皆さんが、誇らしそうに写っていた。
最後、実は今回もっともグッと来たコーナーがありまして、それは「切手の交換室」だ。当時大ブームだった切手集めをお手伝いせんと、なんと出版社が交換役をかって出てくれているのだ。なんて親切なんだ。

この交換室の裏方は、ちょっとやってみたい。交換相手見つけて発送するの。お見合いあっせん好きなおばさんのように。
これどう考えてもマージン取ってないだろう。
これどう考えてもマージン取ってないだろう。
さすが、欲しい切手には不動の人気を誇った「見返り美人」「月に雁(かり)」。「かり」じゃなくて皆「がん」って言ってるけど。
さすが、欲しい切手には不動の人気を誇った「見返り美人」「月に雁(かり)」。「かり」じゃなくて皆「がん」って言ってるけど。
図版が怖かった、という話から切手交換のあっせんへと180度違う話になってしまったが、やはり昔の雑誌、学習誌は面白い。今の本は良く出来ていてすごく面白いのにはかわりないけど、昔の本は素朴さがストレートに胸に迫る。

また何かテーマに気づいたら、ご報告したいと思います。

自分が当時本気の読者だったら、内容や中身を熱心に読んで、心から感心していただろう。しかし時は経ち、こんなふうに表層だけをさらって面白がることになって、心から面目ない。

話はそれるが、最近ウルトラマンを改めて見てみて、怪獣のいとしさにもだえた。洗練や効率、マーケティングなどと別の次元にあるあの良さは、今回紹介した事物に通じるものがあるように思う。なぜか惹かれるのだ。
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