フォーエバー、胃
食べるのも飲むのも昔から大好きだ。若い頃は、ちょっと食べ過ぎたなあと思っても、次の日まで響いたりすることはほとんどなかった。一晩中でも物を食べていられた、あの頃。
過去の写真から引っ張り出してきた宴会写真。いかにも胃を使ってますという感じの絵。
これは友人宅でのご馳走。こういうときのために、こういう写真のフォルダを作っておこうと思う。
心はあの頃のまま、体だけ中年期を迎えた少女は、自分の内臓が昔とは違っていることをやがて知るようになる。
さしこみが・・・
今までの感覚のまま食べていてはいけないのだ。確実に臓器への負担が増している。ああ、たくさん食べる行為よ、さようなら。
まあ食事習慣は改善していくとして、今後も胃を軽やかに保っていければと思う。例えば胃薬のCMでふわふわと浮いている、あの胃。実に軽やかで楽しそうだ。あんな胃を手にしてみたいものだ。
そんなわけで、常に「軽き胃」を心に留めておくために、紙風船を作ってみよう。とても自然な流れだ。
メイキング 胃
まずは胃の見本を探してみよう。うちにこんなフィギュアがあった。
いつか使う日が来ると思って買っといた。
人体模型フィギュアだ。これを解体すると、胃のモデルも現れるのだ。
カシューナッツみたいな、これが胃だ。
うーん、なんだか想像とちょっと違う。こんなにリアルでなくていい。それにあまり複雑だと紙風船にしづらい。CMでよく見かけるあの胃だ。あの胃を求めて画像検索だ。
検索結果を平均して、理想の胃を決める。が、これがけっこう難しい。単純なものほど難しい。
なんか違う、なんか違うを繰り返し。
スタイロフォームで原型を作る。
なぜか原型から作る。この原型にまずは新聞紙を貼っていき、それを切り開いて型紙とすることにした。
ペーパークラフトを作るソフトで型紙を作ればいいようにも思うが、薄い紙を貼り合わせる紙風船作り、土台が必要なのではと思ったのだ。それに、胃、いっぺん作ってみたいじゃないすか。
ブラッシュアップ 胃
スタイロフォームにだいたいの胃の形を描いたら、スチロールカッターで形を出そう。
粗彫り。胃の形といい、バグパイプか何かを演奏しているような気になる。
刃タイプのスチロールカッターで仕上げ。削りカスと静電気との闘い。
ヤスリで表面を整えた後、コーティングをしたいのだが、さてどうやるか。
ラップ…は浮いてくるのでダメだった。
ツルツルのテープを巻くことに。
青いけどツヤツヤの胃になった。
なぜ表面をツルツルに仕上げたかというと、ここに糊で新聞紙を貼り付けていくので、糊離れがいいようにと思ったのだ。
張り子を作る感じで。
ドライヤーで早く乾かす。
新聞の世知辛い内容が「胃」にちりばめられるという、皮肉な作品のようになった。
この張り子が乾いたら、半分のところで切り開いてみる。
いやーん。胃やーん。
実際はこんなきれいにパカッと取れはしなかった。
ここからが大変だった。立体を平面にするのだ。少しづつ平らな床に押し付けていき、ゆがまず平面になった部分から少しづつ切り取っていく、その繰り返し。ああ、やっぱりペーパークラフトソフトか何かで型紙作ったほうがよかったか…と何度も後悔した。
結果、なんだかこんな複雑そうなもんができてしまった。大丈夫かこれ。
半身を展開。これが、まさかあの胃になるとは、誰が思うでしょうか。
レッツ・フライ 胃
原型のことはいったん置いといて、次は紙探しである。紙風船の、張りがありつつ薄くて丈夫なあの紙。あれはどうやったら手に入るだろうか。
どうも「グラシン紙」というものを使っているようなのだが、それはどこで手に入るのか。
雑貨店で買った紙風船。今やバリエーションは豊富。
同じく雑貨店に、グラシン紙の封筒が売っていた!
上右写真の封筒の感触、おわかりになるだろうか。駄菓子屋や、ちょっとした文房具店などで物を買うとこういう薄くてツルツルした封筒に入れてくれたものだ。これがグラシン紙らしい。
だがネットで調べたところ、色付きグラシン紙は海外から取り寄せるしかなく、それには数週間かかる様子。似たような「パラフィン紙」は白しかない。
胃の色といえばもうピンクだろう。健康そうな「ピンク」でどうしても作りたいのだ。
で、やっと見つけたのがこれ「カラペ」という薄い紙。
紙のことならあそこに行こう、と、新宿にある大型画材店へ。店員さんに紙風船を見せて聞くと、やはりグラシン紙やパラフィン紙でカラーのものは置いてなく、代わりにカラペという紙を薦めてくれた。見てみると、うん、これが一番近そうだ。和紙の感触に近いが、ラッピングによく使うような紙だ。しかしこんなに紙入手に手こずるとは思わなかった。
さっきの型紙を紙に写し取る。
薄いので逆に切りづらい。
糊は塗りやすさから固形スティック糊を使用。しかし後からはがれてくるのでヤマト糊でよかったかも。
原型を土台にして貼っていく。薄いので非常に貼りづらい。
最後のほうは原型から外して。超絶やりにくい。あーもう。
紙がはかないせいで、地味に大変な作業だった。が、あれらの型紙を貼り合わせていくと、ちゃんと元の胃の形になったのがうれしい。 予想以上に「胃」になった。
「胃」紙風船、完成。ちょっと鳥のようでもある。羽ばたけ!胃。
空気口には補強の銀紙でそれらしく。
紙風船たるもの、折りたためないとダメだろう。プシュー。
きゅうー。これでどこでも持ち運べるように。
ポータブルな胃になった。ではこれを持って、胃弱な方々に福音をもたらしに行こう。
ジョイナス!胃
デイリーポータルZ編集部。担当の石川氏を通して「胃弱な方々」を集めてもらったのが、このお3方だ。
寒空の下、茂みの影で胃をいたわるのは石川氏、安藤氏、橋田氏。
石川 「最近あまりガツンとは食べられなくて…今日のお昼の唐揚げ、残しました…」
安藤 「2人の子どもを育てるのに、胃が痛みます…」
橋田 「私も胃、弱いんです。医者にお酒と辛いものはダメって釘をさされ…まあ飲んでますけど」
そんなときこそコレ!ガスター・・・じゃなくて胃紙風船!語呂悪し!
自身の胃弱ぶりを か細い声で語るお三方に、ではこの紙風船で健胃を祈願していただきましょう。
軽い!胃が軽い!との歓声が、ビルの谷間にこだまする。
それーっ!わあー!落としちゃダメ!キャー!もうあまり胃と関係なくなってる。
青空に、健康な胃が軽やかに映える。
胃、舞う。なんだか皆、非常に楽しそうなのだ。
突いていくうち空気は抜け・・・
だんだんと変形し、妙な動きをするように。
あっ、しまった!胃が地面に!(それにしてもなぜこんなに楽しそうなのか)
茂みに落ちた胃。でもまた空気を入れてやりなおせばいいさ!
これからも、胃がもたれたりムカムカしたりシクシクしたとき、この「胃」紙風船を見て元気になろう。なるといいな。
今年一年の、皆様の胃の健康を祈念いたしております。
ゼー、ゼー。でかいだけに、空気入るまでに3回めまいがした。