興味があるのは主に増結
今回は電車の増結に関してのみ、見ていきたいと思う。鉄道マニアはいろんなタイプに細分化されてきていると聞くが、となると僕は「増結鉄」とでもいうのだろうか。もしすでにそういう分野があるのならば申し訳ない。仲間に入れて下さい。
まず最初にやってきたのはJR東京駅。この駅で日々増結作業が行われている。
現場は横須賀線ホームである。上向きの矢印で「下る」と書かれている。
東京駅の横須賀線ホームはハンパなく深いところにある。地下5階である。そんなところに電車が走っているのだからそれだけで興奮するだろう。
「!」の使い方が斬新。
言われたとおり黙々と下る。
地下5階ホームに横たわるのはN'EX(成田エクスプレス)である。
こんな下まで降りてきた者だけがこのかっこいい電車の増結を見ることができる。まさにご褒美である。
ホームの日常っぽさをはじき飛ばすN'EXの未来感。
これがこの後使われる部位である。
東京駅ではほとんど一日中ここ地下5階の横須賀線ホームで成田エクスプレスの増結作業を見ることができる。見たいときに見られる、それから列車自体かっこいい、この2点で東京駅地下5階横須賀線ホームは僕の中でかなりホットなスポットとなっている。
そうこうしているうちに増結車両がやってきたぞ、ちょっと静かにしてくれ!
駅員さんが女性だったのはまぐれである。
増結車両ももちろんN'EX。新しい仮面ライダーみたいな電車だ。
増結に集まるギャラリー。地下5階が一気に熱を帯びる瞬間である。
駅員さんはきっと「あとちょっとで増結するわよ」とか言ってるんだぜ、無線で。
「いま増結したわよ!(もえー)」
小さく敬礼(失神)。
この間、せいぜい4~5分だろうか。成田空港へ向かうお客さんというのはたいていこれから飛行機に乗るつもりだと思うのだが、この増結を見せつけられたら予定変更で電車で行きたくなるんじゃないだろうか。そのくらいにエレガントでスマートな増結であった。
オプションがまた豪華
しかしN'EXの増結はこれで終わりではないのだ。むしろここから先が他の車両の増結には見られないオプショナルファンクションなのでぜひ見逃さないでほしい。
増結を済ますとN'EXと書かれたドアーが横にスライドして開く。
そうして「じゃばら」がじゃっ!と出てくる。なんと増結した後、中でも通路としてつながるのだ。
この感動、きっとこの彼も目に涙を浮かべているに違いない。
ああ、N'EXの増結、かっこよかった。
しかし夢は終わらない。このあとまだ3種類の増結作業を取材してきたから見て欲しい。泣くなよ。
朝の東海道線増結
東海道線というと熱海とかを通るので旅行っていうイメージがないだろうか。僕はそう思っていた。でも今は思いっきり毎日通勤に使っている。
そんな(どんな?)東海道線平塚駅。この駅でも朝の時間帯、増結作業を見ることができる。
上りホーム。柱の下、黄色いラインが増結マークである。
朝の増結は7時29分、そして8時32分発の東京行き、この2回だ(2012年1月現在)。この情報がはたしてどれほどの人に有用なのかわからないけれど、いちおう書いておく。
この時間帯の電車を利用する乗客は、ほぼ全員これから来る増結車両の前に並んでいた。空の電車がやってくるため、増結側に並んでいた方が座れるのだ。これも増結のもたらすメリットである。
「上り電車がまいりまーす」
さあ、ショータイムの始まりである。
増結を受ける電車が黄色い増結ラインの手前で停車する。
そのままするすると徐行しながらラインぴったりに合わせる。ここでホーム詰め所から作業を見守る方が出てくる。この登場シーンもかっこよかったが撮り忘れた。
今回の主役。
増結される側の電車がホームに入り、黄色いラインでストップ。しばらくして増結側の電車が逆側から下ってくると先ほど出てきた駅員さんがアナウンスを流す。
「増結車両が入ります。この車両は一旦停止しますが、4回止りながら増結します。」
4回止るのだそうな。そんなの聞いたのここが始めてだ。
この隙に別の作業員がいろんなところを点検する。
反対側から増結車両が姿を現し、1回、2回と止りながら間を詰めてくる。
「増結車両はあと2回止ります、その後ゆっくり動きながら増結しますので、近づかないで下さい」
ほとんど実況中継に近いアナウンスである。きっとこの車掌さんも増結が好きなのだ。好きなことを仕事にするってすばらしい。
あとこの二人はとても仲が良さそうでした。
手持ちのランプを上下に振りながら誘導。同時にマイクを持って実況する。
3度目に増結車両が止った位置は、まさにギャラリー(僕)の目の前だった。まあ連結ラインで待ちかまえていたので当たり前なのだけれど。しかしこうして増結する場所が明確になっているというのはファンにとってはうれしいことである。電車が入ってきてから慌てなくてすむ(後ほど経験)。
駅員さんの言うとおり、4回の停止を経てここからは徐行で連結まで一気にいく。
じりじり…
どきどき…
がっしゃーん!
増結完了後もまたいろんなところが点検される。
平塚駅での増結作業は、今回取材した中で一番駅員さんの点検が丁寧だった。そのため増結の瞬間が点検の方の体に隠れて見えなかった、というショックな自体にも直面したわけだが。
その瞬間を絶対に見逃したくない、という人は反対側の下りホームから見てもいいかもしれない。
この後僕は増結された電車に乗って東京に向かった。次は夜の京急である。
夜の京急増結
冒頭にも書いたが、僕は以前京急の金沢文庫駅の近くに住んでいた。
金沢文庫駅では毎朝かならず増結作業が見られるのだ。思えばこの頃なにげなく見ていた増結作業が忘れられずに、今こうして求めてしまうのかもしれない。
今回はより都心から近い場所で京急の増結が見られる駅を紹介しようと思う。品川駅である。
京急といえば赤い電車。
ときめきクロスステップ。
特に下調べもせずに、品川駅でもたしか増結作業があったような気がするな、という程度の記憶をたどってやってきたのだが、これが待てど暮らせど増結されないのだ。入場券で入っているのであまり時間が経つと出るときなにか言われそうで怖いだろう。
駅員さんに増結の時間を聞いてみた。
実際15時くらいから待ちかまえていました。
「そうですねー、次の下りの増結は夜ですね。19時半以降になります。」
なんと。
京急線はラッシュ時のみ増結をするということで、すなわち朝と夜しかこの作業を見ることができないのだ。くやしいがあと3時間もここで待つわけにもいかないので日を改めることにした。
そしてやってきた次の日。
トライアゲインである。
今日はホームに入ってすぐに駅員さんに確認した。間違いなくこれからこの下りホームで増結作業が行われるという。昨日時間を聞いた駅員さんとは別の方でよかった。どんだけ増結が好きなんだ、って思われるところだ。好きだけど。
今回の取材で感じたことだが、どの会社も駅員さんの対応ってすごく親切なのだ。増結作業が見たいんですが、とどこでも正直に聞いて回っていたのだけれど、まったくいぶかしがるでもなく丁寧に時刻表を開いて探してくれた。たぶんこの人達も増結作業が好きなんだろうなと思った。同じ趣味を持つ者だけが感じられるシンパシーみたいなものを時刻表を繰る手つきから感じたのだ。
そして電車が入ってきた。
そういう目で見ると全員が増結ファンに見える。
それにしてもさすがラッシュ時。すごい人だ。
下り電車がやってきてホームで人を降ろす。時間的にこの電車かその次で増結作業があるはずである。
止っている電車の後ろからもう一本電車がやってきた。これか!
しかし前の電車は増結を待たずに発車してしまった。後ろの電車はその後ホームに入ってくる。
しまった、こっちが増結される電車だった!
僕の待つ下りホームの端を勢いよく電車が通過する。しまった!増結作業はもっと真ん中あたりで行われるのだ!
これはまずい。この人混みの中、数分で終わる増結現場に間に合うのか。走った!
間に合った。
思ったよりもすんなり間に合ってしまった。京急の場合は増結電車の前に人の列が集中しているわけではなく、皆どこで電車が継ぎ足されるのか把握していない様子だった。予告された場所で繰り広げられる増結も好きだが、こうしたシークレットな増結も知る人ぞ知る、といった感じも悪くない。
JRとは少し形状が違う。この部品だけ売ってないだろうか。
ほどなくして後ろから増結車両がやってくる。
徐行というにはかなり速い。大丈夫か。
心配をよそに直前で徐行。その後すすーっと入ってきて。
お、おっちゃん!見えない、見えない!
あー、もうつながってるー。
すみやかに発車。
今回いくつかの見た中で、京急の増結作業が一番手際よく感じた。おそらく2分~3分で作業を終え、発車しているだろう。そういえば金沢文庫での増結作業も一瞬だったような気がする。
限られた時間帯、人混み、場所の特定、手際の良い作業、どれをとっても鑑賞するには障壁となる。しかしそれだけに、現場を見た時の感動も大きいのだ。品川駅は増結好きを惑わせる。
最後はほのぼの解結(切り離し)作業です。
快速!切り離し作業
増結だけが人生ではない。つながった電車はいつか切り離されるのだ。
最後に解結(切り離し)作業を見にいった。場所は横須賀線、逗子駅である。
カタカナでズシと書くとなんだかかわいい。
増結マニアの約束の地、逗子
訳あって逗子を挟んで行き来する横須賀線の電車はこの駅で必ず増結、切り離しを経験することになる。というのも、逗子駅以降の駅はホームが短いので電車が長いとはみ出してしまうのだ。だから絶対切り離す。いわば必要にかられた別れである。
おかげで逗子駅では一日中コンスタントに増解結作業が見られるというわけだ。増結好きがようやくたどり着いた桃源郷のような場所である。
この電車はこれから切り離しを行う。
逗子駅は鎌倉駅の隣に位置しており、観光客の多くは鎌倉で降りてしまう。僕が行った15時あたりの時間帯は学生がほとんどで、電車の中が若さであふれていた。
増結ポイントも光る掲示板ではっきりと明記。まさに増解結マニアのためにあるといえる駅だ。
車内で野球部らしき高校生の話を聞くともなく聞いていた。
「おまえさー、**ちゃんのプレゼント、何買ったー」
「おまえ」と呼ばれていた学生は「CD」と答えていた。いいぞ、CD。僕も昔好きだった子にあげたことがあるが10年くらいして考えると恥ずかしくなる。
下り電車はつながった状態で入ってくる。
すばやく駅員さんが点検を行い、一気に切り離す。
いとも安産。
逗子駅での切り離しは他の駅で見た増結とくらべてもすごくスピーディーだった。やはりつなげるよりも切り離す方が簡単なのだろうか。
それでもちゃんと切り離した後に二人の駅員さんが指さしで点検しているのはさすがだと思った。切り離したと思ったらつながったままだったりすると、次の駅でホームに入りきらないから。
切り離した状態で車掌さんチェック。
流れるように発車。
増結作業の緊張感と違い、切り離し作業にはどこか「割り切り」みたいなものを感じる。切り離したからもう行っていいよ、みたいな雰囲気だ。実際は増結と同じくらい駅員さんが点検をするのだけれど、「繋げて走る」よりも「置いていく」方がきっと気持ち的にも荷が軽いのだろう。見ている方の感情移入なのかもしれないが。
増結、さいこう
増結だけを見に駅にに降りて増結したらそれを見送って次の電車で帰る。ここで行われているのは出会い(増結)と別れ(切り離し)である。機械同士のやりとりなのだけれど、電車の一番人間っぽい部分を見たような気がした。
今回はページの都合で数が限られていたが、他にも関東近辺では土浦駅や籠原駅、拝島駅なんかでも増結作業が見られるという。いつか見にいきたい。もちろん全国に範囲を広げて調べだしたらきりがないだろう。それは老後にとっておく。