特集 2012年1月25日

銀座駅の清掃マシンの音楽がなぜか「タッチ」

また今回も地味な写真が続きます……
また今回も地味な写真が続きます……
地下鉄銀座駅にある床洗浄機の警告音がちょっと気になる音楽だったので、掃除のひとにいろいろ聞いてみた。
鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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「カチューシャ」を奏でる床洗浄機

先日、銀座駅の構内を歩いていると、どこからともなく「カチューシャ」が聞こえてきた。
「カチューシャ」といっても、ロシア民謡の方の「カチューシャ」だ。水着で踊ったりしない方だ。
音のする方へ行ってみると、床洗浄機からその「カチューシャ」は聞こえてきた。
どことなく物悲しいメロディとピラピラ光るパトランプ。さながら峠のラブホテルのような、侘しさとケバケバしさを兼ね備えた床洗浄機。しばらく見入ってしまった。

よく見るとちょっとカッコイイかもしれない

いつも何気なく見過ごしている床洗浄機。しかし、こうやってよく見てみると、なんだかすこしカッコイイような気がしてきた。
スーパーひたちに似てる!
スーパーひたちに似てる!
斜め前から見てみると、特急列車、とくに「スーパーひたち」に似ている。
似てると思ってみると更に似てるような気がしてくる。セルフ自己暗示。いや、自己暗示ってもともとセルフだった。

掃除してるおばちゃんに話を聞いてみた

そんなカッコイイ床洗浄機をクールに操作する掃除のおばちゃんにちょっと話を聞いてみた。
目覚ましがわり
目覚ましがわり
--この音楽ってなんで鳴ってるんですか?
「これはねー、前歩いてるひとにぶつからないようにするためじゃないかしら?」

--警告音ってことですね
「あと、眠くならないようにかねー」

--え? 眠いんですか?
「ずーっと押してるとね、たまーにね、眠くなることあるのよ、で、眠くならないように音楽鳴らすこともあるわよーアハハハ」

掃除のおばちゃん。意外な所で睡魔と戦ってた。あのゆっくりしたスピードで床洗浄機を押してると眠くなるだろうことも想像に難くない。がんばれおばちゃん。

--これって他にも曲あるんですか?
「えーとねここをヒネると……」
と、おばちゃんがツマミをヒネるとこんな音楽が鳴り出した。
ちょっと聞き取り難いかもしれないけれど、これは「明日があるさ」だ。缶コーヒーのCMで使われてたやつだ。コーヒーのおかげかどうか知らないけれど、おばちゃんはこれを聞けば眠気が吹き飛ぶそうだ。
一緒に歌ったりしますか?って聞いてみたけれど、さすがに一緒に歌うほど理性を失ってはいないようだ。

もっとじっくり見せてもらう

床洗浄機の音楽が気になったので、銀座駅の清掃を担当している会社に連絡して、後日、銀座駅の床洗浄機をじっくりみせてもらうことにした。
これですよね?
これですよね?
まずは、掃除のおっちゃんにお願いして音の鳴る部分のしくみを見せてもらった。
パトランプと音楽のなる装置
パトランプと音楽のなる装置
パトランプの下にある銀色のツマミがパトランプと警告音装置のスイッチ。そして左側の黒いツマミが音楽を切り替えるツマミだ。
おっちゃんも、警告音の部分はあんまり触ったことが無いので説明書を見ながら操作してくれた
おっちゃんも、警告音の部分はあんまり触ったことが無いので説明書を見ながら操作してくれた
警告音は床洗浄機の管理をしている人が、その日の気分で変えたり変えなかったりしているらしいので、昨日聞いた曲だからといって、今日も聞けるとは限らない、一期一会の警告音だ。

夢がかないそうな警告音

では警告音にはいったいどんな曲があるのだろうか? いろいろと聞かせてもらった。
これは、千葉の方にある遊園地でよく演奏されるというエレクトリカルパレードだ!
こんなに愉快な警告音を聞いていると、あのパレードに床洗浄機がこっそり紛れ込んでてもいいんじゃないかという気分になる。

コチラの動画を見ていただきたい。
まさにエレクトリカルパレード!!

ぼくはデズニーランドには行ったことないのだけど、おそらく本物のエレクトリカルパレードもこんな感じに違いない。途中でおっちゃんが話しかけてきたりはしないと思うけど。
ちなみにおっちゃんの話によると、エレクトリカルパレードの警告音で掃除しているときは子供たちが振り向くそうだ。

このDJただ者ではない

警告音のツマミをおっちゃんと一緒に色々といじっていると、こんな曲もかかった。
モーツァルトの交響曲第40番第1楽章だ。銀座駅が一気にウィーンのサロンといった雰囲気になった。
警告音に、アイネ・クライネ・ナハトムジークあたりの無難な曲ではなく、モーツァルトの2曲しかない短調の交響曲の一つをわざわざ選ぶあたり、この床洗浄機にこの曲をインプットしたひと=DJの選曲センスはただ者ではないということがわかる。

さらにこんな曲が入っていた。
「タッチ」の主題歌だ。
「タッチ」といえば「懐かしのテレビアニメベスト100」みたいなテレビ番組で「タッチ」の画面が映った瞬間、観客から「ふぁあぁ~~」と声にもならない歓声が上がるテレビアニメとして有名だけれど、そんな「タッチ」の主題歌がなぜ床洗浄機の警告音になっているのか?
おっちゃんに聞いてみたところ、わからないらしい。それもこれもすべてDJの胸三寸である。

なぜその曲を選曲したのかは謎

そして、いちばん度肝を抜かれたのがこの曲だ。
サザエさん。しかも、劇中のBGMだ。オープニングの主題歌ではなく、なぜこっちのほうを選んだのか? もちろんその理由は、おっちゃんに聞いてもわからない。そのかわり、おっちゃんはサザエさんのBGMよりも、タッチのほうが好きだということはわかった。
お気に入りは「タッチ」と「明日があるさ」
お気に入りは「タッチ」と「明日があるさ」
後で、床洗浄機のメーカーに問い合わせしたところ、パトランプと警告音の部分はオプションになっており、警告音は、顧客からの長年のリクエストによって今のものになったそうだ。しかし、それ以上のことは不明で、なぜタッチなのか? なぜサザエさんの主題歌ではなく、BGMなのか?という点についてはわからなかった。
たぶん理由はあるかもしれないけれど、わからなくなってしまった。ということだろうか。世の中というものは、よくわからないものが幾重にも折り重なるように積み上がってできているのだということを実感した。

リクエストはされたことないそうです

ほかにも「アマリリス」「草競馬」「禁じられた遊び」など電話の保留音の定番曲みたいなのが多かった
ほかにも「アマリリス」「草競馬」「禁じられた遊び」など電話の保留音の定番曲みたいなのが多かった
これだけいろんな曲があるのなら、だれか「アマリリスお願い!」なんてリクエストするひともいるかなあと思ったけど、いままでリクエストされたことはないらしい。
よく考えたら仕事中に警告音をリクエストされると確実に仕事のじゃまになるので、今後も見かけたら遠くでそっと見守るだけにしておこうと思う。
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