どこに行けば会えるのか
焼き芋屋さんは、いつどこからやってくるのだろうか?探してやるぞと思い立ったはいいが、神出鬼没に現れては次の地へ渡り歩くスナフキンのようなイメージがある焼いも屋さん、何を手がかりにすれば出会えるのかわからない。うーむ…
やっぱり場所選びが肝だろうか。
とりあえず堀切駅にやってきた (15時50分)
焼きいもは高層ビル街や高級住宅地より人情あふれる下町がよく似合う。私が育った葛飾区の実家近くでも昔は見かけたから、やっぱり下町が堅いだろう。
悩んだ末、ドラマ金八先生の舞台である足立区の堀切に行ってみることにした。
あれ、人がいないや
ねらった時間帯は夕方。子供の時に買っていたイメージからか、学校が終わる時間から夕飯の時間帯あたりの、だいたい15時から20時くらいに現れるイメージがあったのだ。
桜中学の前(今は大学)に来てみるが人っ子一人いない
寒さが凍みる静けさ
焼いも屋さんどころか人に出会わない
場所の選択ミスか
この日はとても寒い日で、天気はどんよりとしていた。その為もあってか、外に出ている人が少なく閑散としている。
私の期待していた光景とはほど遠い雰囲気だ。これはまずいぞ!
私の期待したイメージ(画力が追い付いていないですが、商店街があって賑わってる感じ)
諦めず、出会った人から情報を得ようと20分ほど適当に歩いてみたが、公園で遊んでいる中学生らしき男子たちや自転車でさーっと通っていってしまう人を見かける位でなかなか聞く事ができない。
若者たちの間に割り入って芋の話をする勇気は流石にない
なんの手がかりもないまま、少し開けた方へと歩いていくとチラホラと人が歩くのが見えた。よし、あの人に聞いてみよう!
私「この辺りに石焼きいも屋さん来ますか?」
おばあちゃん「んー、見ないわねえ」
ずっとこの辺りに住んでいるというおばあちゃんに聞いてみると、焼いも屋さんはこの辺りには来ないと断言。そうなんだ…
どの辺りならいそうですかね、とも聞いてみたけど分からないわねえと困らせてしまう結果に。
この調子で果たして見つけられるのかと不安になりながらも、もっと人が集まりそうな方に向かってみることにした。
味のあるアパートを見かけた。焼いもが似合いそうだ(良い意味で)
堀切で私が歩いた辺りは焼きいも屋さんが似合いそうな雰囲気ではあったのだが、もっと人が行き来する所の方が現れる確率が高そうだ。あまり地理は分からないが、とにかく人通りの多そうな方へと向かった。
マンションが多いエリアにやってきた (16時30分)
集合住宅地が密集しているエリアにやってきた。信号待ちしている子連れの女性に情報を求めてみるも、焼き芋屋さんを見かけた事はないという。
もう少しエリアを離れないとダメか・・
川を渡って荒川区へ。さらにマンションだらけだ
さきほど歩いていた堀切には昭和を感じさせる建物が多く並んでいる町並みだったのだが、ちょっと歩いただけで小奇麗な風景に変わった。
川べりにはジョギングや散歩をしている人たちがいる。よし、あのおじさんに聞いてみよう!
私「焼きいも屋さんを探してるんですが…」
おじさん「橋を向こう側に渡ったとこの(いま渡ってきた橋だ)左側に…」 私「(また戻るの面倒だなと思いつつも)はいっ、いるんですか?!」 おじさん「ローソンがあって、確かそこで売ってたよ」
コンビニやスーパーじゃ駄目なんです
具体的な場所の説明をしだしたので有力情報かと期待したものの、コンビニに売っているという情報だった。
次に声をかけた夫婦らしき2人組みも「あそこのスーパーにあったかもね」という寂しい回答で、もしや移動販売のおじさんはもう存在しないのではという疑念が強まってきた。
ここでは売っていないだろうと確信できる場所で1時間が経過(16時50分)
芯から冷えてきた
歩いて動いてはいるものの、寒さで足元から冷え込んできた。風邪を引く前になんとかアツアツの焼いもを頬張りたい。
それに、日も暮れてきてお腹も空いてきた。そういえばこの日はほとんど何も食べていなかったんだった。
あ!やきいもの字!
南千住という駅前にやってきた。そのすぐ目の前にやきいもの字がはためく。思わず駆け寄った。
いや、私が食べたいのはこういうのじゃないんだよなあ…
なんかジャガイモみたいだしさ(安納芋という種類)
常温だしさあ
甘くておいしいけどさあ…
先ほど否定したばかりであるスーパーで売っていたものだが、お腹的に我慢できずつい買ってしまった。
スイートポテトのような滑らかさと強い甘みが特徴の安納芋。まあ美味しいけど…外に置いてあったのであんまり温かくないしおじさんに会ってないし、一つも満足できない。
さらにおじさんの売っている芋への欲求が高まっただけだ。電車に乗って移動する事にした。
顔も駅名もよく見えない残念写真が撮れた(17:40)
南千住から電車でいくつか乗ってやってきたのは綾瀬という駅。なぜここにしたのかと言えば、川ぺりを歩いていた道中で「足立区のどこかで昔見たけどねえ」という頼りない情報をGETしてたから。
ちなみに一番最初に降りた堀切駅も足立区だったので、また戻ってきた形だ。
今までの流れ
足立区の中でも綾瀬を選んだのは私の適当なチョイス。手がかりが少ないので自分のインスピレーションを信じるしかないのだ。
赤いジャンパーの人からついに有力情報をGET!しかし丸被りの残念写真(17:48)
凍えながら駅前をうろついてみるが焼いも屋さんはいない。寒さで足早に歩く人が多い中、自転車整備をしているらしきおじさんに声をかけてみる。
おじさん「焼いも屋?ほらあそこにいるよ」
そう言われておじさんが指差す方向に向いたのが上の写真だ。ほ、ほんとにいるの?!
ラーメンの屋台にも見える。
本当に焼きいも?
本物だ!発見できた!(17:50 ちょうど2時間)
車に近寄るとすぐにおじさんが出てきてどの大きさがいいのと聞いてきた。えと、中くらいので!
おじさんは後ろに周って焼き芋が入っているかまのフタを開けた。
いよっ待ってました!でもあれ?石がないよ?
まるでピアノの鍵盤のフタを開けるかのように持ち上げると、ついに念願の焼きいもが登場!凄くいい香りが漂ってきた。やったー!でもあれ?昔は焼けた小石の中からおじさんがいもを取り出していたような気がする。石はどこいったの?
グランドピアノのように開けるとこうなってる
石の中に入れとくと焦げてしまうので、隣の保温室に入れる仕組みになっているという。へー
ではいただきましょうか(湯気がたってます)
焼けた皮と甘い匂いがたまらない
期待を裏切らない味!
食べながら質問攻め
寒い屋外で食べる焼きいもの美味しさたるや…。売ってくれたおじさんにも一緒にどうですかとあげたくなってくる程だ。
ちょっと話したところ、このおじさん話好きの様子。せっかくの機会だから気になってた事いろいろ聞いてみよう。きっと今後の焼きいも屋さん探しに役に立つだろう
Q1.何時くらいからやってるんですか?
-朝からやってるよ。といっても準備に2時間かかるから、11時くらいから売ってるかな。
話好きなおじさん。関西出身らしい。
Q2.意外と早いんですね。夜はいつまで?
-土日は早いよ、19時くらいまでかな。平日は会社帰りの人が買ってくれるから21時あたりまでかなあ。今日はもうちょっとでイモが無くなるからそれまで。(ちなみにこの日は日曜日)
話している途中でお客さんが来た。嬉しそうに買う女性達。
ずっと気になっていたこと。それは冬以外の時期は何をしているのかという事だった。
Q.3 売ってる期間はどれくらい?その時以外は何してるんですか?
-10月くらいから3月くらいだね。それ以外の季節はね、今度は果物を売るの。これは買い付けがあるから朝早いんだ。
ああー、そういえば果物を売ってる車たまに見かける!そうか、同じ車を使って乗せてるものをかえていたのか!そのため車の中には石焼いも用と果物用のカセットテープがあるらしい。なるほどー。
-あとは、北海道とかの寒い地域の人が冬だけ出稼ぎに来てるみたいよ。
ちなみにこちらがお値段。昔とそんなには変わっていないらしい。
Q4.周るエリアは決まっているんですか?
-そうね、だいたい決まってる。前に都心の方とかも行ってみたけど、慣れないから道が分からなくてさ。時間によって一方通行になったりするとこあるじゃん。お客に呼び止められて嬉しくなってそっちに向かったらその時間は通っちゃいけないとこだったみたいで警察に捕まっちゃった事あってね。罰金取られたよ。分かんないよねえ。
苦い思い出を語るおっちゃん(おじさんというよりおっちゃんと呼びたくなってきた)
昼間の時間帯は車で住宅街を周り、午後は公園のあたり、夜は駅の向こう側、などコースを決めているのだそうだ。
私は勝手なイメージで下町しか浮かばなかったけど、上野や錦糸町といったいかにもいそうな所の他に、新宿・原宿・六本木といった辺りでも焼きいも屋さんは周っていて、人気があるという。
Q5.昔より、「い~しや~きいも~」のテープを聞かなくなった気がするんですけど…
-まず夜は絶対かけないね。音に敏感な人もいるから住民にあまり迷惑かけないように音を小さくしたりとか気をつかうようになったね
みんなの頭の中で「今はコンビニやスーパーでいつでも買える」という考えがある為か、昔は聞けばワクワクしたはずの石焼きいものテープの効力も衰えてきたようだ。
Q.6 売れ行きはどうですか
-10年くらい前まではさ、けっこう売れていたんだよ。いつも長蛇の列ができてた。その頃おっちゃんはまだ慣れてなくて、いもを焼くのが追い付かなくてお客さんに断ってた時もあるんだから。ウハウハだったね。でもそれ以降は…特にここ5,6年位でスーパーやコンビニに出始めたでしょ。せっかく手際よくなってきたのにお客さんが減ってきちゃったよ。
昔は忙しくて汗だくで売っていたが、最近はフタに手を乗っけて暖まっているそうだ
それでも同じ場所で長いことやっている為、小学生だった子供が大人になって「おっちゃん久しぶり」と声をかけてくれる事があるという。まあ、こっちから見たら随分変わってるからどの子か分からないとけどね、と笑っていた。
この男性も常連らしい。今日は完売。私はけっこうギリギリだったんだな。
他にも、実は客層が男女比あまり変わらないとか、昔この近くにある武道館に卓球の愛ちゃんが試合でよく来ていてお母さんが買いに来たとか色々と話をしてくれた。
そうこうしているうちにイモは完売。おっちゃんは「また来なよ、毎年ここにいるからさ」と何度か言って、車を走らせて帰っていった。
焼きいも屋さんを見つけるには…やっぱり情報収集
今回調べてみて分かったのは、焼き芋屋さんはそれぞれテリトリーが決まっていて同じ所を周っているという事。という事はやはり普段から周りの人に聞いて情報収集した方がが良さそうだ。もしくは2時間位歩けば見つかる。多分。
小銭を握り締め、甘い匂いとテープの声を頼りに自転車で追いかけた小学校の頃を思い出しながら、まだアツアツの焼き芋をほおばった。