存分に遊んだ
「全部はわからないけど、言われたら”あー”となる」という難易度具合がちょうど良く、最後まで接戦となり白熱できてよかった。
「やめられない、とまらない」「かっぱえびせん!」など商品名で遊んだりもできそうだ。
「あなたと、コンビに、」と言われたら自然と「ファミリーマート」が思い浮かぶ。よく言えば、百人一首に素養のあるひとが上の句の「ちはやふる」から「からくれなゐに水くくるとは」を導くようなものだと思う。
きっとファミリーマートの上の句って「あなたと、コンビに、」なのだ。そういった企業のキャッチコピーを集めたら我々でも百人一首のような熱い戦いができるに違いない。
よし、企業キャッチコピー百人一首をしよう。
企業のキャッチコピーが好きだ。
限られた文字数のなかに、その企業らしさをギュッと詰め込む。多くの案が出される中で「これじゃ会社の良さが伝わらない」とか「他社と似てるんじゃないか」とか、紆余曲折を経て生まれてきたのだろうと思う。
お、ねだん以上。と言われたらニトリ。ココロも満タンにと言われたらコスモ石油。
多くの人の知恵が練りこまれているだけあって企業のコピーには印象的なものも多い。今回は「企業キャッチコピー百人一首」で遊ぶべく、認知度の高そうなコピーを持った24社を選定した。
錚々たるメンバーが揃った(と勝手に思っている)。札の作り方は簡単で、
枚数が増えるとそれなりに大変だけど、モノクロプリンターでもそれっぽいものができる。しめしめ、いい方法を見つけた。これで準備は万端だ。
足元の悪いなか3名に集まっていただいた。ほんとにずっと雨が降っているのだ、最近。
プレイヤーはライターの江ノ島さん、井口さん、ネッシーさんの3人。読み手は筆者・北向ハナウタでお送りする。
注目は群馬出身で上毛かるたならすべて覚えているというネッシーさん。
北向「この時点で何割くらいわかりますか?」
江ノ島「いまは、何もわからない…」
大変だ、何もわからない人がいる。
江ノ島「言われればわかる気がするんですけどね…」
江ノ島さんの言うように「上の句」を読み上げると、自分が思っているより自然と下の句が出てくる。今回の参加者も「数枚しかわからないかも…」と言いながら、24枚すべての札が正答された。
知らぬ間に記憶の底に刷り込まれているのだ、企業からのメッセージが。
さぁいよいよ勝負開始。はじめの1枚…読みます!
北向「あなたと、コンビに、」
井口「ファミリーマート!」
言うが早いか、井口さんの手がズダダッとファミリーマートの札に伸びる。
井口さんが自分の早さに驚いている。これがオレの能力(チカラ)…?少年ジャンプだ。第1話の主人公だ。
主人公を交え、この調子で続けよう、2枚目!
北向「NO MUSIC,NO LOIFE.」
ネッシー「タワーレコード!」
井口・江ノ島「あー!」
江ノ島「わかってるやつだった!」
タワーレコードが今回もっとも知名度のあった札で、はじめから全員が狙っていた。
ちなみに”キャッチコピー”と表記しているが、企業によって「スローガン」だったり「コーポレートメッセージ」だったり微妙に呼び方が異なる。とはいえ煩雑になるので今回は”キャッチコピー”で統一したい。
北向「カラダにピース。」
ネッシー「カルピス!」
ここではじめてのお手つき、江ノ島さんが勢いよくカルビーを取った。似てるけど。お手つきは、そのターンは休みというルールで進めます。
しかし江ノ島さんも巻き返す。「掘り出そう、自然の力。」の読み札で今度こそ「カルビー」を手に入れたのだ。
北向「すごい、結構これ難易度の高いやつだと思ったんですけど」
江ノ島「パッケージに書いてありますね、ホームページで新商品チェックしてたから」
企業の公式サイトで商品チェックするひとって実在するんだ。江ノ島さんは食べ物系の企業に強い。この辺りからそれぞれの個性が出てくる。
北向「目の付けどころが、」
井口「シャープでしょ!」
井口さんが早い。「目の付けどころが、シャープでしょ。」有名なフレーズだけど、今はもう代替わりして「目指してる、未来が違う。」というものになっている。
企業のキャッチコピーって知らないうちに変わっていたりする。LIONも「おはようからおやすみまで」のイメージだったけれど、今回調べたら2012年から「今日を愛する。」に変わっていた。
勢いづく井口さんは「ココロも満タンに」の札を難なく「コスモ石油!」と手中に入れる。
ここから数枚は英語のキャッチコピーが続く。
北向「Inspire the Next」
ネッシー「トヨタ?」
江ノ島「日立だ!」
「Inspre the next 日立」の順だと耳馴染みがないかもしれない。
が、「Hitachi…Inspre the Next」と口にしてみると確かにCMなどで何度も聞いた響きになる。”言われればわかる”の終着駅だ、ここは。
北向「make it possible with」
ネッシー「トヨタ?」
ネッシーさん、さっきもトヨタで誤答してましたよ。
江ノ島「メイクイットポジティブ…」
江ノ島さん、ポジティブじゃなくてポッシブルです。
井口「ん!キヤノン!」
北向「正解です!make it possible with canon」
江ノ島「その音の響き知ってる…!」
キャッチコピーに英語を使うのは大手の自動車メーカー、電機メーカーが多い。海外での展開を考えての戦略だろうと思う。
英語の札をもうひとつ。
北向「The Power of Dreams」
井口・ネッシー「トヨタ!」
なんとふたりがお手つき。3度目のトヨタに挑戦したネッシーさんを尻目に、江ノ島さんは冷静に「ホンダ」の札を手に入れる。
ネッシー「車わかんない。全部一緒」
北向「暴言だ」
ちなみにトヨタは「FUN TO DRIVE,AGAIN」が正解。ふたりが誤答したのは、一世代前のコピーが「Drive your dreams」だったからだろう。かなりホンダと雰囲気が近いのだ。
トヨタのコピーの歴史は「FUN TO DRIVE」→「Drive your dreams」→「FUN TO DRIVE,AGAIN」とdreamを挟んで「FUN TO DRIVE」に回帰しており、なかなか興味深い。
続く6枚の読み札をダイジェストも兼ねて並べてみよう、どれだけひらめくだろうか。
それぞれ答えは以下の通り。
「ヒューマンヘルスケア」の「エーザイ」など結構むずかしかったと思うのだけど、これが3人いると誰かしらがしっかり抑える。エーザイは、個人的には「元気出していきましょう」のフレーズのほうが馴染みがあるなー。
続く「あったらいいなをカタチにする」を江ノ島さんが「小林製薬!」とはたき落とし、3人とも5枚ずつというかつてない接戦となる。
もしかしてこの企業キャッチコピー百人一首、よほど記憶力があるとか、反射神経がいいとかそういうひとがいない限り、誰と戦ってもわりといい試合になるのかもしれない。
憧れの”手に汗握る一進一退の攻防”が目の前で繰り広げられている。
はぁ、おれは、考えた遊びでみんなが真剣に遊んでくれている瞬間が一番好きなんだ(自分でむりやりゲームに誘っておいてなんですが)。
浸っている場合ではない、勝負は終盤。ガシガシ行こう。
北向「近くて便利」
ネッシー「セブンイレブン!」
少し前の「セブンイレブン、いい気分」も印象的なセブンイレブンのキャッチコピー。
「近くて便利」というスリムさ、なんというか王者の余裕みたいなのを感じませんか。「セブンイレブンのこと、知らない人はいないでしょ?」という強さを感じるフレーズだ、と思う。
一方でもっとも参加者が悩んだ札がこちら。
北向「イケイケ!GOGO!」
3人「・・・?」
ネッシー「トヨタだ!」
ネッシーさんにトヨタを取らせるの禁止にしようかな。
少し間をおいて、井口さんが湖池屋を取り正解。「フレーズに”イケ”が入っていたから”コイケヤ”かなと…」という名推理はこの日のターニングポイントとなった。
イケイケ!GOGO!、まじめな企業が多い中でかなり異色なキャッチコピーだ。個人的にはわりと好きだな。
北向「正解は」
井口「越後製菓!」
気持ちいいテンポで答えが出てニヤニヤする。
越後製菓のコピーはおそらく「食品の未来を築く」なのだけど(公式webサイトの企業名の上に明記されているので)、この「正解は、越後製菓!」というシーンを見たくてどうしてもこの札を入れた。満足しました。
その後、ついにトヨタの札をネッシーさんが勝ち取り、「お口の恋人」も「ロッテ!」とねじふせ追い上げる。
しかし猛追叶わず、「うまい、やすい、はやい」を「吉野家!」と確実に捕らえた井口さんが最後の2枚総取りで勝負あり。
江ノ島さんが7枚、ネッシーさんが8枚、井口さんが9枚となり、井口さんが第1回企業キャッチコピー百人一首王者となった。
「全部はわからないけど、言われたら”あー”となる」という難易度具合がちょうど良く、最後まで接戦となり白熱できてよかった。
「やめられない、とまらない」「かっぱえびせん!」など商品名で遊んだりもできそうだ。
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