そのへんには生えていません
タマリンドは東南アジアなんかでは庭に植えてあったりして、いたるところで見られるようだが、日本ではほとんど目にすることはない。
どんな植物なのか、熱帯植物園で探してみた。
夢の島熱帯植物館。
植物園で「タマリンドが見たいのですが」と聞くと、たくさんのスタッフの人が連絡を取りあって探してくれた(大ごとになってしまいスミマセン)。しばらく後、「あまり立派な木ではありませんが…」という断りのもと案内してもらえることに。
忙しいところをすみません。
ばーん(ど、どれ?)。
これ。
これがタマリンドである。ネムノキみたいに左右に並んだ葉がかわいい。
しかし熱帯植物館には、入ってすぐに目をうばわれる巨大な切り株とか、ネズミまで食べてしまうという食虫植物、きれいなランなどなど、見るべき展示がたくさんある。その中でタマリンド、言ってしまえばまあ地味な植物だ。
巨大な切り株。近くで見るとビルみたいである。板根(ばんこん)っていうらしいです。
食虫植物は見た目派手。まあやってることも虫食べちゃうんだから派手なわけですが。
タマリンド、明らかに窓際。
タマリンドは結実するとでかい豆が木からぶら下がるのだが、この木は残念ながら実を付けてはいなかった。申し訳ないが別のサイトを参照してもらいたい(
イメージ)。近くに果物の王様と言われるドリアンの木もあったが、やはり実をつけておらずいたって普通の木だった。サクラだって花を咲かすまでは見向きもされないだろう、そういうものなのだ。
しかしだ、木は地味だが実はうまいのでちょっと待ってほしい。次はいよいよ食材としてのタマリンドを探しに行く。
食材としてのタマリンド
タマリンドは輸入食材屋さんなどで手に入れることができる。上野のアジア食材店へ行ってみた。
上野はすでに年末の混みようである。
見どころ満載、アジア食材のお店。ここにあるものを紹介するだけでずっと記事が書けそうな量。
上海ガニ大量。
すっぽんだっているんだぜ。
この宝の山みたいなお店の一角にタマリンドは売られていた。
とは言っても自分では見つけられそうもなかったのでお店の人に聞きました。
見たことないジュースが多数。全部気になる。
タマリンドの味やいかに
いくつかお店をまわり、いろいろな種類のタマリンド食材を仕入れてきたので一気に紹介したい。
まずはタマリンドジュース。原材料はタマリンドと砂糖のみという潔さである。
パッケージも飾り気のないハードなたたずまい。
パッケージに描かれている大腸みたいなのがタマリンドの実である。この豆の中に実が入っている。
うむ。
タマリンドジュースはあんずのような甘酸っぱさの中に、コクというかちょっとした渋味みたいなものを感じた。甘いんだけど甘ったるくない、それでいて最後に追いかけてくる得体の知れない渋さ。今まで明らかに飲んだことのない味なのだけれど、これはこれで美味しい。酸っぱさも甘さも、味がとにかくはっきりしているので焼酎とかの割り物にも合うんじゃないだろうか。
いわば大人味ですね。
いろいろ気になる食べ物が多い中、手に取ったのはこちら。
ドライタマリンド。
ビニールの包装をはぐとこんな感じ。
ドライタマリンド。ただし半生。一瞬グミみたいな人工物に見えるのだけれど、食べてみると中から種が出てくるから間違いなく植物である。豆の殻を外した状態で乾燥させたもの。
グミかと思って食べていると種が出てきて焦る。
味はタマリンドジュースをギュッと凝縮した感じ。甘さと酸っぱさを3倍に、後味の渋さは5倍くらいの勢いで詰め込んである。グミみたいに噛んでいると途中からびっくりするくらい渋くなるので注意だ。もしかしたら種と一緒に途中で口から出すものなんだろうか。
猟銃使っちゃだめ。
ここで我慢できずに説明するが、ロケ地は多摩地区の林道。多摩林道、タマリンド。ダジャレである。遠くまで行ったわりになんとなく後悔しているのは、そろそろダジャレを言って笑っていられないリアルな年頃にさしかかっているためかもしれない。
書いてよけい言い訳がましくなったので何事もなかったように続ける。僕の恥ずかしさと呼応するように林道は徐々に草木が深くなっていく。
食材タイプ
気を取り直して次のタマリンドである。こちらはそのまま食べるのではなく、食材として売られているタイプ。タイ料理なんかで酸味を足したい時に使われるのがこれ。
タマリンドペースト。原材料、タマリンド。
中はこんな。粒あんみたい。殻を外した状態の豆の中身がまとめて固められているのだ。
このタマリンド、水に溶いて使うのだが、溶いてみるとなんだかとんでもない見た目になってきてちょっと困った。ただし匂いはすごく良い。ドライタマリンドにはなかったフレッシュな甘酸っぱい果物の香りがする。
しかし溶けきらない繊維みたいなものがゴロゴロでてくるし溶けた汁もなんだかすごい色してる。写していいのか迷うビジュアルなので小さな写真にした。
目をつぶって舐めてみると確かにタマリンドである。新鮮な甘酸っぱさ、そして忘れた頃に現れる渋さも健在。およそこれを使った料理が思いつかないのだが、そこは便利なインターネット。タマリンドを使ったアジア料理が紹介されていた。
タマネギとにんにく、エビを炒めて。
タマリンド水を投入する。
じょわー。
炒めたタマネギとエビに水溶きタマリンドを投入。最後に砂糖とナンプラーで味を調えて、とろみがつくまで炒めたら出来上がり。
仕上げにパクチーを乗せたらそこはもうタイ。
調理中こそ危険な見た目だったが、料理してしまうと美味しそうに出来上がってくれて安心した。なにしろ香りがいい。ナンプラーの生臭い匂いの中に甘酸っぱさが混じって、深い、本場のタイの香りがするのだ。味はどうか。
うまいよ!(日が暮れてきた)
全然ちがう場所から感想述べられてもまるで説得力がないが、タマリンドで味付けしたエビの炒め物は、フレッシュな甘酸っぱさがエビのうま味を引き出していてとても美味しかった。日本の料理では絶対にない味付けなのに、おいしいと認識するのはすごいなと思う。味覚は世界共通なのだ。
タマリンド、うまいです
ナンプラーをはじめて買ったとき、これでタイの食卓を手に入れたと思った。タマリンドでさらにわが家のアジア化も一歩前進である。次はなんだろう、椰子の実かパクチーか。
新しい食材は最初に試す時、さらにその見た目が怪しい場合にはかなり躊躇するが、一度はまってしまうと人に勧めたくなるものである。タマリンドはまさにそんな食材なのでした。