きっかけは出来心
燻製のビギナーセットを買った。理由は安かったから、それだけである。まったく買うつもりなどなかったんだけど、手に取ったらやってみたくなってしまったのだ。
これが燻製ビギナーセット。キャンプ用品ってめったに使わないのに欲しくなりますね。
レシピまでついていて親切。
「燻製が趣味」なんてというと、休日にでかい四輪駆動車で河原に現れて自家製ベーコンとかを作っちゃうビッグダディみたいな像が思い浮かぶ。そこにたどり着くにはきっと寝袋買ったりとか毛ばり作ったりとか、いろいろしなきゃいけないんだろうな、と憧れつつも敬遠していた。
そんな憧れが今、僕の手の中にある。
今回、いささか急ではあるが燻製セットを手に入れたことであちら側に行くことができたので、記事に書いて爪痕を残しておきたい。
とはいったものの僕は燻製に関して(もちろんキャンプ技術に関しても)まったくの素人なので、いささかその道の常識から外れる部分もあるかと思いますが「ああ、初心者なんだな」と優しい目でごらん下さい。
まずなにを燻製にしていいのかわからない
付属のレシピ本には肉とか魚とか、うまそうなものがたくさん載っているのだが、それではありきたりだろう。冷蔵庫を見たらそれらがひとつもなかった、というのも理由なのだが、ここはひとつ日常生活に燻製をとりいれるべく、なるべく垣根は低くしておきたいところである。
というわけで今回は僕の普段の朝昼晩、三食をまるごと燻製にしてみたい。
まず最初は朝食である。ごくごく普通の我が家の朝食を今日はそのまま燻製にしてみよう。
意識したつもりはないがキャンプの朝、みたいな朝食だ。
初心者のための燻製のやりかた
今回購入したセットには燻製用の木(スモークウッドという)がついていた。これに火を点けてを缶(スモーカーという)の底に置き、中に燻したいものを入れて蓋をして待つ。これが箱に書いてあった燻製のおおよその手順である。
スモークウッド。これはサクラの木でできているらしい。
これを燃やした煙で燻す。木によって香りが変るらしいです。
どのくらい煙が出るのか見当も付かなかったので家の裏で作業することにしたのだが、実は一度ここでサンマを焼いていてお隣さんに叱られたことがある。大丈夫だろうか。燻すというくらいだから、やはりモクモクいくのだろうか。
スモークウッドに火を点けたらスモーカーの中に配置する。網に食材を置いて蓋をしたらあとは待つだけである。
煙が弱い
本当はこの網の上に食材を置いてしばらく燻すらしいのだけれど、ん?煙がなんだか弱いのだ。もっと目が痛いくらいにモクモクくると思っていたのに、蚊取り線香くらいの煙しかでていない。こんな煙でビッグダディは納得できるのか。
しばらくじっと見つめていたのだが煙の勢いが増す様子もなかったので、説明書に書いてあったもう一つの方法、下からコンロの火であぶるやり方を試すことにした。
というわけで自宅のコンロ台に乗せてみる。家に持ってかえると物はでかくなる、の法則に則ったすばらしいでかさである。
火を点けたら網の上に朝食をセット。コーンスープは網に乗らなかったのでスモーカーの底に置いた。
コンロに火を点けて蓋をする。中の温度はだいたい70~80度くらい。
コンロに火をつけてしばらくすると、ものすごくいい香りが漂い始める。サラミやベーコンのあの匂いである。あの匂いはこうやって出来ているんだ、とやってみると納得できる。どうやらスモークウッドもちゃんと機能しているようだ。心配していた煙もほとんど、というかまったく外には漏れてこない。これなら外でやっても迷惑にならないだろう。
燻製を始めて約30分。どうだ、燻されただろうか。
いざ、オープン。
ばーん。
どうだろう、予想以上にうまそうに燻されているではないだろうか。白かった部分が全体的に飴色に変化していてイメージ通りである。燻製の定義がいまいちわからないのだが色と香りで判断するならばこれはまごうことなき燻製だろう。
味はどうか。
深いオレンジ色に燻製された卵は香りはともかく目玉焼きの味だった。
食パンの燻製はバターの少し甘い香りが混じり、しゃれたパン屋なら300円くらいで売っていそうな出来である。しかし味はほぼ食パンそのもの。少し香ばしいか。
これがトロリとしていてものすごくいい匂いなのだ。
ずっと嗅いでいたくなる。
バナナは燻製にするとウイスキーの味になる
本当なのだ。一口食べて目を疑った。もちろん燻しただけなのでアルコール分はゼロなのだが、煙の香りとバナナの甘みが鼻から抜ける時に合わさって完全にウイスキーとして出てくる。キュウリにハチミツでメロン、とかプリンに醤油でウニとか、誰もが一度は試したことがあるだろう。それに並ぶレベルなのだ。
もう一度言う
バナナは燻製にするとウイスキーの味になる
もうこの記事の核心は書いた。しかしまだ昼と夜の食事も残っているので早足に紹介したい。結論から言うと全部うまかったです。
背景が芝生なのはせめてキャンプを意識した演出(実際は家の裏)。
サラダと共に豪快に燻製にしてみた。
昼ご飯の燻製。
パスタも綺麗な飴色に燻し上がっている。サラダは見た目こそ変化無いがしっかり香りは付いている。目を閉じるとベーコンが見えるようだ。
味はどうか。
少し固くなってしまったが。
ふむ。
サラダは香りはよかったがしなしなになっていた。
ミートソースパスタの燻製は麺自体に香りが付いていることで、高級なスパイスを加えたみたいな贅沢な味に変っていた。全体的に固くなって角の方などパリパリしてしまったのは次への課題としたい(それはそれでうまかったが)。
サラダは口に入れる瞬間までベーコンの乗ったシーザーサラダの香りがするのだが、食べてみると枯れた草の味がした。もしくは材木工場の裏の土手。やはり生ものはいきなり燻製にしてはいけないのかもしれない。
晩ご飯の燻製
最後に晩ご飯である。キャンプなのでもちろんカレーだ。
レトルトですが。
これを皿ごと燻す。
温度は少し高めに設定。理由はカレーは熱い方が好きだから。
30分ほど放って置いて
オープン。
じゃーん。
レトルトカレーが本格インドカレーに
カレーライスの燻製はスパイシーが一気に花開いた。はっきりいってこれはうまい。
レトルトカレーなのに本格インドカレーのような深く複雑な香りがするのだ。ご飯の部分もサフランライスならぬ燻製ライスになっていて、多少固くはなってしまったもののカレー同様深い香りが乗り移って高級感がぐっとアップしていた。燻製にするにはスパイシーな仕上がりが期待できるものを選ぶべきなのかもしれない(たぶんここ当たり前のこと言ってます)。
インド!
と、ここまでほぼいいことずくめに見える燻製だが、この後家の中がしばらくインドみたいな匂いになったことも正直に書いておこう。燻製の香りは思いのほか部屋にしみこむ。香ばしいと言えば香ばしいのだが、インドといえばインドである。ポジティブに考えればインド好きにもおすすめと言える。
燻製たのしい。
難しい趣味、というイメージだった燻製ですが、やってみたら(合ってるのか間違ってるのかは別として)簡単で驚きました。これはハマる気持ちもわからんでもないです。いつか河原でベーコン作ってみたいなあ。