…議事録を書けと?
ビジネス文書は何で作る?
たとえばいつものデイリーポータルZ(このサイト)編集会議において、議事録をたのまれたらどうしたらいいのだろう。
もちろん発言や要旨を残すことはできる。
しかし書き方がわからない。どういう体裁にすればいいのだ?とテンプレートを検索してやっと書けた。ああ、一苦労だ。
テンプレートを見て書いた議事録。しかしこれ何に残す?
テンプレートを使って内容はできた、何に残すのだ?
とりあえずテンプレートと「メモ帳」ソフトを使って議事録をテキスト化したが、これはワードファイルにした方がいいのだろうか?エクセル?pptって何?pdfって要るの?
いや、そもそも何に残すのだ?ファイル化してパソコンに入れておけばいいのか?
議事録をまとめていた安藤さんはこの日手書きだった。なるほど、古典的であるほど保存性は高い。
どうやって残すのか?
パソコンのハードディスクは数年で壊れるし、光学メディアも20年持ってバンザイ、お祝いしよう(!)その程度のものだろう。
オンラインストレージはどうか?
もしEvernoteやDropboxのサーバー管理会社がうどん大好きでサーバーの隣にぐらぐらに煮立った釜を置いていたらどうするのだ。
何かの拍子にかまあげうどんがサーバーに絡まって(※どういうものかよく知らない)、データを卵に見立てた新しい釜玉うどんが出来上がったら、君のデータは食われてしまうぞ。
冗長性の高いRaid1のような文章が続いたが、そう、今やPC上の文章において今必要とされることは保存力である。どうやって、保存するのだ?
10年20年ではなく、例えば1,000年後にも残る文書とはどういうものなのだ?
せ~のっ、
そうだ、
「ヒエログリフだ!!」
バザーでもらったヒエログリフセット。これのビジネス版を作ってしまえばいいのでは?
ビジネス文書は壁画にすればどうか?
古代エジプトの壁画は今でも保存されている。なぜだ?壁は持ちがいいのか?理由は分からないがとにかく残っている。
ビジネス文書もヒエログリフで壁に描いて壁画にすれば数千年残るのではないか?
しかし古代エジプトのヒエログリフで描いては数千年後の人は混乱してしまうか。オリジナルだ。今のビジネスシーンを反映したヒエログリフから作るのだ。
これがヒエログリフ。一つの絵で一つの音を表す。ところで「つののあるまむし」って何?
ヒエログリフから作る
最近、ヒエログリフの解説本を手に入れた。壁画に使われているあの絵文字だ。
「ロープ」「うで」「水」「ハゲタカ」「つののあるまむし(何?)」「解読不能」など、様々な絵が一つの音を表している。
絵だから難しく感じるものの、中身はひらがなやアルファベットと一緒なのだ。これならいけそうだ。議事録を数千年後の人に読んでもらうため、ヒエログリフから作ろう。
たまには思い出そう、ロゼッタストーンのこと(ヒエログリフは長い間謎の文字だったが、ロゼッタストーンが発見されたおかげで解読に成功したそうです)
オフィス版ヒエログリフを作った
ビジネス文書を残すため、オリジナルのヒエログリフを作った。
モチーフはオフィスにあるもの。大事なものから何でもないものまで。「つののあるまむし」が許されるのだから何でもいいのだろう。
ヒエログリフも最初は絵と同じ意味で使われていたそうだ。腕の絵なら腕という意味で。
しかし次第にたくさんのことを表現する必要が出てきて「腕の"う"の音だけ表す」表音文字になった。
同様に、ここでも絵柄の頭音をアルファベットに対応させた。「空きコップ」は「a」という具合に。それではご覧いただこう。これがビジネス版ヒエログリフだ。
「空きコップ」がa
空きコップは必ずある。オフィスでは絶えず誰かが何かを飲んでいる。
「イス」がiとy
iとyの二つを兼ねる音がヒエログリフにはあったようである。イスのイとした。
「うで」がu,w
古代エジプトのヒエログリフにも同じ形の「うで」がある。マウスを握ってる形と一緒だ。
「えもんかけ」がe
ハンガーのことだが、「え」がなかったのでこれにした。おばあちゃんっ子なのだろう。
「大きいクリップ」がo
「えっ?こんな大きなクリップあるの?」と驚いたりする場所、それが会社である。
「ケーブル」がk
今やケーブルを増やしたり減らしたりするのが現代人の仕事だといってもよいだろう。
「紙コップ専用ゴミ箱」がk
本家エジプトヒエロでは二つのkがある。日本語においては区別がつかない。
「サーバー」がs
これがサーバーか確かでないのだが、暗い所で光ってるのは全部そうだ。ホタルイカは海のサーバーだ。
「寒いからガムテープ貼った」がs
クーラーが強すぎるのでガムテープ貼った(古賀談)そうだ。後世の人を悩ませる一文字。
「書記係」がsh
で一つの文字。ここが共産主義ならば…と皆が思う役割。
「高いところの穴」がt
いままさにトム・クルーズがミッションインポッシブルをやっているところである。
「小さなクリップ」がch
「こんなに小さいクリップあるの?」と驚くために存在する場所、それが会社。
「入館証」がn
返せ、返した?返さないと…返してくる(!)などの声が飛び交う返却界のアイドル入館証。
「日付印」がh
文書上で、未来にも過去にもいける夢の印。イヤな上司をジュラ紀に左遷だ。
「ふむふむ」がf
ふむふむしている人は、大体お昼ごはんのことなどを考えてふむふむしている。
「まとめるやつ」がm
電源ケーブルをまとめることが日本経済復活の第一歩である。そう思うとまとめがいがある。
「らくに傘のしずくが落とせるやつ」がr
やつシリーズ。後世の人だけでなく現代の人も混乱させる逸品。
「画像のアイコン」がg
よくよく見てみれば、尻のようなものが描いてあり、なんのことだかさっぱりわからない。
「zzz...」がz
寝てる人を起こしてはならない。その会社員は、今まさに育っているのだから。
「自動販売機」がj
給料をもらったら、すぐさま全額自販機に突っ込んで残りの29日を後悔しよう。
「電話しながら出ていく人」がd
隠しているのでよくわからないが、電話でなく干しなまこをしゃぶってる可能性もある。
クーラーに貼ったガムテープなのかも
作るのにかなり時間がかかったが23個のアルファベットができた。
現代では「解読不能」とされた本家ヒエログリフの記号も、クーラーの吹き出し口をガムテープでペタッと貼ったようななんでもないものなのかもしれない。
さて、これをローマ字の要領で組み合わせて「あいうえお」を作る。
「あいうえお」はローマ字表記をヒエログリフで表して一字化する。この後フォント作成ソフトに入れていくのだが、この辺りの手間がものすごい。週末はずっとヒエログリフを作っていた。
フォントになったのでパソコンにインストール
ヒエログリフでビジネス文書を
フォント化したことで、パソコンのキーボードを叩けば、いくらでもヒエログリフを打てることになった。
これでビジネスで使う文書全てをヒエログリフで打つことも可能だ。
可能だがそれはどんな風に見えるのだろう?ビジネスシーンで使いそうな言葉をヒエログリフで書いてみよう。
お世話になっております
新緑の候、ますますご清祥のこととお慶び申し上げます
ていねいな言葉に無機質さを
一見、なんのことだかわからないクリップがたくさん並んだ絵も、声に出して読むと「新緑の候…」、心のこもったあいさつである。
無機質さと情緒のミスマッチ。クリップにも生命の息吹を感じることができるだろう。殺風景なオフィスに血が通った瞬間である。
そしてこの無機質さは言いにくい言葉を表すのに便利かもしれない。
クビだ
そこをなんとかお願いします
クビだっていってるだろ!
クビの話も悲壮感がない
クビだ、と言ってまずUSBケーブルを書き始めるのだ。言葉のカドがとれた気がする。
書いてる途中に「でもあいつ、USBケーブルまとめるのうまかったな」などの心変わりもあるかもしれない。
ここ一番の大事な言葉はどうだろう。
「日本を、買い叩く!」(ドラマ『ハゲタカ』より)
「行きますよ、焼け野原に。資本主義のね」(『ハゲタカ』映画版より)
後世に残りそうな気がする
文字でなく絵で描くことによって、数千年単位で残りそうな雰囲気が出てくる。ここぞ、といった感じがよく出ている。
議論がピークにさしかかった瞬間、オフィスの壁に向かって入館証の絵を書き始めて「日本を買い叩く」宣言。そんな場面があったような気さえしてきた。
また、描くのが大変なので一字一句を吟味することもプラスにはたらく。
「資本主義のね」の「ね」要るのか?などなど、それでも残しているのだからどうしても「ね」は必要だったのだろう。必要十分の言葉だということがよく伝わる。
ビジネスヒエログリフはまずまずの仕上がりである。
壁画にはイラストも必要か
さあ壁画を作る
ヒエログリフはできたのだが、壁画といえば絵である。みんな横を向いていて、やけに手足の長い人たちが出てくるあの絵だ。
今回の議事録も「会議をしている」ことをイラスト化することにした。
人物などは雰囲気を出すため、壁画から真似たタッチで描いている。
企画会議の様子をイラスト化して壁画化しよう
いよいよ完成
むだに時間をかけた今回の壁画化計画。いよいよ完成。これが数千年後まで残りそうな会議の議事録である。
これが数千年後まで残る会議の議事録である
意外と文字が入らない
文字の大きさはイラストとのバランスで考えればこれくらいが限界か。
ひらがなで221文字。会議の時期や場所、出席者までは書けたが、議題の途中でスペースがなくなってしまった。
肝心なことはあまり伝えられなかった。
しかしその文字数の少なさを補ってあまりあるイラストの情報量よ。詳しくみていこう。まず左側の二人である。
会議で議事録をとっていた編集部安藤と
私の隣に座っていた編集部古賀は
安藤はエジプト壁画あるあるの鳥の人にした(ノートをとっている絵がこれしかなかった)。古賀の黒髪の女性はよくいるタイプ。首飾りの絵を転用して社員証にした。
私の対面に座るライターの西村氏と
同じくライターの大坪氏は一番右に配置した
テーブルに隠れて見えないが、たぶん短パンでツボとか運んでいるのだろう。言葉は悪いが、奴隷である。
イスの装飾、そしてその大きさからしても王なのだろうなと思わせる私。いい思い出になった。
数千年後にはオーパーツか
なんでこの時代に壁画なのだ!?それらが発見された場所や時代とはまったくそぐわないと考えられる物品をオーパーツと呼ぶ。
これで数千年後の人にはオーパーツと映るかもしれない、議事録が出来上がった。
絵ばかりなので意味は読み取りやすいだろう。パッと見た感じ会議であることがわかる(壁画に書かれてるのは大体会議だ)。
私たちの文明が終わったとしても、次の文明のみなさまにこんな会議があったこと、真ん中に王がいたこと(私だ)を伝えられて満足だ。
思い出は壁画に残そう
「家族の思い出写真に残そう」そんなコピーがあったような気がするが、家族写真もまたどう残していいか頭を悩ませるものである。
データは不安だし、写真は費用や手間がかさむし…まあ壁画でいっか、とりあえず。
そうやってとりあえずで「家族の思い出、壁画に残そう」とするお父さんたちもそのうち出てくるかもしれない。
出てくるかもしれない、というかそんな人たちはすでにいたのだが。数千年前の古代エジプトに。
データは不安だといっておきながら、壁画はパソコン上なので5,000年持たないかもしれない