最新のトンネルをくぐろう
まずは部分的に開業しながら、現在も造り続けられている最新のトンネルをご紹介したい。
それは東京の市街地をぐるりと取り囲むように走る、首都高速中央環状線のほぼ西半分を占める山手トンネルである。この4年前に開通したばかりのトンネルの特徴は、すべて市街地の地下を通っていること、そして途中で交差する高架の首都高とのジャンクションが造られていること。デイリーポータルZではべつやくさんによって
開通前のトンネルウォークが紹介されている。
現在開通しているのは計画全体のおよそ3分の2で10.9km。意外なことに、日本の道路トンネルでは関越自動車道の関越トンネルに次いで2番目の長さだった。そんな長さのトンネルがこの都市部に!それだけでもう未来の到来である。
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北池袋の「北」から渋谷の「渋」あたりを結ぶ緑の線がほぼ山手トンネル
まず、途中で交差する首都高速4号線の西新宿ジャンクションからトンネルに入り、北に向かって出口までの模様を見てもらいたい。ちなみに動画はすべて早回ししています。
旧態依然の薄暗く煤けたトンネルと比べたら、明るく小綺麗なこのトンネルはいかにも最新、という感じがしないだろうか。
特に急なS字カーブあり、細かなアップダウンあり、という変化に富んだ「チューブ感」が未来っぽさに一層拍車をかけていると思う。でもそれは、トンネルより前に造られている地下鉄や建物の基礎や地中ケーブルを避けながら進んでいくためで、後追い事業の大変さを表してもいる。
カーブやアップダウンが細かく続く
ダイナミックなS字カーブも何カ所かある
なにより最初の西新宿ジャンクションの高架から一気に地下のトンネルまで降りていくアプローチがすごい。このあたりの工事は僕も以前何枚か写真を撮っているけど、さすがに当時は実際に走ったときの光景までは想像できなかった。
高架から一気に地下まで降りていく
工事を撮ってる時点ではまったく想像できなかったアプローチ
工事中の橋脚で興奮していたのも今では思い出
また、場所によってトンネルの断面が開削工法の角形だったりシールド工法の丸形だったりするところも興味深い。これもすでに開発されている市街地にトンネルを掘る場合の大変さを物語っている跡だろう。
角形と丸形の断面が混在している
続いて、去年開通した東名高速と繋がる首都高速3号渋谷線の大橋ジャンクションから入った動画も見てもらいたい。
デイリーポータルZでは工事中の頃から
大山さんが何度かレポートしていた場所だ。
ハイライトは何と言っても延々と右に螺旋が続く大橋ジャンクションと、そこから本線につながる部分のくねくね具合だ。そして最後、4号新宿線に繋がる部分は地下から一気に高架までアップ、まるでカタパルトから打ち出されるような感覚に陥る。
アムロ、行きまーっす!
どうだろう、中央環状線山手トンネルのアクロバティックさが分かってもらえただろうか。
しかし、個人的に山手トンネルよりもかっこいいと思うトンネルがこの先にある。長さは短いけど、いかにも中央環状線のトンネル、という要素がギュッと詰まった魅力あふれるトンネルだ。
コクがあるのにキレもある(トンネル)
僕が中央環状線でもっともエキサイティングだと思うトンネル、それは王子駅あたりをくぐる飛鳥山トンネルである。
工事中で車が詰まっていたのが残念
全長1kmにも満たないこのトンネルがなぜそんなに魅力的なのか。まずはくぐってみてもらいたい。
この飛鳥山トンネル、JR京浜東北線の王子駅の真下あたりをくぐっている。それまで高架で来た中央環状線が一気に地下に降り、S字を描きながら飛鳥山公園とJRや新幹線をくぐってふたたび一気に高架へ。
おそらく景観的に公園の上を通すことができなかったんだろうけど、むしろそのためにこれだけ交通量のある道をここまで起伏に富んだレイアウトにしてしまうのがすごい。しかもトンネルの中ほどで、さらに地下にある何かを避けるように一度盛り上がるのだ。
トンネルの中に盛り上がりがある
700mちょっとの距離で、これだけ濃密なコントロールを要求されるトンネルもなかなかないと思う。
中央環状線は2年後に残りのトンネル部分が開通して、関越トンネルを抜いて日本一の長さの道路トンネルとなるらしい。それがこんなにかっこいいトンネルなんて、開通して通れる日がいまから待ち遠しい。
首都高史上最難関コーナーのあるトンネル
短いながら濃密、という意味では首都高にもうひとつお勧めしたいトンネルがある。首都高の中ではやや存在が薄い八重洲線のほとんどを占める八重洲トンネルだ。
いわゆる会社線から分岐した八重洲線は、ものすごい急角度でトンネルに吸い込まれる。もはや落ちて行く、という表現がピッタリなくらいだ。
冗談だろ、という角度で落ちて行く八重洲線
トンネルに入ってもずっと急角度で下って行く八重洲線。少し勾配が緩くなったかな、と思うと急に左カーブが出現。しかも同時に下り勾配がキツくなるというトリッキーなコーナー。
僕はここが首都高でいちばん難しいコーナーだと思う。アメリカのラグナ・セカ・サーキットの名物コーナー「コークスクリュー」を彷彿とさせる、というのは言い過ぎだろうか。
八重洲線は内環状線のショートカットに使えるけど、それよりもこのトンネルを通りたいがゆえによく利用する、という人もいるんじゃないかと思う。最後の合流が神経すり減るくらい難しいけど。
交通量の多い環状線にこの距離で合流しなければならない
直線9km!タイムワープしそうなトンネル
ここまではコーナーが続いていたり、アップダウンが激しいトンネルを紹介してきた。しかし、逆に延々と直線が続くトンネルもSFチックで未来っぽいのではないだろうか。
通ったことがある人はもうお分かりだと思うけど、東京湾アクアラインのアクアトンネルである。川崎側の浮島ジャンクションから途中の海ほたるパーキングエリアまで、およそ9.6km直線が続く海底トンネルだ。
ずっと直線なので、動画を見るまでもないかも知れないけど、いちおうご覧いただきたい。
見事な直線である。都心で車を運転しながら消失点が見える場所なんてそうそうないのではないか。そしてたどり着く場所が東京湾の真ん中に浮かぶ人工島。
そういう意味ではあのころの未来がいちばん現実化しているトンネルである。
スピード違反の取り締まりも厳しいらしい
一般道にもある未来トンネル
ここまでは主に首都高のエキサイティングトンネルをご紹介してきたが、一般道でもトンネルが新時代の幕を開けた場所がある。横切る道路、線路などをすべてトンネルでくぐらせてしまった環状八号線の井荻トンネルと練馬トンネルだ。
それぞれおよそ1.2kmと1.7kmのトンネルが繋がっていて、連結部分に地上へ出る分岐がついている。これがまた何ともかっこいいのだ。
オレンジ色のランプが眩しい井荻トンネルを進み、照明の色が変わると3方向に分岐。そこから練馬トンネルに入ってクールな照明の中を一直線。首都高でもないのに、つまりこの道を通るのは無料なのに、これはかっこいい!
無料なのにこんなかっこいいトンネル!
2階建てのムーディートンネル
最後は再び有料道路に戻って、東京ならぬ関東をぐるりと取り囲む首都圏中央連絡自動車道、通称圏央道の青梅トンネルである。
多少道路に詳しくても、ここは言われてすぐに思い出せるトンネルではないかも知れない。なのでさっそく動画を見てもらおう。
今までトンネル通過の動画をいくつか見てきて、何かこのトンネルに違和感がないだろうか。
答えを言ってしまうと、断面がほかのトンネルと違うのだ。特に中間部。多くのトンネルは、円形に掘ったトンネルの上半分を走路として使っている。でも、両サイドの壁を見ると、ここは下半分を使っている。では上半分は何に使われているのか。
実は、青梅トンネルは市街地の真下を通るため、工事の影響を少なくするために地上を走る市道の幅に収まるように設計されている。
そこで、大口径の円形断面のトンネルを掘り、それを上下2層に分けて、上半分を内回り、下半分を外回りの走路として使っているのだ。
円形断面の下半分を使っている外回り
そしてそれと同じくらいかっこいいのが途中で色が変わる間接っぽい照明と、それから急カーブが連続する挑戦しがいのあるコースだ。
都心からはやや遠いけど、いちどは実際に通っておきたいトンネルである。
トンネルで癒される
というわけで、最近造られた(古いのもあるけど)かっこいいトンネルをいくつかご紹介した。新しいトンネルは前からあるものを避けながら進むので、カーブやアップダウンが細かくて激しい。そこから生まれるチューブっぽさが未来っぽいけど、ある意味、未来は制約が多くて窮屈だ。でも、昔の「現在」からいつの間にか「未来」にやって来ていた僕たちは、そんな窮屈さにもどことなく居心地の良さを感じたりしないだろうか。
これからも、いろいろなものを避けながらくねくね進むトンネルを通ってみたい。